窯変源氏物語11巻1992
【内容紹介】
オ−プニングはSF映画かホラー映画のように空想的だ。虚空を漂う光源氏は、自分を生み出した紫式部との決別を宣言し、女たちの妄想の生贄であることを拒絶する。自由になった光源氏は、のびやかに、物語の内に生み出される以前の月光のなかへ去っていく。それを見送った紫式部は、光源氏の物語の後に続く、自分自身へと続く物語を書き始めるのだった。
そもそも「雲隠」は、光源氏の死の時期にあたる帖である。紫式部の原典には帖名だけがあって、本文が存在しない。橋本治はこの帖を紫式部の一人称で創作した。
このように本書の「雲隠」の章は、橋本治の完全オリジナルである。語られるものは、紫式部が源氏物語を創作した必然性。紫式部日記を心理的に掘り下げてあるので、まるで本当に紫式部自身が語っているようだ。
亡き中宮定子への憧憬、幼い中宮彰子への幻滅。執筆中の物語世界と、宮仕えの現実生活。その間をさまよい迷う紫式部は、歴史上の超人的な才女ではなく、平成の日本社会を悩み生きる日本人に重なる。
栄華の藤原道長が多面体で描かれている。この人物描写は、橋本治が大鏡を熟読したことを示している。
原典にない帖の本文を作ってしまった橋本治を批判する声もある。しかし、そのような批判は「源氏物語ハ神聖ニシテ侵スベカラズ」のタブ−の奴隷でしかない。タブーを打ち破った本章は名文に満ち満ちている。
【感想】
オミカンヒメは、『窯変源氏物語』を読むか読まないか迷う人には、11巻の冒頭を読むことをお勧めする。なぜなら、光源氏誕生以前のカオスが、ここにある。11巻が、『窯変源氏物語』の母胎である。