GWスペシャル 〜OVA版俺専用MS第4巻〜
- 723 名前:1
[] 投稿日:2005/05/17(火) 22:46:13
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第四巻
カタパルトから発進したのは俺が最後だった。地上に視線を落とすと、既に倉岡(小学校時代。実家は動物病院。
一緒にうみしま博に逝った)隊のバリスタ6機が配置についており、長距離射程砲を構えて敵機を待ち構えてい
る。俺はバーニアを吹かせて、釈搭乗のどどめ色メビウスを先頭とする釈小隊の最後尾についた。釈隊は隊長機
以外は全てビブロの全6機編成。
勘を取り戻しつつあるとは言え、ブランクは大きい。あまり目立った行動はせず、庭の隅のダンゴムシを見習っ
て、ひっそりと援護射撃でもしているのが安全策だろう。我ながらコスい。
ビープ音が鳴り、メインディスプレイに通信要求のダイアログボックスが表示された。タッチパネルに触れると、
ウィンドウが開き釈中尉の顔が映し出される。
「ミーティングで支持された通り、あなたには我が小隊のサポートについてもらいます。ただし、これだけは肝
に銘じておいて」
「何を?」
「邪魔だけはしないで」
「はい」
と答えたものの、こんな半ば素人の自分に邪魔をするなという方が無理だ。っていうか、それならMS戦闘に参加
させるなよと小一時間(ry。
釈との通信が切れると、今度は別の周波数で通信が入った。音声だけのコソ〜リ通信。ID表示を見ると地上で後方
援護を指揮している倉岡のようだ。
「気にすんなよ。釈中尉は今アレだから。特にいつも2日目はカリカリするんで、俺らもとばっちり受けてんだ。
ところで、あんた伝説のエースなんだってな。ってことはあの第三世代は元相棒か?」
お調子者らしく、やたらテンションの高い口調だ。
「そうなりますね」
「因果な話だ。だが、あんたなら奴の機体特性を熟知しているだろうから、或いは白星を上げるチャンスかもし
れんぜ。おっと、いよいよ敵さんが近付いてきた」
言いたいことだけ言って、倉岡は通信を切った。
- 724 名前:1
[] 投稿日:2005/05/17(火) 22:46:53
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なるほど、レーダーの端に複数の赤い点が出現した。レーダーを広範囲表示から近距離表示に切り替える。
その時、
「敵機より交渉要求の通信が入りました。攻撃は指示が出るまで行わないで下さい」
オペレーターから全機に向けて通達が入った。
緊張の中、敵機を視認でできる距離まで接近した。全身黒で塗装を施されたヴァイオールF型が8機、青いカラ
ーリングのR型が2機、そして第三世代俺専用MSだ。
連邦と友岡公国残党軍、双方のMSがアスファルトの大地に降り立ち、ついに相まみえた。先頭に立つのは旗機と
思わしきR型。背中に円筒形をしたミサイルポッドのようなものを背負っている。
「私は友岡公国開放連合所属ジンギスカン隊のモスカー大尉(ジンギスカンの長髭)である。今すぐに基地を明
け渡して頂きたい。さもなければ強制的に排除する」
短い間を置いて、月面基地司令室の里山司令は返す。
「我々は暴力に屈するつもりは毛頭ない。寧ろ貴殿らを迎撃するだけの十分な兵力を有している。早急な撤退を
勧める」
「いい返事だ。では友岡公国の守護神リーズヘクテの名の下に、攻撃を開始する!」
唐突にR型のミサイルポッドが開いた。否、正確にはミサイルではない。ポッドからは10個ほどの円盤が、ま
るで花火が輪を広げるように、射出された。バーニアを備えており、それぞれが独立制御で動作しているらしい。
「スティッキングマイン!?」
釈が吼えた。
「ストッキングマン?」
俺がストッキングを頭から被った男(俺の中でイェスマンはこのイメージ)を連想した、まさにその時、円盤が
高速で釈隊目掛けて飛び出した。直線的な動きではなく、まるで意思をもつかのように、MSを目指して迫ってく
る。俺は射程から外れているのか、幸いにも円盤に感知されていない様子。釈は円盤の動きを完全に見切って、
ライフルで確実に落としていくが、2機(岩切と橋田。大学時代の同じゼミ)のビブロが避け切れず、円盤の吸
着を許してしまった。
「爆発………しない」
俺は唖然とした。ビブロは無傷のまま静止している。
「迂闊だった。スティッキングマインはその名の通り吸着する機雷。機体に吸い着き、意図的に爆発させること
ができる」
釈が歯噛みをした。
- 725 名前:1
[] 投稿日:2005/05/17(火) 22:47:35
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「ってことは、つまり…」
モスカーの意図を察知した俺は、息を呑んだ。MSをすぐに破壊するのではなく、生殺与奪の権を握る。これによ
って隊の動きを止めたということか。
「彼らは人質というわけだ。さぁ、道を開けてもらおうか」
モスカーが髭を撫でた。しかし、その意に反して、釈は毅然とした態度で言い放つ。
「勘違いしてもらっては困るわ。軍隊を相手に人質とは笑わせる。彼らも元より覚悟の上よ」
「釈中尉、それはちょっとひどいんじゃないか?」
俺が口を挟むが、一向に受け入れる様子はない。他のパイロットからも、釈に意義を唱える者は現れない。当の
ビブロ2機の搭乗者からも言葉はない。
「部外者は黙っていて」
冷徹に吐き捨てる釈の迫力に押され、俺は二の句を継ぐのを躊躇った。
「ほぅ……腐った連邦にも、まだこんな人材は残っていたか」
淡々と話すモスカー。俺には、スピーカーの向こう側で、彼が卑劣な笑みが浮かべたように思えた。2つの轟音
が同時に鳴り響き、爆発四散したビブロの残骸が降り注いできた。
俺には釈の真意が分からない。部下を犠牲にすることに迷いを示そうとしなかった彼女の真意が。
爆音を号砲にして釈隊が一斉に攻撃を開始した。
「あ、ちょっとまだ攻撃指示は!」
オペレーターがおお慌てで制止するが、釈は聴く耳を持たない。ジンギスカン隊もそれに応戦し、またたく間に
一帯は修羅場と化した。
「お、始まったみたいだな。よし!お前ら、この前みたいに味方に命中させるんじゃねぇぞ!撃ち方始め!!」
倉岡がバリスタ隊に攻撃命令を下した。何とも一抹の不安を抱かずにはいられない。
マシンキャノンや長距離砲の弾が飛び交う中、俺は極力目立たないように、ウロウロしながら、僚機の援護射撃
をしていた。と、2機のF型がこちらに気付いた。開放チャンネルを使って、敵(ジンギスカンの禿と長髪髭)か
らの通信が入る。
「そこのメビウス、どうやら仕官専用機のようだな」
「え、俺?」
まずい。狙いを付けられた。路地裏でDQN(中学時代。ブルートの裏で。走って逃げた)に絡まれた時のように、
立ちすくむ俺のムラマサ。
「アンディ(長髪髭)、行くか?」
「任せて下さい。テリーヌ少尉(禿)が出るまでもありませんよ。行くぞ!」
勝手なことを言っている。
- 726 名前:1
[] 投稿日:2005/05/17(火) 22:48:00
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「冗談じゃない」
俺は機体を後退させながら、ライフルを連射する。勿論命中しない。
「逃がすかっ!!」
F型はマシンガンを撃ちながら接近してくる。幸いマシンガンでは、ムラマサの装甲には大した損傷を与えられな
いようだ。これが俺に根拠のない自信を与えた。
「ちょ、調子に乗るなよ!」
とかいいながら俺自身が調子に乗って、敵機目掛けて体当たりを食らわせた。思いも寄らぬ反撃にひるんだところ
を、サーベルで腹部を刺し貫く。サーベルを抜き、後退した直後にF型は大破した。
「やった…」
息を切らして見守っていると、そこにテリーヌ(禿)のF型が接近してくる。
「貴様、よくもアンディ(長髪髭)を!!」
さすが上官だけあって、先ほどのF型とは動きが違う。しかし、俺は彼の攻撃をことごとく避けていく。
「違う。調子に乗ってるだけじゃない」
「何を独り言を言っている!」
激昂したテリーヌ(禿)少尉は、既に俺の敵ではなかった。ムラマサの機動力を活かして、マシンガンをシールド
で防ぎながら、一気に間合いを詰める。そのまま僅かにジャンプすると相手の胸部を踏み潰した。ドッと崩れ落ち
るテリーヌ(禿)機。
「感覚が戻ってきたのか。反応速度が上がっている」
そうだ。決して調子に乗っているだけではない。急速にMS戦の感覚が蘇っている。神経が極限まで研ぎ澄まされ、
周囲の状況が手に取るように分かる。
「みんなは…」
俺は息をつく暇もなく辺りを見回した。釈機はモスカー搭乗のR型と交戦中。他のビブロもF型とほぼ互角の戦いを
している。そんな中でR型が一機、後方のバリスタ隊を目掛けて突貫をかけている。遠距離援護に特化されたバリス
タは、接近戦に持ち込まれれば一たまりもない。
俺が追撃しようと、スロットルを握る手に力を込めた時、奇妙な違和感に襲われた。
「何かが足りない…」
この戦場にあるべきものがない。周囲で戦っているのはヴァイオールだけだ。もう一機…
「来る」
- 727 名前:1
[] 投稿日:2005/05/17(火) 22:48:22
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直感が報せた。ムラマサの上半身をひねらせ、サーベルで背後からの攻撃を受け止めた。
「第三世代!!」
第三世代俺専用MSが放った重量級の一撃に耐え切れず、ムラマサの肘部関節が悲鳴を上げ始めた。運の悪さがもた
らした偶然なのか、或いは必然なのか。この化け物と戦う羽目に陥ってしまうとは。かつて共に戦った化け物と。
「倉岡中尉、気をつけろ。R型が向かってるぞ」
とりあえず倉岡に注意を促しておいた。
「了解。何とか迎撃してやるさ」
相変わらずのあっけらかんとした態度で応じる倉岡。倉岡隊の心配よりも自分の心配だ。こいつを何とかしなけれ
ば。第三世代からの攻撃を避けながら、こちらも間を縫ってはライフルで反撃する。
「こいつ、全部避けやがる!」
延々と続く撃ち合い避け合いに、俺の苛立ちのボルテージは否が応にも高まっていく。そうしている内に気付いた。
これだけの射撃の応酬をしていながら、先ほどからお互いにダメージを一撃も与えられていない。不自然だ。
「この動き…」
見覚えがある。
「似ている…」
誰と?
パイロットは一体何者なんだ。余りに不自然だ。第三世代が繰り出す攻撃が、まるでビデオを再生するかのように脳
裏に浮かんでくる。今、俺はシールドで相手のサーベルを防御している。次は…
「バルカンか」
シールドのマウントを強制解除して機体を抜く。標的を見失って、バルカンの弾が地面をえぐった。距離をとって対
峙するムラマサと第三世代。
「次は、次はどう来る…いや、そうじゃない。俺ならどうする」
ライフルだ。第三世代は腰のビームライフルを抜き、こちらに照準を合わせる。
「させるかよ!」
負けじとムラマサのライフルを抜いて、引き金を引く。双方のビームが激突、閃光を発して消滅した。やはりだ。こ
のMSは俺と同じ行動パターンを持っている。
「こいつは………俺なのか?」
戸惑いが隙を生んだ。第三世代の背中に装備された二門のロングキャノンが、上方に伸びたかと思うと、肩アーマー
の上に乗りこちらに砲身を向ける。俺の背後では依然としてMS戦が行われている。
「ヤバい!釈中尉、ロングキャノンがくるぞ!!」
- 728 名前:1
[] 投稿日:2005/05/17(火) 22:48:49
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この距離では阻止できない。俺はスラスターを最大に吹かし、とりあえず安全圏まで逃れようと、機体を急発進させた。
「あれほど邪魔をするなって言ったのに!各機、緊急回避しろ!」
俺の方を見て釈が怒号を張り上げた。モスカーも事態に気付き、機体を後退させる。
眼を焼かんばかりの極大の光が二本迸った。敵味方問わず、数機のMSが直撃を食らい連鎖的に爆発を起こした。出力を
絞っていたのか、月面都市の分厚い隔壁を破られなかったのが救いだ。
「なんて破壊力だ」
ムラマサは直撃こそ免れたものの、肩から上をそっくり奪われてしまった。胸部のサブカメラに切り替えようにも動作
しない。すなわち完全に目を奪われた格好だ。メイン動力部に命中していれば、今頃イケメソに転生して薔薇色の人生
が始まっていたはず。しかし、それも時間の問題だ。コックピット内の計器からは火花が走り、機体は非常に危うい状
態。
「もう少し…もう少しなんだ」
俺はうわ言の様に呟く。何がもう少しなのか。自分でも分からない。この非常時に何を言っているのだろう。混乱して
激痛を覚える頭を片手で抑えながら、俺はたまらずハッチ開閉ボタンを押した。外は暗く、硝煙と金属が焼ける匂いが
鼻をつく。
そこで俺が見たのは、
「コックピット?」
コックピットだ。パイロットの姿はない。ハッチを囲む白い装甲。俺は上を見上げた。第三世代俺専用MSの顔がある。
どうやら第三世代はオートパイロットシステムで動いていたようだ。
導かれるようにその装甲に触れてみる。すると、俺の脳内で記憶が一気に湧き上がった。まるで深海から、無数の気泡
が海面を目指して浮上してきたかのようだ。昨晩、司令から与えられた情報が、明確な記憶として認識されていくのが
実感できる。
そしてパズルは完成した。
「赤川さん…甜歌…全部思い出したよ」
俺は再び第三世代俺専用MSの顔を見た。
「俺が判るのか?俺を……受け入れてくれるのか?」
返事の代わりに、内部の収納ポケットから骸骨のマスコットが落ちた。俺がかつて搭乗していた際に、御守として付け
ていたものだ。俺は第三世代俺専用MSのシートに身を躍らせた。
続く
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