1月5日 曇りのち晴れ

 年末の忙しさから逃れ、開放感を楽しみながら登った古賀志山登山。それから5日、新年を迎えた正月の飲んで食って寝てのグータラな生活で胃袋が悲鳴を上げ始めた。空腹感を感じる暇も無く次々と詰め込まれてくるアルコールと食物に処理機能が追いつかずにいる。重量感を伴い、もたれて切っている。重量感は胃袋だけに止まらず全身を包み込み出している。もうダメだ、山に行こう!

 手軽に身体を動かすには散歩がいい。ぺんぎん隊の散歩は山である。

「山に行くぞ!」  そう言われた隊長はポカ〜ンとした顔で呆気にとられている。

「行ったばかりじゃん、何で行くの?」

「ん?本を見てたら1時間半で1等三角点に行けるんだよなぁ・・」

「えっ、1時間?近いね!」  よしよし、乗って来たぞ・・・・

「うん、登り1時間で下り30分ってやつだな、楽チン楽チン。」

「何て山?」

「松倉山、行く?」

「うん、行く。」
 
 松倉山(345m)は栃木県東部、烏山と茂木の境にある里山である。山の本には山頂に小さな祠と一等三角点があると書いてある。栃木県内にある12箇所の一等三角点の内の一つだ。ぺんぎん隊としては5つ目の一等三角点である。新年最初の登山は一等がいい。高さにこだわらないのもぺんぎん隊である。
 
 登山口は烏山側と茂木側両方にあるという。宇都宮から1時間弱の烏山側大木須集落の登山口から登る事にした。山の本によると「大木須小学校跡に車を駐車して登る事も可能」と書いてあったが、何処で見落としたのか登山口の道標まで来てしまった。路肩に十分な広さがあるので路肩に駐車し登山靴に履き替えさせて貰った。

 点在する農家の軒先をのんびり歩くと目の前に里山の風景が広がる。棚田の中をゆるくカーブしながら山の中へと続く道は田植えの終わった頃に訪れてみたい風景である。一面に水を張った青々とした棚田を想像しながら最後の農家を過ぎると舗装路から砂利道に代わる。所々に立つ道標に導かれながら歩く道はしっかりとした林道である。どう考えても車のまま入れる林道である。山の本に書いてあった「小学校跡に駐車して・・・」という内容を読んで林道をそのまま車で走れるとは誰も想像出来ないだろう。ただ林道の他にもう一つ登山道があると書いてあるのだが道標が無くそちらは判らない。道標はあくまで林道を登山道として導いている。


 道々、隊長が林道を作る際に削られた斜面の断層に興味を示す。固い層と砂利質の脆そうな層が綺麗に重なりを見せている。そんな地層の説明をしているとググググッと微かな音が聞こえた。私には何の音かはすぐに判るのだが隊長は辺りを見回してキョロキョロしている。

「よ〜く耳を澄ませてごらん、また聞こえるよ。」

「ホントだ・・」 隊長は杉の木を見上げながら答える。

「何の音か判る?前にどこかで聞いてる筈だよ。」

「う〜ん、判んない。鳥?」

「違うよ、木が鳴いてるんだよ。」

「そうか!風だね!!」

「ピンポ〜ン!」

こんな会話をしながら歩けば林道歩きも楽しいものである。

 
のんびり30分ほど歩くと林道終点の広場に着く。10台程は駐車可能な広場になっている。広場の奥に「松倉山」と道標があり、ここから登山道となる。照葉樹林に囲まれて15分ほど歩くと左手に石段が現れる。観音堂である。県指定の重要文化財の観音像を安置している。石段の上に見える観音堂の屋根はかなり立派である。屋根に誘われて登山道を逸れて石段を上がる。少しずつ視界に観音堂の姿が見えて来る。山中にあるとは思えないほど立派な本堂である。思わず隊長と二礼二拍手、くしくもこの観音堂が初詣となってしまった。

 観音堂を後にして登山道を進む。右手斜面に竹林を見下ろしながらのんびり歩くと左斜面にフィックスされたロープが見える。先に目に入ったのがロープであり道標はその後に気が付いた。赤いテープも結ばれていた。私の場合、カメラに収める被写体を探しながらキョロキョロして歩いているので気が付いたのであるが、気にして歩かないと見逃してしまいそうな何の変哲も無い登山道脇の普通の岩斜面に見える。
 ここまでにも登山道から逸れる踏み跡と赤いテープは何箇所かあった。帰路にその一つに入ってみたら朽ちた祠があったりして全山が信仰の場であった古を思い起こさせた。

 岩斜面をロープ頼りに登り切ると傾斜を強めて細い踏み跡が先に続いている。雨が少ないこの時期に落ち葉は枯れ果てて、それが幾層にも積み重ねられた登山道はよく滑る。地面が枯れ葉ごと滑るので気を付けたい。足元に注意しながら踏み跡を辿るといきなり広場に飛び出す。松倉山頂上である。

 一等三角点のある山頂からの展望は冬だから得られる様だ。枯れた樹木の間から芳賀富士が綺麗な姿を見せている。春から秋にかけては青々と茂る木々に遮られて展望は望めないと思う。


 三角点にタッチして登頂を祝う。誰もいない山頂というのは気分が良いものである。元々が登山者の少ない静かな山なのだろうか今日はぺんぎん隊の独占である。早速お湯を沸かしてラーメンの支度を始める。ところがボンベのガスに元気が無い。気温が低く気化しないのである。バーナーにコッヘルをかけたままボンベを両手で包み込む。徐々に火が大きくなりお湯が泡を上げ始める。両手はガチガチに冷えてしまっている。手を離すと忽ち火勢は衰え泡の数が減るのでラーメン作りは隊長に任せる。コッヘルを倒さない様に注意させながらラーメンを茹で上げさせて完了。
 
 しかしここで隊長の本領発揮。ボンベから手を離せなかった副隊長の代わりにラーメンを作ったのは自分であるとの意識があるのかラーメンを独り占めにする隊長。いつコッヘルが手渡されるのかと思っている間にズズズ〜っと最後のスープを飲み込んでラーメンは隊長のお腹の中に消えてしまった。胃袋の重量感を治す為の登山なのだからまあいいか!
 満腹になってご機嫌の隊長に声を掛けて下山。のんびり歩いて下る登山道に暖かな陽が射し込んで来た。見上げる空にトンビが丸く絵を描いて里山の風景に花を添えてくれていた。