MS編 第三部 21話ルート分岐

 

675 名前:1 [] 投稿日:2005/02/24 (木) 00:01:05
第21話後編(赤川さんパート)
鳴ったのはバンプオブチキンのグングニル(赤川さんに貸した唯一のCDからの一曲)だった。
俺は少し迷った後、受話器ボタンを押した。
「もしもし」
「あぁ、よかった。今どこにいるんですか?」
 赤川さんだ。
「どこって、庄原の上野公園だけど…」
「そぅですか。今日忙しい?」
「いや、特にこれといってすることはないけど」
「それじゃ、今夜うちに来ませんか?お鍋やるんですよ。キムチ鍋。夫と2人じゃさびしい
しよかったら一緒に」
これまでの俺ならまず間違いなく断っていただろう。彼女の夫は家電屋時代の下請け業者で、
顔も知っている。俺はまだ彼らの結婚を心から祝福できていない。そんな自身の醜い心が再
び露出するのを恐れているからだ。
「ん、ああ。お邪魔するよ」
「やった!!それじゃ7時に」
電話は切れた。俺は意に反して彼女の誘いに乗った。彼女は無邪気に(前回の闘いで傷ついた
)俺を元気付けようとしてくれているのだろう。それが俺にとってどれほど残酷なことかも知
らずに。だが、今夜は彼女の家にいかなければならない、どこからかそんな声がした。それは
自身の内なる声だった。

678 名前:1 [] 投稿日:2005/02/24 (木) 00:41:40
しばらく上野公園を歩いた後、俺はシビックフェリオ(95年式。社外ホイール)で、
赤川さんの家に向かう。チャイムを押すと彼女が出迎えてくれた。部屋に通されると、
そこには彼女の夫(工事業者)がいた。
「久しぶりだな」
「ああ、ひだしぶり」
俺はオウム返しに返すしかできない。既に鍋は煮えていて、俺達は乾杯の後、早速鍋に
箸を伸ばした。俺は精一杯の作り笑い、その場しのぎの笑いを浮かべて、彼らとの会話
にしがみついた。当然のことながら食欲はほとんどない。しかし結構な勢いでビールを
飲んでいると、俺も気分がよくなってきた。赤川さんの夫とビールを飲み比べしたりで、
それなりに楽しい時間を過ごした。彼はイケメソの上に好青年なので、俺はやはりこの
2人は出会うべくして出会ったのだなと、次第に納得していった。そうして飲み比べを
する内、彼の方が伸びて寝てしまった。
「あら、寝ちゃった」
夫に毛布をかける赤川さん。それは俺が今までに見たことのない表情だった。それを見
た時、俺の心の中に何かが再浮上した。今なら言える。今なら!
「赤川さん、ちょっと変な話していいかな」
「ん、なに?」
「今、幸せ?」
「やぶからぼうに何なの?そうね…幸せだわ。とても幸せ。この人とだったら、生涯を
一緒に歩いていけると思うの」
「そうか…」
「何だか変よ。酔ってるんじゃない?じゃあ、今度はわたしから質問。第三次俺専用MS
には乗るの?」
「さぁ、まだ決めてないよ」
「そう。わたしだったら乗らないわ。自分が自分でなくなる。これほど怖いものはな
いもの。でもあれが地球を救う最後の切り札なのも事実。誰かがあれに乗らなければ、
平和は決して勝ち取れないなんて…皮肉なものね」
「そうだな。ところで、赤川さん、実は俺は君の事を…」

679 名前:1 [] 投稿日:2005/02/24 (木) 00:44:41
「好きだった」
その言葉が言えなかった。どうしても言えなかった。それを言いさえすれば過去と訣
別できる、そう信じて赤川さんの家に来たはず。それなのに、いざとなると声になら
なかった。そもそもそんな考えが俺の一人よがり、我儘だったのかもしれない。言え
ば自分は楽になれる。だが、結局それは赤川さんに心の負担を与えるだけだ。結局、
俺はこの枷を生涯抱えて生きていかなければならない。独りで。
その時、携帯の着信音が鳴った。艦長からだ。
「肚は決まったか?」
「…乗ります。俺が乗ります」
半ば自棄になって出した答え。
「その答えを待っていた。よろしく頼むぜ、伝説のエースさんよ」
電話は切れた。俺は艦長の皮肉、そして何より自身の未練がましさに苛立ちながら、
シビックフェリオ(そろそろエンジンオイル交換)を自宅に走らせた。

685 名前:1 [] 投稿日:2005/02/24 (木) 18:29:51
しまった。赤川さんの家から出る記述を忘れてた。
>>679は赤川さんの家を出てからということで。

688 名前:1 [] 投稿日:2005/02/25 (金) 00:45:38
第21話後編(甜歌パート)
鳴ったのはDavid BowieのStarmanだった。
「もしもし」
「あ、お兄ちゃん!今どこにいるの?」
「どこって、庄原の上野公園だけど」
「ねぇ、甜歌もそこ行っていい?」
「いいけど、今どこに…」
その瞬間、俺の背後から手が伸びて、俺の目を隠した。俺が慌ててその手に触れると、
それはどこかで触れたことのある小さな手。
「甜歌……か?」
「大当たりでぇす!」
肩越しに、甜歌が俺に笑顔を見せた。彼女は俺が腰掛けているベンチの隣に座った。
実を言うと、俺は前回の闘いの後、甜歌が見せた表情を忘れられないでいた。まるで、
悪魔か鬼でも見るようなあの視線と怯えきった声。甜歌は忘れているのか、忘れてい
ないのか、そのことには触れようとはしない。
俺達はしばらく会話を楽しんだ。26歳のいい大人と小学生5年生だから、当然話題がか
み合わないことも多々ある。だが、俺達にとってはそんなことは些細なことだった。共
に死線を越えてきたこと。それが俺達の絆となっているからだ。
「甜歌とお兄ちゃんが会って、もうどれくらいになるかな?」
唐突に甜歌が聞いて来た。

691 名前:1 [] 投稿日:2005/02/25 (金) 01:00:12
「ん…そろそろ一年になるんじゃないかな」
「一年かぁ。色々あったよねぇ」
そう、色々あった。俺が最初に乗った俺専用MSは甜歌と俺の父が共同開発したもの
だった。溶けるシステムなどという奇妙奇天烈なシステムを考案したのも彼女だ。
「なんで俺専用MSに溶けるシステムを搭載したんだ?」
「だってあの子は甜歌の分身みたいなもんなんだし、そこら辺の有象無象に操縦し
てほしくなかったんだもん」
なるほど。自分大好きの甜歌らしい。
「あのね、お兄ちゃん…」
ふと甜歌の表情が暗くなった。
「どうした?」
「ごめんね。あの時、こわい、なんて言って」
「ん、ああ。別に何とも思ってないよ」
俺は無理矢理笑って見せた。本当はこの上なくショックだったのに。
「でもね、あの時は本当に怖かったの。だって、甜歌が知っているお兄ちゃんじゃ
なくなっちゃうんじゃないかと思って」
思い出したのか、甜歌の表情が更に曇りだし、悲しげな色になっていく。
「心配するな」
俺は優しく甜歌の頭を撫でた。

692 名前:1 [] 投稿日:2005/02/25 (金) 01:16:20
「俺は俺だよ。俺以外の何者でもない。これまでもこれからも」
「よかった…!」
甜歌が俺の腕に肩を寄せた。思えば、この小さな身体でどれだけの苦悩を味わって
きたのだろう。最初に出会ったころに比べて彼女は格段にたくましくなった、だが、
それは大人社会の汚さにその身を浸したからだとも言える。本来なら、学校で友達
と笑っていてもおかしくない年頃だというのに。
「終わらせなけりゃならない…」
不意に俺の口をついてそんな言葉が出た。
「え?」
「いや、何でもないよ。独り言だ。甜歌お腹すいたか?」
「えーと、あ、すいてるかな?あれ、っていうか、かなりすいてる」
甜歌は空腹を思い出して、お腹をさする仕草をしながら大きく笑った。俺もつられ
て微笑んだ。
「よし。じゃあ、サングリーンにミスドでも食いに行くか」
「うん!」

その夜、俺が甜歌を畠敷に送っていくと、帰り際に艦長が声をかけてきた。
「どうだ?胆は括ったか?」
俺は少し目をつぶった後、艦長の目をしっかりと見て答える。
「…俺が乗ります。第三世代俺専用MSには俺が乗ります」
「よくいった。まぁ、よろしく頼んだぜ!伝説のエースさんよ」
艦長の皮肉もどうということはない。守るべきものを得た俺の視線は、既に空の向
こうの標的に向けられていた。

704 名前:1 [] 投稿日:2005/02/26 (土) 01:14:32
第21話後編(浜崎パート)
鳴ったのは浜崎あゆみのEvolutionだった。
俺は着信拒否するべきか悩んだものの、結局受話ボタンを押した。
「もしもし」
「ねぇ!?どこにいるの!」
「え、どこって、庄原の上野公園だけど…」
「は!?何でそんな所にいるわけ?馬鹿じゃないの?」
浜崎はどういうわけかキレ気味だ。というより、彼女の場合、キレているのか平静を
保っているのか、その境界線が極めて曖昧だったりする。
「今から市内に買い物に行くから、付き合ってよ」
「市内って三次の…」
「阿呆か!広島市内に決まってるでしょうが。じゃ、30分後にCCプラザの前ね」
「そんな…あ!」
一方的に電話を切られてしまった。正直足代わりに使われては堪らないので放ってお
こうかとも思ったが、怒らせたら明日どんな仕返しをされるのかわからないので、迎
えに行くことにする。彼女のMSパイロットとしての腕は一流なのだが、我儘は更に超
一流とくるから、俺もほとほと閉口してしまう。
俺はシビックフェリオ(芳香剤が切れたのでそろそろ買わなければ鳴らない)に乗って、
CCプラザに向かった。

705 名前:1 [] 投稿日:2005/02/26 (土) 01:34:43
浜崎を乗せると(普段は財布の都合で乗らない)高速に乗って、広島市内を目指す。
「30分ジャストだったわね。あんたにしてはやるじゃない」
「それは誉めてるのか、貶してるのか」
「どっちもよw」
広島市内に到着。パルコやらサンモールやら、とにかく洋服やらバッグやらを買い捲る
浜崎。俺はもっぱら荷物持ちで、大きな紙袋を幾つもさげてヨタヨタと歩く羽目に。並
木通りのマリオエスプレッソで夕食をとる。食事代は当然のごとく俺持ち。
「大体、こういうことは彼氏がやるもんだろ」
食事の会話の中で、俺は思わず本音を吐いた。
「うるさいわね。彼氏なんていないわよ」
「え?」
驚いた。浜崎には彼氏がいないらしい。多少化粧が濃いくて高飛車な性格だが、彼氏
がいないとは驚きだ。
「そんなこと…どうでもいいじゃない」
浜崎の表情が一瞬曇った。俺は自分発した言葉の迂闊さを呪った。浜崎は幼い頃、連
邦の軍事学校に入れられ、軍のエリートとしての教育を受けてきた。卒業後は連戦に
次ぐ連戦で、彼氏を作る余裕などありはしない。負けん気の強さも手伝ってMS操縦訓
練に明け暮れていたと聞くから、尚更のこと恋などしている余裕などなかったはず。
俺は黙りこむ浜崎の目が涙をたたえているのを見逃さなかった(マスカラが少し流れ
ていたので)。
「ごめん…」
「…え?何勘違いしてるのwあんたなんかに謝られたんじゃおしまいだわ」

706 名前:1 [] 投稿日:2005/02/26 (土) 02:01:48
その後も買い物に散々付き合わされた後、俺は高速に乗ろうとインターチェンジ
に向かった。
「今日は54号から帰ろうか」
54号とは国道54号線のことだ。通常、高速道路を通るよりも時間がかかってしまう。
「なんで?」
「なんでもいいじゃない。ドライブがしたいの」
「はいはい」
俺はやむなく従って国道を通ることにした。夜の街明かりは気持ちを和ませる。
助手席の浜崎の顔をふと見ると、珍しく憂いを秘めた表情。もうすぐ始まる最終
決戦で死ぬかもしれないのだ。幾ら浜崎とはいえ無理もない。信号待ちでその表
情を見ていて俺は妙な気分に襲われた。可愛い。思わず俺は顔を背けた。
「ねぇ、私に彼氏がいないの意外だったでしょ?」
「ん、ああ。意外だった」
「彼氏になってよ」
「は?」
俺は危うくハンドルを切り損ねるところだった。
「あははは、冗談よw真に受けてる〜!」
「な、変な冗談よせよな」
「ばーーーか!ばーーーか!アハハハハ」
浜崎は大笑いした。
「ねぇ、第三世代俺専用MSには乗るの?」
「ん、まだ決めてないんだ」
「無理しなくていいわよ。連邦のエースはわたし一人で十分なんだから…」
浜崎は少し寂しそうに虚勢を張った。だが、その瞳は美しく輝いている。死を
覚悟した人間が垣間見せる美しさ。
俺の中で何かが目を覚ました。
「決めた!俺はあれに乗る。お前一人にいいカッコさせられるかよ。それに…」
「それに…?」
「なんでもないよ、さぁ、早く帰ろうや」
「なにカッコつけてんのよ!!」
早く帰ろうと言った割には、俺はいつもよりちょっとばかり速度を落として、三次へと
車(シビックフェリオ。中古。諸経費込み56万くらい)を走らせた。

712 名前:1 [] 投稿日:2005/02/27 (日) 00:46:30
第21話後編(???パート)
鳴ったのはちんこ歌人のちんこ音頭だった。これは着うたというよりもアラームに
あてている。考え込んでいたら、いつの間にか午後4時だ。ここでこうしていても始
まらないので、俺は艦に行ってみることにした。
艦に着くと艦長が暇そうに艦内を徘徊していた。
「よぅ、第三世代俺専用MSに再搭乗する気になったか?」
「え、いや、まだわかりません」
「ったく、優柔不断な奴だな!……まぁ、とはいえ、青年よおおいに悩みなさい」
「はぁ」
艦長は緊張感もなくあっけらかんと言い放って、去っていった。
俺は特にどうというわけでもなく、MSデッキに向かった。ハンガーには整備の終わ
った第三世代俺専用が。俺はコクピットに座ってみた。
「お前は俺にどうさせたいんだ…」
思わずそんな言葉が口をついて出た。そして目を閉じる。家電屋を辞めてからの日
々が走馬灯のように頭をよぎる。

714 名前:1 [] 投稿日:2005/02/27 (日) 01:03:40
いつの間にか俺は浅い眠りに落ちていた。どれくらい経っただろうか、俺を呼
ぶ声がする。
「・・・…きて……ぉ…/・・・きて」
「ん…?」
俺の真正面、コクピットハッチを開けて何者かが俺を見つめている。見覚えの
ある顔。俺は不明瞭な思考で記憶の中にある幾多の顔とそれを見比べる。
「あ…むろ?安室なのか?」
「ええ」
彼女は頷いた。
「生きていたのか…よかった」
彼女の死亡は確認されていたので、そんな筈はないのだが、そこは夢うつつ。
妙に納得する俺。
「だいぶ悩んでいるようね」
「ああ、こいつに乗るべきか乗らざるべきか。俺にはわからないんだ。安室、
あんたならどうする?」
安室はちょっと困ったような顔をした後、微笑んだ。
「あなたの好きにすればいい。乗るも乗らないもあなたの自由」
「あんたまでそんなアバウトな。艦長と同じじゃないか」
「そうね」
安室はまた微笑んだ。どこまでも暖かい笑みだ。彼女はコントロールパネル
にそっと触れる。
「わたしはこの機体に僅かな時間しかのっていないけど、これはとても素直
な機体よ。ただし乗る者の心にある根源的なものを肥大化させてしまう。そ
の陥穽に陥ってしまうと…」
「前の戦いでの俺のようになる…」

715 名前:1 [] 投稿日:2005/02/27 (日) 01:14:01
「そういうことね。これに乗って戦うのは敵だけじゃない。自分自身とも戦わ
なければならいない」
「それって厄介杉だろう」
「ええ。でも、それを乗り越えた者には莫大な力をもって答えてくれるいい機体
だわ。いわばこの機体はあなた自身。自分を信じられない者は、自分にさえ裏
切れる」
「わかるような、わからないような。もちっと噛み砕いて…」
安室は俺の問いを振り切るようにコクピットから離れた。その身体は宙に浮いて
いる。
「いずれ分かる時が来るわ」
「そうかな……なんだか眠い。少し眠らせてくれ」
俺は再び目をつぶった。
「さようなら」
そんな声がかすかに聴こえた気がした。


翌日、俺は艦長に第三次俺専用MSのパイロットになることを申し出た。

22話〜25話へ→

←目次