息子が中1の冬だった。その日は私はいつもより早めに帰宅した。ちょうど、息子は出かけるところだった。まさか私がこんなに早く帰ってくるとは思っていなかったのだろう。家に入ると冬だと言うのに、窓はあけっぱなし、それなのに、やけに居間がタバコ臭いことに気がついた。 夫が喫煙者だが居間では決して吸わない。
そのころ息子にはあまり評判のよくない友人、A君がいた。なぜ評判がよくないかというと、アパートの1室に(そこは親の家の敷地内にあったのだが、親の目は行き届いていなかった)、姉弟、ふたりで住んでいたからだ。アパートにすんでいるため緊急の連絡もとれないなどのうわさも耳に入ってきた。でも、そういったうわさで息子の友達を判断してはいけないとも自制した。私の心配をよそに、A君と息子は、気が合うらしく、いつのまにか、今までにいなかったような大親友になってしまった。そしてA君のアパートにもよく遊びに行くようになった。A君も実際に会ってみると、まだ幼いかんじの面白い子供だった。大人の目が行き届かないアパートはやはり不安ではあったが、私は息子を信じることにした。
そのときもその友人のアパートにでかけるところだった。帰ってきてから、問い詰めると、「道にタバコが落ちていて興味があったから、1本だけ拾って吸った。」 という。なぜ吸いたいのかの問いに息子は驚くべき答をした。A君の母親がタバコの煙でドーナツの形を作るのをみてそれを作りたかったと。でももうしないともいった。私はそのときもその言葉を信じた。息子はサッカーが生きがいだと思っていたからだ。サッカーがあれだけ大好きなのだから、タバコなどに深くのめりこまないだろう。
それからの半年、A君のアパートに行く日々も多かったが、勉強もしていたし、部活も熱心にやっていた。ただ、徐々にA君のアパートですごす時間が多くなっていった。本当に徐々に徐々に、気がつかないほどに。
それでも気になっていたのは、A君の姉(当時高1)がタバコを吸うらしいこと。だからいつのころからか、アパートにでかけるとタバコ臭くなって帰ってきた。振り返ってみれば、はじめはそんなことはなかった。子供二人ですんでいるアパートは換気などほとんどしないらしくて、ごみのにおいが気になると息子ははじめのうちはよく言っていた。それがいつの間にか、タバコのにおいに変わっていたのだろう。振り返ってみれば、ごみのにおいの話はしなくなった。そのかわりに衣服にタバコのにおいをつけて帰るようになったのだ。
その理由をねぇちゃんがタバコを吸うからだ、と言われて、そのままにしてしまったことが、一番の私の失敗ではあったと思う。ニコチン依存の恐ろしさをそのときは私もわかっていなかった。今思えば、そのとき、すでにA君の姉は立派なニコチン依存症だったわけだ。この認識の甘さが息子をニコチン依存に陥らせてしまう大きなきっかけになったのだと思う。
ただこのとき禁止できたとしても、息子たちのタバコが食い止められたか、それは今でも疑問である。