
2004年7月18日 |
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「どけやぁ!!」 「え?」 殺人者は武器を手に入れ、それを盾に、走り出した。 その刃物の輝く先端は、わずか17歳の女性に向けられていた。 ―――危ない・・・―――!! ドゥッ!! 一瞬その場が凍りつく。 時の流れがゆっくりになる。 パシッ 和葉がその場を切り裂くかのように、殺人者の腕を掴んだ。 そのまま手際よく関節技で殺人者を床に押し付けた。 カラァンッ・・・ 赤い鮮血がベットリついた包丁が、高い音をたてて床に落下した。 「コナン君っ!!」 刺されそうになった蘭をかばった、勇敢なる少年が腹をおさえて横たわる。 腹をおさえる手は、すでに赤かった。 そして少しずつ、彼の手の隙間から赤い鮮血が流れる。 暗闇の中、真紅の筈の鮮血は、どす黒い色をしていた。 「うぐっ・・・!」 苦しそうに悶える少年。 食いしばった歯からは、血が流れ出ていた。 「早よ誰か、車で病院に連れて行ったれ!!」 蘭に抱かれ、車へと入っていった。 外は大雨。 何故か身体は濡れていなかった。 彼女が自分を雨の盾になってくれていたのだ。 「コナン君・・・!」 自分の膝の上で横たわってる少年を、蘭は心配そうに見つめた。 すでに蘭の手も膝も、少年の綺麗な鮮血で染まっていた。 ・・・・・蘭・・・・・! 少年は、霞んだ目で、涙で濡れた彼女の顔を捉えた。 ボヤけててよく分からないが、彼女が苦心の表情をしてるのはわかった。 表情だけじゃない。 彼女の身体全体から、自分の身体全体で分かったのだ。 彼女の身体が震えてるのを、全身で感じ取っていた。 自分の心が、何ともいえない悔しさでいっぱいになった。 次第に意識は遠のいていった。 (・・・・うっ・・・・うぅっ・・・・) ポタ・・・・ポタ・・・ ・・・・・え? 蘭の鳴き声と、涙の落ちる音で、意識が戻った。 だが不思議なことに、ここは病室ではなかった。 見覚えのある場所。 (・・・新一・・・・・うっ・・・・うっ) 泣き声は、自分の下から聞こえてくる。 そこには、地べたに座り込んで泣いている蘭がいた。 どうやら、自分はいま、空中に浮いているらしい。 おーい!蘭!俺はここだぞー! 呼んでみたが、蘭には聞こえていないようだ。 その時、初めて気付いた。 自分は今、自分じゃないと。 今いる自分は、形のない「意思」なんだと。 下におりてみた。 そこには、懐かしい顔があった。 小学生の頃の蘭だった。 (壊れちゃった・・・うっ・・・ひどいよぉ・・・・) よく見てみたら、蘭が泣くその傍には、壊れた人形が横たわっていた。 (せっかく新一からもらったものなのに・・・・) ―――! これは・・・・。 ピーーーーーーーーーーーーーーー... ここは手術室。 そこにあるのは、緑の真っ直ぐな線を画面に表示しながら、うるさく、高い音を鳴らし続けている機械があった。 (ぐぁっ!) 工藤――――――!! ガバッ 腹に拳銃を弾をくらい、病院に担ぎ込まれた少年が、驚いたように目を覚ます。 ―――またあの夢かいな・・・・。 工藤が犯人に刺される・・・・不吉な夢・・・・。 ・・・・。 ・・・まさか・・・・工藤・・・・。 彼の頭に、不吉な予感がよぎった。 ピーーーーーーーーーーーーーーー... ここは手術室。 そこにあるのは、緑の真っ直ぐな線を画面に表示しながら、うるさく、高い音を鳴らし続けている機械があった。 新一――――――!! 蘭の頭に、不安がよぎる。 彼が遠くへ行ってしまうのを感じた。 え・・・? なんで「新一」なの・・・? 刺されたのはコナン君なのに・・・・。 (・・・うっ・・・・うっ・・・・) 新一の意思が彷徨う中、未だに少女は泣いていた。 見覚えのある場所で。 蘭・・・。 スゥッ・・・・・ ・・・・あれ? 目の前が・・・・霞んで・・・ フッ・・・・ 彼の意思が消えた。 過去を彷徨っていた意思が消滅した。 二度と過去を振り返れないと暗示してるかのように。 スタ・・・スタ・・・・ (・・・え?・・・誰?) 泣いていた少女の耳に足音が聞こえた。 その足跡は、ゆっくり、そして疲れたように、こっちに近づいてくる。 (誰・・・?あ・・・こんな壊れた人形、人に見せれない・・・。) ボロボロの人形を、蘭は、自分の背中に隠した。 スタ・・・スタ・・・ (あ・・・・新一・・・・。) (はぁ・・・はぁ・・・。よぉ・・・蘭・・・探したぜ・・・・。はぁ・・・はぁ・・・) それは、幼い頃の新一だった。 その少年の足はふらついていた。 息もあがっていた。 (蘭・・・これ・・・。) 少年の掌には、小さな赤いボタンがポツンと乗っていた。 (え・・・それ・・・。あっ!) 慌てて、隠してあった人形を取り出して、よく見ていた。 (・・・・ボタンがなくなってる・・・。) その人形には、ある筈の小さな赤いボタンが無くなっていた。 (・・・やっぱりな・・・。) (・・・あ・・・・。) 少年の声に、少女はハッとなった。 すぐに少女は、また背中へとボロボロの人形を隠した。 (ゴメン・・・・壊しちゃった・・・・うっ・・・うぅっ・・・) 少女の目が、涙で満ち溢れた。 罪悪感で、心が苦しくなった。 ポン・・・ 目をつぶり、うつむいて泣いていた少女の肩に、少年の優しい手が置かれた。 ゆっくり目をあけると、涙でボヤけてて分かりにくいが、彼は確かに笑っていた。 (お前の家に行ったら・・・綿が落ちてたんだ。よく見てみたら、階段にも落ちてたしな。) (・・・・・え・・・・?) (お前の父さんに訊いたら、お前が涙を流しながら家を出て行った、って言っててな・・・。・・・だから・・・。) (ゴメンね・・・本当にゴメン・・・。せっかく貰ったものだったのに・・・。) (もう1つ、お前の父さんに訊いた事があったんだ。『今日、蘭が階段から落ちなかったか?』ってな。) (・・・え?) (予想通り、階段から落ちたんだってな。その時だろ?人形が壊れちまったのは。) 彼は優しく、そしてホッとしたような声で話した。 (階段の一番下の方に綿やボタンが散乱していたからな。クッションになったんだろ?その人形・・・) (・・・・。・・・・・うん・・・。ゴメンね・・・うっ・・・・うっ・・・・。) 再び泣き出す少女に、少年は優しい笑みを浮かべながら、少し呆れたような顔をした。 (ほらよっ!) (・・・・え?これ・・・・。) 少年が少女に突き出した手には、ボロボロになってしまった人形と、同じ人形があった。 (感謝しろよ。これ、人気だから・・・。同じの見つけるの、大変だったんだぞ!) 彼は、頬を赤くして、蘭と目線を反らしながら言った。 (新一・・・うぇぇぇぇぇぇんっ!) 今度は大泣きしだす少女に少年はさらに呆れてしまった。 (おいおい・・・蘭・・・泣くなよ・・・。) (だって・・・・。うえぇぇぇぇんっ) (蘭にいいこと教えてやるよ。実はな、この人形を何でお前にプレゼントしたのかというとな・・・。) ・・・・新一・・・・!! 蘭はスクッと立ち上がった。 「ど・・・どうした?蘭・・・!」 手術室前のベンチで一緒に座っていた小五郎がビックリして言った。 「・・・・もしかしたら・・・新一は・・・!」 全てを言わず、蘭は走り去ってしまった。 「・・・・蘭の奴・・・どうしたんだ・・・?『新一は』って・・・・。」 その頃、平次は立ち上がろうと必死だった。 「早く・・・医者がいない今のうちに・・・!・・・うぐっ・・・!」 だが、傷が痛んで起き上がれない。 「くそ・・・もしかしたら・・・工藤が・・・!!イタタタタ・・・・」 バタンッ!! 病室のドアが勢いよくあいた。 「え?」 「平ちゃん!!」 「大滝ハン・・・!?どないしたんや?」 そこには、汗だくで息のあがりきった、大滝刑事がいた。 「毛利さんとこのボウズが・・・・包丁で刺されたんや!!」 「な・・・何やて!?」 ・・・夢と同じ事が・・・・! 「今そのボウズはどこや!?」 「ぇ・・・ここと同じ病院やけど・・・」 「く・・・なら今からそこ行くで!案内せぇ!」 「だ・・・ダメや!平ちゃんはそこを動いたらアカン!!」 「俺はイジでも・・・イタタタタタ!」 傷口が傷む。 「平ちゃんも重症なんや!そこにおった方がええ!」 「くそ・・・・くそ・・・・!!」 ・・・・・工藤・・・!死ぬんやないで・・・!! タッタッタッタッタッタッタ... 「はぁ・・はぁ・・・お父さん・・・コナン君は・・・まだ無事・・・!?」 蘭は息を荒げながら言った。 静かな病院内では、それが物凄く響いていた。 「ま・・・まだ分からんが・・・今までどこに行ってたんだ。」 その質問に答えず、手術室の扉の前に立った。 ・・・今・・・助けてあげるからね・・・・。 荒い息で震える手には、ある人形が握り締められていた。 そう。 小学生の頃に貰った、あの人形を・・・。 その人形は、何年も前にもらったものなのに、とても綺麗で、汚れ一つついていなかった。 まるでずっと大切に扱われてるかのように。 ゆっくり、まだ「手術中」のランプが点灯している扉を開けた。 「ちょっと君!勝手に入ってきちゃダメだよ!今すぐ出なさい!」 声を荒げる医者の声は、もう蘭の耳には入っていなかった。 目に映るものは、目の前の子供。 懐かしい顔。 「ちょっと!君!早く出て・・・・・・」 医者たちは、神聖な光景に、言葉を詰まらせた。 彼女に握られていた人形が、そっと少年の顔の横に添えられた。 静かに。 音もたてず。 ゆっくりと。 優しい手つきで、添えられた。 彼女は、とても優しい顔を浮かべていた。 ・・・・・・・天使・・・・・・・ その場にいた者全員が、そう思った。 (蘭にいいこと教えてやるよ。実はな、この人形を何でお前にプレゼントしたのかというとな・・・。) (うん・・・) (蘭を守るためなんだ!) (・・・どういうこと?) (俺も、この人形で命が助かった事があるんだ。高いところにある父さんの小説を読もうと、ハシゴをかけて登った時、運悪く足を滑らしちまったんだ。) (・・・だ・・・大丈夫だったの?) (その前日に母さんから貰った人形を、その時手に握ってたんだよ。それが落ちたときにクッションになったんだ。) (へぇ・・・) (だから蘭に、この人形を「お守り」としてあげたんだよ!そのお陰で、お前は階段から落ちても助かったんだろ?) (・・・フフッ・・・何よ・・・偉そうにして・・・・) (やっと笑ったな!まぁその人形は二代目だが、きっと蘭のことを守ってくれるさ!俺がそう祈りをこめたからな!) (・・・・うんっ!) ピッピッピッピッピッピ..... 心電図が再び、一定間隔の音を奏でだした。 それは、天使をみた一同が静かになった瞬間だった。 「う・・・動いた・・・・」 医者たちの間では、「もう無理だ」と話されていた矢先だった。 天使がゆっくりと振り向き、手術室の出口にむかって、ゆっくりと、そして静かに、歩き出した。 その瞬間、ハッとして医者たちが騒ぎ始めた。 「よ・・・よし!このまま手術を続けるぞ!」 「心臓がまた動き出したんだ!止まらないうちに終らせるぞ!」 騒ぎ始めた医者を背に、蘭はゆっくりと手術室を出た。 その優しい笑みを浮かべた口横に、一筋の涙が伝っていた。 ・・・・ここは・・・・。 コナンが意識を取り戻した。 1週間眠っていたが、やっと目を覚ました。 ・・・・ここは・・・病室・・・・。 ・・・俺は・・・助かったのか・・・・。 ・・・・奇跡かな・・・・。 ふと横に目をやると、そこにはどこか懐かしい人形と、疲れて眠ってしまっている蘭の姿があった。 ・・・・この人形は・・・・・。 この瞬間、コナンは全てを悟った。 病室の窓からは、暖かい光が差し込み、その窓から入ってくる、やわらかい風がカーテンをゆらゆらと揺らしていた。 まさに天国・・・。 そう思うほど、神聖な空間だった。 その天国には、やさしい顔を浮かべて眠っている天使がいた。 コナンは、この天使をやさしくほほ笑みながら見つめた。 サンキュー・・・・蘭・・・・ 俺が助かったのは・・・ お前が祈りを込めて、俺の傍に置いてくれた・・・・ お前の気持ちと思い出が詰まった、この人形のお陰だよ・・・・。
Fin.
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いやぁ・・・疲れたw 長すぎたかも・・・今回の小説・・・^^; 多少、小説じゃ分かりにくい表現があったのはスイマセンでしたw 「服部はどーなったの!?」とか、「別にこの19巻の事件じゃなくても、この小説できたんじゃない!?」とかいう意見は受付けませんのでご了承くださいませw 後、蘭にコナンの正体がバレたかどうかは、読者の判断にお任せします。 では!(逃w |