名残雪と新入生




 仙人界への入山は自力でたどり着くのでなければ全てスカウトによるものなので、特に決まった日時に行われるということはない。
 しかしこれまた特に理由があるわけではないが幾分偏りがあって、春にやってくる者が多い。

「僕が来たのもこの時期だったなぁ。うん、なつかしい感じ。あ、望ちゃん見て見て、あの子。手と足 左右揃って歩いてるよ〜。初々しいねぇ」
「おー、ガッチガチだな。しょせん崑崙とて下界と大差あるわけではないというのにのう」
 彼らのいる房から建物で言えば三階分ほど下を歩いているその子供は、おそらく原始天尊に挨拶に行くのだろう。のほほんと気楽なことを言う普賢や太公望とは対照的に、先導する仙人の後をひどく必死な様子で追っているのが それなりの距離があるにもかかわらず見て取れた。
 窓際にいた太公望はなんとはなしにその様子を眺めていたが、その姿が建物の中へと消えたのを機会に室内へと視線を戻すと、普賢とばっちり目があって少したじろいだ。どうやらずっとこちらを見ていたらしい。
「……なんだ、普賢。何か言いたいことでもあるのか」
「……ううん、べつに?」
 軽くにらんで問うた所で普賢の微笑みは崩れることはなかったが、それなりに長いつきあいだ。太公望には目の前の親友が考えているだろうことがいくつか思い浮かんだが、答えるのは1つだけにしておくことにした。
「おぬしはどうだったか知らんが、わしとて初日は確かに緊張くらいしたわ。へぇへぇ、人のことは言えぬものよのう!」
「えー、僕なんにも言ってないじゃない。考えすぎだよう、望ちゃん〜」
 わざとらしく困ってみせる親友に背を向け、未だ冷たい風の吹き込む窓を閉める。

 崑崙へ来るということ。
 普賢やたくさんの道友と出会い、今ここにある。
 それは、否応無い別離れを前提とする。
 決して忘れないけれど、それは秘めておくべきこと……誰よりも自分自身のために。

「まぁ考えてみれば普賢サマに置かれましては初日から落ち着きかえった菩薩顔をしておったのでありましょーから、わしのような者を見ればイヤミの1つも言いたくなったり、しかし口には出したりしないわけでこのエセ聖人が」
「も〜、そんなに拗ねないでよぅ。だから僕、見てただけで何も言ってないってば」
「否定はせぬのだなぁ? やはり」
「望ちゃん〜……」
 新しくやって来る者たちに思うのは、それが未来への布石となりうるかどうかということ。そう思う自分への嫌悪感。それらを無関心や好奇心で塗り込める。
 たとえ見通されていようとも。そうでありたいと思う自分も本当だから。
「こんなわしだとて入山当時は右も左も分からぬ紅顔の美少年。しかしつきあった友人が悪かったのか」
「へぇ、それ誰のこと」
「誰のことであろうかのーう」

 願わくば、全ての新入生に幸いあれ!

◆分かりにくい話かもしれないですね;。とりあえず太公望は普賢と出会えて幸せだったと思いますよ。

04/04/25


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