BA−BAH(ばばあ)その他(2006)
【内容紹介】
14の短篇。これらは、50代後半となった橋本治が、若き30代40代に書いた鋭い文章を原型に、夢のある短篇にアレンジしたもの。
この視点から、全14作中6作を紹介する。
第14作「BA−BAH(ばばあ)」が最も傑作で、次に第2作「処女の惑星」が傑作である。
2 処女の惑星
【あらすじ】
「男」が絶滅後の地球。「母」の適性があると選抜された娘達が、処女生殖によって娘達を生む。
文明という伝染病も癒え、自然の中で人間=女達は暮らし、生計は第一次産業とリサイクル産業で立てる。
かつて個人と個人の間にあった「愛情」というものは、社会のいたるところにあり、相互扶助がゆきとどいている。
しかし、海の向こうの謎の大陸には、「男が生まれるかもしれない」と願う不思議な女達が集まり住むという。
【考察】
原型は、『’89』(1990)第二部「セクハラしない男っているのか?あるいは、さまよえる欲望の論理」と思われる。そこには、「セクハラ」を過度に言い立てると、この世から「男」というものが絶滅してしまう旨書かれている。
【感想】
印象的なのは、「天使」が初受胎間近の娘を諭す箇所。「緊張が消えなくてもよい。必要な緊張だから消えない」と諭す。
余談だが、「タロウ」はウルトラマンタロウで、「ムサシ」は高橋美由紀『9番目のムサシ』だろうか?
6 裏庭(バックヤード)
【あらすじ】
中学生らしき主人公「僕」はある日、ふとしたことで、自分の住む世界「ドーム」の壁を開けてしまう。ドームの外にも空は広がり、太陽は輝いていて・・・
【考察】
自分の住む世界が作り物だった、というSFは別に珍しくない。例えば、レイ・ブラッドベリ『びっくり箱』は母親と共に住む建物を「宇宙」と思って13歳まで育つ少年の物語。
しかし、『裏庭(バックヤード)』においては、SFであることは重要ではない。テーマは自分の外の世界へ目を向け、自分の外へ出てみよう、いう啓蒙と思われる。
このように考えると、原型も推察がつく。『失楽園の向こう側』(2006)第2章の、産業社会というドーム都市の外を生きていく前提としなければならないというテーマであろう。このテーマは『失楽園の向こう側』の以前にも『89』(1990)第6章や『ぼくらの最終戦争』(1995)第6章等でも書かれてはきた。
7 孤帝記
【あらすじ】
狂気の帝・○○天皇。
少年時代の○○天皇は、奇行で知られる。東宮である少年は、女に囲まれた世界で「自分」というものを奪われ、鬱屈し・・・
【考察】
原型は、『源氏供養』上巻(1993)その十・二十九「狂気の帝がいた」と思われる。その中では、近代以前と近代以後とで、思春期のセクシュアリティ確立の仕方が比較されている。
比較すると、
近代以前:自分よりも身分の低い人間を使用して、自分の肉体性を育てる
近代以後:孤独という空間の中で同じことをする
○○天皇の少年時代は、近代以前の仕方に不適合だったサンプル。
9 組長のはまったガンダム(前篇)
1979(昭和54)年、ヤクザの組長である一児の父(34歳)が、テレビアニメ『機動戦士ガンダム』に夢中になった。
指揮官に殴られるアムロ・レイに、父親に殴られた過去の自分を投影して、涙し。地球連邦に、退廃した官僚制を見て。また、地球連邦に対し独立宣言をしたジオン公国には、極道の侠気を見る。しかし、そのジオン公国にも歪みがあるのだった。
後篇へ続く。
【考察】
原型は『秘本世界生玉子』(1980)の「エロへ!『鬼畜』」と思われる。父親に虐待された過去を持つ男は、かつての自分の年頃の男児が虐待される映像に涙を流す、というテーマ。
12 火宅
「勉強しろと言う父」「家に火を点ける」「継母」「リセット」といった要素からして、明らかに2006年6月20日の奈良母子放火殺人にヒントを得ている。
凶悪な少年犯罪が起こって、犯罪少年と同年齢である少年少女は、友達同士で淡々と話題にする。横軸のダイアローグ。
【考察】
原型は、やはり実際の少年犯罪事件にモチーフを取った『サイモン&ガーファンクルズ・グレイテスト・ヒッツ+1』(1984)の「ボクサー」であろう。「ボクサー」では「勉強しろ」と言うのは東大教授の夫人だった祖母で、孫息子が殺すのもこの祖母である。
14 BA−BAH(ばばあ)
【内容紹介】
若者・中年の老いへの潜在的恐怖を、ギャグへ変容させたもの。醒めた中年らしいトーンが、物語の進行につれて若く幼く変調してゆく。
【考察】
原型は、『デビッド100コラム』(1985)第95章「若さを保つ10の秘訣」と思われる。若さを保つ秘訣のひとつは、さっさと歳を取ってしまうことである旨が書かれている。