一人往く世界




 ふと気が付くと、太極図が足元に転がっていた。ウトウトしている内に懐から落ちたらしい。
「ああ、忘れちゃいかんな」
 いまや大した重要性は無いとはいえ、スーパー宝貝は一般人には危険物だ。拾い上げてあらためて懐に入れる。虹色をした文字がわずかに漏れ出て、空気に溶けた。

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 何とはなしに取っていた休憩を終え、のびをしながら立ち上がる。このまま歩けば、夕暮れ前には街に着くだろう。
 てくてく歩きながら頭の中に地図を思い描き、その地図をどこで見たかという連想から、ひどく雑然とした書庫を思い出す。
 そういえば、自分は整理整頓が苦手だと思われているらしい。
 それはある一面では真実だろう、確かに普段から身の回りの物を散らかしている自覚はある。……どこに何があるかさえ分かっていれば、別段綺麗に並べておく必要はないと思う、この思考回路がまずいのだろうが。
 今では更に整理整頓とは無縁の生活だ。そもそも整理するべき物がない。人間関係すらサッパリのひどくシンプルな生活。……まあ、もはや人間ではないわけだが。
 この身軽さはまるで糸の切れた凧のようで、どこかフワフワと頼りない。風のままに世界をぶらつきながら、何がしたいのか考える。
 これからの自分が、何をしたいのか。
 今までの自分がしたかったことは全て済んだし、済んでいなかった分があったにしろそれらを切り捨てたからこその今の自分だ。もう一度手に付けようとは思わないし、そもそも戻れはしない。
 ……今の自分にはしたい事すら有りはしない。
 ああ、シンプルだ。だからだろう、このごちゃごちゃした世界に惹かれるのは。整理整頓などくそくらえ。そうだ、自分はこの混沌を愛している。
 風の向くまま気の向くまま、世界を一人たゆたいながら、いずれはこの身すら整理して雑多な物に溶けてしまおうか。時の彼方の仲間達と同じように。
 最後まで勝たせてくれなかった、彼女と同じように。

 だけど、それは。当分しないと決めた事。

 自らの思考を振り返り、軽く肩をすくめる。反動とはいえ、あまり暇なのも良し悪しだ。とりあえず、次の街に着いたら桃まんでも買って食べよう。金子が足りない気がするから、まずは占いでもして稼ぐとして…。
 これをしたい、と積極的に思う事は確かにないが、心に決めた事がいくつかあるから、歩いていく事は苦ではない。てくてくと地面を踏みしめ、前を見る。
 もう一度脳内の地図を呼び出すと、ごちゃごちゃした書庫もまた脳裏に浮かんだ。修業時代に入り浸っていたそこは崑崙と共になくなったが、これから行く街にもあんな場所はあるだろうか。
 もしあったなら暇つぶしに整理整頓してやろうと思いつきニヤリと笑う。
 街はもう すぐそこだった。



◆フラフラしている伏羲さん。本当はしたい事なんて無自覚にいっぱいです。暇すぎるとかえって何をすればいいのか分からなくなるだけなんです。

06/2/20 (Mon.) 23:46:51


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