●キエフ級重航空巡洋艦
 ~ 艦載機なんて飾りです。エライ人にはそれがわからんのです ~

博士:一件華やかに見えるが実はダメ企画。それは現代でもあらゆるところにはびこっているな。
助手:そうですねぇ。ビックコ●ックス●リッツの「東京エ●ティーズ」とか、ミュージシャンマネージメント事務所オーガ●タによるキョ●コさん救済ユニット「●耳」とか、最近だと落ち目アイドルユニット「後浦な●み」とか、どれも成功不成功はともかくしょっぱさに溢れていますね。
博士:誰がエンタメの話をしろと言ったのじゃ(その手のネタはすぐ風化するぞ)。我々の研究対象、特に兵器関係においてそれは顕著だと言いたいのじゃ。
助手:あ、そーゆーことでしたか。そうですねぇ、兵器ってのは実際には役に立たなかったり、意外なところで大活躍したり、そんな話ばかりですもんねぇ。
博士:戦争という極限状態は平時の人間には想像もつかない、ということかのう?
助手:冷戦時代のそれになるとほとんど抑止力でしかなくて実戦で役に立ったのかどうかもわかりませんよね。


【 キエフ級重航空巡洋艦1番艦「キエフ」 】
巨大な島型艦橋と対艦・対潜・対空兵装が甲板にひしめく重武装の異形空母
・・・ガミラス戦闘空母ではない・・・

【 概要 】【 兵装 】
満載排水量 41400トン
軽荷排水量 36000トン
全長 273m
水線長 249.5m
最大幅 52m
船体最大幅 32.7m
アングルデッキ 189m×20.7m
フライトデッキ 180m×20m
最大吃水 10m
軽荷吃水 8.5m
機関出力 16万馬力
航続距離 18ノット/13500海里
     30ノット/40000海里
速力 32ノット
・SA-N-3ゴブレット(露名シュルム)
 短距離艦対空ミサイル連装発射機×2
・SA-N-4ゲッコー(露名オーサM)
 個艦防御対空ミサイル連装発射機×2
・SS-N-12サンドボックス(露名パザルト)
 長距離艦対艦巡航ミサイル発射管×8
・76.2mm連装砲×2
・AK-630
 30mm6連装近接防御用機関銃(CIWS)×8
・RBU6000
 対潜ロケット12連装発射機×2
・5連装魚雷発射管×2
・連装チャフ発射機×2
【 搭載機 】【 同型艦 】
Yak-38 フォージャー, 12機
Ka-27 ヘリックス, 19機
Ka-25 ホーモンB, 3機
・1番艦「キエフ」(1975年竣工)
・2番艦「ミンスク」(1978年竣工)
 →中国に売却後、火災→テーマパークに[本当]
・3番艦「ノヴォロシースク」(1982年竣工)
全て黒海のニコラエフ南海軍工廠製
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装備が大きく異なるため別クラスとして認識されています。
・4番艦「バクー」(1987年竣工)
 →後にアドミラル・フロータ・ソヴィエツコヴォ・ソユーザ・ゴルシコフに改名、インドに売却交渉中。

博士:というわけで、今回紹介するのはその辺りがあまりにも豪快なソビエト社会主義共和国連邦海軍キエフ級重航空巡洋艦じゃ。
助手:空母と言えばどの国の海軍も欲しくてなんとなく無理して買っちゃったりしてそして持て余したりしている軍艦の華。
そしてこのキエフはそれまでのヘリ空母モスクワ級とはとは違い、ソ連で初めて固定翼機を搭載できた空母ですね。なのになぜこのキエフの艦艇クラス呼称が航空母艦ではなく「航空巡洋艦」なのでしょう?
博士:ソ連は西側と違うクラス名をつけたがる傾向があったのじゃが、この場合いろいろと事情があってな。
助手:事情?
博士:昔ソ連にいじめられたトルコが「ソ連の戦艦や空母はボスボラス海峡を通さないからな!軍艦でもちっこいのなら許すけど」と言ったのじゃ。で、それをくぐり抜けるためにソ連は「これは空母じゃありません。航空巡洋艦です。だから通ってもいいでしょ?」といい訳したらしい。
助手:はあ?そんなんでいいんですか?
博士:トルコは「じゃあ仕方ないな」って許したのじゃ。
助手:それでいいのか?トルコよ・・・。
博士:まあこれはネタとしてみてくれい。しかし、元々アメリカの空母とは思想が全然違うから、結構ふさわしい呼称だと思うのじゃ。
助手:確かに見慣れたアメリカの空母と比べると、兵装がいっぱいあるせいで艦影が妙にゴテゴテしていて凶悪ですね。
博士:その通り。純粋な空母とは言いがたいんじゃ。
助手:それはなぜに?
博士:ソ連艦隊の仮想敵であるアメリカ機動艦隊に対し、ソ連海軍は「航空機・艦船・地上から対艦ミサイルを集中発射することによる飽和攻撃」という艦隊決戦思想で対向したのでな、このキエフも敵艦隊への主な打撃力は射程500kmの大型対艦ミサイル「SS-N-12“サンドボックス”」が担っているのじゃ。
助手:は?では艦載機はなにをしているのですか?
博士:ka-25“ホーモン”とKa-27“ヘリックス”ヘリコプターによる対艦ミサイルのOTH攻撃(水平線の向こう、つまり見えない敵への攻撃)の際の中間誘導、対潜哨戒、限定的な上陸支援じゃな。
助手:え、確かキエフ級にはYak-38“フォージャー”VTOL(垂直離着陸)戦闘機が搭載されていたハズでは?
博士:ああ、アレなあ、全く役に立たんかった。
助手:なぜに!?
博士:ミサイルや爆弾がほとんど搭載できんから攻撃機にもならんし、レーダーもついてないから制空戦闘も無理。爆装すると作戦行動半径が100km以下と極端に短く、しかも配備された200機の1/10が事故で損失・・・と、というとても「戦闘機」と呼べるシロモノではなかったのじゃ。つーか飛行機として落第じゃろ、これ。
しかもキエフ級には蒸気カタパルトどころかスキージャンプカタパルトもなかったのが痛かった。
助手:ハリアーでさえ爆装しているときはスキージャンプカタパルトを利用したVSTOL離陸ですもんね。キエフ級は素直にヘリ空母にすればよかったのに。
博士:そのときは実際に使えるかどうかよりも「ソ連にも固定翼機が発着できる航空母艦がある」ことが重要じゃったんだろう。
助手:またソ連お得意のハッタリですか・・・。
博士:バレバレじゃったのだけどな。「フォージャー」という西側のコードネームも“まがいもの”という意味じゃし。

【 ヤコブレフYak-38 】
ソ連のハリアースキー。
推進と垂直離陸を一つのエンジンでまかなうハリアーと違って、推進エンジンの他にリフトエンジンを2基も搭載したせいでデッドウェイトが炸裂。従ってパワーウェイトレシオが極端に悪くなり、運動性、航続距離、搭載量、整備性、全てにおいてダメでした。レーダーすら積んでいません。かろうじてVTOLができるだけの存在です。
これが成功していればキエフ級の評価も違ったのかもしれません。


博士:しかしじゃな、キエフ級の後継艦としてスキージャンプカタパルト装備のトビリシ級「アドミラル・グズネツォフ」がその後建造され、ついにソ連は正規空母を手に入れるのじゃ。艦載機もSu-27の艦載機型とかじゃぞ。
助手:それでもアメリカの対ミサイル飽和攻撃策であるイージス艦が就役した時点でミサイル飽和攻撃の思想も崩れたし、冷戦も終わったし、で結局ソ連の空母そのものがいらない存在になったわけですね。
博士:ついでにフォージャーの後継でVTOLながらMig-29並の能力を持つと言われた世界初の超音速VTOL戦闘機“Yak-141フリースタイル”も開発中止じゃ。
助手:豪快な役立たずでしたねぇ。

博士:じゃがな、ソ連海軍の名誉のために言うのなら、第二次世界大戦後の空母なんてのは、軽空母ですらアメリカ以外でまともに運用している国はほとんどないのじゃ。
助手:確かに、埃かぶってるブラジルのやつとか、退役したけどアルゼンチンのやつとか、フランスの「シャルル・ドゴール」でさえあまり期待を持てませんね。英国も空母は縮小傾向だし。イタリアもスペインもタイも持ってることは持ってるけど、1隻しかないんじゃ「ドッグ入っている間はどうすんの?」って感じだし。本気を感じるのはインド海軍くらいですか。
博士:じゃろ。それに比べキエフ級は後の正規空母トビリシ級の礎となったし、実態はミサイル巡洋艦と言えなくもないし、4番艦「ゴルシコフ」もインドに売却されたらより空母らしくなって艦載機もMig-29Kになるらしいしの。
助手:自衛隊にしれみればフォージャーだって太平洋艦隊の2番艦ミンスクに載ってるだけでも十分脅威だったでしょうからね。
博士:それになにより、「航空巡洋艦」といえばキエフ級を我々日本人が笑う資格があるのじゃろうか?
助手:うっ、・・・それはもしや・・・!?
博士:そうじゃよ。我が国にもキエフ級以上の迷軍艦、航空巡洋艦「最上」航空戦艦「伊勢」(※)があったじゃあないか!
助手:うぅ、単純に比較できるものではないことがわかっていても、なぜか言い返せない・・・!?


航空巡洋艦「最上」と航空戦艦「伊勢」
ミッドウェーで4隻の空母を失った大日本帝国海軍が苦し紛れに低速戦艦「伊勢」の後部甲板に水上機用のカタパルトデッキを整備して「航空戦艦」としました。
巡洋艦「最上」は航空策敵能力拡大のために伊勢同様の改装したものです。
両方とも艦載機の生産が間に合わず無意味な改装となりました(最上は予定外の水上機を搭載して出撃したらしいですが)。
間に合ったとしても、水上機の運用は特に帰投時に手間がかかりすぎて大して役に立たなかったと思われます。
個人的には戦争末期の日本の迷走ぶりがその形によく現れたかわいそうな艦だと思います。



LAST MODIFIED :3/SEP/2004
ON SET :27/AUG/2004