お料理バンザイ? (3/3)
「ごめんくださーい」
“第一回・竜吉公主のお料理修行”から一週間後。
今日もやっぱり暇だった竜吉公主の元に客が来た。前回は二人、今回は一人。でも用件は同じこと。
「はい、これが元始天尊様からの依頼状。これで公主も正式に僕らの先生の一人だね」
「僕らと言うが、太公望はおらぬようじゃが?」
「望ちゃんは一応食べられる物作れるようになったからもういいんだって。ちょっと見た目は悪い物ばかりだけど、ね。残念?」
「そうじゃな……、ふう……」
竜吉公主の様子にニコニコ微笑みながらも冷や汗をたらす普賢。からかわれているようなのだけど、わざとらしいため息の中に結構本気が見え隠れ。ホントに太公望が気に入ってるんだね、公主。
「さて。太公望は自分の目標を達成したから来なくなってしまったということじゃが……こうして今ここにいるということは、おぬしの方はまた別の目標があるのか?」
「え? うーん、僕は一通りのことはマスターしておきたいだけだよ。望ちゃんみたいな創作料理もいいけど、伝統的な物には語り継がれるだけの理由があると思わない?」
「伝統的というと、煮物に漬け物、干物のあたりか?」
「そういう保存食の類ならジャムとか砂糖漬けなんかも出来れば教えて欲しいんだけど」
「普賢も甘い物の方が好みなのか?」
―――ああ、なるほど、そういうことか。親友というのも、いいものだな。
「よければ菓子の作り方も憶えてゆくか? 崑崙ではあまり作る者が居なくて、私もつまらないのじゃ。同士が増えれば嬉しいしのう」
「それは僕も嬉しいよ。ありがとう、公主」
なんかバレバレみたいだけどまぁいいか、っというわけで。甘い物好きが誰か、なんて考えるまでもない。崑崙で菓子を作る者が少ないのを嘆いていたのだって、竜吉公主じゃないんだね。
「自分で作るようになってもたまにはここに食べに来るが良い。私の身体を気遣っての事なのはわかっておるが、遊びに来るのが元始くらいではな。おぬし達が来てくれるのは本当に嬉しいのじゃよ」
今度はエプロンを持参してきた普賢を伴って厨房への道をたどりながらまだちょっと心残りな竜吉公主。彼女にしても元始天尊が嫌いなわけではないが、彼とその弟子達のどちらをもてなすのが楽しいかと言えば、ハッキリ言って。圧倒的に。後者に軍配が上がってしまうので。
「それは勿論、喜んで。……でも、ここにお客さんが少ないのは、何もあなたの身体を気遣ってるだけじゃないと思うけど?」
「なに、そうなのか? 何か気付かないところで私は客人に失礼なことでもしておったのか…」
(…いや、多分あなたに気後れしているだけじゃないかと思うんだけど)
彼女の雰囲気に気後れしない程度に古株な仙人達で彼女を訪ねる客が少ないのには他の理由もあるのだが、それはまた別の話。
× × ×
今日は、お休みの日。
「よし、もういいかな」
時計を見て時間を確認し、オーブンの扉を開く。先程から厨房の中に漂っていた甘い香りが熱気と共に一気に吹き出してくる。この瞬間は菓子作りの醍醐味の一つだ。太極符印を使えば焼き時間に関してはほんの一瞬に短縮できるのだが、普賢はこれが好きでいつも焼き菓子を作るときは厨房で本を読みながら焼き上がりを待ったりしている。
さて、肝心の今回の出来は―――ほんの少し焦げたようだが、それぐらいの方が香ばしくておいしいものだ。それにすぐおやつの時間だから、そのカリカリした食感を楽しめる。そう思って出来上がり時間を逆算して作り始めたんだし。―――出来立てほっかほか☆を食べられるのも自分で菓子を作るメリットだ。
「木タク、そろそろお茶にしようか。今日のお茶請けは新作の無花果のケーキだよ♪」
「あれ、今日って太公望師叔が来る日でしたっけ?」
「そうだけど……僕言ったっけ?」
「いや、言ってないっすけど。でも、それ前に師叔が土産に持って来た干し無花果使ってんでやしょう? あん時 師叔、“これでケーキを作ってもうまいのだぞ!”って散々強調して帰ってったじゃねえっすか。こりゃもう次のお茶請けはソレだなーっと実は期待してやした!」
ホクホク顔の普賢の弟子は、尻尾があったならブンブン振っているだろうと思わせるイイ笑顔だ。普段から美味しい物を食べさせてもらっている自覚はあるが、なにしろこのパターンで作られた物は大概が格別なので。自然、表情もゆるむというものだ。
「木タクが甘い物嫌いじゃなくて良かったよ。でも本当はお煎餅とかの方が好きなんだよね?一応砂糖は控えめにしたけど、もしかしたらキツイかな?」
「大丈夫っすよ、ちょっとくらい。……どうせ師叔にほとんど食べられっちまうんだし」
軽く苦笑いしながら後半部分は口の中だけでつぶやく木タクだ。……煎餅も好きだが甘い物だって本当は好きなんだい。だけど、もともとそれが誰のための物かと考えればご相伴に預かっている身としては仕方ない。
しかしその甘い物大大大好きな太公望はその日珍しく控えめな食べっぷりで木タクも充分堪能することが出来たのだが。
「どうしちゃったの、望ちゃんがケーキを三切れしか食べないなんて!」
普段であれば25p径の物を焼いたらその半分以上は彼の腹の中に消える。
「そういえば師叔、今日はちょっと遅れてきやしたね。どっかで何か食べてきたんじゃねぇんですか」
「ああ、実はここに来る前元始天尊様の使いで竜吉公主の所に書簡を届けに寄ったのだが、その時にちょっくらな」
「うっわー、マジっすか!? お土産は―――あるわきゃないっすよね…」
「こうして普賢の菓子を毎日食っとるくせに何言っとんじゃ〜い」
「それとこれとは別に決まってんじゃないすかぁ!」
弟子と親友の掛け合いを聞いている内にちょっとイヤな予感が。
「ねぇ、望ちゃん?そう言えばさ、この無花果何処からのお裾分けだったっけ…?」
「…公主の所だが」
「もしかして、今日食べさせてもらったのって、無花果のお菓子?」
「……まぁ、実は」
先を越されたーっ!
「ありゃ、それは師叔ちょっと運悪かったすね」
出先でカレーを食べて帰ったら夕飯もたまたまカレーだった、みたいな。
「それがそうでもないのだよ。作りは大体同じだったが、あちらは酒に漬け込んであってな?そのしっとりした感じがまた何ともイイのだ〜♪ しかし焼き菓子は焼きたてを食べるのも幸せだしの〜♪両方楽しめたからわしゃラッキーだなっ!」
それを聞いてちょっと安心する。自分の料理の腕は悪くはないと思うが、同じ物を作ったら公主の“年季”には敵わない。
「元々公主は干し無花果を貰ったときにケーキを作るのだと言っておってな。わしも食べてみたかったのだがあの洞府は女ばかりだ、次に行くときまでまず残っておらん。だからここに無花果を持って来たとき普賢へ“これでケーキを作るのだ〜”っと念を送っておいたわけなのだが……今日顔を出したら、酒に漬けたケーキは日持ちがするとかで多めに作っておったらしくてなぁ。ま、残っとった分はわしが全部食ってしまったが。……もしかして赤雲・碧雲に恨まれるかのう?」
「大丈夫っすかぁ? 普段優しい女の子でも、食べモンの恨みは怖いですぜ〜」
(大丈夫じゃないかな…。多分それ、公主が望ちゃんのために置いといた物だろうし。望ちゃんは確かに公主の洞府にもちょくちょく出入りするけどいつ来るかはわからないから彼女日持ちのする種類のケーキにしたんだ)
今じゃ料理は趣味だけど、お菓子作りに関してはもともと太公望のために憶えたっていうのに、どうやらそのジャンルにおいてはライバルがいたらしい。
「それでだな、普賢の所に行くのだと言ったら、これを持たせてくれたのだ」
「わー、美味そうな林檎ですぜ、師匠!」
「……竜吉公主、これで何作るって言ってた?」
「色々だそうだが? そういえば煮物にしたりもするらしいな。想像つかんがどんな味なんだか」
(別に勝負事じゃぁないけど……ないんだけど……でもちょっと……ねぇ……?)
「し、師匠……? 何で急に握り拳作ってんっすか」
林檎の料理に思いを馳せる太公望とあさっての方を向いて決意に燃える普賢。取り残された木タクは、取り敢えず目の前の林檎を食べてみた。
それは紅玉――― 一般にアップルパイにはコレが良い、とされている種類の林檎だった。砂糖を加えること前提。
木タクは一人非常に酸っぱい思いをしたということだ。
2002/3月 初出
●駄文な気分●
竜吉公主にハマり始めた頃に考えた話。太公望20歳前後のつもりで書いたので口調が微妙。でもでもだって、その頃はいくらなんでも『わし』とか『〜だのう』とか言ってないと思ったので。