太陽系第三惑星であり、有機生命体の種の起源が誕生したと言われる、母なる大地――地球。
 その惑星の大気圏へ、煙を吐きながら徐々に降下していく列車があった。見た目は、西暦1947年に日本で製造された大型SL・C62の48号機にして、その正体は、耐エネルギー無限電磁バリヤーに守られ、機関部分は自らの意思で判断して走行することが可能な優秀な機械頭脳を装備した超近代化宇宙列車。宇宙に縦横無尽に広がる無限軌道をひた走る、その名は――銀河超特急999号。
 それは現在、メガロポリス中央ステーションからほど近い、明かりのない生身の人間が住むスラム地帯の上空に一時停車する手はずになっていた。機関車が許可した一時停車時間はわずかに2秒。その後、中央ステーションの99番ホームにて24時間停車後、惑星大テクノロジアの大操車場までノンストップで走行し、改良整備にあたることになっている。
「本当に、ここでよろしいんですか?」
 車掌は、こんな灯もないような場所で列車を下車しようとする小柄な少年が、心配でならない。
「うん。99番ホームは、きっと機械ポリスが待ち構えてるよ。ボクは機械伯爵を倒して指名手配中の身だからね。直接行ったら降りた途端に逮捕されちゃうと思うんだ。それに、母さんと暮らしたこの辺のスラムは良く知ってる場所だからね、メガロポリスからはちょっと遠いけど、あの時と違って雪もないし、きっと楽に貧民窟(ダウンタウン)まで辿り着けると思うんだ」
「気をつけてくださいよ…」
「大丈夫。イザとなればこいつもあるし」
 少年は銃を見せながら言う。
 二人は最後尾車両にいた。少年は、マントを羽織り、帽子を目深に被っている。所持する銃の最終点検も済ませた。後はこれで展望部分からオプチカルエレベーターで降りればいい。もうすっかり準備は整っていた。
 列車はますます降下していく。
「今までありがとう、車掌さん」 
 展望車の扉を開けながら、少年は礼を言った。
「い、いえ…私の方こそ…」
 車掌は精一杯笑って見せた。が、もう…限界だった。
「寂しくなりますです……グスッ」
 今までの旅で精神的にしっかりした代償に、すっかり涙腺が弱くなってしまった。
 車掌の脳裏に様々な思いが交差して、光る瞳からしずくとなってあふれ流れ落ちていく。
 惑星大アンドロメダから地球までの帰路を、少年と二人三脚で必死に闘ってきた彼もまた、ある意味一人前の戦士に成長しつつあった。
 地球からの旅立ちの頃は、それこそ職務に忠実過ぎて融通が聞かず、そしてかなりの臆病者でもあった。
 だが、少年達と共に様々な危機に遭遇して、それをくぐり抜けていくうちに、彼は変わった。
 一旦パニックに陥ると慌てまくって冷静さを欠いてしまうくせは抜けないが、それでも旅に出る前に比べれば、乗客サービスをモットーに、的確に状況判断して機敏に動ける様になった。
 異常事態の連続だった復路での彼は、もはや昔の彼ではなかった。
 乗客のためなら…と、死刑を覚悟で鉄道規則を破ることすらした。列車から離れ、機械化人相手に銃撃戦まで付き合った。
 裸になれば見えなくなる透明な体は、銃撃されても服に穴が開くだけで死ぬことはなかったし、空気がなくても短時間なら生存可能でもあったから、普段は異常なまでに嫌悪する特異体質をフルに逆利用して、それこそ命懸けで頑張った。
 そこまでする気になったのも、仲間の存在があったからだ。我に返ってみて何より驚いているのは、当の車掌本人だったりするが。
 少年もまた、そんな車掌の身を案じて幾度となく鉄道管理局や警備隊相手に奮闘した。二人助け合って今日に至った。
 そして今、相棒は列車から離れ、地球の土を踏もうとしている。
「いやだなぁ、泣かないでよ。もう二度と会えないって訳じゃないんだからさ…」
 少年は笑みを浮かべて必死に車掌を慰める。
「時間は夢を裏切らない! そうだよ? …そのためにも僕は死ぬわけにはいかない。地球が昔みたいに活気付いた住みよい星になったら、また宇宙の海を旅してまわるんだ。その時のためにも、999号や車掌さんにはまだまだ頑張ってもらわなきゃ。この列車は、僕の艦(ふね)なんだからね」
 少年の言葉に感激して、車掌は改めて嬉し泣きをしていたが、ふと意を決して袖で涙を拭った。
「…ありがとうございます。私も一刻も早く、この999号でお迎え出来ます様、精一杯頑張らせていただきますです、ハイ」
「うん。…じゃあ、行くよ。元気でね、車掌さん」
「鉄郎さんも、――お気をつけて!」
 万感の思いを込めて、車掌は姿勢を正して敬礼した。
 鉄郎と呼ばれた少年が乗り込んだ次の瞬間、オプチカルエレベーターは降下を始める。
 慣れ親しんだ最愛の艦は汽笛を鳴らし、2秒きっかりに再度動き出す。
 見る見る小さくなっていくその姿が山の向こうに消えても、鉄郎は身じろぎせずに見つめていた。
 その瞳には、うっすらと、涙が滲んでいた――

私のホームページへ | AnimeComic-Paletteのページへ | メイン | 今すぐ登録