第一章

 壱

 緑の生い茂る春の昼下がり、裴元紹はいつも通り略奪してきた肉と酒を食らい昼寝をしていた。そこへ手下が
「大変でやんす、赤い馬に乗った獲物がやってきたでげす」
と走って来た。裴元紹は何も言わず立ち上がり、自慢の覇千(短戟)を手に取り、高々く振り上げた。「野郎共、一丁暴れようでないか!」
「おぉー」
と配下の声が山にこだました。
「そうこなくっちゃ、ロドリゲス」
 調子に乗った配下が一人。
 早速、裴元紹は愛馬の疾風(駄馬)にまたがり、さっそうと駆け出した。岩に隠れていた配下達からの報告によると、赤い馬は天下に名高い『赤兎馬』らしい。乗馬しているのは見たことの無いほどの大男。そして長い髭をたくわえている。
(多勢に無勢、あの馬は貰ったぜ)

裴元紹は直感でそう思った。そして三里先に見える大男に眼をやる。裴元紹は静かに、剣を振り上げた。一瞬の静寂。挙げた手を一気に振り下す。部下の走る音が聞こえる。手綱を引き、馬が駆けた。風をきり、雄叫びをあげる。前方の赤い馬だけを睨みつけ、突進する。体の血が騒ぐのが自分でも分かった。50メートル、20メートルと近づき馬が眼前に見えた。乗馬している男は予想以上に大きかった。そんなことはどうでもいい。狙いは赤い馬なのだ。裴元紹は出陣前から決めていた一撃必殺の我前倒打を仕掛ける。腕を振り上げ、首をめがけて剣を振りかざす。その瞬間体が宙に浮き、雲空が眼に映った。そして次の瞬間背中に痛みを感じた。そのとき初めて自分が落馬したことに気づいた。
「山賊めが、成敗致す」
大男の目の色は殺意に満ちている。
薙刀が首に向けて振り下ろされた。裴元紹は眼を閉じた
そのとき部下の一人が
「待ってください、この度の非礼は私が全て画策し、実行をしたのです。どうかお頭を殺めるのではなく、この私を殺してくださいでげす」
「魯度李下巣!」

裴元紹が口を挟んだ。大男はしばし考えた素振りを見せ
「見上げた忠誠心だな。禿げ、良い部下を持ったな、本来なら打ち首にする所だが部下の言い分を聞こうではないか」
裴元紹は安堵の表情をあげた。その顔は見るも無残な醜悪なものであった。

1・大男に義を感じ、彼に仕える。

2・そんな気は微塵もない。これからも、山賊をやり続ける。

3・何も言わず、立ち去る

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