ああでもなくこうでもなく5 このストレスな社会!2006

 第5巻。オミカンヒメが個人的に面白く読んだ11箇所を、ピンポイント紹介。

1 長崎県佐世保市の女児(小6)による同級生殺害事件
 男の子の悲劇は自分の中への「大人」の訪れに戸惑い、「子供」のまま凶行に及ぶことである。しかし、女の子の悲劇は、「放置されるとさっさと大人になってしまう」ことにある。
 好きなバスケットボースをやっていられた時は「子供」でいられた女の子が、それをやめさせられると、あっという間に「大人」「人間関係の中で孤立させられた中年女」になってしまう。
 子供から大人への移行期間はもっとゆったりとあってしかるべきなのに、とても危険。


2 皇位継承問題
(1)皇太子が皇太子妃を守るためにした発言「雅子のキャリアや人格を否定するような動きがあったことは確かです」について
 「言うべきことは言う」を実践してしまった皇太子の発言は、皇太子を取り囲む官僚制度が皇太子という一人の人間のあり方をフォローできなくなっていることを示す。
(2)天皇は歴史によれば、男系男子に限定されない。
 たとえば、聖武天皇。文武天皇の皇子で、形式上は男系だが、即位の経緯を考えると、実質的には持統女帝・元明女帝の女系である。


3 「勝ち組・負け組み」「格差社会」分類法の考察
(1) 「勝ち組・負け組」の二分法は汚らわしい。が、「嫌いだ」と言っても、その唾棄すべき愚かな二分法を追認する結果にしかならない。
 人生に勝ち・負けがあるなら、「勝ち=自分の運命に対して勝った」「負け=生き方が中途半端だった」しかない。
(2)今までの日本だって格差社会だった。バブルへ経済へ向かう「一億総中流」の一時期にだけ、「格差」がなくなっただけかもしれない。「格差社会」を乗りきるために必要なのは、「一億総中流」によって失われた「それぞれ性」を回復すること。「崩れた中流性」を前提に「格差社会」などという文句は言わないのが一番である。

 
4 拉致被害者の曽我ひとみさんへの感動
 「不幸」を乗り越えないと大人にはなれない。「不幸を自覚すること」は「自分の存在する社会のあり方と対決する」ということで、曽我さんのすごさはこれである。彼女の全身から、突如「生身の人間であること」が「生身の人間であることを封じられていた長い時間」を突き破って溢れ出るように思え、橋本治は涙が溢れることがある。


5 新潟中越大地震から派生して、「働く」の意味
 被災の老人は元気。雇用型・企業型人間はすぐ落ち込むが、生産手段と共に生きている人間はそう簡単に落ち込めない。強い。
 町工場などの小規模自営業者にとって、「仕事を畳む」はどのようなことか。そもそも、労力の割りに金が儲からない仕事であった以上、問題は金ではない。問題は、人生の意義の喪失なのである。これが進むと、日本経済から「働く」が失われてしまう。
 解決策は、企業規模を小さくし、日本人の生活レベルを低下させること。
 しんどい仕事というのは、若いうちに身につけて「当たり前」にしておかないと、やり続けられない。


6 疲労して仕事が出来なくなった時の打開行動
 50代後半の橋本治は、仕事のし過ぎで疲労し、なにも出来ない状態を何日も続けて「なにも出来ない」の自覚が生まれると、その後は眠ってばかりいて、眠ってばかりいると微妙にウツ状態になり、「ちょっと起きれるかな」状態になったら、仕事をするのをあきらめて「他のことをしよう」と考えて、大掃除を始めた。という、仕事で疲労しながら休息をためらう人間にとって参考になるようなエピソード。


7 ホリエモンのライブドア騒動
(1)イラク戦争との対比
  ライブドア=アメリカ
  ニッポン放送=フセイン政権
  ライブドアの狙いは、ニッポン放送そのものではなくて、ニッポン放送の所有するフジテレビ株=アメリカの狙いは、フセイン政権ではなくてイラクの石油
  スローガン「メディアとネットの融合」=スローガン「イラク国民に自由を」
(2)
 「メディアとネット」は後者が前者の一種なのに別物にされている点で、1960年代終わりの「活字文化とマンガ」に似ている。フジサンケイグループに嫌われて、「ネットとメディアの融合」を言い出したライブドア社長は時々発作的に「仲良くしようよって言ってるだけじゃないですか」と言っていた。この彼独特な幼児的表現は、高度成長で完成してしまった日本社会が、実に多くのものを無関心という形で拒絶してきたことを表す。


8 大人が子供を襲う犯罪
 なぜ、ある種の人間は、「子供」や子供のいる「学校」を襲うのか?
 その答は「子供への嫉妬」である。
 なぜなら、「子供の時代」がそれ自体で完結し、「生きにくいかもしれない現実」とつながっていないから、「こどもの世界」を出たあと「生きにくい現実に対して生きる」という方向付けがない。幸福なイメージが「子供時代」にしかないからである。


9 小泉純一郎による郵政解散と圧勝
 「敵の妨害に屈せず、私は改革をやり抜く!」で当然、小泉は勝った。
少なくとも自民党は、「小泉純一郎を生む」という自浄能力を持っていた。やがてはこれが「自壊作用」へと向かう。しかし、野党の民主党にはその自浄能力もないのである。


10 耐震強度偽造問題と、劣等感をもちこたえる体力と、組織ぐるみ
 わからないこと・むずかしいこと・知らないこと、は劣等感を抱かせる。「自分にはわからないことがある」という劣等感を保持しても平気でいられる体力が、思考する体力である。
 劣等感をもちこたえる体力のない人間は、わからないこと・むずかしいこと・知らないことを「ないこと」にしてしまう。

 日本のビルが10階程度だった時代に合わせて、「一級建築士」という資格があった。
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 そこへ、20階30階が当たり前という現実が押し寄せる。
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 「やったことがない」「わからない」「どうすればいい」
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 選択肢は「一から勉強し直す」しかない筈。しかし「わからないからずるをしてごまかす」という選択をしてしまう人間も出てくる。
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 「一人のアネハ」の周囲には、気がつかない検査機関や、疑問に思わない施工主・建築業者がいた。
 また、アネハは一人だが、不祥事の社会保険庁の職員は複数である。
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 社会には、「ずるをしてごまかす」を阻止する力がなくなっている。


11 テロリズム解消策
 テロリストには国家となる力はないから、国家となることを目指さない。しかし、目指せないことに由来する欲求不満は残るから、攻撃だけは続ける。となるとテロリストは自己完結してしまう。
 改善策は、強者である国家の譲歩にしかない。
 しかし、強者が欲で固まっていて譲歩をしないのである。




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