現在、日本では憲法・公職選挙法により満二十歳以上の日本国民である人が首長・議員の選挙権を有している。これは、これまでの普通選挙を求める運動の上に、認められるようなになったものである。しかし、このような選挙権の定義は、今後も果たして妥当なものなのか。近年、選挙権の定義についての疑問や主張を耳にすることが増えているように感じる。そのような中で、法律により定められている首長・議員に対する選挙権とは違ったものから、選挙権の見直しを問うような事例が実際に起こっているのである。今回は、近年各地で主要な政治課題となっている市町村合併問題に関わり、強制力を持たない住民投票についてその投票権を国籍、年齢の面で拡大しようとする動きを追い、概要を把握することを目指すものである。

米原町の合併についての意思を問う住民投票条例

奈良新聞の浅野詠子氏曰く、これまで都道府県や市町村の1138議会(02年6月現在)が、定住外国人に地方参政権を付与すべきとする意見書を国に提出してきたが、外国人を含む住民投票のうねりを否決してきたのも地方議会であった。ここでは、住民投票条例において定住外国人の投票権を初めて認めた滋賀県米原町の例を取り上げる。

米原町基本情報

条例制定までの過程

米原町では、市町村合併について住民とともに議論し考えるため2000年12月より米原町合併問題フォーラムという行事を計33回実施した。特に2001年12月以降は町内24地域中23地域で「合併問題地域フォーラムなるものを開催し、毎回平均40人程の住民が参加して質疑応答や意見が交わされている。

2001年6月村西町長は常設型の住民投票を先進的に開拓した愛知県高浜市へ出張し聞き取り調査を行った。高浜市では、既に2000年に住民投票条例が制定されている。常設型というのは、住民投票の目的を特定の問題に限定せず、住民投票を行うための一般的な手続きを定めるものである。また町長は同月、町 議会「町政の重要課題である合併問題は、住民投票で決めたい」と表明し、10月には、常設型住民投票制度創設への条例案をつくるための人事異動を行い、専門スタッフを確保した。

一方で定数16の町議会では厳しい反応が見られた。即ち「われわれ議員を無視するのか」「大事なことを何もかも住民に聞くのであれば、議会制民主主義はどうなるのか」「投票にかける、かけないは、一体どこで線を引くのか」というものである。これに対し、町長は「仮に否決になっても、議場で議論したい。過程が大事だ。いろいろな意見を出してもらいたい」とし、あえて条例案を提案したが、予想通り否決されてしまった。しかも、町長は「棚上げ」的な継続審議も全条文を逐一手直した修正議案の提出も考えていなかった。

だが、議論の中で「合併問題に絞った住民投票であれば賛成」と議会との折り合いもつき始めていた。特に、否決された常設型住民投票案に盛り込んでいた永住外国人の投票に対し議会が前向きな反応を示したことは、この条例のその後を決定付けるものであった。議会と町長の合意により、年末年始を返上して新条例制定のための議論がなされ、2002年1月18日、臨時町議会において賛成多数で可決された。

住民投票の概要

米原町長・村西俊雄

ここまで見てきたように、この米原町における外国人票も含めた住民投票の実現は、米原町長である村西俊雄氏の尽力によるところが大きい。では、村西町長とはどのような人物なのか。

まず、村西町長は、同じ滋賀県でも愛知郡の秦荘町出身であり、米原町に対してしがらみがないということは革新町政を行う上で強みになっていると考えられるだろう。

また、町長は長く滋賀県庁に勤めている。土木部や生活環境部などの管理職や、3年間の人事委員会事務局長などであるが、特に公務員採用試験の国籍条項撤廃に取組んだ経験を持っている事実は見逃せないものである。町長は、組織の活性化のため、国籍のいかんを問わず有能な人材の登用が緊急の課題だったと語っている。また、県政全体がわかると、町政で思い切ったことができる。県や国に遠慮して物を言う必要もまったくないとも語っており、県職員としての経験自体も重要な意味を持っているようである。

では、そんな村西氏はどのようなきっかけで米原町長へ就任することになったのだろうか。ことの発端は「流れを変えよう」と新人で現職に挑戦・当選した宮川潤造前町長に遡る。米原町長選史上初の公開討論会を実現するなど革新的な政策によって支持を集めた宮川氏は町長就任後も住民参加型の町政を模索し、当時滋賀県職員だった村西氏を助役として登用した。しかし、一期目途中で宮川前町長は病没してしまったため、後継として村西町長が誕生したのである。

最後に、2002年2月7日に朝日新聞に掲載された文章から、抜粋して町長のコメントを引用する。

難しい議論のある「地方参政権」とは違い、「住民とは何か」の視点から導入を判断した。永住外国人も日本国民と同様に地域で暮らす住民との思いが強くあったからだ。
地方自治法第10条の住民の意義及び権利義務などによると、市町村に住所を有する住民は、国籍を問わず、その市町村から等しくサービスを受ける権利を有するとともに、税、負担金、保険料などの負担の義務を負う、となっている。つまり、住民としての基本的な権利義務は日本国民にも外国人にも認められている。合併問題は全住民にかかわる重要な問題だから、永住外国人への投票資格の付与は当然のことと考えた。
国籍を大っぴらにしていない人や本名を名乗るのを避ける人もいると思われる。(中略)登録名については実名か通称名かを本人に選択してもらえるような方式の採用も検討している。
住民投票に向けた下準備の段階で、永住外国人への行政施策を再確認する必要があることも分かってきた。例えば町の広報誌。自治会に入っていない永住外国人にも完全に配られているかなどの調査を進めている。

平谷村は合併するかしないかの可否を住民投票に付するための条例

近年、選挙権の引き下げを求める声とそれに対する賛否の議論もまた加熱しているが、その流れの言わば最先端にあるのが、中学生投票権である。ここでは、全国で初めて中学生に投票権を認めた長野県平谷町の住民投票条例を取り上げる。

平谷村基本情報

条例制定までの過程

平谷村では、住民・職員33人による「変革期における村のあり方研究会」が2002年4月から設置され、合併問題の研究を行っていた。9月30日、翌年6月に平谷村の合併の是非を問う住民投票を実施することを信濃毎日新聞の取材に対し塚田村長が表明。そして、10月9日には、中学生投票を含めた住民投票条例の素案を村議会の全員協議会に対し発表した。

11月15日、中学生と来春進学予定の小学六年生計約40人の出席により「村長と語る会」を開催。事前に提出した質問に村長が答え、さらにそれに再質問をするという形であった。終了後、村長は子どもたちが合併を身に迫った問題と考えているのが伝わった。村の将来について自分なりの意見を持ってほしいと語っている。

12月3日には、生徒による理解を深め、またそれに対する村議員の理解をも深めるため村議会議場において「子ども議会」を開催。中学生・六年生計38人が出席、中学生10人が村長に質問した。全村議10人が傍聴したが、議員達は質問はレベルが高く、意外に村のことを考えていると思ったなどと話した。村議会の全員協議会も相前後して開催されたが、中学生に投票権を与えることに対して反対はなかった。

12月18日定例村議会に住民投票条例を提出、全会一致で可決した。

住民投票概要

比較考察

まず最初に指摘しなければならないことは、外国人投票権、中学生投票権と二つの画期的な政策を全国で最初に行った自治体が、ともに小規模な、そしていわゆる「地方」の自治体であることである。このことは、従来とはまったく違った政策を実行するには相当のリスクが生じるため、規模の大きな自治体ではそのリスクが膨張しすぎてしまうのではないか、と考えられる。また、一般論として人数の少ない集団の方が合意を形成しやすいことから、小規模な自治体の方が画期的な政策を打ち出しやすいとも考えられる。

尤も、千代田区の路上禁煙条例や杉並区のレジ袋税など大規模な自治体でユニークな政策を実行しているものも存在はする。しかし、これらの自治体で扱われている問題は人口密集地域に特有の問題であり、全国どの自治体にでも発生する問題ではない。従って、最初から大規模な自治体により実行されることは当然とも考えられるのである。

それに対し、投票権の拡大という問題は、どの自治体にも、そして国においても扱われるべき普遍的な問題である。このような問題に対する画期的な政策は、小規模な自治体においてこそ試みられる可能性があると言えるだろう。

さらに、今回の二事例がともに町村合併の問題を扱っていたことを考えると、このことは皮肉な結果をもたらすかも知れない。即ち、合併によって大規模化することは、従来持ち得ていた真に革新的な政策が実行できる環境を手放すことになるとも言えるからである。

また、投票率についても興味深い結果が現れている。米原町においては、投票の資格を得た外国人中、実際に投票した人数は半分以下に過ぎない。さらに、画期的な政策が行われ注目度が上がっていると思われるのにも関わらず、全体の投票率は全くの低水準に留まっている。尤も、前者については、町長のコメントにもあるように、日本人が投票するよりも複雑で抵抗感を持ちかねない手続きが必要であることを考えると、合理的な数値なのかもしれない。しかし、住民全体の意識の低さはどうだろうか。しかも、議題が、合併問題で、しかも各住民の生活圏の選択に関わる、勝れて身近な問題であるにも関わらず、である。このようなところに、現代の政治への意識の低さの問題の根深さが現れているのかも知れない。

一方、平谷村の方は、極めて素直な結果である。新たに投票権を得た25人のうち24人が投票しており、全体の投票率も高水準である。合意を形成しやすく、意識を共有しやすいという小規模団体の利点がまさに反映された結果だと言えるのではないだろうか。

参考文献

作成者:にとら