●サターン SC2クーペ
 ~ あきらめちゃうクーペ ~


 クルマに性能と美しさへの憧れがあった時代、私は子供だった、そんな頃に私がクルマの絵を描くときはいつもクーペを描いていた。
 スマ-トでカッコよいクーペは見る者にその走行性能の高さをイメージさせる。
 それは私だけではなかった。皆、それに憧れた。エキゾチックカーが社会現象になる、そういう時代だったのだ。
 しかし時代は変わった。人々はクルマの走行性能にロマンを抱かなくなった。ミニバンブームはその現れだろう。走行性能はもう十分、それより同乗する人の快適性や移動時間も自分の部屋と同じように過ごせるユーティリティ性能の高さが重要。ドラえもんの「どこでもドア」のに対する要求と同じものだ。
 人々はもはや走行性能や移動時間にロマンを必要としていない。
 だがそんな世にあっても、私のように心の奥にクーペへの憧憬を持ち続ける者達がいる。
 そんな己のロマンと現実的な要求の間でもがく者たちのために、2003年、マツダが出した答えはこれだった。


【マツダ RX-8】
観音開きドアで後席の乗降性を確保。実用性とスポーツ性を両立した4シータークーペ。


 セダンほどではなくともまずますの居住性を確保した4シータークーペでありながら、観音開きドアで斬新さ、乗降性能、美しいフォルムを確保。
 なおかつマツダ伝統のロータリーエンジンを搭載したFRスポーツ。
 「これだよ、これを待っていたんだ。」と感じた同志は少なくなかったらしく、街中でも良く見かける。



 ところで、RX-8の栄光を考えるとき、私は忘れられない車種がある。

 同じマツダが出していた4シータークーペ、「ランティス」もそのひとつなのだけど、今回それはおいておいて、RX-8に先駆けること1996年にアメリカで発売された観音開きドアを持つ4シータークーペ。そう、アイツをとりあげたいと思う。


【サターン SC2クーペ】
RX-8とは違い、観音開きドアは片方だけの左右非対象3ドア。


 「クーペをあきらめないでください」
 キャッチコピーはこれだった。
 ああ本当にその通り、人生にはロマンも必要なのさ・・・。
 けど、けれどね・・・・、
 クーペとかどうかの前に、このクルマなんかだかカッコ悪くない・・・?
 なんていうか、アメリカァ~ンな大雑把なフォルム。どことなくしまりのない顔・・・。
 違う。子供の頃の僕が欲しかったクーペはこんなんじゃない。
 それにFFだし、スポーツカー好きの心をぐっと掴むスペックでもない。

 「サターン」はGMグループが80年代のアメリカで猛威を振るった日本車へのカウンターとして世に送り出した小型車カテゴリーのブランドである。
 だからそのサターンが日本に上陸するということはある意味「復讐」だった。それ故にそのやる気はただならぬものがあった。
 カーペンターズの「(They Long To Be) Close To You」をBGMに、クルマの営業さんらしからぬ白いベストを羽織った販売員が接客する明るい店内を映したTV-CMはいまでも印象に残っている。キャッチコピーは「礼をつくす会社。礼をつくすクルマ。サターン。」。
 「ワンプライス」「値引きしない」「顧客満足重視」などのそれまでの日本のディーラーにはなかった販売手法をとり、クルマ自体にも多凹んでもすぐ戻るポリマー樹脂製ボディパネルを採用するなど新機軸を盛り込んで、日本市場における自動車流通の革新を狙った。
 しかし私は日本市場に乗り入れるにはなんとなく詰めが甘い感じがしたのを覚えている。
 実際、サターンのやる気は見事に空回りし、日本には1997年に進出して2001年に撤退したのであった。

 わずか4年という活動期間から理解できるが、どうしようもなく売れなかったらしい。
 とくにこのSC2クーペを私はディーラーのショウウィンドウ以外で見たことがない。ザガート オーテック・ステルビオでさえ街中で2度も見たことがあるのに・・・。


 RX-8が売れていることを考えれば、SC2クーペの観音開きドアのクーペというアイデアはよかったと思う。けれど他の部分の落としどころを間違えたっていうか、とにかくアメリカと日本の文化の違いとまざまざと見せつけられたブランドでありクルマだったと、しみじみ思う。



 
last modified:13/NOV/2004
on set:11/NOV/2004