羊飼い達の午後
全てが終わって。
太公望は地上で何をするでもなく過ごしているが、最近はいくつか趣味のような物もできた。その一つは羊の世話をする事で、とある野生の群れを一つ、時折面倒見てやっているのだが……。
気が付けば、闖入者が一人。
可愛い羊たちの上でだらけた寝顔をさらしている見知った顔に、思わずそのくるくると跳ねた緑髪の頭をぶん殴っていた。どうせ奴には大したダメージではない。その証拠にうっすらと開けた目には涙が浮かんでいるわけでもなく、むしろまったりと迷惑そうな表情が。
しかしこちらはと言えば、あっさり目を覚ました太上老君に肩すかしを食らわされた気分だった。
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「ふあぁぁぁぁぁあ、あ………。ねむ、い」
「一日23時間以上寝とるくせに何を言うか。つーか、おぬしそこまで眠らねばならぬ理由は最早なかろうに」
対女禍協力体制において、太上老君の役割は彼の者の見張りだった。それは女禍の夢を通じた物だったがために、太上老君は常に眠っていることを必要としていたのだが。
そんなにあっさり目を覚ます事ができるようになったのなら何かすればいいものを。
「だって女禍が居なくなってすること無いし暇じゃない。じゃあ寝るしか」
「あー、そうだったそうだった。おぬしはそーゆー奴であったのだったな」
考えてみればそれでなくとも太上老君は面倒くさがりだ。弟子(申公豹)だって完全放置で●千年(……ちゃんと最後まで責任もって監督しろ。実に迷惑だ)。そういや そもそも王亦として初めて出会ったときも彼は寝ていたのだった。意志の疎通は出来たが、
『ここに居ればそのうち原始天尊とか来るだろうから、そっちと話してよ』
と、通りすがりの鳥の声を借りて言ったきり。あとはうんともすんとも。
その頃からすれば、自分で話をするぶんまだましかもしれない。
「どうせずっと寝ておるなら、仙人界に引っ込んでおれば良かろうに。それが何故……」
わしの羊をベッドに定めておるのやら。
「えー、だってこの子達 半野良の割に寝心地良いんだもの。私が居ればこの子達に変なちょっかいを出す輩も近付かないし、別に構わないでしょ」
「構う。つーかなんか厭だ」
羊たちに目配せすると、彼らは多少の逡巡を見せたもののゆっくりと集まりを解いた。ぼとりと落下する太上老君。
いい気味だと眺めていると、奴はこちらに一瞬視線をやり、すぐに離した。その視線に賞賛の色が見てとれたのはどういう意味だったのか。不審に思うその前で、奴は無言で手を振る。
とたん、再度集まる羊たち。
「っな!?」
「よいしょっと。ああ面倒くさい」
よじよじと可愛い羊たちに登ろうとしやがるのでもう一度群れを散らばらせる。奴が手を振る。集まる。散らばらせる。
以下、繰り返し。
もっともそれも長くは続かない。なにしろ片方は史上最強の面倒くさがりだ。うろうろする羊たちから視線を外し、ようやくまともにこちらを見る。
「ああ、もう分かったよ。半野良でもなんでもこの子達が君の羊だって事は」
「分かったなら桃源郷辺りにでも引っ込んでおれ。あそこには邑姜の羊たちがおるしな」
短い間だったが世話をした、今でもたまに様子を見に行っている毛足の延びるのが異様に早いちょっと特殊な羊たちを挙げてみれば、相手はふてくされた顔をする。
「地上の羊の方が寝心地いいんだよね……」
高地は、ちょっと。
「そんな理由かい!」
「私にとっては重要だよ」
結局の所 折れたのは太公望。その代わり羊たちの世話をしに来るその時ばかりは彼の居眠り老子も草の上。
◆普段まるで描かない老子の絵を描いたら浮かんだもの。老子もきっと羌族出身、凄腕の羊飼いだと信じて止みません。
そんなわけで元は日記?のこの絵。
06/4/15 (Sat.) 17:14:01