双調平家物語6巻2000
6巻は、我が国初の院政を開始した暴君・白河天皇の生涯。
6巻から、後三条天皇・白河天皇父子に代表されるテーマ「父と子の対立」が本番に入る。未熟な父と、愛されない息子。
後三条天皇は、生母が内親王であったため、摂関家(藤原氏北家嫡流)によって廃太子されかねない危機にさらされて育った。長じて後三条天皇は、藤原氏の経済的基盤を崩す名君となる。
しかし、人の子の父としての後三条天皇は、未熟な父であった。第一皇子を愛さず、晩年に寵愛した若い女が生んだ第二第三皇子を偏愛。
臨終の後三条上皇から白河天皇への遺言は、「東宮(上の弟)へ必ず譲位し、その東宮には下の弟を必ず立てるように」であった。
臨終の後三条上皇に異母弟達を託された時、白河天皇は未だ人の子の父ではなかった。やがて、白河天皇は苦悩する。「父院は、われに男御子が誕生した時のことをどのように考えていたのだろう」
父・後三条天皇の巻き添えを食って、白河天皇もまた摂関家によって冷遇されて育った。16歳まで親王宣下を受けることがなく、貧相で寂寥の幼少期少年期を送った。その寂寥の心をさらに歪めたのは、父・後三条上皇の上記遺言である。
遺言のその時点においては、白河天皇は父を絶対視していたため、その遺言を遵守し、異母弟達へ帝位を譲る予定だった。その時白河天皇は21歳。やがて、愛する中宮との間に皇子達が誕生。
父・後三条上皇の死から十数年後、中宮と東宮が相次いで急死。最愛の中宮の死を嘆き、白河天皇は引き篭もっていた。が、疎ましい弟の死を知らされ、元気づく。上の弟が死んだ以上、下の弟に帝位を譲れという父上皇の遺言は無効であると決めてしまう。
狂喜する白河天皇は、かくも長き父帝幻想から覚醒。亡父の遺言を破って、息子(堀河天皇)を即位させるのだった。
白河天皇は上皇となって、幼い天皇を守るため、我が国初の院政を開始。それは秩序の始まりではなく、秩序無き恐慌の始まりであった。
本文より・・・
「孤」と「貧」ーそれが繁茂する黴のごとく、白河の帝のお心を蝕んでいた。貧の記憶が、財と贅とをお求めになる。孤なる記憶が、やみくもなる人への好悪の因となる。(中略)「我が朝に比類のない帝王」と仰せられた方は、またそのようにも比類のないお方であった。(以上、本文より)
上記引用箇所は、第1巻の下記引用箇所を思い出させる。
第1巻序の巻「叛臣伝」本文より・・・
栄華とはまた、飢えの行き着く果てである。飢えに病んで、飢えの記憶を心に刻んで、人は、栄華なる過剰に群がる。飢えのもたらした傷の癒しを、栄華の輝きに求め見るからである。
しかし、富んでその傷は癒せるのであろうか。飢えの刻んだ傷は、心の奥底にある。(以上、本文より)
【少女漫画的な雑感】
6巻の前半は、後三条天皇と源基子カップル、若き白河天皇と中宮賢子カップルが、少女漫画のように甘いムード。中宮賢子を失った白河天皇の悲嘆は、まるで最初の后アナスタシアを失ったイヴァン雷帝である。また、6巻からは男色関係が登場。それは武士の世の予兆だが、ともかく6巻は妖艶で、百貨繚乱の少女漫画的大サービス。
その中で、白河天皇の女御の一人、藤原道子の描き方は辛辣で容赦ない。瀬戸内寂聴の『祇園女御』と対照的である。