GWスペシャル 〜OVA版俺専用MS第3巻〜

 

659 名前:1 [] 投稿日:2005/05/12(木) 00:33:43
第3巻

第3巻
「おねぇちゃ………あ」
俺の視線を意識して、橋本は慌てて口をつむった。どうやら赤川さんと面識があるようだ。
赤川さんは言葉を発さない。いや、発そうとしない。その様は俺への対応に迷っているかのようだ。
「鳥羽さんですね」
俺は鳥羽の妻を真っ直ぐに見た。この瞳、見覚えがある。旧連邦基地で見つけたアルバムの中だけ
ではない。それ以前にこの瞳と出会っている。憶測が次第に確実さを帯びていく。
「唐突にお訪ねして申し訳ありません。でも教えてほしいんです。俺の過去を」
重い口調で切り出す俺に対して、彼女は短い間を置いて口を開いた。
「過去って言われても、夫の以前の職場での仕事仲間ということしか知りませんけど」
赤川さんの口調は、ほとんど赤の他人に対するそれだ。
「俺はこの一年間のことを言っているんです」
「一年間…ああ、事故で昏睡されていたとか」
「違う。違うんだ。俺はその間…」
「い、いい加減にして貰えませんか?あなたのことなんてほとんど知らないのに」
「鳥羽さ…いや、赤川さん。これを見てくれ」
俺はバッグから旧連邦軍基地で見つけたアルバムを取り出した。あちらこちらが焼けてボロボロにな
ったアルバム。その中から自分と赤川さんが並んで写っている写真を抜いて、彼女に手渡した。
「他人の空似ってあるもんなんですねぇ。わたしもよく言われるんです…」
表情は平静を装っているものの、彼女のアルバムを持つ手は震えており、明らかに動揺している。
赤川さんは言葉を続けた。
「…ヒトミに似てるって」
「いい加減にしてくれ!」
俺は激昂した。ここまで衝動的に人に当たったのは何年ぶりだろうか。別段彼女がヒトミに似ていな
いからではない。寧ろよく似ている。Look back againのPVとか特に。そうではなくて、どこまでもし
らばっくれる彼女の態度に業を煮やしたのだ。
「おにいちゃん、もうよしなよ…」
橋本が俺の袖を引く。

660 名前:1 [] 投稿日:2005/05/12(木) 00:34:06
「うるさい!お前もお前だよ。知ってるんだろ。なぁ、俺が何なのか知ってるんだろ?」
舞い降りる静寂。ひどく怯えて俯く橋本の頬を滴がつたう。その涙が俺を我に返した。
「…ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ」
俺はこの場の空気に耐え切れず逃げ出した。いや、空気だけではない。彼女らがひた隠しにする、得
体の知れない自分の過去と対峙するのが怖くなったのもある。
わき目も振らず、夜の街に駆けているうち、足は自然と中央通りに向かった。人ごみに混じることで、
己の特異な存在を埋没させたかったのかもしれない。息切れを起こす頃には、繁華街の一角に立って
いた。コンビニに立ち寄り、安い缶ビールを買った。普段酒を好んで飲むことはないのだが、今は少
しでも現実から遠ざかりたい。
コンビニ裏の壁によりかかって酒を一気に煽る。やはり不味い。しかし、しばらくすると酔いが回っ
てきて、心なしか楽になってきた。二口、三口と缶の頭に口をつける。
「これからどうすりゃいいんだ…」
俺はぼんやりと人の流れに見とれる。仲むつまじく歩くカップルが、いつも以上に嫉ましく思えた。
ふとした瞬間に、俺の横に何者かが立った。
「あの、少しよろしいですか?」
甲高い声。エウリアンがラッセソのシルクスクリーンを売りつけようとしていうのだろう。その類の
セールスに、特に声をかけられやすい俺は直感した。
「いらないよ」
一蹴した。だが、酩酊しているからだろうか、直感は外れた。正面を見上げると、3人の男(安田大サ
ーカス)が立っている。いずれもグレーの軍服に身を包んでいる。甲高い声を出したのは丸坊主で髭
を生やした、いかにも入道といった顔つきの男(クロちゃん)。中央に立つ男がリーダーらしい。開
襟してネクタイを巻いたその男が、俺の名前を確認した。俺は頷き、
「そうだけど、あなた方は?」
問い返した。
「連邦軍のものだ。我々とご同行願いたい」
全くどうかしている。三文小説ではあるまいし。どうして俺の人生にはこうも陳腐な展開が用意され
ているのだろう。目の前に神妙な面持ちでいる軍人達が、滑稽な道化師のように思えた。自然と口を
ついて出る哄笑を押し殺すことができない。俺は普段ではまずあり得ない挑戦的な態度で、彼らを睨
み返した。

661 名前:1 [] 投稿日:2005/05/12(木) 00:34:36
「あんたらが俺の過去を知っているのか?」
「それは一緒に来ればわかることだ」
「嫌だと言ったら?」
相撲取りのような肥満男(HIRO)が前に出て、ペットボトルを数秒の内に空にした。俺は戦慄した。
「わかった。どこへなりと連れて行けよ」
半ば自棄になって、俺は自らすすんで彼らの軍用車に乗り込んだ。
車の行き先は昼に襲撃を受けた連邦軍の基地。敬礼する門兵の間を通り過ぎ、敷地内の中央に位置す
る建物の前で止まった。俺はネクタイ軍人の後ろをついて歩く。
(なんだ?)
違和感を覚えた。すれ違う連邦職員達が、俺の顔を見ると立ち止まるのだ。どうやら基地内において
俺は結構な有名人らしい。エレベーターに乗って建物の最上階まで昇り、月面基地の司令長官室と思
しき部屋に通された。
「よく来てくれたな」
部屋の奥で、席を立って出迎えたのは白い口ひげを蓄えた男だ。襟章から推測するに恐らくは中将。
柔和そうな人相だ。
「私は里山(大学時代の教授。倫理学)この月面基地の司令長官だ。早速だが掛けたまえ。君の過去
について、全てを説明しよう」
俺は誘われるままに、応接セットのソファに腰を下ろした。指令は俺の過去について洗いざらいを話
してくれた。連邦軍のMSパイロットになったきっかけから友岡公国との最終決戦まで、つまり空白の
一年の総集編を。
「―――と言う訳だ」
全てを話し終えた司令長官は、葉巻に火を付けた。
「俺が元連邦のパイロット…」
「俄かには信じがたいだろうがな」
「……」
友岡公国との最終決戦で、俺は次世代俺専用MSの爆発に巻き込まれたが、その直後奇跡的に回収され
て一命を取り留めた。しかし、覚めるかどうかも判然としない昏睡状態に陥っており、そのまま連邦
を除隊され三次中央病院に移されたというわけだ。実際は1週間ほどで覚醒した。連邦に居たころの
記憶をそっくり喪失して。
確かに辻褄は合う。だが、まだしっくりこない。パズルのピースは与えられたものの、それらがしっ
かりと組み合わさっていないような状態。里山司令から与えられたのは情報に過ぎず、自分自身の記
憶と呼べるものではない。

662 名前:1 [] 投稿日:2005/05/12(木) 00:35:03
「どうして自分がここに呼ばれたのか、わかるかね?」
そうだ。なぜ俺が今更ここに呼ばれたのか。第一、月面都市に滞在していることは、同僚にすら明か
していない。
「いいえ」
「我が軍のMSに搭載されているメインカメラの映像は、常に基地内の司令室に送られている。昼間の
襲撃の際、釈機のカメラに君の顔が映った。私でなくてもピンと来ただろう。君の畠敷での活躍ぶり
は軍内報で幾度となく報じられていた。民間出身のエースパイロットとしてな」
「でも何故今更俺、いや自分を呼んだのですか?」
「君も知っての通り、本日我々は旧友岡公国残党の奇襲を受け、新型MS三機を撃破された。彼らは先
の戦いで回収した第三世代俺専用MSを握っている。君をおいて互角に渡り合える人間はいまい」
「しかし…」
「今一度、力を貸して貰えないだろうか?」
「……考えさせてください」
一晩猶予を貰って、俺は司令室を出た。
昏睡状態だからと一度クビにしておいて、また力を貸せとは虫のいい話だ。受ける義理はないはず。
それなのに俺は逡巡している。なぜだろうか。
苦悩しながら通路を歩いていると、黒いパイロットスーツを着た女性とすれ違いざまに目が合った。
「昼間はどうも」
声をかけられた俺は、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情。歳は自分とさほど変わらないだろうか。栗
色の髪を胸元まで伸ばしている。襟章には2個、銀の星が光っている。
「あなたは?」
「私は釈中尉。この月面基地に所属しているパイロットよ」
女性ながらこの若さで中尉の位置にいるとは、かなりのやり手に違いない。冷静というか冷めた口調
も、軍隊という集団の中でのし上がっていく上で必要なものなのかもしれない。それに比べて家電屋
でチーフにすらなっていない俺と来たらorz。それにしても“昼間はどうも”とはどういう意味だろう
。初対面のはずだ。昼間、女性、パイロット、そして冷めた口調。キーワードを重ねるうち、俺は演
習場での光景を思い起こした。そうだ。あのどどめ色をした可変型MSに登場していた女性パイロットだ。
「あ、あの時はすみませんでした」
深く頭を下げる俺に、釈は嘲るような笑顔を浮かべる。
「あなた、俺専用MSに搭乗していたそうね」
「はい」

663 名前:1 [] 投稿日:2005/05/12(木) 00:35:52
「何故出てきたの?」
「へ?」
「今頃ノコノコ出てきて伝説のエース面されちゃ、たまったものではないわ」
「そんな、俺は別に…」
「確かにあなたの戦歴は輝かしい。かつて敵勢力の基地だったこの月面基地を戦艦三次が陥落。その
際、主力MSに乗っていたのはあなただった。そして一年前の戦いでもオールドマン副司令…いいえ、
友岡国王の謀反を防いだ」
釈はここで一呼吸を置いた。
「でもね。あなたの時代は終わったの。私はいわばあなたの後継者。でも全てのパイロット技術にお
いてあなたを上回っている」
俺は対応に困った。いきなり因縁を付けられても、こちらとしては参ってしまう。そもそもMS乗りと
して復帰すると決まったわけではないのに。
その時、基地内に警報が鳴り響った。基地内アナウンスによって、パイロット達にミーティングルー
ムへの集合が促される。
「敵襲……そうだわ。こうしましょう。あなたと私、この戦いでどちらが多くのMSを墜とせるか、
これで真のエースを決めるの」
「いや、俺はMSに乗ると決めたわけじゃ…」
聞く耳持たず行ってしまった。どうしていいか迷っていると、オペレーターにより俺の名が呼ばれた。
俺は仰天したが、無視するわけにもいかず、やむなく釈の後についてミーティングルームに向かう。
既に10人ほどのパイロットが集合している。若野(中学時代。卓球部の先輩)と名乗る威圧的な態度
の士官が作戦指示を与えている。俺は一番後ろの席に座った。
「敵は先の襲撃と同じく第三世代を出してきた。取り巻きのMSはヴァイオールおよそ10機。その
内2機は強襲用Rタイプだ。釈隊は基地正面から迎撃、倉岡隊は後方からの援護を行う」
ホワイトボードには釈隊に混じって、俺の名前が記されているではないか。
「あの…」
俺はそっと腕を挙げた。

664 名前:1 [] 投稿日:2005/05/12(木) 00:36:15
「何だ?」
「何で自分が普通に出撃することになってるんですか?」
「俺が独断で組み込んだ」
「独断って、そんな無茶苦茶な」
「ここを攻略されれば月面都市は友岡公国残党の手に落ちる。連邦軍友岡公国駐留軍は撤退を余儀な
くされ、その後は容赦ない連邦狩りが始まるだろう。奴らは執念深い。友岡国王を殺したお前は、無
論その矢面に立たされるだろう。これはお前自身を守る戦いでもあるってわけだ」
「…はぁ」
どうにも強引な話だが、勢いにまかれた俺はおずおずと引き下がった。
「よし。それでは全員戦闘配置につけ。解散!」
「戦場で待っているわ、先輩」
ヘルメットを手にした釈が、横から不適な笑みを投げかけながら、俺を追い越していった。
俺はMSマニュアルを片手に、パイロットスーツに着替えて、指定された第3ハンガーに向かう。整備
班は出撃準備でてんやわんや。俺にはメビウスという機体が用意されている。釈が搭乗していたあの
可変型と同じシリーズだ。
「よぉ、エース久しぶりだな」
「えっと、どなたです?」
「ああ、そうか!忘れちまったんだよなぁ。俺ぁ整備班班長の福原(高校時代。坊主)ってもんだ。
このメビウス−ムラマサ型の操縦系統はお前用にカスタマイズしてある。レバーの固さからマスコッ
トの位置までな!」
「操縦系統って、ほとんどわからないんだけど」
「MS操縦は頭でするもんじゃねぇ。身体でするもんだ。なぁにコクピットに座れば身体が思い出し
てくれるさ」
「思い出せなければ?」
「あの世行きだな」
福原は屈託なく笑った。

665 名前:1 [] 投稿日:2005/05/12(木) 00:36:37
「そんな…」
「今回の敵はお嬢ちゃんや倉岡の隊だけじゃ退けられない。猫の手じゃねぇが、あんたの力が必要だ。
頼りにしてるぜ?伝説のエースさんよ」
福原は景気付けとばかりに、俺の背中をドンと叩いた。
背中をさすりながら、俺はコックピットに乗り込んだ。内部はシンとして暗闇で満たされている。シ
ートに座ってはみたが、周囲を埋め尽くす計器は何が何やら皆目見当がつかない。
「どうしろってんだ…」
俺は一人ごちて、福原から預かったIDキーをスロットに差し込んだ。コントロールパネルの計器類に
火が灯り、シートを囲む全方位スクリーンにハンガーの映像が映し出された。目線より少し低い位置
に置かれたメインディスプレイには、OS起動状況を示すプログレスバーが伸びていく。そして“WELC
OME!!”の表示。
「何が、ようこそ、だ」
操縦桿とスロットルレバーを握り、緊張を抑えるべく目をつぶる。闇の中でMSの息吹を感じる。そう
していると、一陣の風が吹いた気がした。とても懐かしい感覚。次に目を開けた時、コントロールパ
ネル上の全ての計器類が、意味を持つものに変わっていた。
「解る……」
心が震えた。
「こうなったら、死んでも生きて帰ってやる!」
勘を取り戻すように、ゆっくりと機体をカタパルトへと乗せていく。オールグリーン。オペレーター
がゴーサインを出した。
「ムラマサ、出ます!!」
俺は確信に満ちた手つきでスロットルレバーを引いた。  
                                                                 続く

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