
9月11日 曇り

久しぶりに隊長と歩いた。落ち込むような出来事の連続で精神的に疲れ果てた今の私は隊長との気楽な山歩きがとても恋しかった。
私自身様々な出来事に自分で自分を見失いそうである。心を病んだ友への思い。突然渓で逝った仲間。でも、自分を立て直す為にもまた隊長と歩こうと心に決めた。少しずつ前を向いて歩こうと決めた。
外山(880m)は日光東照宮の東北に位置している。戦いの神「毘沙門天」を祀る信仰の山である。今の私には戦いの神はちょうど良い対象である。
初秋の日光は観光客で賑わっていた。折りしも「日光ツーデーワォ-ク」が開催されていて街中がハイキングの人々であふれていた。
新しくなった神橋を左手に眺めながら東照宮前を右折して稲荷川に架かる橋を渡る。高くはないが自己を主張するようにスクッと立ち上がった外山の山容が見える。登山道入り口は別荘地の奥に位置しており自動車を駐車するスペースは1台のみである。本来なら日光の街を散策しながら電車で訪れる方が気楽である。
山頂に毘沙門天を祀る信仰の山らしく登山道にはいくつかの石造りの鳥居がある。ほぼまっ直ぐに続く登山道の周囲は間伐された幹が横たわる杉林である。
多分食べられないであろう数種類のキノコが道端に顔を出し、まだ緑色のドングリが沢山落ちている。晩夏と初秋の季節代わりは日一日と進んでいる様子だ。
季節も、登山も、そして人生も少しずつだが前に進むのである。
その時々は苦しくて辛い思いもするけれど、振り返れば楽しく懐かしい。
さて、登山道は標高800m近くから岩場を含んだ九十九折れの道と変わる。手すりもあり難所と言うほどの所では無いけれど雨に降られると注意が必要である。
隊長は4月以来久々の山歩きであるが結構しっかりした足取りで私の前を後ろをマイペースで歩いている。もう小学3年も半ばであるから体力が付いて来ているのだろう。父親らしく叱咤激励して歩けるのもあと何年か。手を引かれて歩く日も遠くないのだろう。いやいや、私の手はともかく、一人で山に来るだろうか・・・。
「あっ、ドングリ3つ!」隊長が頓狂な声を出して私を振り返る。見るとまだ緑色のドングリが相談事をしている様に頭を寄せ合っている。「あっ、黄色いキノコ!光ってる!!」またも奇声を上げる。蜘蛛がいたと言っては叫び、蝶がいたと言っては叫び、「疲れた!休みた〜い!」と耳にタコの隊長との登山ではあるが私には一番気楽な時間である。
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九十九折れの登山道を登り切ると眼下に日光市を見下ろせる社殿前に出る。稲荷川の流れが足元から聞こえ、東照宮から鳴虫山や日光市の町並みを一望出来る。遠く日光杉並木街道から今市市街も眺められ、冬の澄んだ空気の中ならば宇都宮まで見渡せそうな景色は爽快である。
社殿前から10mほど登ると三等三角点がある外山山頂だ。甲冑を着た毘沙門天が凛々しく迎えてくれる。山頂北側には雲竜渓谷の険しい切れ目と岩肌厳しい女峰山が見える。
山頂に立つと同時に携帯が鳴り出した。昨夜遅くから家を出ていた友からの連絡。深夜の電話に気付かずにいた私。朝起きて友からのメールを読むとすぐに「居場所を知らせるように・・」と返事を打っておいたのだった。
電波状態の良くなった山頂でのタイミングの良い着信を友に話すと意外と元気な声で笑っていた。「帰るのか?」と問う私に「うん。」と答える。「帰ったら会おう。」と約束をして電話を切る。何となく安堵の深呼吸をした。
例によって三角点に座ってジュースを飲む隊長。腹が減ったとパンをかじるのもいつもの事である。来るまでが一苦労の隊長だが、来てしまえば結構積極的に歩くので感心する。山頂にそれ程の執着は無い様だが、不思議と山頂で何か物を食う事は彼の決まり事の様子である。
山頂標識の前で記念撮影。
久々に隊長と歩いた山。
下山路に大きく響く笑い声。
私はまた今日から歩き出す。
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