ボクサーは拳で語り合う  
わたくし、今年度町内会自治会の班長をしております。主な仕事は自治会年会費の集金の他、 毎月の市の広報誌の各戸への配布、回覧板の管理、夏祭りや防災訓練等の地域行事の実行委員、などです。

さて、先月は「赤十字の寄付金集金」という仕事がありました。留守がちな家や、そもそも自治会に入っていない家など 色々なケースがありましたが、とりあえず期限までに集金を終わらせ、とりまとめの会長宅に届けに行くことになりました。

この会長さん、近所ではちょっとした有名人です。定年退職後の生活をとてもエンジョイしてそうな、 とっても明るく社交的なオジサマなんです。ある時はゴルフバックを担ぎ、またある時は収穫したばかりの大根を 何十本も運んで、楽しそうに出入りする姿をよく見かけます。 見た感じ60代半ば位かなと思っていたら、何と75才ということが最近わかり、腰が抜けそうな程驚きました。 また奥様も上品な感じで、素敵なご夫婦だなあと私は物陰から(?)密かに憧れていました。

さて、まずは電話して在宅を確認し、会長宅のインターフォンを鳴らします。

「こんにちは。乙女風味ですー。」
「はーい。ご苦労様ですー。」

集計表や台帳、お金等を渡し、ホッとして帰ろうとすると会長が言いました。

「今朝取ってきたキュウリあるけど、食べない?」
「食べます〜!いいんですか?」
「いーよ、ちょっと待ってて。」

すぐにビニール袋いっぱいの美味しそうなキュウリを手渡されました。 まだ砂が付いているし、イボイボも尖ってていかにも新鮮そう! 何と、キュウリの先端に黄色くしおれた花が付いたままのものまであります。 うわあ、これ子供に見せたいなあ。

「やっぱり味噌付けてそのまま食べるのがお勧めだねー。」
「とっても美味しそう!それに凄く立派ですねえー!!」
「そっかぁ〜?旦那のより立派かぁ〜?」


…?


…!


びっ、びっ、びっ、びっくりしたー!

不自然な一拍の間の後、二人で無理矢理豪快に笑い飛ばし、もう一度丁寧にお礼を言った後、何事もなかったように私は家路につきました。

しかし。さっきの会長の言葉は不意打ちだった。 まるで試合開始のゴングが鳴る前に、いきなり敵の右ストレートをまともに喰らったような、 何が起こったかわからないうちにマットに沈んだボクサーのような、そんな気分でした。

というのも、OL時代の私はオジサマ専門職かというほどオジサマは得意だったんです。 中でも「あー…あれ何だっけ。ほら、あれあれ。」の、「あれ」の推測は特に得意でした。(笑) 前後の流れから予測のつく会話の途中だけでなく、唐突に始まる「あれ、何だっけ。」にも対応でき、 エスパーと私を呼ぶ人までいました。

そんな私なので、毎日繰り出されるいわゆるオヤジギャグなど痛くも痒くもありません。 むしろ大好物です。あの頃なら私は軽快なフットワークでひらりとかわし、嬉々としてパンチを返していたことでしょう。(まあ、それもどうかと思いますが。)

なのに。なのになのに! 今回の会長のあれしきのオヤジギャグを、かわすことも返すこともできず、ただまともに喰らってダウンを取られるとは。 ショックです。そんな自分にショックです。

フッ…。俺の拳もそうとう鈍っちまったもんだぜ。昔はチャンピオンと呼ばれたこの俺がよぉ。(って、あんた誰?)

よく考えればここ数年、色んな年代の男性と話す機会なんかなかった。 身内以外では同年代の母親達としか接してなかったからなあ。免疫が無くなったのかな。 第一子妊娠により退職する時、いつかまた仕事に就きたいなあと思っていましたが、 今回の件で、そのためには私にはかなりのリハビリが必要だということがわかりました。

社会復帰への道は遠い…か。(笑)
                               

乙女風味
                               2005/7/1