3月6日 朝方降雪のち晴れ、昼頃から強風の大荒れの日

 道路を走る車の音で目が覚めた。濡れた路面を走るシャーという音で「今日は天気悪かったのか?」と寝ぼけた頭でぼんやり考える。予報じゃ雨なんて言ってなかったと思いつつ寝床から這い出し外を覗くと「???」。春先の夜が明けたばかりの寒々とした風景に白い物がやけに目に付く。「ありゃん、雪じゃん!」予想外の悪天に自室の窓から空を眺めパソコンの電源を入れた。
 インターネットに接続して天気予報サイトを開く。いくつかのサイトを覗いたが栃木県の天気は雨のち晴れが圧倒的に多い。各所6時現在の天気を報じているので、ほぼリアルタイムの天気なのだが一言も雪なんて書いてない。書いてないけど降っているモノは仕方ない。

 今日はぺんぎん登山隊出動予定日だ。久しぶりに次女のカナも参加する予定で昨夜の隊長はノリノリだった。約束の出発は8時としてあった。このままでは中止となるが、まだ約束までは時間があるので様子を見ることにした。ところが流石に遊びには強い家系で隊長もカナも起き出した気配がする。そうこうする間に二人とも仕度を始めた様子だ。全く外の天気を気にしている様子も無いのがあの二人らしい。「お〜い、外は雪だよ〜ん!」と声を掛けると「えっ、うっそ〜!」と窓に飛びつくのだった。
 ところがこの二人、思考回路がおかしいのか全く動じず「何処行くの?」と来た。行く行かないの段階は通り越し”行き先”を聞いて来たのだ。逞しい事に隊長が次女に「晴れてるのにビショビショになった羽賀場山の時より最初から降ってるんだから大丈夫だ!」と言ったらしい。そこで「何が大丈夫なのだ?」と私が聞いたら「最初から雪なら濡れない格好で行けば良い!」と答えるのだった。

 出発時間を遅らせ、一時は中止と決めた9時頃、何気なく見た北の空が青い。「晴れた!」と思うと同時に「おい、行くぞ!」とテレビを見ていた二人に声を掛ける。バタバタと仕度を済ませ車に乗り込む。行き先を3通り考えていたのだが陶芸で有名な益子町の南東にある雨巻山(533m)へ行くことにした。

 雨巻山へは大川戸からの登山道が一般的で三登谷山(433m)から雨巻山を周遊出来るコースである。我々もマイカー利用なのでこのコースで登山するつもりでいた。ところが麓の栗生を通り掛かると「三登谷山展望コース」という魅力的な案内板を発見し登山口を変更することにした。
 登山道は雑木林と田んぼの間ののどかな里の道から次第に植林されたヒノキの林へと進んで行く。比較的真っすぐに登る登山道で思ったよりしんどいが標高が上がるにつれて周囲は雑木林となり陽だまりの登山となる。麓から20分ほど歩いて尾根へと出た。すっかり葉を落としている樹間から雨巻山が見える。大した悪場も無く快適な尾根歩きで三登谷山へと向かう。葉を落としたコナラやブナ・サクラに混ざって赤松の緑が色を添える。展望の良い岩稜へ出ると三登谷山〜雨巻山の主コースにあるベンチがあるピークが見える。

 主コースへと出た場所は三登谷山山頂から雨巻山へ一つ目のピークだった。目の前に見える三登谷山を後回しにして雨巻山へと向かう。この頃から尾根筋に強風が吹き荒れて来た。風に揺れる木々がキュンキュンと悲鳴を上げている。油断をすると小さな身体の隊長なんか飛ばされてしまいそうな強烈な風だ。見る見る空は雲に覆われ山をも飲み込みそうな勢いだ。見れば遠く下界の平地は周囲の山々のスギ花粉と土埃を浴びて黄色く霞んでいる。

土埃と花粉に襲われる平野部(同じ地点から)

 主コースに入って一つ目のピークで休憩中の4人連れの登山者に会う。「ここは風が来ないよ、私達は行くからここでお昼にすれば。」と声を掛けてくれた。時計を見れば12時半だ。「ここで食べるかい?」と聞く私に二人が頷く。ザックを背負う4人に「気を付けて!」と声を掛けて見送り、我々は昼食の仕度。いつもの即席ラーメンと女房が作ってくれたおにぎりだ。さっきの4人が言った通りに此処だけは風が来ない。シートを広げてお湯を沸かす。いつも荷物を少なくする為にコンロとガス、コッフェルを一つずつしか持っていないので三人分のラーメンを一緒に茹でる。当然個々に取り分けることも出来ないので鍋を真ん中に三人で麺をすする。何とも可笑しな光景ではある。

 昼食を終えて再び雨巻山へと歩き出す。いくつかの登山グループとすれ違う。強風に飛ばされそうな隊長を見て微笑を返してくれる。いくつかのピークを越え、大川戸口からの登山道をいくつか合わせると山頂も近い。階段コースと岩場コースに分かれる雨巻山ノ肩を越える。いったん下って再び登り返すといつしか強風も収まり、雨巻山山頂に着く。木製のベンチとテーブルが数基並ぶ山頂に到着。中央に山頂を示す案内板。案内板の下には三等三角点があった。我々と中年男性の登山者だけの穏やかで静かな山頂だった。昼食を挟んで麓から1時間45分の行程だ。

 大川戸口からの周遊コースならば同じ道は通らないが栗生に車を置いて来ている我々は来た道を引き返さなければならない。山頂で休憩をとり、登って来た道を引き返す。今度は正面に三登谷山を見ながらの尾根歩きとなる。来た時に黄色く霞んだ下界を見下ろした同じ地点で、今度は綺麗に晴れ渡った景色が見られた。時折吹く風が先ほどより強まりまたも荒れ模様が予想される。尾根筋の木々もざわめき出し、再びキュッキュキュと悲鳴を上げ始めた。

 コナラが揺れ松ぼっくりが飛ぶ。尾根を歩く我々を横から突き飛ばすような風だ。悲鳴を上げ続けた松の太い幹が真っ二つに折れ力尽きていた。自然の法則を目の当たりにした我々を今度はひょうきんなブナがお出迎えだ。今日の天気と同じで厳しさと優しさを共有しているのが自然なのだろう。

 強風に追われるように栗生からの登山道合流点に到着した。ここから三登谷山山頂は指呼の距離である。一度下って登り返した先に山頂を示す案内表示と木製のテーブルとベンチが見える。埃っぽい大気が一瞬晴れ渡り日光連山から続く高原山が遠望出来た。近くには芳賀富士が綺麗に見える。ついでに道端に止めてきた愛車青チョロ号も見える。
 山頂から周囲の景色を楽しみ下山。主コースから分かれるピークのベンチで休む二人を望遠レンズで捉える。直線的な登山道をのんびり下る。雑木の尾根筋からヒノキの植林地へ下り里村のあぜ道に飛び出した飛び出した三人を午後の陽だまりが迎えてくれた。