Vol.121

愛か、親切か、「黒い十人の女」

青山真次監督を始め、
日本映画界のキーパーソンが顔を揃えた
「私立探偵 濱マイク」。
昨年「GO!」で
日本映画の主な賞を
総ナメにした感のある
行定勲監督の「タスクフォース」。
このところ、
テレビドラマ界は、
映画界からの“出張組”が
目立ちますけど、
それはそれで
観る方としては、
なかなか楽しいです。
幅が広がったっていうか、
ハンバーグとスパゲティばっかりの
ファミレスのメニューに
本格懐石やインド料理が
増えたようなもんで。
まあ、季節メニュー
かもしれないけど。

で、こんどは
巨匠 市川崑監督の登場。
しかも、あの
「黒い十人の女」のリメイク。
う〜ん、
面白かったです。
っていうか
いろいろと考えてしまいました。
で、
今回は、
(いつもそうだけど)
ワタシが“勝手に”考えてしまったこと
を、書きます。
制作者の意図は
それはそれとしておいといて。

それは、この主人公
風松吉(小林薫さん)って
いったいどんな男なんだろう
ってことなんだけど。

ストーリーを
かいつまんで話すと
こんなふうです。
風松吉はTV局のプロデューサー、
プレイボーイタイプってわけじゃないけど、
なぜか本妻(浅野ゆう子さん)の他に
9人の愛人がいる、
女優だの、女子アナだの、コーヒー屋の女だの。
で、この女たちが
松吉を取り合う代わりに、
共謀して、
いっそ殺してしまおう、
って話になって・・・。
(あとはネタばれになるので)

まあ、確かに
“TV局のプロデューサーで
あちこちに愛人がいて”
っていったら、
いかにもありそうな
尻の軽い、無責任な男
ってことだろうし、
その報いとして、
悲惨な目に遭う
っていうのは
ブラックコメディのスジとしては
あるだろうなぁ
とは思います。
実際、
後半のほうでこんな科白があるし。
「現代の社会機構に巻き込まれると
(中略)事務的なことの処理は
うまくなるけど、
心と心を触れあわせることが
できない生き物に
なってしまうのよ。」
市川監督ご本人も
オリジナル公開当時(1961年)の
プレスシートで
こんなふうにいってます。
「ワタシが
この映画で描きたかったのは
現代生活である。
自己疎外の状態にある
現代人(私も含む)の人間が、
人間でありたい、という、
ノスタルジーの物語である。」

でも、
ワタシは
ちょっと違うことを
考えてしまったんですね。
この風松吉って男は、
どうしてのこんなにモテるの?
女たちにとって
どこが魅力的なの?

そこで思い出したのが
「愛と親切」
の話なんですよ。
たしか村上春樹だか
K・ヴォネガットだかが言ってたんだけど、
“これからの社会に必要なのは
愛よりも親切じゃないだろうか”って。
で、
愛と親切って
どうちがうの?っていうと、
たとえば、
友達がお金を借りに来たとしますね。
そんなとき
お金を貸してあげない愛情、
っていうのは
あるかもしれないけど、
お金を貸してあげない親切
は、ない。
親切っていうのは、
その時、
お金をかしてあげることなんだ、と。
で、これからの社会に必要なのは、
親切なんだ、と。

で、この
小林薫さん演じる風松吉、
彼って、
親切なんじゃないかなぁ、
って思ったんですよ。
女たちを愛してはいなかった
かもしれないけど、
純粋に親切だったんじゃないかと。

だからこそ、
女優の市子(鈴木京香さん)も
コーヒー屋の三輪子(小泉今日子さん)も
最後まで彼を見捨てなかったんだろうし。

実は、ワタシ
オリジナルを観ていないので、
そのへんがどうなってるのか
オリジナルと今回では
何かがちがってるのかどうか
わからない。
オリジナルは1961年で、
時代的には、
高度成長の坂道を
まさに登り始めようという、
というときですよね。
で、今は21世紀。
時代の捉え方や、
価値観がちがっても
当然だとは思うんですよ。
ちなみに今回、
同じ監督によるリメイクですが、
脚本は、オリジナルの和田夏十さんに加えて、
神山由美子さんが参加しています。
オリジナルでは、
小林さんの役は
船越英二さんがやっているみたいです。
ちなみに、
やっぱり
「難解」
といわれているようです、
オリジナルも。
う〜ん、観てみたい。

ところで、
市川監督って
よく知らないんだけど、
なんていうか
役者さんを魅力的に見せる人ですね。
(映像的にっていう意味でもそうだけど、
それ以上に)
たとえば
小林薫さん、浅野ゆう子さん、小泉今日子さんなんか、
今までTVで観たなかでは、
ダントツで魅力的でした。
テレビの人も
こういうふうに
撮ってくれたらいいのに。

(SEPTEMBER.27)


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