今私たちが考えるべきこと2004
10年以上前の1993年、『浮上せよと活字は言う』の中で、橋本治は「男と女であれ、自と他であれ、二つの互いに反するものは、互いに他を補完するような形で存在すればいいーそれだけのことだ」と書いた。
本書は、この論理を詳細に展開している。挙げられる具体例は、「自分」対「他人」、「男」対「女」にもはやとどまらない。「独裁者」対「国の財政を考えない国民」、「自分のことは考えられるが全体が実感できない人」対「自分がなく全体は実感できる人」、「自分の頭でものを考えない前近代」対「自分の頭でものを考える近代」、へ敷衍していく。
そして、結論。「全体が個を圧殺する」も「個が全体を圧殺する」も悪であり、「答とは、自分と他人とで作り上げるものである」。
この結論は、連載中の『ああでもなくこうでもなく』でカリカチュア風に述べた、正解は自分とは関係ないところに確固としてあると思ってしまう「二十世紀病」を、教科書風に書き直したものともいえる。また、『世紀末親子の人生相談』に登場する母親の圧力により自分を抹殺してきた二十歳の女性が具体的根拠のひとつになっているであろう。
さらに、本書は、昨今の世界情勢の中で最も注目されているイラク戦争にも、当然のごとく踏み込む。イラク人と日本人の類似性は、かつて『ナインティーンズ』でも書かれた。すなわち、湾岸戦争中のイラク人と第2次世界大戦下の日本人は同じだと。神国を自称しているために降伏できないが、爆撃が怖くて声を殺して泣いているのだと。
挿絵は、長崎訓子。メルヘンタッチでありながら鋭さのある美しい絵。橋本治の文章を的確に絵画化してある。