Diary-06


1/21.sat


まだ誰も踏んでいない雪を踏みしめながら、どうしてこんなに静かにつもるのだろうと僕は訝しく思った。久しぶりの雪で、僕は嬉しくなると同時に、永遠に白くはない、汚れていく雪も思った。ふぶき出ないこんな粉雪にまみれれば、赤い血が流れることもないのだろうか。戦場はどこにでもある。僕は点々とつく赤い染みを思い浮かべながら、まだこの夜を歩いている。

today's books「カラマーゾフの兄弟」ドストエフスキー


1/20.fri


昨日が彼の命日だなんて僕はすっかり忘れていた。そして、忘れていた自分に罪悪感を覚えた。
ああ、罪悪感。
死を忘れることを僕らは罪だと思うのだ。生きているのを罪だと思うのだ。罰ならとうに何度も受けてきた。けれども僕らは忘れてしまう。忘れなければ生きていけない。僕は彼を思い出し、あの冬の日を、雪がぱらついたあの朝の日を、そして僕が永遠に逡巡したあの横断歩道を、ぼんやり思いだした。原罪だなんてことばを僕は字義通りに受け取らないけれど、なんでこんなに生きていることは悲しく思えるのだろう。どうして死者はあれほどまでに完成されるのだろう。まだ生きる途中の僕らにそれはわからない。思い出になってしまった彼らを、僕らは思い返し、その美しさに、眩しくて、本当に眩しくて、涙が出る。

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1/10.tue


窓の外に見える冬の青空がとてもきれいで、もしも死んでしまうならこんな日だと頬杖つきながら考えていたその日の夜に僕はくびを言い渡されて、ある意味では僕の望みどおりの世界になっている。しかしその望みはゆがめられた形で叶えられ、僕はやり場のない怒りを覚える。悪かったのは僕なのか? 確かに僕だったのか? ゆるゆると生きていれば、そのうち答えが見つかるかも知れぬ。待っているのは破滅かも知れぬ。

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1/8.sun


「今日はばあちゃんのところにいこうかな」
高校生だか中学生だかの少年がそんなことを言った。「おとしだまくれるんじゃね?」という友人に、「一円も持ってないよ。だって入院してるし」と返す。少年たちはどこにいくのだろうと、歩道を自転車でよたよたと走る彼らを眺めながら僕は思った。僕は若者たちを恐れている。それはきっと、僕の若者の時代と、彼らの若者の時代が、遠く離れているからだろう。人によっては憎悪になる。僕は恐怖になる。だから僕はこんなことばにばかり救いを求める。どうすれば明日も幸せに過ごせるだろう?

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1/4.wed


流れ星にお願いなんてしないわとその少女は言った。だって流星なんて、10分間に一回は流れてるって言うじゃない。だったら、私は目に見えるものしか信じていないことになるわ。私の大切なものは、目に見えないことよ。
ああ、そうかもしれない。僕は流れ星を見る。たった一つ。願い事を叶える前に、それは消えた。

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1/2.mon


今年は愛の年だ。全世界を愛せるような、そんな年だ。
僕は全てを赦す。
調和の世界を夢見る。
だがミーチャのように、「神の世界を認めない」のだろうか。
僕は全てを赦せるか。
試される年だ。

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