空の綿花と羊飼い
最近、なんとなく気分がいい。
メシはうまいし酒もうまいし、天気がいいから過ごしやすいし、ジジィ(原始天尊サマ)がちょくちょくでかけるお陰でサボり放題だったりするし。
なにからなにまでイイコトずくめで、そりゃぁ気分も良くなるってもんなのだが。
どうもそれだけじゃないような気もする。
「それで望ちゃん悩んでるの?」
「べつに悩んではおらぬが」
「ふぅん」
崑崙のはずれ、人目につきにくい、だけど日当たりのいい絶壁で。
そのことを話した相手はいつも通り微笑みながら疑り深い目を向けるっちゅー器用なことをしてみせた。
「じゃあ、なんでこんなことしてるの」
「ヒマつぶしかの〜」
言いながら竿を戻すが、当然魚が釣れているはずもない。針がまっすぐだろうが曲がっていようが、空に糸を垂らして釣れるのは(眠って見る)夢くらいの物だ。
さて、こやつに起こされたがもう一回ウトウトしようかと竿を握りなおすと、
「イワシだったら釣れるかもしれないけどね」
「はぁ?」
そりゃ何の謎かけだ?
「ほら、あれなんかいい形!」
「あ〜、なるほどな」
指さす先にはいわし雲が。
「しかし残念ながらアレは位置が高すぎるの〜。この下となるとポワポワした雲しかおらぬなぁ」
「………フグとか?」
「無理があるわ!」
すかっ
ツッコミ入れようとしたらあっさりかわされた。落っこちそうになっているワシのことは気にもせんと眼下の雲を見ながら、奴はニコニコと話し続ける。
「ああ、綿の花みたいだね。僕、小さい頃摘むの手伝ったことあるよ……、懐かしいな」
「はな? アレがか」
「あれ、望ちゃん見たことない? 僕の住んでた辺りじゃどこでも作ってたけど。ちっちゃい子ってすぐムキになるから、誰が一番上手に糸に紡げるかとか競争しちゃったりして」
「そりゃワシも糸くらい紡いだことはあるが……」
あ。
ああ、そうか。わかった。
……やれやれ、なんで気づかなかったやら。
「なんか急にスッキリした顔になった?」
「うむ。……普賢よ、もう陽も欠ける。わしはそろそろ戻るが、おぬしも来るか? 良い酒を仕入れたのだ」
「じゃあご相伴に預かろうかな。でも、まさかそれ道徳からもらったんじゃないよね」
「そんな雲中子印の付いていそうなブツは原始天尊さまに流したに決まっておるではないか」
バカな話しを続けながら、胸の中をほんの一瞬昏い炎がよぎる。そして代わりに広がったのは暖かいセピア色の記憶。
下界を見下ろせるその絶壁から、今見えるのは雲の群。
あやつが綿の花みたいだと言ったそれは、羊の群にもよく似ていた。
◆いつか使ってみたかった雲の名前ネタ〜。秋ってコトでちょっぴりしんみりテイストで。
ところで雲の形って地形によって違うんですよね。参考にしたの当然日本の秋空なんですけどー……崑崙山ってどこの空に浮いてるんだか(笑)。
03/10/14