天 高 く …




 望ちゃんはしょっちゅう行方不明になる。
 行方不明と言ってもなんてことはない。単にその辺で昼寝してるだけだったり、悪さして隠れてるってことが大半なんだけれど。
 たまに何の理由もなく数時間、ふいっと姿を消してまるで見つからないことがある。
 ただ、よく晴れた日が多いみたいだ。

「ねえ、明日なんだけどさ。修行ないしちょっとどこかへ」
「すまんな、明日は行くところがあるのだ」
 ここのところずっと一緒だったから、誰かに用事を言い付かったとかじゃないことは間違いなかった。
 そういえば、晴れた日が続いている。
 もしかしたら望ちゃんがいつもどこに行っているのか分かるかもしれない。

 次の日、望ちゃんは昼過ぎにようやく起きてくると朝なんだかお昼なんだかわからない食事を取って、ブラブラその辺を歩き、白鶴とおしゃべりして、原始天尊さまを煙に巻き。
 やっぱりいなくなってしまった。
 こっそり後をつけていたのに気が付かれちゃったんだろうか。
 辺りを見回しても特に隠れるようなところがあるわけでもないし、こっちの通路もあっちの部屋も、通ったなら分かったと思うんだけど……。あそこなんて行き止まりだし、というところで思い出した。
 あそこには使われなくなった、ちょっと目立たない階段がある。

 玉虚宮の裏手にある手入れのされていない細い階段。ここは日陰になっている上にところどころ段が抜けていて危ないし、他にも道はあるから使わなくなったらしい。
 なにしろ望ちゃんのコトだから、ここを通ったとは限らないんだけど、僕は階段を上がってみることにした。

 階段は玉虚宮のてっぺんにつながっている。
 ここは崑崙山の頂上でもあって結構広いスペースになっているけれど、強い風にさらされた岩肌そのままの何もない場所だ。
 その真ん中に望ちゃんがいた。

「ねえ、何が見えるの」
「何も。いや……空が見えるな。それから今は普賢だ」
 大の字に寝ころんでぼんやりと目を見開いている彼は、僕におどろくでもなく悪びれるでもなく、そう答えた。
 望ちゃんから目を離し、俯いた視線を彼の向ける方向へと動かす。
 空は何処までも丸く、天頂は普段見るより幾分黒みを帯びていた。

 ああ。

 空以外何も見えない。
 だけど、君が感じている何かが僕にも分かるような気がする。



 望ちゃんはたまに何の理由もなく、ふいっと姿を消してしまう。
 よく晴れた日だ。
 僕はお弁当を用意して、細い階段を上る。



◆夏の終わりの静かな雰囲気を書いてみたくて……。でもこの話自体はあんまり9月って感じじゃ無いですね。

03/08/29


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