●ホーカーシドレー他 “ハリアー”シリーズ
 

~ 変態でも人気者 ~


助手:

我々、乗り物学徒はこれからどこへ行けばよいのでしょうか?

博士:

なんじゃね、突然?

助手:

いや、先日、我々がマイノリティであることを実感することがありまして・・・。

博士:

マイノリティであるとなにか問題があるかの?

助手:

たとえば女の子に、「なんの勉強されているんですか?」とか聞かれたときとか・・・

博士:

・・・(軽蔑の眼差し)

助手:

あ、いや、まあ、そんなこともあるかなーって。

博士:

己に誇りを持たない者はモテないのじゃぞ。

助手:

だって~。

博士:

たとえ人から変態と蔑まれても人気がある乗り物はある! 君もわが道を往くのじゃ!

助手:

まあ、博士はそういうの好きだから・・・

博士:

馬鹿者。好事家でなくても大人気というのもあるじゃろう、ほれ。



【マクドネル・ダグラス AV-8B ハリアー II】



助手:

・・・変態だ。 確かに変態だ。

博士:

このホバリング風景。まっとうな固定翼機としての形状が、物理法則を無視しているような思い込みをさせてしまう…何度見ても違和感アリアリじゃのう。

助手:

実質的に史上唯一といってよいS/VTOL戦闘機ですよね。

博士:

まあソ連のYak-38はアレじゃからのう。

助手:

そしてたしかにハリアーは人気者です!

博士:

さよう。スペイン、イタリア、インド、タイなどで採用されたし、発展型のハリアーII攻撃機もある。

助手:

けれど、なぜS/VTOL戦闘機はハリアーだけだったのでしょうね。1960年代に結構どこの国でも研究していたと記憶しておりますが?

博士:

うむ、英国人のジョンブル魂がそれを成功させたと言えるじゃろう。

助手:

回転砲塔単発複座戦闘機に国を挙げて取り組んだりとか、他の国が捨てたものに挑み続けるところとかでしょうか?

博士:

さよう。回転砲塔戦闘機は失敗じゃったが、ハリアーは英国人のこだわりの成功例じゃな。エンジンから開発したのが成功の理由じゃと思う。



<ペガサスエンジン>

通常、1つのジェットエンジンには、後方に1つの排気口(ノズル)がある。
しかし、ハリアーのために作られたロールスロイス社製ペガサスには、1個のエンジンの左右に2個ずつ、計4個の排気口がある。
しかも、この排気口の向きを、わずか前方まで変えることができる。これにより、垂直離着陸を実現している。
さらに、低速時の安定した推力(揚力)確保のため、圧縮機も低速用、高速用を搭載しているほか、その回転を互いに逆にすることで、トルクを打ち消し、ホバリング時でも安定した飛行を得られるように工夫されたりしている。
徹底的にS/VTOL用エンジンなのである。
実は、推力偏向エンジンのアイデアから、ハリアーが生まれたらしい。
ペガサスあってのハリアーなのだ。



助手:

けれど実際のところ、ハリアーシリーズの評価ってどうなんですか?

博士:

フォークランド紛争時のキルレシオ(撃墜対被撃墜比率)は抜群じゃ。24:0じゃからの。

助手:

けれど、あれは両国の都合(おまけ参照)があるからあまりあてにならないかと思うのですが。

博士:

確かに。結果として艦隊防衛の役割をハリアーが果たしたとは言えんの。また空戦結果はよくても、対空砲にけっこう喰われとる。

助手:

おまけに湾岸戦争じゃ7機中5機が地対空ミサイルなどにやられてますしね。

博士:

速度がない、というのがなによりの理由じゃが、エンジンが機体中央部にあるから、赤外線誘導ミサイルが被弾したときのダメージが大きかったりするらしいの。

助手:

それでもいまだF-35B型というS/VTOL機の後継が望まれています。その理由はどのようなものなのでしょうか?

博士:

一言で言えば。

助手:

一言で言えば?

博士:

マイノリティだろうと変態は永遠に不滅なのじゃよ。

助手:

誤解を招くオチをつけないでくださいよ。

(艦上や小さな飛行場など、制限がある場所での攻撃機運用が必要とされているからです)



おまけ:フォークランド紛争空戦

<アルゼンチン軍の都合>

アルゼンチン軍の攻撃目標は、フォークランド(マルビナス)諸島に上陸せんとする兵を乗せた敵艦艇である。
しかし、自軍の艦艇は出せない。
戦争のしょっぱなから、旗艦ともいえる巡洋艦「ヘネラル・ベルグラーノ」が撃沈されたのだ。
イギリスの攻撃型原潜による魚雷攻撃だった。
なので自軍の艦艇は、原潜が動きづらい大陸棚に温存している。
よって攻撃は航空機に頼らざるをえない。
でもひとつだけ希望の光がある。イギリスは早期警戒機を持っていないのだ。
そこでアルゼンチン軍航空機隊はイギリス艦隊に対し、フォークランド諸島を盾とした低空飛行で、イギリス艦艇のレーダーをかいくぐった。
しかも、アルゼンチン本土からである。
敵艦隊にたどり着いたとき、アルゼンチン軍の航空機は燃料が足らず、空戦なんてやってられる状態ではなかった。
マッハ2級の戦闘機(ミラージュIII)があるのに、である。
おまけにミサイルが旧式で、敵機の背後からしか撃てない。
アルゼンチン軍パイロットにしてみれば、決死の覚悟で出撃していたのだろうと思う。


<イギリス軍の都合>

実際のところ、この戦争でイギリス軍の艦船は、アルゼンチン軍航空機にボッコボコにやられた。
ロイヤルネイビーの威信はマレー沖海戦後を髣髴とさせるくらい落ちた。
対空艦であった「駆逐艦」(ロイヤルネイビーでは対潜艦をフリゲート艦と呼ぶそうです)は、敵航空機に無力であった。
この戦いで有名になったエグゾゼミサイル。その最初の餌食となった、「シェフィールド」も駆逐艦だった。
しかも、艦隊防衛の要であるはずだった、シーハリアー&ハリアーGR.3は心もとない・・・。
なぜなら、敵航空機数約200に対し、2隻の空母によるハリアー運用数は10機を超える程度しかなく、しかも亜音速機で対戦闘機戦闘に不利。航続距離も短い…
よって、イギリス艦隊は敵航空機の航続距離圏ギリギリのところで足を止めざるを得なかった。
しかし、ハリアーには、ひとつだけ希望の光があった。
それはミサイルが最新型のAIM-9Lであることだ。
これは、アメリカから急遽供給されたもので、敵機がいかなる方向を向いていようと、シーカーが捉えることができる。
さらに足が短いゆえに、艦が持っているレーダーの支援を受けることができた。


<空戦の結果>

ハリアーの一方的勝利だった。24:0という圧倒的キルレシオだった。
勝利の原因は、
 ・ミサイルが優秀
 ・艦隊によるレーダー支援
 ・敵機が航続距離限界で空戦不可能
 ・敵艦艇がいないので海面からの攻撃が無い
だった。
付け加えるのであれば、この状況で亜音速機&S/VTOLという独特の特徴が生み出す運動性が有利に働いたとか聞いたことがある。
ミサイルランチャーとしてのハリアーは、推力偏向ノズルを利用して、機首を自在に敵機に向けられるという点で優秀だったのだ。
もちろん、機体を熟知したパイロットの腕も、戦績に貢献したのであろう。







ON SET :

17/APR/2010