日中環境戦略研究家 環境新聞「中国の最新環境事情」連載寄稿記事
連載第3回(2005年7月6日)
環境ビジネス 年率15〜25%の高い成長
環境産業の総収入2700億元超
5月に中国環境保護総局系列の業界団体である中国環境保護産業協会が中国環境産業発展レポートを公表した。今回は、このレポートを参考に昨年の中国環境ビジネス動向を紹介する。
昨年の環境産業業界の総収入は2700億元を超え、各環境産業の年増加率は15〜25%と、全国GDP成長率よりはるかに高い。昨年、中国環境汚染対策事業の投資総額は1910億元で前年比17.3%増、これはGDPの1.4%を占める。
昨年の中国環境産業動向には、以下の特徴がある。
@どの分野も15〜20%の高い成長率を維持している。排煙脱硫、電気集塵、バグフィルター、水処理等は20%を超える成長率であった。特に火力発電所排煙脱硫の市場は最も高い成長率を維持してきた。
A各分野の専門性が高まった。各メーカーは、従来の多角経営方針から得意分野に特化した生産経営方針へと転換した。ブランド意識や品質に対する意識も向上した。
B各種の国内外の資金が引き続き都市環境インフラ市場に流れ込んできた。実力を備えた企業集団がゴミ処理場、都市汚水処理場、医療廃棄物場等公共事業に参入した。
C注目を集める重要技術と設備は輸入に頼り、自主開発能力も先進国と比べて大きく遅れている。
D金属等鋼材価格が高騰し、生産メーカーの販売量は増えているものの利潤は減少している。
発電所排煙脱硫 前年比7倍に
昨年の各環境分野の重点市場分析は以下の通り。
@汚水処理分野
伸びは大きく、建設事業請負額は3割増、製品販売額も25%増、汚水処理分野全体では25%〜30%の伸びが見られる。水関連産業は一方では良好な長期的投資の見通しがあるが、また一方では法整備や管理体制の遅れによる市場投機の影やハイリスクハイリターンの局面もある。全体的には、昨年中国の水関連産業は市場経済化の初期段階にあり、対外開放、ハイリスクハイリターンという特徴がある。
A大気汚染防止分野
火力発電所排煙脱硫分野では、昨年12月末までに排煙脱硫導入済みまたは導入中の火力発電所の発電容量は累計13万3832MWになった。導入済みは1万6065MWで、全火力発電所発電容量の4.9%を占める。湿式が主流である。昨年の契約総額は310億元で、前年比7倍となった。主要技術はドイツ、米国、日本、イタリア、オーストリア、スウェーデン、韓国から導入しているが、導入技術の重複も多く見られる。脱硫市場の価格競争は一層激しくなってきた。
電気集塵機分野では、金属等鋼材価格の高騰で、試練に直面した。全国工業経済連合会は中国環保産業協会に「鋼材価格高騰で集塵装置産業に存亡の危機」というレポートを送付していた。しかし各方面の理解と協力により、この難関を越えることができた。03年の契約額は80億元近くで、04年には100億元の大台を超えた。また昨年は専門化、集中化が進み、上位三社で契約総額の半分を占めている。
バグフィルター分野では、製鉄、セメント、電解アルミ、電力等の業界の好調さに支えられて年生産総額が50億元を超えた。これは前年比50%増である。輸出量も前年比65%増である。
排気ガス浄化の分野は、安定的成長であった。中でも飲食業油煙浄化市場は、飲食業排出基準の制定のために伸びが著しい。
ゴミ焼却処理の需要も増加
B固形廃棄物処理分野
昨年8月に公表された都市建設統計年報によると、全国都市ごみ処理場は575ヵ所、ゴミ処理能力は日量21.9万トン、都市ごみ処理率49.7%である。昨年建設された埋立場ガス発電所は5ヵ所、総発電容量は4万kWである。またごみ焼却処理の需要も増えつつあり、昨年建設された大型集中生活ゴミ燃焼場は5ヵ所、処理能力は日量3900トン。昨年建設中が9ヵ所以上、処理能力は日量5400トン以上となっている。昨年メディアで合肥、山西省運城、四川省等の堆肥処理をメインとする処理場が正常に稼動していないという事件が発覚して以来、堆肥処理の市場は低迷している。
危険廃棄物処理分野では、今年初めに国務院が「全国危険廃棄物・医療廃棄物処分施設建設計画」を批准し、全国で31の総合危険廃棄物処分センター、300の医療廃棄物集中処分施設と31の省級放射性廃棄物保管庫を建設する計画を立てた。しかし資金不足等の影響で、建設は遅れている。立地や廃棄物の構成、特性、数量、適切な処理方法等でも困難を抱えている。
C環境モニタリング分野
中国の固定汚染源連続自動モニタリングシステムは、01年の蘇州全国環境モニタリング会議以降、急速に導入が進んでいる。国産の連続自動モニタリングシステムの市場開放と企業間競争の激化により、海外のシステムの価格も下落している。この分野全体では販売総数は大幅に増えているが、単価が下がっており、販売総額はそれほど多く増加していない。
表1.環境汚染対策事業の市場動向
|
事業 |
環境投資 |
|||||||
|
2000年 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
|||||
|
額(億元) |
割合(%) |
額(億元) |
割合(%) |
額(億元) |
割合(%) |
額(億元) |
割合(%) |
|
|
総額 |
1060.7 |
|
1363.1 |
|
1627.3 |
|
1908.6 |
|
|
環境インフラ |
561.3 |
52.9 |
785.3 |
57.6 |
1072.0 |
65.9 |
1140.0 |
59.8 |
|
既存汚染源対策 |
239.4 |
22.5 |
188.4 |
13.8 |
221.8 |
13.6 |
308.1 |
16.1 |
|
新規事業汚染対策 |
260.0 |
24.5 |
389.7 |
28.6 |
333.5 |
20.5 |
460.5 |
24.1 |
|
環境製品・サービス市場(億元) |
450〜580 |
600〜750 |
730〜890 |
850〜1050 |
||||
|
2000年比成長率 |
/ |
約28% |
約53% |
約80% |
||||
出典:中国環境保護産業協会 中国環境産業発展レポート(2005)
連載第2回(2005年6月8日)
環境研究機関の現状 民営化で競争激化、格差も
中国科学院、環境保護総局など6系列
今回は、中国の環境研究機関の現状について整理する。
現在中国では「市場化」という言葉が良く使われる。これは民営化、産業化といった意味だが、特に国営企業の民営化改革が日本では注目される。この動きは研究機関も同様である。第九次5か年計画(96年〜2000年)後半の1999年から2000年にかけて、朱鎔基総理は合計376の国の研究機関の民営化等を行い、市場と研究との、一層の緊密化による、研究成果の産業化と社会経済への還元を目指した。その手法は研究機関にお金儲けの自由を与える代わりに、人員を削減し、予算も大幅カットという大胆で厳しいものであった。このため、研究機関同士の競争が激しくなり、格差も拡大している。中国研究機関とのつきあいには、以上の状況を踏まえた対応が必要である。
次に中国の環境研究機関をまとめると、中国科学院系列、環境保護総局系列、他の省庁系列、大学系列、民間系列、その他と6つに大別できる。
第一の中国科学院は、国務院系列の研究機関である。その数は多く研究レベルも高く、北京だけでも40以上の研究所を有する。環境に限れば、生態環境研究センターが環境・生態系研究の中心的存在になっている。その他、北京では化学研究所、大気物理研究所、リモートセンシング応用研究所、植物研究所、地理科学・資源研究所等が環境・生態系研究を手がける。地方では、山西石炭化学研究所、海洋研究所、東北地理・農業生態研究所、南京土壌研究所、水生生物研究所、広州エネルギー研究所、寒区旱区環境工程研究所等がある。
第二は環境保護総局系列の研究機関である。その中心的存在は北京の中国環境科学研究院である。地方には南京、華南の両環境科学研究所も擁している。日本のODAで建てられた環保総局直属機関である日中友好環境保全センターにも、環境経済研究センター等の研究機関がある。地方には各地の環保局直属の研究所があり、例えば北京市には北京市環境科学研究所があり、遼寧省には遼寧省環境科学研究所や瀋陽市環境科学研究所、大連市環境科学研究所等省と市の研究所を有している。
第三は他の省庁系列の研究機関である。各省庁は独自の研究機関を持っている。従来、環境研究はなかったが、環境重視の流れの中で、各機関の得意分野を生かす形で環境研究を手がけるようになった。環境保護総局の場合と同様、中央所属のもの、地方所属のものもあるので、その数は多い。以下、中央省庁系の環境研究機関の一部を列挙する。
国家発展改革委員会:エネルギー研究所、発展研究センター
林業局:中国林業科学研究院、経済発展研究センター
水利部:中国水利水電科学研究院、長江水資源保護科学研究所
気象局:気象科学研究院
建設部:中国建築材料科学研究院
農業部:中国農業科学院、計画設計研究院
国家品質監督検疫検査総局:中国標準化研究院
北京市を例に地方級省庁系研究機関を挙げると、北京市建築材料科学研究所、北京有色金属設計研究総院、北京市労働保護科学研究所、北京市市政工程設計研究総院、北京紡績環境保護センター、北京市水利科学研究所等が挙げられる。
第四は大学系列である。近年は総合大学化の流れにあり、環境学部学科のある大学も増えている。環境に強い大学は、清華大、北京大、同済大、南開大、南京大、浙江大、ハルビン工業大、北京師範大、人民大、武漢大等である。その他、個別の分野で非常に優れた大学も多数存在する。
第五は民間の研究所である。国電環境保護研究所等の企業系、北京天恒可持続発展研究所等のNGO系の研究所がある。後者は、兼職で勤務している人が多い。企業系は、他の研究機関から独立してできたものも多い。
第六はその他として、軍系列の人民解放軍環境科学研究センター、五州工程設計研究院、国務院所属の中国社会科学院系列の環境・発展研究センター等がある。ただ軍系列は、民間では近づきにくい。
研究機関が多数存在 水準など北京が優位
以上から、中国の環境分野の研究機関は非常に多いことがわかる。ただレベルは、環境に限らず科学技術分野全般で国際的にまだ高くはない。地域別では、研究機関や研究者の数、研究レベル、予算、国家政策への反映されやすさ等で北京がかなり優位にある。
最後にこれら研究機関を評価する際の基準としては、院士(中国科学院・中国工程院の会員。科学技術分野で最高の権威ある称号)の数、博士課程を指導できる「博士生導師」教授の数、重点実験室(国家−省庁別−地方級)、SCI論文数等がある。エネルギー関連の環境問題では発展改革委員会のエネルギー研究所が強いように、元来の専門分野に由来する環境研究を得意とする点も重要である。
中国2004年環境科学・工学ランキング
| 順位 | 名前 | 順位 | 名前 |
| 1 | 浙江大学 | 6 | ハルビン工業大学 |
| 2 | 中国科学院生態環境研究センター | 7 | 北京師範大学 |
| 3 | 清華大学 | 8 | 南京大学 |
| 4 | 同済大学 | 9 | 南開大学 |
| 5 | 北京大学 | 10 | 中国海洋大学 |
出典:中国大学・研究機関教育評価所データ2004
中国の教授系統、研究系統、エンジニア系統の職階
|
教授系統 |
研究系統 |
エンジニア系統 |
|
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教授級 |
教授 |
研究員 |
教授級高級工程師 |
|
助教授級 |
副教授 |
副研究員 |
高級工程師(高工) |
|
講師級 |
講師 |
助理研究員(助研) |
工程師 |
|
助手級 |
助教 |
実験員 |
助理工程師 |
連載第1回(2005年5月11日)
潘岳・環境副大臣の姿勢 環境政策の方向性を示唆
環境アセス法違反の電力建設プロを公表
2005年1月18日、国家環境保護総局は環境アセスメント法違反の電力建設プロジェクトの名簿30件を公表し、行政処分を行う姿勢を示した。内訳は火力発電所20件、水力発電所3件、送電3件、他に石油化学、製紙、道路、堤防など。今回公開された名簿の中、一部の発電所では、環境影響評価書を提出せずに、建設工事・操業開始をしたことが国家環境保護総局の調査で分かった。
環保総局はさらに2月16日に46ヶ所の脱硫装置の未導入発電所の名簿を公表した。全国の5大発電集団公司(華電集団、華能集団、国電集団、大唐集団、中電投集団)19社の発電所が名簿に入っていた。
中国環境アセスメント法は、2003年9月に施行され、このときが初めての大規模な取締りであった。この取締りは、中国のメディアでも大きく報じられ、2004年に吹き荒れた「審計風暴」(多くの機関、企業で大規模、厳格に実施された腐敗の有無を調べる監査)に続く「環保風暴」(環境対策のあらし)とされ、日本の新聞でも報道された。日本の新聞では、景気の加熱抑制策として実施されたという分析が紹介された。
しかしこれら違法事業を発表した環保総局のスポークスマンを務める潘岳・副局長(環境副大臣)に焦点を当てた日本のメディアは少ない。潘氏はもともと環境部門上がりではなく、従軍経験をもち、中国環境報、中国青年報副編集長、国家国有資産管理局副局長、国家品質技術監督局副局長、国務院経済体制改革室副主任を歴任、2003年3月に環境保護総局副局長に43歳の若さで就任した。そして潘氏はこれまで何度も議論を巻き起こしている。
例えば、潘氏は中国環境報という官製の環境新聞の設立に関わり、同報の第一号記者となった。数多くの現地取材で無数の環境違法行為を目にし、ある時、雲南省の環境汚染事件に対する暴露、批判の記事を書いたところ、逆に雲南省から告訴され、危うく記者生命を失うところだった。しかし潘氏はこのことを後悔せず、むしろ誇りにしているようである。環境保全に対する積極的な姿勢は、この環境報記者時代の経験が大きいように思われる。その後も、中国青年報時代に若者に自由な議論ができる場を提供したり、国内であまり注目されなかった国有資産流失問題を大々的に提起したり、偽造品取締り活動を展開したりして、議論を巻き起こし、国民の注目を集めた。
電力業界は李鵬元首相との関係が深いとされ、権限の弱い環保総局が、環境アセス不備という理由であろうと発電所建設停止命令を出すのは困難である。マクロ経済部門出身の潘氏がいたから可能であったとも言える。それでも環保総局の越権行為だ、電力需要が逼迫している今はやるべきではない、改革は徐々に進めるべきとの批判も尽きない。潘氏は、法律に基づいての取締りであり、本来の役割を果たしたに過ぎない、現在の発電所建設計画は過多で数年後に電力供給過剰になると反論する。この環保総局の姿勢は温家宝首相の注目を引き、温首相も高く評価している。
持続的発展社会の実現目指す
潘氏の目指しているのは、政府が提唱している科学的発展観(バランスの取れた経済発展を強調)に基づく持続的発展社会の実現である。この姿勢は、どの部門に在籍してようと一貫している。環保総局副局長である今、環境保全という切り口からこの持続的発展社会の実現を進めようとしている。一人当たりGDPが8000〜1万ドルになってから環境問題を解決できるとする先進国モデルと比べ、中国東部発展地区でさえ同3000ドル程度なのに環境問題が深刻化しており、このモデルは中国に適用不可能であり、このままで経済発展を続ければ環境問題は危機的になるという意識を持っている。また特に環境法制度整備、市民参加に入れている。環境アセス体系への公聴会導入、大学の環境クラブ幹部研修の開催、芸能人による環境意識向上の活動を展開する環境文化促進会の主宰など、中にはユニークな事業もあり、環保総局職員の一人は潘副局長就任以来、環保総局の雰囲気がよくなったと証言している。
環境アセス違法事業の公表以来、中国の多くの環境NGOも潘氏を強く支持する姿勢を示しており、潘氏の今後の動向は、中国環境政策の方向性を示すものとして、注目に値する。