●デハビランドDH.93「ドン」
 ~ 英国的こだわり、英国的失敗 ~

博士:第二次世界大戦前に単発復座戦闘機ブームがあってな。アメリカのセバスキー・2PAやロッキード・YP-24、ソ連のDIシリーズ、イギリスのホーカー・デモン、そして日本の中島・キ-8などなのじゃが。


【 エンジンの数と乗員数 】
今回のテーマは「単発復座」(一番右)です。


助手:なぜに単発戦闘機に乗員が2名も?
博士:爆撃機護衛の際の長距離航法、策敵/警戒、火器(銃座や爆弾)コントロールなどにもう一人いた方がよくね?、という考え方だったようじゃの。
助手:普通に考えたら乗員と装備が増えて重くなるということは運動性や航行距離が犠牲になりますよね?
博士:全くその通りでこのコンセプトはすぐに消え去り、復座戦闘機はパワー不足を克服するために双発のコンセプトに移行する。
助手:けれど単座復座かかわず双発もなかなかうまくいかなかった、というのが前回の話でしたね。
博士:戦術も技術もまだまだ試行錯誤の時代じゃった故、様々な方法が試され淘汰されていったのじゃ。
というわけでほとんどの国で単発復座戦闘機は試作のみで終わった。しかし、なぜか単発復座戦闘機に異常なほどこだわり実戦配備までこぎ着けた国があったのじゃ。
助手:どこの国ですか?それは。
博士:大英帝国じゃ。彼らは独自の技術と戦術が単発復座戦闘機を優位たるものにすると信じていた。
助手:さすがはジョンブル。で、その「独自の技術と戦術」とは?
博士:それは「動力銃塔による同航戦」じゃ。


ブラックバーン社製「ロック」(海軍) ボールトン・ポール社製「デファイアント」(空軍)
機体後部のブローニング7.7mm機銃を4連装した電動の動力銃塔が特徴的。なんと両機とも前方機銃がありません。


助手:戦闘機なのに前方機銃が無いって・・・それってどうなんですか?
博士:そこで出てくるのが「同航戦」という考え方じゃ。


同航戦
 これと同じように敵機と並行して飛行し、動力銃塔の射界の広さと4連装機銃の火力で圧倒しようと考えた訳です。
 強力な海軍の力で世界に植民地を広げた実に英国らしい考え方と言えましょう。
 しかし、基本的に2次元機動しかできないお船の感覚で、船とは比べ物にならないくらい素早い3次元機動をする航空機の戦術を考えたのがそもそもの間違いのような気がします・・・。


助手:・・・これ、軍艦の戦術ですよね?
博士:当時の世界最強海軍のひとつ、大英帝国を支えたロイヤルネイビーらしい戦術じゃろう?
助手:だからって空軍まで真似すること無いじゃないですか!?
博士:動力銃塔も軍艦の砲塔の考え方そのまんまじゃし、英国における海軍の影響力がどれほど強かったかを物語るエピソードじゃの。


助手:で、この2機とも活躍できたんですか?
博士:ロックは足が遅くての。爆撃機にも追いつけないので同航戦というコンセプトすら達成できなかったのじゃ。
助手:バカみたい。
博士:マーリンという傑作エンジンを搭載していたデファイアントの速力はロック以上で、最初だけ奇襲作戦で成果をあげたようじゃが、すぐに腹と前が機銃の死角であることがバレての。それからは散々の結果だったようじゃ。
助手:バカみたい。
博士:しかしロックは基地で地上に置いたまま動力銃塔をリモートコントロールして対空銃座として利用したようじゃぞ。デファイアントは夜間戦闘機として活躍したしの。
助手:ロックにしてみれば戦闘機以前の問題として飛行機として屈辱ですよ。デファイアントは日本の月光を彷彿とさせる話だし。


博士:さて、ここからが本番なのじゃが。
助手:まだあるんですか?
博士:この戦術に振り回された悲運の機体がもうひとつあるのじゃ。
助手:もうお腹いっぱい。
博士:そういうな、もうちょいつき合いたまえ。
ロック、デファイアントともにパイロットには後部銃塔からの射撃を考慮した独自の操縦が要求されるわけじゃが。
助手:射撃の必要がないから操縦に集中できるとはいえ、後ろに目がついているパイロットでなければツライですね。英国のパイロットがみんなニュータイプだというのであれば話が違いますけど。
博士:しかし英国空軍上層部はそのあたりを訓練で克服すべし、と考えたのじゃ。 そこで専用の訓練機として開発されたのがデハビランドDH.93「ドン」じゃ。
助手:デハビランド社って傑作機「モスキート」を作った会社ですね。


連絡機になったドン
空軍の練習/連絡機です。動力砲塔の名残がありますね。


博士:わざわざ練習機まで作る力の入れように英国空軍のこの戦術にかける本気を感じさせるな。
助手:・・・もうなんか・・・。
博士:当然注文はキャンセルされて、既に納入された30機が連絡機に改造されたのじゃ。
助手:誰かもっと早くこの戦術に疑問を感じる人はいなかったのでしょうか?
博士:英国軍にはロイヤルネイビーの栄光に基づく「戦いとはこうあるべし」というような“海戦ロマン”があって、それがこのプランを突き進めたのではなかろうか?だとするなら実に英国的なこだわりと失敗じゃったと言えよう。



ON SET :8/SEP/2004