Vol.14
これでもか、これでもか、野沢尚
「おいしい関係」って、憶えてません?
中山美穂主演で、槇村さとる原作の。
ワタシ、けっこう好きだったんだけど、
あれって野沢尚だったんだよっていうと、
みんな「へ〜ッ」て顔するんだよね。
野沢尚って言えば、
かつては夫婦愛をテーマにした3部作、
最近では「眠れる森」「氷の世界」などのミステリーで
すっかり大作家だけど、
こういう軽いのも書いてたんだよね、
それもそんなに昔じゃなく。
で、この「おいしい関係」の
どこがよかったかというと、
なんていうか、他愛のない話なんだけど、
各シーンで登場人物の心の綾みたいなものが
キッチリと描かれていて、
たとえて言えば、
軽い中にも深い味わいを秘めた
そう、まさに
一流シェフが確かな技術でつくる気軽なビストロ料理
とでも言うような。
たとえば第一回の冒頭、
タイトルとテーマソングが始まるまでの短い時間に
(専門家はアバンタイトルとか言うそうですが)
主人公中山美穂の家庭環境とその崩壊、
それまでの勤め先での扱いと
手のひらを返すような周囲の冷たい反応など、
これから始まるドラマの前提条件が
見事に凝縮されていて、
シロウトのワタシが
思わず「うまい!」と思ってしまったのでした。
教訓1:野沢尚はうまい。
で、今回の「リミット」なわけですが、
うまいですねぇ〜。
安田成美、田中美佐子、佐藤浩一、新山千春、妻夫木聡、陣内孝則
ざっと挙げただけでもこれだけの登場人物の
キャラクターとか背負っている人生とかを
キッチリと描きながら、
少しずつ無理なく接点を広げていく。
(第1回、安田と田中が、取調室で
一瞬、交錯するシーンなんていいですよね)
細かいところも行き届いていて、
たとえば子供を誘拐された、
陣内だけじゃなく、他の2つの家庭までもが、
ちょっとしたワンシーンだけで「見えてくる」じゃないですか。
う〜ん、濃いですよね。
でも、
ここでちょっとひっかかってしまうんですが、
なんか、濃すぎるっていうか、
「ドラマ」としての完成度が高いばかりに、
かえって「リアリティ」がなくなっているような気も・・・。
リアリティって、現実っぽいってことでしょ。
でも現実って、ほんとはこんなに「リアリティ」ないんじゃないの?
たしかにドラマと現実はちがうし、
ワタシたちが普段喋ってる会話を
そのまま書いたって台詞にはならない、
それはそうなんだけど。
そういう意味じゃなくて、
たとえば、「池袋ウェストゲートパーク」は
まあ、素材が今風だったこともあるけど、
端々にドキッとするようなリアリティがあって
それは野沢さんとは対照的な
アプローチだったような気がする。
あああ、何て言っていいかわんないけど・・・。
教訓2:野沢尚はうますぎる。
このドラマの演出、鶴橋康夫さんは、
いわば大御所で、
野沢さんを新人の頃から育て上げ、
芸術作品賞、ギャラクシー賞など、
数々の賞を総なめにしてきた人ですよね。
野沢さんは「親愛なる者へ」で
CXで連続ものをやるようになって
(鶴橋さんとの作品はすべて単発)
以来、しばらく鶴橋さんのもとを離れていたわけだけれども、
今回、久々のゴールデンコンビ復活。
(ということでしょうか、業界的なことはよく知らないけど)
老舗の厨房で育ったシェフが、
一人立ちして確固たる地位を築き、
再び老舗の厨房に招かれた、って感じ?
果たして、できあがった料理は、
老舗の味にふさわしい、
重厚でしっかりとした食べごたえがある・・・。
世の中、いろんなお料理があるから楽しいわけで、
その時々で、好きなものを食べればいいじゃないですか。
でも、今の人が美味しいと思う塩加減にだけは、
いつも敏感でいて欲しいものです。
とりあえず、今回はワタシ、
重厚なフランス料理を食べる覚悟で。
これはこれで嫌いじゃないですから、はい。
(JULY.11)
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