Vol.36

“自分では何もしない男”の胸のすく活躍「お前の諭吉が泣いている」


「崩壊寸前の高校を建て直すためにやって来たのは、
異常なまでに金勘定に細かい伝説の経理マンだった」
企画書の冒頭には、
きっとこんなふうに書いてあったんだろうけど、
もう読んだだけで笑える。
それこそバラエティのコントみたいな
この一発ギャグな設定を、
どうやって11回連続のドラマに展開するんだろう、
って、最初は思いましたよ、
「お前の諭吉が泣いている」

このドラマって、
基本的には「水戸黄門」。
お約束がたくさん。
「ケッペキ先生」と呼ばれるとすかさず、
「私は教師ではありません」とツッこみ、
ヒロミが小雪に迫ろうとすると必ずジャマが入り、
長塚京三の講釈が始まると一人一人いなくなり、
もちろん極めつけは
毎回9時45分頃登場するキメ台詞、
「あなたの諭吉が、泣いています」。
もう確信犯的に
水戸黄門的様式美、ですね。

で、同時に
徹底的に非・水戸黄門。
なにしろ主人公は
熱血教師ではなく、冷徹な経理マン。
(顔の筋肉を動かさない、という設定が笑える)
クサイ台詞をはく代わりに
金と数字の話しかしない。
「踊る大捜査線」が
従来の刑事ドラマのアンチから始まっているように、
「諭吉〜」の主人公は、
従来の学園ドラマのアンチ。

結局このドラマがある種痛快なのは、
主人公が「自分では何もしない男」だから、
でしょうね。
普通ドラマの主人公ってのは、
周りの登場人物(や視聴者)が
やりたくてもできなかったこと、
言いたくても言えなかったことを、
最後にはバシッとキメる、というのが常識。
「葵の御紋が目に入らぬかぁ〜」で
視聴者は溜飲を下げる、
というわけなんだけど、
この男ときたら何もしない。
こんな学園はつぶしたほうがいいと言い、
金や数字の話ばかりしながら、
周りの人たちを一人一人目覚めさせていく。
その引き金が、あの台詞。
「あなたの諭吉が、泣いています。」
ここが唯一、
“気持ちを動かす”台詞になっていて、
だからこそ、
効くんだろうなぁ、これ。
しかも最後まで
「それは貴方(たち)が決めることです」
とか何とか言って、
徹底してるんだから。

ところでワタシ、
このドラマ観てて
ナンだろうこの感じって思いつつ、
ふと、
つかこうへいさんの
「蒲田行進曲」を思い出していました。
あの映画も、
エンターテインメントとして成立しながら、
自らの様式性を異化しているような、
一種のパロディみたいな醒めた視点があって、
何か共通するものが・・・。

前作の「平成夫婦茶碗」もそうだったけど、
このスタッフのつくるものって、
なんていうか
振り幅が絶妙で、
「ありがちな展開」をイツダツしながらも
「ンなわけないっしょ!」
までいく寸前、ギリギリで踏みとどまる。
そのへんがおもしろさの秘訣なんだろうけど、
一方で、
どこか“ドラマ”に対して醒めている感じは、
最近流行りの
sashimiやshusiを斬新かつ大胆に盛り付けて
ワインで食べさせる、
ニューヨーク帰りの和食職人
のようでもあって。
ま、
美味しければ
ノープロブレムね。


(JANUARY.29)


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