Vol.93

松阪牛はやっぱりうまい『張込み』

最初にことわっとくけど
ワタシはこういう
なにもおこらないドラマってのが
メッチャ好きなんです。
もう、
“なにもおこらないドラマ”フェチ
って呼んで。
冗談はさておき、
これ、すっごくよかった
「張込み」。

逃亡中の凶悪犯のかつての恋人(鶴田真由さん)を
二人の刑事
(ビートたけしさんと緒形直人さん)が
張込む。
しかし女は、犯人の男(田辺誠一さん)とは
7年前にすでに別れていて
接触の可能性も低い。
今は年上の男(平田満さん)と結婚して
判で押したような毎日の繰り返し。
それを二人が
ずうっと張込んでる。
で、なんにも動きがない。
まあ、マラソン中継みたいな
もんですね。
もちろん、途中で、
ここに至る経緯(本庁での確執)とか
二人の家庭の事情とか
過去のシーンを挟みながら、
二人のキャラクターの対比を
見せていくわけだけど、
そのへんも抑えが効いてて、
かなりしぶい。

たとえば、
ある日女の夫が
「こんどの日曜はディズニーランドに行こう」
なんて言い出す。
タダ券をもらったとかで
「なかなか手に入らないんだぞ」
なんて自慢する。
子供たちは「わーい」と大喜び。
と、女は
影でそっと涙を・・。
それを見て、
緒形「泣いてますね。
嬉しいんでしょうか」
たけし「悲しいんだろ。
タダ券もらわなきゃ
なかった話だ」
こんなふうに
女のおかれた状況と
それを見つめる
二人の視点を、
それぞれ見せてくところが、
なんか
ピリッとしてますよね。

で、
このずーっとなにもないってこと
それ自体が伏線になってて、
最後の最後で
効いてくる。
ラスト、
そこだけ観たら
なんでもないような
静かな二人の逢瀬が
とてもドラマチックに見えて、
思わず涙、
でした。

結局、
このドラマ、
平田満的日常か
田辺誠一的逃避か
選択を迫られる
鶴田真由的存在をつきつけることで、
ひとつのテーマを
描き出していて、
そういうことのために
ビートたけし的家庭の事情
(フリンする妻)とか、
緒形直人的いまどきの恋愛
(ロスに行っちゃう恋人)とか、
を途中で見せてきたわけで、
そういう意味でも
とっても見応えのある
ドラマでした。
最後、
柚木刑事(たけし)は殉職しちゃうわけだけど、
それは
お守りには妻の写真が入っていた
ってところに落とすため
だったんですね。

それにしても
なんていうか
こういうドラマを
いい
っていうのって、
松阪牛を食べて
うまい
っていうのと同じで、
(食べたことないけど)
なんか
ミもフタもないなぁ。
考えてみれば、
「ビートたけしドラマスペシャル」
しかも
「松本清張没後10周年記念企画」
ってだけで
ある程度の視聴率は約束されたようなもんだから、
あとはもう
“それにふさわしい作品”
を創ることに専念すれば
いいわけじゃないですか。
視聴者に媚びず、離れず
うまくやりくりする
なんて余計な神経
使わなくていいわけだし。
なんて
つい思っちゃうけど、
だからって
それが簡単だってことは
ぜんぜんないはず。
だって
こういう特別企画だって
「?」なドラマって
いっぱいあるものね。

ちなみに
演出の石橋冠氏は
テレビ朝日のビートたけし主演ドラマ
「兄弟」「菊次郎とさき」
に続いての演出。
脚本の矢島正雄氏は
前回のビートたけし主演ドラマ
「三億円事件−20世紀最後の謎−」
に続いての担当。
お二人のコンビは
舘ひろしさん主演の「新宿鮫」シリーズで
何本かあるようです。
選りすぐられたスタッフとキャストだからこそ
こういうドラマが観られるんですね。
感謝。

平田満さんなんか、
アップはおろか、
顔さえまともに映らなくて。
でも適役!

(MARCH.8)


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