双調平家物語15巻2007
最終巻。
【感想】
15巻の主人公は、オミカンヒメの読むところ、木曾義仲である。純情なイノシシ武者が、時代と状況に翻弄されて自滅してゆく歩みは、身につまされるところも多く、涙なしには読めない。
木曾義仲の生涯。源平の対立の時代に流されて仕方なく平氏と戦い、さして望みもしない勢力を得て、まるで暴走するように上洛したが、都に馴染めず、平氏を都から逐った功労を感謝されず、用済みの存在とされて戸惑い、都を去るという発想は浮かんだがそれも戦いという目的を付加した発想で、しなくてもいい戦いを平氏にしかけて惨敗となり、都で侮られる悲しさのあまりヤケクソのようなクーデターを起こして後白河院を幽閉したが、クーデター自体にそもそも目的がなかったものだから、都のすべてを手に入れても困るばかりで、狡猾な前関白の政略の手段として利用され、気がつけば鎌倉の頼朝を敵にまわして窮地に陥ってしまっており、錯乱して平氏へ和睦を申し入れたり(しかも平氏からさえも拒否される)後白河院の幽閉を解除したり、都人を演じて疲れ、余り物のように与えられた前関白の娘だけに安らぎを感じ、とうとう鎌倉軍が都に上ってくると、後白河院に見捨てられ、討ち死にする。
目的も必然性もない戦いを戦い、自分ではないものを演じようとして疲労してゆく義仲。その自滅への道は、いたましく無残である。場に適応しよう、建設的であろう、として空振りを繰り返す義仲の悲劇は、胸の痛みを感じずしては到底読めない。
双調平家物語全編で最大の悲哀の人は、この15巻の木曾義仲であるとオミカンヒメは断言する。
【ソージョー・ヘイケ・ストーリーズ シーズン15 予告編】
夜の船旅。月のない海を渡り、源氏の棟梁が現れる。
三浦の一族(泣いている)「佐(すけ)殿はいずこに?」
源頼朝「嘆かずともよい!前の右兵衛権佐、これにあるわ!」
利欲だけの東国の男達に囲まれて、頼朝の決意。
(侮られてはならない。どこまでも威厳をもって強くあらねばならない)
富士川。水鳥の飛び立ち。平氏軍はてんでんに逃げ失せる。
平維盛(イケメンである)「何事?」
「敵襲にございます」
清盛(床を蹴って)「なにゆえに戦わずして逃げたか?」
鎧姿の異母弟・義経を淡々と迎える頼朝。
清盛「我こそは帝都を率いる者!そむく者は倒す!」
福原から平安京へ還都の列。苦笑している高倉上皇(20歳)。
清盛「以仁王を擁した三井寺を討て!」
平氏の放った火で炎上する三井寺。
しかし、聖域に火をかけて、ひそかに悔やんでいる清盛。
重体の高倉上皇。
平宗盛「新院はご重態。代わって一院(後白河院)のおそばへ」
身を震わせて拒む、宗盛の妹・中宮徳子(27歳)。
倒れ込む清盛(64歳)「院へ奏させい、わが亡き後は、必ず宗盛をお用いあらせられませ。天下のこと、よろしく宗盛と、お諮りあられませ、と」
清盛の枕辺にいる妻・二位の尼。
清盛(亡き嫡男を呼ぶ)「重盛は?重盛はいずれか?」
凍りついて顔を見合わせる妻と息子達。
清盛(目を見開いて)「我が亡き後、頼朝の首、墓に懸けい」
清盛の目に映るのは、幼い日、養母・祗園女御の邸の床下でひとり見た、蓬の葉。やがて闇。
宗盛「故入道の遺言でございます。なにとぞ、今一度、御世を知らしめられますよう」
後白河院「いかにも、さよういたすであろう」
驚いて顔を上げる宗盛。
後白河院(この愚かな者と、天下を諮れとは―)
(ナレーション)
頼朝の従弟・木曾義仲は、平氏との戦いを望んでいなかった。彼が望んだものは、源氏の一族としての自分自身を保ち、木曾の地にあって自身の勢力を維持することであった。
しかし、源氏と平氏の対立が歴然とした時、義仲は時代状況に翻弄されるようにして、平氏と戦い、勢力を拡大してゆく。
義仲「鎌倉殿へ二心いたす所存はござらん。鎌倉殿へお仕えし、平氏を倒す時を待ちますばかり。義仲に二心のあらん時は、我が子・義高の命、失われても、左右なき事」
頼朝(都での相応な立場を得る事は、合戦に勝利することよりも難い)
平氏軍が大敗し、義仲が都へ進軍。
頼朝(義仲は、自滅への道を辿るであろう)
義仲が都を包囲。
維盛(イケメンである)「我等に勝ち目は無い。都から落ち行くしかない。あなたは都にお留まりあって、いかなる方とも添われ、幼い子達のご養育をお願いしたい」(=これからは各々がんばって生きていってください、解散!)
北の方(藤原成親の娘)「あまりの仰せ。なんたるお言葉を耳にいたしますことか」(泣き出す)
宗盛「お主上と院をお遷し奉る。西国へ赴かんと存ずる。」
夜明け、平氏一門の都落ちの手筈が整う。
「院のお行方が―」
輿に乗って行方をくらます後白河院。
宗盛(うろたえるが)「発つしかない」
明け方、平家一門は出発。同じ輿に乗る、安徳帝(6歳)と建礼門院(徳子)と、三種の神器。
平家一門の都落ちの列に、摂政・藤原基通。後白河院が行方をくらましたことを知って、不安な表情。
基通(車の揺れに身を任せながら)「このまま都を離れ、なにがどうなるのか?」
随身「お戻り遊ばしますか?」
基通(蒼ざめて)「一門は、どのように思うであろうか」
随身「さようなこと、鞭の一くれで、いかがともなりましょう」
牛飼いが、牛の尻に一鞭当てる。平氏一門の列から逆方向に逃げ出す、摂政・基通の車。
入京した義仲(30歳)に、後白河院は無関心。
(ナレーション)
後白河院の関心は、平氏腹の安徳帝の退位、そして新帝の即位。
高倉上皇の遺児の第4皇子が新帝に決定。後鳥羽帝である。
(ナレーション)
以仁王の遺児・北陸宮を新帝に、という義仲の希望は実現しない。
平氏を都から逐うことによって、義仲の役目は尽きたのである。
(ナレーション)
義仲に倦んじた後白河院は、義仲を制するために頼朝の上洛を考える。
この時から後白河院と頼朝との胸中の探り合いが始められたのである。
21世紀ウホックス
ミヤコウォーズ
ヤケクソのようなクーデター・・・
エピソード4
都に馴染めない義仲は西国へ平氏追討に向うが、
水島の合戦に大敗し悄然と都へ戻り、都人は義仲を侮り、平氏を都から
逐った功を用済みとして投げ捨てられて悲しむ義仲はクーデターを起して後白河院と後鳥羽帝を
幽閉し都のすべてを手にしたが、都の機構が理解できないからなにをどうすればよいのかさっぱりわからない。
義仲「摂政というものになろうと思うが、摂政とはいかなるものか?」
今井兼平(義仲の乳母子)「摂政とは藤原の家から出られますので、なられがたいものでございましょう」
義仲「さようか」
・・・・・・・・・・・・・・
したたかな前関白に利用されて・・・
エピソード5
困った義仲は前の関白・藤原基房を頼り、
したたかな基房は義仲を利用して三男の師家(12歳)を摂政にし、
その手際のよさに感心した義仲は基房の娘婿になりたいと申し入れ、基房は驚くが
手近な女房に手をつけて生ませた娘の一人や二人は惜しくないので義仲を婿として受け入れる。
平氏へ和睦を申し入れたが・・・
エピソード6
鎌倉の大軍が都へ上ってくることを予期する義仲は、
平氏へ和睦の書状を送り、愚かな宗盛は「これで都へ帰れる」と喜ぶが、
弟の知盛が「帝を擁する我等が義仲などに膝を屈するのは恥」と制止し、和睦はならぬのである。
武者としてのありようを捨て・・・
エピソード1
なしようのない義仲は「都人たらん」と振舞うようになり
後白河院の幽閉を解きうやうやしく仕え、基房の娘のところに入り浸り、
「征夷大将軍」の称号を求め、都の男達は「物知らずが古くて無意味な称号を欲しがっている」とOK。
鎌倉の大軍が都へ上がってくるだろうことを考えないようにして・・・
エピソード2
義仲が鎌倉軍のことを考えないようにして緊張が抜けた頃に
範頼・義経率いる鎌倉の大軍が都へ上がってきて、義仲は後白河院を擁して
逃げようとするが院の御所に入れず、乳母子の今井兼平と共に死ぬために都を抜け、琵琶湖畔で討ち死にする。
三種の神器の奪還を命じられるが・・・
エピソード3
義仲の死の2日後、13歳の師家が60日間の摂政の座を逐われ、
(後白河院のウホッ寵が後ろ盾の)無能なる前摂政・基通が復権。後白河院は範頼と義経に
三種の神器の奪還を命じ、範頼と義経は平氏追討へ向かうが、武を象徴する宝剣・天叢雲剣だけは、海に沈んで戻らない・・・・
BGM指揮 オミーカン・ヒメータ
【考察】
武を象徴する神器の喪失で終わる双調平家物語が、現代へ語りかけるメッセージとはどのようなものであろうか?
そもそも、双調平家物語(の日本史部分)は「王朝の栄華」という夢から始まる。
やがて、都に武者が現れると、「王朝の栄華」に、「武」が付加される。
藤原頼長・平清盛・平宗盛・木曾義仲・源義経らが、「天皇・上皇等の最高権力者によって担保される、王朝人とし
てのステータスと、武というパワーを兼備した栄華」を夢見て、一時的な栄華の時を得て、自滅へ進む。
ところで、現代では、「王朝の栄華」に該当するものは何であろうか?
身分制がない現代では、栄華とは第一に経済的なものであろう。過ぎ去ったバブル経済か?そして、バブル経済に類する、無謀な利潤追究か?
現代では、「武」に該当するものは何であろうか?
もちろん、軍事・戦争であろうか。憲法9条改正の動きが不気味に迫る2007年現在、臆病なオミカンヒメの背には悪寒が走る。冷たい海水のしぶきのような悪寒が。
考えてみたが正直、現代では「王朝の栄華」に該当するものが何か、臆病なオミカンヒメには、よくわからない。
しかし、「栄華」とは血生臭く愚かな悪夢である、と双調平家物語のオープニングとエンディングは語る。
したがって、双平家物語が「悪夢から覚醒せよ、悪夢に呑まれるな」というメッセージを、現代へ送っていることだけは
間違いないであろう。
とすれば、悪夢から覚醒するために、悪夢に呑まれないために、双調平家物語は手がかりを提示してくれている筈である。
手がかりとは、物語の大河の中を、生きて泳ぐ大勢の登場人物である。
なぜなら橋本治は「双調平家物語の登場人物に向って、こう言ってあげている。『確かにあなたはロクでもない生き方・死に
方をした。けれども、その生き方・死に方から他人が何かを学ぶことはできる。したがってあなたの人生は無駄ではない』」旨
語っているからである。
双調平家物語の登場人物達は、時間・場所の違いを越えて、同じ心理に陥ったり、同じ行為を演じる。
たとえば、「上皇の第一の臣になりたい、そうでなければ嫌だ」という心理は藤原頼長に顕著で、これはコピー&ペーストしたかのように平清盛にも生じている。
また、「目的もなく戦った果ての非業の死」は保元の乱の源為義だが、これもコピー&ペーストしたかのように孫・木曾義仲にも生じている。
オミカンヒメが、このようなコピー&ペーストから感じるのは、次のようなことである。
すなわち、願望したのが「藤原頼長」だろうが「平清盛」だろうが(あるいは「安禄山」であろうが)、それは重要ではない。
重要なのは、「力ある人の最愛の存在になって安心していたい」という安住願望は誰にでもあるということである。
また、それをしてしまったのが「源為義」だろうが、「木曾義仲」だろうが、それは重要ではない。重要なのは「目的もなく戦って、その結果、非業の死を遂げてしまう」という危険は誰にでもあるということである。
オミカンヒメにとっては、それが「誰」であるかは重要ではない。人はそういうものでもあると双調平家物語は語っている。重要なのは「そういうもの」というディテイルである。
そのようなディテイルを満載して双調平家物語は、登場人物の殆ど全員を「普通に存在する凡人」として描く。また、歴史的事件・事実の殆ど全てを「普通に起こり得る出来事」として淡々と描く。
誰もが何もが、平織物の目のように、小粒で平坦である。
凡人と凡庸な出来事で出来上がった双調平家物語から、凡人オミカンヒメが受け取る最大のメッセージは、次のようなものである。「王朝の終焉で終わる双調平家物語が重要なのではない。重要なのは、今生きていて、この先を生きていく普通の人―あなた自身である」