●JR東日本「走ルンです」シリーズ
 ~ “鉄道趣味界の嫌われ者”に見る「鉄道趣味」の考察 ~

助手:博士、このページの鉄道関連で取り上げるのが私鉄特急ばかりじゃないか、という指摘がきております。
博士:私鉄特急は各社のこだわりが顕在化していて「ネタ」として扱いやすいんじゃよ。鉄道車両でやろうとするとどうもマニアックになりすぎての。
助手:一般的な話題になりにくい、と。
博士:そうなのじゃ。
助手:そこをなんとか。
博士:ん~、ではこんなんはどうかの。JR東日本の209系とそれからから派生したE231系、E127系、E501系、E217系、701系なんてのは?
助手:おぉ、思いっきり活躍中の現行車両。ド真ん中の直球ですね。


【 写真:山手線E231系 】
「走ルンです」の元祖である209系の後継として平成11年にデビュー。
スピードは120km/hと209系より速く、車体幅も拡大されていている。
通勤型と近郊型があり、常磐線、総武・中央線、山手線、などで活躍している。
個人的に、山手線231系の椅子、かなり気に入っております。あれは逸品だぁ。(ちなみに家ではSTOKKEを愛用しております。)


博士:というわけで、209系からの系譜なのじゃが、説明に入る前に君に「走ルンです」でネット検索してもらいたい。
助手:「走ルンです」ですか? では。
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うわぁ! 「安っぽい」「手抜き」「くたばれ」とか悪意溢れる言葉のオンパレードですよ!!
博士:「走ルンです」とは、鉄道マニアによる209系とその系譜に対する蔑称で、富士フィルムのレンズ付きフィルム「写ルンです」から採られたものじゃ。
助手:はぁ?「写ルンです」?
博士:「写ルンです」は発売当初「使い捨てカメラ」と呼ばれていての。(実際の「写ルンです」は大部分のパーツがリサイクルされています)
助手:「走ルンです」シリーズは「使い捨て電車」というわけですか?
博士:いんや。設計寿命がそれまでの30年から15年に変更されただけじゃ。「走ルンです」シリーズの祖である209系は
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 ・価格半分
 ・設計寿命半分
 ・重量半分
 ・103系と比較して消費電力半分以下
 ・メンテナンスフリー
 ・リサイクルを考慮
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という特徴なのだそうじゃ。
助手:良いこと尽くめのような気がしますが? ただ寿命が半分というのはなぜなのでしょう?
博士: 運用スパンが現代の世情にあわなくなったからじゃろうな。30年も使えば利用者の印象として古臭さが拭えない。しかも車両の価格が半分なら15年で更新しても全体的なランニングコストは同じじゃ。さらに更新時には技術革新で更新コストやそれからの消費電力が抑えられる可能性が大きく、利用者に対する設備面のサービスも細やかなものとなる。
助手: では、ステンレスやアルミ製の車体が嫌われたのかな?
博士: アルミ車体は1947年の国鉄のモハ63系から、ステンレス車体は1958年の東急5200系からあるので、特に目新しいものじゃない。
助手: では、「プレハブ」とか言われている車体構造がダメなんでしょうか?
博士: おそらくモノコック構造のことを言っているのじゃと思うが、これも1954年の東急5000系から採用されているので目新しくもない。また「走ルンです」シリーズの特徴である、ダブルスキン方式のモノコック構造は航空機や新幹線、建築の分野でも採用されている信頼の方式じゃ。
助手:では、内装が安っぽかったり、乗り心地が悪いんですかね?
博士: 君は山手線E231系を毎日利用していて、本当にそう判断したかね。
助手: う~ん、そんなことはないですねぇ。鉄道マニアから固いと不評のシートはむしろ座り心地がいい感じです。バーで区切られたロングシートも利用者に定員をそれとなく意識させることに成功していて良いデザインだと思います。内装はプラスチッキーではありますが、じゃあいままでの金属板や化粧板と比べてチープだとは思えません。むしろル・コルビジェのデザインに通ずる人の道具に徹するという思想を感じる、というのは言い過ぎでしょうか? それにLEDによる車内情報表示やドア開閉時のチャイムなどの新サービスは面白いですよ。
博士:じゃろ。シートはフカフカである必要はないんじゃ。まして長時間座る必要のない通勤電車ではな。有名なワーキングチェアの類いも座面はそれほどクッションが効いていない。
なにより「走ルンです」シリーズはJRだけでなく、東急5000系、相鉄10000系、西武20000系、小田急3000系、京王9000系、京成3000系、東京臨海高速70-000系、横浜高速Y500系、つくばエクスプレス・・・, etc.と、私鉄にも数多く採用されていることがこの車両の優秀性を証明しておる。これからも「走ルンです」シリーズはは活躍することじゃろう。失敗作どころか大成功作じゃ。
助手: では、「走ルンです」シリーズがここまで鉄道マニアに拒絶された理由はどういうものなのでしょう?
博士: それは「走ルンです」シリーズの根底に流れる考え方じゃろうな。
助手: 考え方?
博士: 難しいことではない。“これまでの鉄道趣味の魅力や美学と反する要素”が「走ルンです」シリーズに満ち溢れていたからじゃろう。
それはおそらく君がさっき口にしたル・コルビジェもそうだが、「無印良品」につながる要素じゃろうと思われる。
助手: あ~、それならわかるような気がします。コルビジェと無印良品に繋がるもの・・・装飾の排除、合理性の重視、低価格、シンプルデザインの持つ清潔感が持ち味、とかですね。
博士: そうじゃ。それに対し鉄道趣味というのは、重厚で力強く、過剰で、かつこだわりが見え隠れするものを良しとする傾向があるように思える。
鉄道趣味とは日常の中に非日常を見いだす男のロマンと言えるのかもしれん。実際、女性の鉄道マニアは極端に少ないしの。
助手: 日常の中の非日常・・・なるほど、「無印良品」は日常生活の合理化に美を求めたものですからね。
博士:

そうじゃ。しかし鉄道マニアは通勤電車にも実用性の薄い究極の加速減速性能じゃとか、最高速度130km/hじゃとか、ボックス形式でしかもフカフカソファーもどきシートなどを求めがちなのじゃ。

助手: 国鉄風味の重厚さを愛する鉄道趣味人にとって「走ルンです」シリーズが納得できないものであった理由がなんとなくわかってきました。
例えるなら、世間は機能性のエレガンスを追求したコルビジェのスリングチェアーを必要としたけど、鉄道ファンが求めていたのは昭和時代の社長椅子だった、という感じでしょうか?
博士: まあコルビジェは大げさじゃとしてもだ、あえて背伸びせず必要とされる場所で必要にして十分な性能。実用性を重視し無駄をそぎ落とした「走ルンです」シリーズはモダニズムの申し子と言えるじゃろうな。
助手: 男のロマンの限界を感じる話ですね。
博士: 当然の流れじゃと納得できても、ちと世知辛いものを感じるのう。




LAST MODIFIED : 6/MAY/2005
ON SET :22/JUN/2004