「幻のぺんぎん隊長」と山へ
3月11日 晴れ
古賀志山
あはは、山に行ったんです。
えっ、山なんかいつも隊長と行ってるだろうって?
そうなんですけど今回は違うんですよ、一緒だったのは隊長じゃなくて・・・む・す・め。
二番目の娘「かんちゃん」と行ったんです。
「かんちゃん」は「可奈子」と言うんですけど、小さい頃に私が「かんちゃん」と呼んでからず〜っと「かんちゃん」なんです。「かんちゃん」と呼んだり「かんち」と呼んだり、その日の気分で呼び方を変えるのは私だけなんですが、他の家族も近所の方も学校の同級生もみ〜んな「かんちゃん」と呼ぶらしいです。
その「かんちゃん」も今春高校を卒業して社会人になるのです。「う〜ん、かんちゃんが社会人かぁ・・・」それはとても不思議な思いです。
実は彼女、時が時ならぺんぎん隊初代隊長だったのです。当時、イワナ釣りに凝り出した父親にいつもくっ付いて竿を振っていたのです。
「イワナ、行くか?」
「行く!」
週末になるとこれが二人の間の合言葉でした。二つ年上のお姉ちゃんを誘い出して雨の中でイワナ釣りをした日のことはみんなの思い出になっています。「かんちゃん」が滝つぼに落ちて大笑いした事も昨日の様に思い出します。
しかし、中学・高校と成長するに従い私と一緒に遊ぶことも少なくなりました。釣りは勿論、山登りみたいに疲れる事はやらなくなりました。彼氏も出来て、いわゆる今時の娘になってしまいました。私にも隊長という丁度良い遊び相手が出来まして無理矢理に娘を誘う必要も無くなったわけです。
さて、いよいよ娘が社会人になる。ますます父親との距離が離れて行く。いやいや、別段彼女に嫌われる訳では無くて遊べる時間がどんどん無くなるのです。それはそうです、彼女には彼女の新しい道が開けて行くのですから父親に付き合う暇など無くなるのは当然です。判っちゃいるけど、この春はちょっと寂しい父親なのであります。まるで娘に片想いの様です。
「かんち、山行くか?」
と少しドキドキしながら以前のように声を掛けてみました。さすがに「行く!」と軽快な返事は返って来なかったのですが
「え〜っ、山かぁ、いつ?」
と満更でもない雰囲気でした。
「うん、かんちが働き始める前に行こうよ、仕事始まったら行けないもんね、今週末は?」
と娘の気が変わらないうちに日程を決めてしまうのでありました。でも、そうそう事は上手く運ばずにその週は都合が悪く翌週に延期になってしまいました。でも行けるなら一週間くらい何でもないのです。
当日はまず高原山へ向かいましたが登山道が雪で埋もれていて登山不可能。この山の上から彼女が通った高校の校舎を遠く眺める計画でしたが諦めました。しかしながらこれで帰るわけには行きません、お父さんは負けないのです。
宇都宮市森林公園、ここには通い慣れた古賀志山があります。
登山が趣味じゃない娘にすれば山なんか何処でも同じでしょうが、それならば宇都宮市から一番身近な山がいいと考えました。この先の彼女の生活の中で何度も目にするはずの山。宇都宮近郊では異様な山容を誇っていて一目見たら忘れない山。山頂に立つキノコの様な鉄塔が宇都宮市内からでも見ることが出来るのです。
苦しい登りを成し遂げて山頂から自分の住む街を眺めて歓声を上げる娘。双眼鏡を覗きながら「ああだ、こうだ。」と新しい発見をしたようにはしゃいでいました。そんな彼女の顔が見られた事、山頂に一緒に来れたことの嬉しさは私の良き思い出として残って行くでしょう。
山頂にある壊れかけたテーブルを挟んで向かい合い、ぺんぎん隊恒例の山頂ラーメンを食べながら色々な話をしました。
学校の事、これから始まる仕事の事、彼氏の事・・・。
私が思っている以上に娘が大人になっていた事に素直に驚かされました。でも、まだまだ小さい頃のままの彼女がそこに同居しています。それは父親である私だけが嗅ぎ取れる彼女の素顔でした。
下山後、走る車の窓から古賀志山を振り返る。
「ほら、あそこにキノコが見える。」
「あっ、あそこから降りて来たんだね、結構高いじゃん!」
満足そうに胸を反らす「かんちゃん」の笑顔に「来て良かった。」と思うのでした。
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