ヴィラ=ロボスにみるホルンの使用法

 

 ヴィラ=ロボスの略歴

 リオデジャネイロ生まれのヴィラ=ロボス( Heitor Villa-Lobos, 1887〜1959年)は、ブラジルを代表する作曲家です。父の手ほどきでチェロをはじめ、その後ギターの奏法を習得しました。少年時代は正規の音楽教育を受けることには抵抗し、音楽仲間とカフェや小劇場などで演奏するのを日課としていました。
20歳にならないうちに放浪生活をはじめ、家に戻った後も独学で作曲を行ったりしていましたが、1923〜30年までフランスに留学し、ルービンシュタインらと親交を深め、帰国後はなぜか音楽院と音楽アカデミーの設立にたずさわっています。多産な作曲家で、正確な数は分かりませんが、一説には生涯1,000程度の曲を作曲したと言われています。
 代表作はブラジル風バッハとショーロスのシリーズです。ブラジル風バッハは全9曲です。バッハの模倣ではなく、バッハの雰囲気に霊感を受けた純粋なブラジルの音楽です。一方、ショーロスの「ショーロ」はリオのカフェなどで演奏している楽団の呼び名です。ショーロスは全部で14番までありますが、現在CDで入手可能なものは一部に限られています。
 夫人によれば、ヴィラ=ロボスはオーボエ以外のオーケストラの楽器をすべてこなすことができたとのことですが、そのせいか技術的にかなり演奏が難しい曲が多いと思います。楽器のことを知らずに難しいことを書いてしまったというよりも、楽器のことを知っていて痛いところをついてくるという感じです。
 

 ホルンの使用法の特徴

 実際にヴィラ=ロボスの曲を演奏してみると、ホルンの使用法にいくつかの特徴があるように思います。ここでは、実体験に基づいたホルンの使用法の特徴を、実例を挙げて紹介します。

  1st以外がおもしろい

 きつくて苦しむ1stホルンを尻目に、1番以外のホルンが旋律だったりソロだったりします。事例にあるショーロス第4番を演奏したときに1stを吹いたことがありますが、実際腹立たしい気分になってきます。しかし、後述するようにかなり耐久力を要するため、だんだん酸欠状態になり頭がボーっとしてきて、曲が終わると腹立たしさも忘れ、心地よい疲労感だけが残ります。


ショーロス第4番

 中間のゆっくりした部分では、ミュートをつけてひたすら上のCの音を伸ばす1stの横で、2ndホルンが朗々と旋律を演奏します。そのすぐ後のノリノリの旋律に至っては、すべて2ndに取られてしまいます。

ショーロス第10番
 満を持して合唱が登場する前、ファゴットとチェロのリズムに乗って主題が現れますが、主題は3rdに取られ、1stはファゴットと一緒にリズム軍団を担当します。この曲は、一番はじめのGのffからクレッシェンドする苦しいロングトーンは1st,2ndが担当するなど、随所に3rdびいきが目立ちます。
 

  跳躍が激しい

 跳躍が激しい曲は他の作曲家(例えばラヴェルのダフニスとクロエのLow FからHigh Fまで上がっていくパッセージなど)でもいろいろありますが、ヴィラ=ロボスの曲にも、それに引けを取らないほど跳躍が激しい曲があります。


蚊の踊り

 蚊の羽音を奏でる木管と弦楽器に乗って、ホルンがちょっと場違いに勇ましく登場したかと思うと、いきなりLow AからHigh Eまで駆け上がります。格好いいのですが、自分でやるとはずしてしまいそうで、CDを聴いているときでもつい緊張してしまいます。

ショーロス第8番
 曲のなかばでミュートをつけたソロが出てきますが、上のBbから下のAまで一気に駆け下り、A → High Eb → 下のAb → その下のDb 謎fのglissandoでブリブリ吹きまくります。これはglissandoなので音をはずす心配が少なく、爽快なソロです。
 

  とてつもない耐久力が必要

 耐久力を要する曲はこの世に数多く存在します。有名どころでは、リヒャルト・シュトラウスやワーグナーの管弦楽曲はとてもきついですし、チャイコフスキーやシベリウスの交響曲も、吹き終わると唇がタラコのようになってしまいます。また、オペラの多くは、時間も長いためきついものも多いです。一方ヴィラ=ロボスの曲は、時間が短いのになぜこんなに吹くところが多いのだろうという印象を持つものが多いように思われます。
 ちなみに、1.のショーロス第10番で触れたGのffのロングトーンは、早い演奏でも15秒以上かかります。


ブラジル風バッハ第4番
 第2楽章のコラールでは、ブラジル原住民の祈りの歌をトランペットが悠然と演奏するなか、裏でかなりきついハーモニーを奏でています。この楽章のクライマックスのコラールはホルン主導で心地よいのですが、そこに行きつくまでに息絶えてしまいそうです。「これならホルンも、打楽器と一緒にアラボンダの鳴き声を担当していた方が良かった」と後悔してしまいます。

ショーロス第4番
 はっきり言って酸欠状態です。この曲はホルン3本とトロンボーン1本のアンサンブルのため、手を抜くとすぐばれてしまいます。前半に2小節しか休みがなく、その後さんざんロングトーンなどの伴奏を担当し、ついにはHigh Esまで2回も上がらされ、やっと1小節休みがあったと思う暇もなくミュートをつけ、前述の「ひたすら上のCの音を伸ばす」部分に突入します。ここまでくるとホルンが嫌いだったとしか思えません。
 

  おいしいところは他の楽器に持っていかれる

 これまで述べたように、こんなに大変なことをやっている割には報われなかったり、ホルンが目立っても他のパートがもっと格好いいため、他のパートに主役を奪われてしまうことが多々あります。


ショーロス第8番
 「跳躍が激しい」の項で触れた「ffのglissandoでブリブリ吹きまくる」ソロですが、こんなにエグいのにミュート付きのため、いくらffで吹いても、mfで重なって吹いているクラリネットやfひとつのサックスにかき消されてしまいます。

ショーロス第10番
 これまでさんざん「きつい」と書いてきた出だしのGのロングトーンですが、実はとても目立ちますし、やりようによってはしょっぱなから聴衆をくぎづけにすることができるほどの威力を持っています。しかし聴衆がホルンに向いてくれるのは最初だけで、序奏が終わったあとはトロンボーンの荒れ狂う旋律の前にホルンのつらさは忘れられてしまい、曲の後半では目のさめるようにきらびやかなトランペットのソロが出現してホルンの存在感などすっかり薄れ、「この曲ってホルンが活躍しないなあ」などと思われるのがオチです。
 

  ソロは結構ホルン冥利につきる

 ここまで読んできたホルン奏者の人は、「ヴィラ=ロボスなんてやりたくない」と思ってしまうかもしれません。でもヴィラ=ロボスが書くホルンのソロは、結構ホルンのことを知らないと書けないすぐれもので、演奏してみれば、まさに「ホルン冥利につきる」という感想を持つことでしょう。


ギター協奏曲
 出だしの旋律からホルンが重なりからはじまり、要所はホルンがおさえています。圧巻は第3楽章のHigh Eまで上がるソロです。音は高いのですが、前置きが長くないのではずす可能性は低い上に、弦楽器が難しい音型なのを尻目に楽しくソロを吹くことができます。

ブラジル風バッハ第4番
 第3楽章「アリア」のホルンソロはシェエラザードばりです。
 


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