アスペルガー症候群と初めて出会う方へ


 アスペルガー症候群は、自閉症のスペクトラムに入る発達障害の一つです。それは、脳の発達
がある独特のコースをたどる障害であり、それが通常のパターンとは少し違っています。これが、
その子供や成人たちがまわりの世界を理解する仕方や、まわりの人や日常の出来事への反応の仕
方などに、生涯にわたり続く影響を与えます。
 アスペルガーは今日ではアスペルガー症候群として知られている行動の類型についての最初の
論文を、1944年に著しました。その業績は1980年代に至るまで、広く世界には知られていま
せんでした。その症候群は、20世紀になって現れた新しい障害であるかのように見えるかもしれ
ません。しかし、実際にはこの症候群の人々はいつの時代にも生きていました。もちろんその診
断を下された人は、つい最近まで一人もいなかったのですが、その人々についての資料は、歴史
的な文献にも現れますし、小説やテレビ番組にも登場します。『ミスタービーン』は、その完璧
な例です。私はこれまでの研究で、世界中のどの国にもアスペルガー症候群の人たちがいること
を確認しました。文化的背景は違っても彼らは共通の特質を持っています。一人一人の特別な興
味でさえ、驚くほどよく似ています。鉄道のある国ならば、列車が好みのもののリストのトップ
にくるようです。
 初めはかなりまれな障害と見られていましたが、最近の研究では、アスペルガー症候群の人は
200人から300人に1人の割り合いでいるらしいと分ってきました。
 この冊子でもたいへん分りやすく述べられているように、アスペルガー症候群の子供も成人も、
私たちの生きるこの世界を、不可解で分りにくいと感じています。この理由のために、まわりの
人たちの期待を裏切ったり人を困らせたり不快にさせるような行動をしてしまいがちです。しか
し一方、彼らは非常に好ましい特質の持主でもあります。根っからの正直者で、自分を偽ること
がありません。誰にも分けへだてなく接して、相手の年齢とか社会的地位を気にかけません。と
きには、アスペルガー症候群の人たちの見方によって困難な問題に新たな光が当てられ、その理
解が進むこともあります。アスペルガーも指摘したように、偉大な芸術家や科学者は、この症候
群の特性を一部またはすべてを備えていなければなりません。そのために、自分が興味をもった
ことに、少なくともしばらくの間は、他のすべてを忘れるほど没頭できるのです。
 アスペルガー症候群の人々といっしょに生活したり仕事をする人は、その人たちの特殊な問題
を理解するとともに、特殊な能力を尊重することがたいへん重要です。彼らのことを理解して、
関係を作り上げようと努める人は、それが相手のためになるだけでなく、自分にも深い喜びが与
えられる体験であることが分ります。この小冊子は、こうした理解を築くために、たいへんすぐ
れた手引書です。それは、この症候群の特性に関する基本的な事実と、その子供にも大人にも助
けをもたらす指導法について述べています。明快な言葉で書かれ、難しい専門用語は抜きにして、
アスペルガー症候群の人たちへの温かな心遣いと敬意にあふれています。
 私は、この序文を書く機会を与えられたことをたいへんうれしく思います。この小冊子は、関
係するすべてのご家族に、またその子供や大人にの人たちに接したりともに働いているあらゆる
人々の大きな助けとなるでしょう。本書で述べるように、その人たちは、この世界を独特な魅力
あふれる視点から見つめているのです。

ローナ・ウィング Lona Wing
顧問精神科医
エリオット・ハウス
社会性とコミュニケーション障害センター

監修者紹介
 30年以上にわたり自閉症の臨床・研究を続けてこられた児童精神医学者。自閉症のお嬢さんを
持つ母親でもある。全英自閉症協会の設立や運営に重要な役割を果たした。1981年英語圏では
ほとんど知られていなかったアスペルガー症候群概念の重要性を検討した論文を発表し、今日の
世界的なアスペルガー症候群への関心の高まりのきっかけとなった。現在全英自閉症協会が運営
するクリニック(エリオット・ハウス)の顧問精神科医であるとともに、70歳を過ぎてなお精力
的に自閉症スペクトラムの臨床、研究、啓発に取り組まれている。