GWスペシャル 〜OVA版俺専用MS第1巻〜

 

549 名前:1 [] 投稿日:2005/05/03(火) 23:24:04
GWスペシャル 〜OVA版俺専用MS第1巻〜
俺はゆっくりと目を開ける。右方の窓に視線をやると、月の表面が無機質な表情で迫っている。
「着いたか…」
3月。己の過去を知る旅に出るべく、俺は月行きのチケットを取った。しかし愚かにも月への渡航だけで4日費やす
ことを算段に入れていなかった為、泣く泣くチケットを払い戻したのである。その後、店長に怒涛の勢いで嘆願して
このゴールデンウィークに、特別に2週間の長期休暇を貰ったのである。
「当機は間もなく月面宇宙港に到着致します。なおドックに着艦の際、小さな揺れが発生いたしますので、座席に戻
りシートベルトをお締め頂きますようお願い致します」
船長(片山。大学時代。運転免許の終検で3回落ちた)のアナウンスが船内に響いた。娯楽室や展望室に行っていた
乗客達が次々自分の席に戻ってきて、あちらこちらからシートベルト金具のロックを掛ける音が聞こえてくる。そし
て、それが確実になされているか、数名のスチュワーデスが各席を順番に確認していく。
「シートベルトはお済みですか?」
スチュワーデスの一人が、俺の席を覗き込んで笑顔を投げ掛けてきた。
「はい」
俺は小さく返事をして、窓外の景色に目を戻した。月の表面には白い巨大なドームが一つ。そこから道路が四肢を広
げるように伸び、散在する小型のドームに繋がっている。中央の大きなドームが、宇宙港が置かれている月面都市だ。
大気のない月では、宇宙空間より飛来する小隕石や宇宙放射線からの被害を防ぐ為に、都市はヤドカリのようにドー
ムを背負う形状を取らざるを得ない。
船はドックに船体を収めた。
「月面宇宙港に到着致しました。ご乗船ありがとうございました。」

550 名前:1 [] 投稿日:2005/05/03(火) 23:24:27
シートベルトを外す。シートに身体を抑え付けていた力がふっと消失した。俺は席を立つ。床を少し蹴るだけで、身
体が地球の6倍は浮く。若者言葉で表現すると”ロクイチG”。つまり地球の6分の1しか重力がない。しかしこの
感覚も、何故か俺の身体は覚えている。地球を出発して初めて地球の重力から開放される際も、誰もが経験したこと
のない浮遊感に戸惑うものなのだが、不思議と俺の場合は昔の勘を取り戻すかのように、すぐに慣れた。
人ごみでごった返す月面宇宙港を出る。そこに広がっているのは背の低いビル群。上を見上げると、照明により人工
的に昼間が作られている。月にいながらにして、都市では地球と同じサイクルで昼夜が入れ替わる。
同僚の話によると、赤川さんは夫である鳥羽と共に、市営の一般労働者用アパートで暮らしているという。アパート
と言っても月面都市在住の労働者のほとんどがそこに暮らしているのだから、その規模はかなりのものらしい。号室
がわからない以上、郵便受けの表札を確認しながら探していくしかあるまい。
俺は旅行鞄を肩に掛けると、地図を片手に市営アパートに向けて歩き始めた。
その矢先である。
「遅刻遅刻〜〜〜!!」
少し先の角を左に曲がった先から、わざとらしい声が聞こえてきた。デジャヴを感じずにはいられないシチュエーシ
ョン。(三次聖剣編参照)俺は身構えた。と、視界の左から右に高速度で人影が横切った。それを追って首を右に振
ると、トーストを咥えた少女が、今まさに壁に激突せんとしている。ロクイチGの下で勢いを付けすぎたようだ。
俺は目を覆った。しかし、
「なんの!」
ナイス運動神経で壁面に足から着地してショックを和らげた。月の重力下だからできる芸当だ。
「おお、お見事」
などと感心している場合ではない。彼女は勢いに任せて壁をキックし、その弾みで人間魚雷よろしくこちらに突っ込
んでくるではないか。前方不注意にも程がある。
「あわわわ!?どいて〜〜〜!!」
「ぐぉえ!」

551 名前:1 [] 投稿日:2005/05/03(火) 23:24:52
食パンが宙を舞った。腹に強烈なタックルをお見舞いされ、俺は受け止めきれず、バランスを崩して激しく尻餅をついた。
「痛ててて……君、大丈夫か?」
俺の股間スレスレで、少女はうつ伏せに倒れこんでいる。
「ううぅ、大丈夫です。ごめんなさ〜い」
幸いにもお互いに大した怪我はない。彼女は申し訳なさそうに顔を上げた。
「お……おお…おにいちゃん!?」
突拍子のない声と共にひどく驚いた表情。
「おにいちゃんって、俺のこと?」
俺の顔を、まじまじと見つめる少女。自ずと耳から顔面にかけて紅潮させていく俺。
「うん!やっぱりおにいちゃんだ」
「あの、君は一体何者ですか?」
「え……」
少女はしばしあっ気に取られて口をあんぐり開けた。そうかと思うと、何かにはっと気付き、あどけない顔を寂しさが満
たす。しかし、それも束の間、今度は満面の笑みを浮かべた。何とも感情の移り変わりが忙しい子だ。
「知らない。赤の他人。でも……でも、とっても大事な人!」
抑えきれなくなった感情をぶつけるかのように、彼女はいきなり俺に抱き付いてきた。俺はまたもや不意をつかれ、少女
を胸に抱く格好で仰向けに倒れた。再び見詰め合う格好になる二人。この少女の顔、どこかで見たような…どこかで……
…俺は必死に記憶を巻き戻していく。月面宇宙港到着、4日間の宇宙空間の旅、広島西宇宙港。記憶を辿っていく内、段
々と巻き戻し速度が緩やかになっていき、ある場所でピタリと停止した。それは出発するきっかけとなった連邦軍三次基
地跡の光景。そうだ。あのアルバムを見た時だ。アルバムの中にいた連邦軍の制服を着た少女はこの子によく似ていた。

552 名前:1 [] 投稿日:2005/05/03(火) 23:25:17
「君は…俺を知っているのか?」
「知らない」
打って変わって素っ気無い態度。怪しい。
「天地神明に誓って?」
「知らないったら知らないよ!!」
少女はなおも意地を張って突っぱねる。
「でも、さっきおにいちゃんって…」
「うわああああああああああああ!」
いきなり泣き出してしまった。それに反応して周囲が騒がしくなる。
「なんだなんだ」
「あの男、小学生を泣かせてるぞ」
やばい。俺は少女の手を握ると、脱兎のごとく現場を離れた。今のご時世、少女と一緒にいるだけで警戒の目で見られる
というのに、傍からすれば、俺はどう見繕っても誘拐犯にしか映らない。しかし、ここで職務質問など受けている時間の
余裕はない。自分でも近年希に見る全速力で人気のない裏路地を選んで走る。走る。走る。
「ハァハァ、ここまでくれば大丈夫だろう」
地べたに腰を落として喘ぐ俺。少女はしばらく俺の顔をのぞきこんでいたが、何を思ったのか側から離れて行った。
彼女は本当に何も知らないのかもしれない。他人の空似というのはよくある話で、実際俺は接客業をしていく上で、兄弟
でもないのに瓜二つという人間を少なくとも3組は知っている。また、仮に彼女が何らかの情報を持っていたとしても、
一緒にいれば何かと不都合が生じてくるはずだ。お縄を頂戴することになり兼ねない。
俺はこっそりとこの場から離れようと腰を上げ、ゆっくりと地面を蹴った。背後を振り返ると、戻ってきた少女が佇んで
いる。その手には2本のミネラルウォーターが握られている。
俺は歩を止めた。糸が見えた。断ち切ってはならない糸。質量を持たないそれが、俺達の間には確かに存在してる。そう
思えた。結局、再び少女の元に歩み寄って、俺はミネラルウォーターを受け取った。
2人並んでペットボトルに口を付ける。
「おにいちゃんはどうして月に来たの?」
少女は問う。自分の過去を探しに来た、なんて言えやしない。

553 名前:1 [] 投稿日:2005/05/03(火) 23:26:01
「う、うん。観光にな」
「じゃあ、ウチが案内したげるよ」
「でも君は登校中じゃないのか?」
俺は通学鞄を指差した。痛い指摘を受けて、少女は苦笑いを浮かべる。
「こ、細かいことは気にしない気にしない。どうせ小学校の学習内容じゃ簡単すぎるし」
「親御さんが心配してるぞ」
「お父さんとお母さんは……いないの」
急に重く沈んだ顔になった。もうこの世の人ではないということか。俺はどうしてこう言ってはいけないことを言ってし
まうのか。
「ごめん」
「お願い!おにいちゃんと一緒にいさせて」
沈思黙考する俺。少女は俺に向かって、真剣な眼差しを突き刺す。
「わかったよ。ただし目的地までな。そういえば君の名前は?」
「名前……えっと、橋本」
「ハシモトって、苗字だけ?下は?」
「ウチとおにいちゃんは初対面なんだし、いきなり下の名前で呼ぶのは馴れ馴れし過ぎだよ」
そうなのか。”おにいちゃん”は馴れ馴れしくないのか。それにしても何故名を隠すのだろう。俺に知られると都合が悪
いのだろうか。
「通報されるとマズいから、ウチらは兄妹っていう”設定”にしようよ。父親が不倫相手に密かに生ませた腹違いの兄弟
だから歳が離れてるってことで」
妙ちくりんな設定まで捻り出した。
「あ、ああ。じゃあここに行きたいんだけど」
俺は地図を取り出して、市営アパート付近を指し示した。
「ここなら中央通りを通り抜けた方が早いね。ついて来て」

554 名前:1 [] 投稿日:2005/05/03(火) 23:26:28
俺は少女と共に、裏路地を抜けて喧騒に溢れた中央通りに飛び込んだ。月面都市一の商店街ということで、多種多様な店
舗が軒を連ね、様々な人種が往来している。まさに人種の坩堝という表現が相応しい。中央通りを抜けると、少し離れた
位置に高いフェンスで覆われた広大な敷地が目に入った。標識から判断すると連邦軍施設らしい。広場の中央にMSや戦
闘機が置かれており、一定距離を置いてその周りに観衆が集まっている。
「あれは?」
「先月、連邦軍に新しく配備された新型MSの一般公開だよ」
「へぇ」
わざわざ市街地に会場を設けて、MSをお披露目する時代になったのか。税金から軍事費予算をまかなっている以上、地
球連邦も民間人に大してサービスに走らざるを得ないらしい。俺は道端に打ち捨てられているチラシを拾い上げた。今回
公開しているMSについての紹介が写真入りで載っている。主力となる量産型白兵戦用MSビブロ、大口径ランチャーを
抱えた中距離戦用重MSデスパ、スピアと呼ばれるロングライフルを装備した長距離支援MSバリスタ。いずれも最新鋭
機という振れこみ。俺はMSを見上げる内、疑問を抱いた。何故これら新型が導入されたのだろうか。特に大きな戦争の
最中というわけでもないのに、である。
「おお!何だ、あれ!?」
観衆の一人(西村。中学。一緒に紅の豚を観に行った)が声を上げた。彼が上空を指差した先には、新しい別のMSの機
影が見える。観客が見守る中、謎のMSは会場に降り立った。他のMSの黒や緑一色という地味なカラーリングとは対照
的に、白と黒のコントラストが映える機体。会場は一時静まり返って、次いで所々から拍手が沸き起こり、ついには大き
な歓声へと変貌した。近くの観客が受注企業によるパフォーマンスなのだろうと推し測る声が聞こえる。しかし、俺は腑
に落ちない。それというのも、当の会場スタッフである連邦軍人達が戸惑っているようなのだ。白い機体の登場を感知し
ていない様だ。
「あれは…」
橋本が呟いた。亡霊でも見ているかのような怯えた瞳。

555 名前:1 [] 投稿日:2005/05/03(火) 23:26:58
双肩に巨大なロングライフルを背負うMSは、歓声に応えるかのようにスラスターを吹かせた。そして、そのまま一気に
ビブロに急接近すると、ビームサーベルで肩口から袈裟掛けに斬り裂いた。ビブロの上半身が爆発して四散する。金属片
が飛び散り、観衆の頭上に降り注ぐ。歓声が悲鳴に一転して騒然とする会場。残り2機の新型MSが応戦を開始し、市街
地は瞬時にして戦場と化した。
「危ない!逃げるぞ」
俺は隣にいる橋本の手を強く握って引いた。しかし彼女は硬直して動けないでいる。
「どうした?」
デスパと対峙する白いMSを見据えながら、彼女は搾り出すような声を発した。
「第三世代……」
                                                            第2巻に続く

560 名前:1 [] 投稿日:2005/05/04(水) 01:05:32
訂正
×白い機体の登場を感知していない様だ。
○白い機体の登場を関知していない様だ。

第2巻へ→

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