桃の木。 〜太公望の災難〜 (2/4)
「うのぉおぉっぉぉおお……」
「ぐはあああ……」
すぐそばの広場から起こった複数の悲鳴。それもバックに意味無く雷鳴が轟いていそうな。
「どうしたんだい、何があった!?」
駆けつけた彼らが見た物は?!
「さあ、まだこの五光石のエジキになりたい奴はいる?!ハニーを馬鹿にする奴はこのあたしが許さないんだから!!」
高らかに宣言するケ蝉玉と、濃ゆい顔になってのたうっている武成王(大昔の番長漫画風)&南宮活(何故か宝塚調っ)。
必死に笑いをこらえる武王=姫発に、この場から逃げ出そうとしている土公孫。
遠巻きにしてワイワイやっている四大金剛やケ九公などの将軍達。
それから、その全員の頭の天辺に緑色の葉っぱ。
どっかの木に突っ込んだとか、草っぱらで昼寝していたとか、そう云う事ではなくて。
生えているのである。
ちなみに土公孫の頭だけは他の人の数倍は枝が生えている。
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ蝉玉くん!誰も土公孫くんを馬鹿になんてしていないよ!」
土公孫の頭に例えチューリップが咲いていようと楊ゼンからすれば大した問題ではない。だって、そもそも眼中に入れてないし(←目が無意識に避けて通る)。彼にとって一番の問題は自分が五光石の攻撃対象になることである。
「一体何だってこんなコトになったっスか?」
幸い五光石は当たっても痛いだけで、楊ゼン以外にとっては大して恐ろしい宝貝ではない。それでもやはり結構なダメージだし、触らぬ神に祟り無し。楊ゼンと蝉玉の緊張をはらんだ対決はほっといて、まずは普通の顔に戻った武成王に事情を聞く四不象。
武成王は頭に大きなコブをつくってぶっ倒れていたが、それ以外はまったくいつも通り元気そうな様子で、楽しそうにこう話し始めた。
「もともとはいつもの軍議で進軍の時の道士の配置を話してたんだがな。そうしたら、いつの間にかコレだろう?」
そう言いながら指さす先は、だらだら血を流している自分の頭。
「あ、そうじゃねぇよ。こっちだ、こっち」
よく見ると彼の頭にもヒロヒロした葉っぱのついた枝が生えている。
「最初に気が付いたのは南宮活の奴だったよな…」
×
『--というような感じでいくはずだ。なんか質問はあるか?』
現在太公望はいないが、進軍準備をないがしろにするわけにも行かない。幸い武成王がその辺りの事をある程度は彼と話していたため、今回の会議の進行役になっていた。
当然、武成王のライバルを自認する将軍の南宮活は面白くない。そりゃ、割り切ってはいる。割り切っているけど、やっぱりね。その場所は、ホントは俺の席〜っ!という嫉妬めらめらな熱視線をひたすら送り続けていたのだが。
『…おい、黄飛虎。お前頭から何か生えてるぞ』
そう、最初は気のせいかと思っていたが、ソレはちょっとずつ伸びている。
『あぁ?ナニ言って…そう言うお前こそ生えてるじゃねーか』
枝が一本するすると。―――後はもう全員で大騒ぎだ。
『のわんだと〜っ?!』
『お前も?』
『ワタクシも!』
『えーっ、俺もかよ!』
『いやああああっ?!』
ちょっと落ち着いてみれば大変な事態というほどの事でもないが、そりゃビックリもするだろう。
『おいおい、何の騒ぎだ…?』
そこへやって来たのは蝉玉から逃げるためにこの会議に参加していなかった土公孫。しかしいつもの彼と違っていたのは、頭から盛大に枝が生えている事。もさもさした髪の毛とあいまって、まるでどこかの裏山のようだ。
『うおっ、なんだ、おまえらみんなして頭から木ぃ生やしやがって!』
『一番生えてんのはお前だっつーの』
『よせ、黄飛虎。モグラは目が利かんのだ』
そして以下延々と。
×
「―――っつー訳で、ついついツッコミ入れすぎた俺と南宮活将軍が五光石のエジキになっちまったんだ」
「しかし、アレは確かに痛かった……」
「二人ともとっとと止血したほうがいいっスよ…」
なんで血だまり作ってるのに元気なんだろう、二人とも。
◆
「うーん、ちっちゃいけど、これは桃の葉っぱだね」
「あいたたた、あんまり引っ張ってくれるなよ」
この異常事態に、先刻までの考えはどこか遠い彼方へと吹っ飛び、とりあえず問題の究明に乗り出すことにした楊ゼン。四不象には雲中子を連れてくるように頼んで、太公望の捜索は武吉に任せる事にした。実際武吉の鼻が頼りの今の状況では、他の人間は必要ない。
それに道士も含め、軍の中心人物が軒並み被害者(?)なのだ。姫発だってこの状態じゃあ豊邑に戻れないし、今後この葉っぱがどう成長していくかによっては進軍に関わる問題になりかねない。
「とりあえず、桃が生えてきたのはこの面子だけなのかな?」
要塞内を回って見たところ、他にもいた。周公旦と天祥である。二人とも言われるまで自分の異変に気付いていなかった。天祥はたまたま一人で遊んでいたからで、周公旦はあの帽子のためだ。光に当たっていなかった分、その帽子の下の枝は他の者よりひょろ〜んと長い。―――どうせ脱いだりしないのだから誰も気が付かないだろうが。
しかし、よりによって重要人物ばかり被害にあっている。天祥以外は全て毎度の軍議のメンバーばかりだ。抜けているのは太公望と楊ゼンくらいだろうか。そこにヒントがありそうだ。
「最近この顔ぶれがそろったのはいつのことだい?」
楊ゼン自身はこの二日間太公望のかわりに書類仕事をやらされているので、軍議には出ていない。その間に天祥が加わっていたことがあったのなら…。
「昨日、かな。旦が珍しくおやつを持ってきて…」
「僕も配るの手伝ったよ!」
「そうそう、そんでモグラのやつが一人でほとんど食っちまったのな」
「腹減ってたんだよ!メシのたんびにミミズだのねずみだの持って追いかけられてるんだぜ、間食くらいしねーと」
「……ハァ〜ニィ〜?」
話が脱線しかかっているが、だいたい事情は解ったような気がする。
「…ところで、なに食べたのかな」
「桃」
旦によると、それは崑崙山から届けられた物だったという。白鶴童子が持って来たというから、確実だ。
「四日ほど前でしたか。崑崙からの使いだというツルが太公望の所に来たのに居合わせまして。手紙とか、食べ物の差し入れなんかを運んできたようでしたね。あの桃はその中の一つです。しかし、こんな事になるのでしたら、太公望の言うことをもっとよく聞いておくのでした」
「師叔がなにを?」
いきなりこんな所で出てきた太公望の名に反射的に聞き返す楊ゼン。
「実はこの桃の入っていた包みは捨ててしまえと彼に言われたのですよ。しかし、末の弟の師匠からだと使いの者に聞きまして…」
雷震子の師匠=雲中子のよこした桃。もはやこの事態の原因は明らかだった。
「…周公旦くん、キミ雷震子に翼が生えた経緯とか詳しく知らないのかい?」
思わずつぶやく楊ゼン。しかし、仙道の間では有名な話なので兄弟である彼らは当然知っていると思っていたのだが、考えてみれば無理もない。魔家四将戦で十数年ぶりに帰って来たと思ったらいきなり大怪我をして崑崙山にとんぼ返り。周公旦は弟とまともに顔すら合わせていない。
「えー、なになに。ねぇ、武吉っちゃん。雷震子ってここの王サマのえっと、百番目の弟でしょ?なんか、コーモリみたいだとかっていう。なんでそうなったのか知ってる?」
スパイの性が残っている、というよりは噂好きの女の子丸出しでちょうど戻って来た武吉に尋ねる蝉玉。
「蝙蝠ですか?あー、確かに似てますよねっ。色黒くて羽生えてて、でも牙と尻尾も生えてるんですよ!僕も詳しくは知らないんですけど、自分とこのお師匠様に騙されてあんな風になったって話です。雷震子さん、すっごく怒ってるらしいですよ。気の毒ですよね」
ところでこの二人の話は大して声をひそめていた訳でもなかったので、当然周公旦の耳にも入っていたりする。
「……仮にも弟の世話になっている人の心尽くしを無下にするのも、と思ったのですが…。そこまで性質が悪い人だったとは」
その性質の悪いのは、もうすぐここにやって来る。
そんな会話がなされている横ではどっかから鏡を持ち出してきた姫発が、
「おい楊ゼン、何とかしろよ。これちょっと引っ張っただけでメチャメチャ痛いぞ」
王なのにカッコ悪〜、とか言ってたりする。本当はハサミで切ってしまおうとしたらしい。しばらくの間にいくらか成長したようで、いつものターバンの隙間から桃の葉っぱがピョコピョコ出ている様子は、むしろ ほほえましいのだが本人にすればたまった物ではない。
「もうすぐ雲中子さまが来ますから、そちらに言って下さいよ」
「そうですね。これは雷震子の分までしっかり説教しませんと…」
そのハリセン、いつものよりなんか硬そうだね。
そして予言は実行されたのであった。
「にしても、桃を食べて桃が生えるなんて、まんまっスね。西瓜の種を飲んでお腹から西瓜が生えてくるみたいな…」
崑崙から帰って来たスープーはのんきに楊ゼンと話している。すぐ隣では光速のハリセン捌きが光る名人芸が繰り広げられていたりするのだが。
「まあ、今回の場合種を飲んだ訳じゃないけどね。そのまんまって言えばそのまんま―――」
あれ?なんか引っかかるぞ。
雲中子の怪しい桃、頭から生える桃の木、桃の種………
「楊ゼンさーん。お師匠様のニオイ、一通り追っかけてみたんですけど、どうもおかしいんですぅ」
考えを中断させたのは、ようやく蝉玉から解放された武吉の声だった。
「…そういえば、もともとご主人を捜してたんっスよね(汗)。でも、何がおかしいんっスか?」
「うん、それがね。結局所々で休みながら自分の部屋の方に帰って行ったみたいなんだけど…そのちょっと手前にね…なんか、そこに居るみたいな感じなんだよ」
「そこにいるって、どう云う意味だい?」
普通に聞いたらどっかに隠れているみたいに思うところだが、その言い方はまるで幽霊の話でもしているようだ。
「えっと、姿は見えないんですけど、ニオイがするんです」
おどろおどろしく語る武吉。ますます幽霊のよう…いや、幽霊は臭わないし、そもそも現在、封神フィールド内で道士が幽霊になるなんて有り得ない。
「それってドコの事っスか」
「お師匠様の部屋に一番近い中庭だよ」
怪しい桃、木が生える、桃の種、太公望師叔は桃が好き、見覚えのない木は―――
「桃の木だった」
◆
『寄るな触るなひねるな折るなそもそも騒ぐなうっとおし―――いっ!』
彼の第一声はこれだった。つまり、そういう状況。
「あっはははは、マジこれ太公望なわけぇ?あんたも妖怪だったのね〜」
「こりゃ俺どころじゃねぇな」
「ほんと、すっかり木になっちまって…しっかし太公望殿なら柳辺りにでもなるかと思ったがなぁ」
「そーゆー問題ではないだろう黄飛虎!」
「そうです。仕事が出来るかどうかが一番の問題です」
「そして、今回のデータを次にどう活かすかが」
「またいらない騒ぎを起こす気ですか!」
シパコスパコシパコスパコシパシパシパシパッ
『………………』
「え〜ん、心配したんですよ、お師匠様っ。ご無事で何よりです!大丈夫、木なんてスグ治ります!」
「ご主人、(一応)僕も心配したっスよ。…にしても、こんなそばに居たっスか」
「そうですよ。それならそれで僕らに何とか事情を伝える努力をして下さればこんな面倒掛けなくて良かったのに」
「ちょっと、私、私。この私が太公望を喋れるようにしたんだからね!この科学の天才・太乙が作った万能翻訳機械植物編を是非とも」
『ええい、三バカは同罪じゃあ、おぬしはしばらくだまっとれ―――-っ!』