闘病記 6



2002年5月14日(火) 手術8日目  廊下を歩く
朝の回診のとき、手術前によく話をしていた、私の家の近くの看護婦のIさんが久しぶりに顔を見せた。
そのとき私はうつぶせになって臀部を高く掲げた状態で主治医のN先生に診て貰っていた。
「Iちゃん 久しぶりだねー」
するとN先生が
「久しぶりの再開はすごいシチュエーションだねー」

立って歩こうとすると目眩がする。
少し横になって再度立ち上がる。
手術後初めての洗面をする。
食事は5分粥。
朝食後思い切って配膳を下げに行く。
その足で元の大部屋のHさん、Iさんに挨拶に行き、少し話をする。
部屋に戻るとすごく疲れていた。
お尻の穴は良くふさがっているようで残滓も出ないので、小型のガーゼに変わる。
ベッドの上でも座りやすくなったが、まだお尻が痛むので、円座を借りて座る。
社員が見舞いにきたので、仕事の打ち合わせをする。
午後、フランジとパウチの交換をしてもらう。
私にとって初めてなので良く説明を聞きながら、交換してもらう。
自分でも臭いのに看護婦さんには頭が下がる。
夕食後、お尻のところが湿っぽくなったので、汗をかいたと思い立ち上がると足元にピンク色の液体がポタポタと落ちる。
ベッドを見ると一面ピンク色に染まっている。
「あーあっ、出血じゃないか!!」
びっくりして床を掃除して看護婦を呼ぶ。
「すみません、汚してしまいました。どうしたのでしょうか? あまり動きすぎたからなのですか?」
何かあったのかと心配すると
「残滓が出てきたのでしょう。大丈夫ですよ。心配ありません。出るものは全部出しておかないとお腹の中で化膿しますから。」
と言ってくれる。
少々のガーゼでは心配なので寝る前にオムツをしてもらう。
情けない。

2002年5月15日(水) 手術9日目   食事7分粥
夜明け前、お尻のガーゼが濡れたので交換してもらう。
朝の回診時N先生に残滓が出たことを言うと
「良いことです。なるべく全部出さないといけません。逆行感染を防ぐ為、ガーゼが濡れたら頻繁に取り替えてもらってください」
「無理に歩いたのがいけなかったんですか」 
「いいえ、あまり無理な格好をしなければかまいません」
残滓は血液と体液の混じったもので、出血と思えるため心配して神経質になっていたが話を聞いてほっとした。
昨日フランジとパウチを交換後便が出ない。
それまではだらだらと間断なく出ていたので心配していると昼前に出始めた。
トイレに行き、便器に落とすと、なんと色も黒から黄色に変わり、しかも昨日までの強烈な匂いではない。
よかった、一生あの強烈な匂いに悩まされるわけではないらしい。
看護婦に聞くとあれは宿便だったとのこと。
午後2時の回診で経過良好といわれほっとする。
夕方N先生が来て
「リンパ節への転移は無いと言いましたが、一応進行ガンであるので、抗癌剤の投与を検討しなければいけませんね。どれも、まだ効果がはっきりしているわけではないんですが。」
「すべて、先生にお任せします」
「私の独断で決めるわけにはいきません。」
「副作用の問題ですね」
「そうです」
「それなら、私が判断する必要がありますね。後日話を良く聞かせてもらって決めて良いですか」
「はい」

2002年5月16日(木) 手術10日目  抗癌剤選定
眠れない。何もしていないんだから3時間も眠れば良いだろうと思い込ませる。
傷の痛みも少しづつ取れていっている。
起きてすぐ、廊下を100mほど歩き、頭が痒いので洗髪室で頭を洗う。
体も今までは看護婦が拭いてくれていたが、今日は自分で拭く事にした。
大便をためるパウチが透明な為、だらしない格好をすると廊下から見えるので、ビニール袋を鋏とホッチキスで加工して袋を作り、書類クリップでパウチにとめる。
良い出来だ。
退院後の服装について智子と考える。
どうもズボンのバンドの位置がストーマと重なるような気がする。
「バンドは臍の下だよな?。」
「そんなことは無い、臍の上よ!。」
智子がTシャツを捲り上げ、見事な2段腹を開いてみせた。
「その2段腹のくぼみのところだが、俺にはそんな見事なくぼみは無いから、やはりズボンがずり落ちるよ!。」
それから、妹と3人で2段腹を話題に大爆笑。
腹の傷が痛い。
しばらくして、従兄弟が見舞いに来て、いろいろなネタでまた大笑い。
「見舞いに来たのか、笑わせて傷を拡げに着たのか、早く帰ってくれ」
夕方、以前の病室のIさんと、Hさんが来てくれる。
抗癌剤の件で相談したので現在抗癌剤で治療中のHさんと一緒にきてくれたのだ。
Hさんから治療の方法、副作用など詳しく話を聞いた。
夕食前にN先生が来たので、抗癌剤について話を聞く。
「2個あったポリープも取り除いているので、抗癌剤は予防的なものでいいです。 お酒も飲むでしょうから5FU系の錠剤で副作用も軽いもので良いと思います。日常生活にもあまり影響はありません。この病院に薬を取りに来るのは大変でしょうから、田川の病院で薬をもらえるように手紙を書いてあげましょう。」

2002年5月17日(金) 手術11日目  ガス抜き穴付きの装具を試す
昨日まではベッドから立ち上がるのに、ベッドの背もたれを起こさなければならなかったが、今日は背もたれを起こさなくても立ち上がれるようになった。
体調も徐々にだが良くなっており、歩くのも楽になる。
ただ尿の出方が昼夜逆になっており、夜のほうがたくさん出る。
出た尿を計量器に入れねばならず、もたもたしていると眠気が覚めてしまう。
午後、2回目の装具交換をする。
今度はコロプラストの装具を試してみる。
活性炭フィルター付きのガス抜き穴が付いているもので、わざわざガス抜きをしなくてすむ。
おかげで装具の手入れが便だけで良いようになり、だいぶ楽になる。

2002年5月20日(月) 手術14日目  排尿後の痛みが気になる
日ごとに歩行も楽になり、ベッドの寝起きも普通に出来るようになった。
臀部からの出血(残滓)もなくなっているが、ただ排尿後に膀胱付近が痛むのが気になる。
排便の処理も、低い位置でしないと便器の水がはね飛んで困っているが、智子がトイレットペーパーを敷いたらと言うので、少し大目のトイレットペーパーを水に浮かべて便を落とすと水がはねないことがわかった。
これで公衆トイレ等も使えるだろう。
パウチの先も、今までは神経質に洗わなければ気がすまなかったものが、濡れたテイッシュで拭いただけで気にならなくなる。日々進歩している。
今日は装具の交換日。
看護婦の要請で、智子も一緒にトレーニングを受ける。
だいぶ上手に出来るようになった。

2002年5月21日(火) 手術15日目  抜糸
早朝デイルームで、一人の老婦人Iさんと話し始める。
天気の話に始まり、やがて御互いの病気のことについて話し始める。
Iさんは昨年末に入院、4度の手術の結果小腸にストーマーを付けている。
入院以来始めての同病者である。
上品で聡明な話し振りの陰に、激烈とも言える闘病生活を秘めておられる。
私の病気のことを話すと、同じ立場と言うことで、とても喜んでいただいた。
午後N先生がきて処置室で腹部と臀部の抜糸をしてくれる。
痛いかと思ったが痛みはほとんど無かった。
ストーマー部も違和感があるならば抜糸をするが、そうでないならば、溶ける糸を使っているのでそのままにしておくと言われる。
私は違和感を感じなかったのでそのままにしておくことになった。
夕方売店に行き、先日注文しておいた装具を購入する。
退院後ストーマの寸法が徐々に変わってくるのでとりあえず2ピースのものを10セット、剥離材、皮膚保護材、サニーナ、専用洗剤、鋏などを買う。

2002年5月22日(水) 手術16日目  退院日決定
N先生から24日にも退院してよいが、その日にパウチの交換があるので、週明けの27日に退院してよいといわれる。

2002年5月23日(木) 手術17日目  シャワーを浴びる
先週末大阪に帰っていた妹が又きてくれたのでシャワーを浴びることにする。
シャワールームで倒れたりしたら大変と思い、注意して入る。
実に17日ぶりのシャワー 気持ちが良い。
パウチはゴムひもでくるくると丸めて、体を洗いやすくしておく。

2002年5月24日(金) 手術18日目  一人で装具交換をする
今日は病院での最後の装具交換日だ。
この病気の退院可否は、装具交換が出来るかどうかにかかっている。
ストーマ周りの体毛を剃る為にT字かみそりを買っておく。
フランジ取り付け時に体毛があると接着度、またフランジをはがす時に問題があるらしい。
午後4時、排便がある時間帯をはずしてシャワールームに入り、あらかじめパウチの排便を済ましておき、体を良く洗う。
次にパウチをはずして、ストーマー周りにシャワーをかけて洗う。
フランジの上部からシャワーをかけながら、ゆっくりとフランジをはがす、この時フランジを無理に引っ張らず一方の指でフランジを少し引っ張っておき、もう一方の指で肌を押すようにしてはがしてゆくと、肌をいためないらしい。
取り外したパウチやフランジは用意していたビニール袋の中に入れる。
タオルの先に石鹸をつけて、ストーマ周囲に付いたフランジの接着剤を入念にはがす。
シャワーがストーマーに当たるが、痛みなどは感じない。
体を拭きストーマにテイッシュを当て、さらに紙テープで止めて、服装を整え処置室に行く。
先ほどつけたテイッシュが肌に張り付いており失敗。
看護婦によるとコットンの方が良いとの事だ。
装具は入院中も個人負担との事なので、今日は昨日買った装具や補助材を持参。
ストーマ下部の下着に大き目のビニール袋を挟み込みゴミ袋とする。
試験官のT看護婦に清掃状態を見てもらうと、まだ接着剤が残っていると言われた。
剥離材で再度清掃する。
専用洗剤をコットンに少しつけて塗り、ストーマ周囲の体毛を剃る。
女性用のかみそりの方が良いとの事。
鏡を見ながらの作業なので難しい。
温水で洗剤を洗い流し、コットンでふき取って乾燥させる。
ノギスでストーマの大きさを縦横測定しその寸法に4mm加えて、フランジにマジックでストーマの大きさを描く。
鋏で描いたラインを切断すると、ストーマ周囲に2mmの隙間の穴が出来る。
切断部分の切りくずを指先でよく擦って滑らかにしておき、ストーマに当ててみて大きさの確認をする。
ストーマ周囲が良く乾燥していることを確認して、皮膚保護材を塗り、2分乾燥。
パウチに排出口のストッパーを取り付け、サニーナ(オリーブ油、サラダ油でも良いらしい)を吹き付けておくと、便がスムースに下に流れるらしい。
鏡を見ながらフランジを下部から貼り付ける。
ストーマとの周囲の隙間は2mmだが、下に隙間が多いよりは上に多いほうが良いらしい。
貼り付けたフランジは、中央部分から周囲にかけて良く押し付け肌に密着させる。
フランジにパウチを取り付け、接合部を充分に確認し、なおかつフランジを片手で支えておき、パウチを引っ張って外れないかどうか確認する。
試験官の看護婦に良く出来ましたと言われ、卒業試験は無事終了した。

2002年5月25日(土) 手術19日目 大先輩発見
隣の病棟に2年前便と尿の両方のストーマをつけ、現在放射線治療中のFさんがいる。
早速話を聞く。
「便のストーマは楽ですよ。尿の方は1日に出る回数も多いし、漏れたりもするので大変です。」
「食事の心配はどうですか?」
「何を食べても良いです。酒も飲んでました。装具の交換も1週間くらい持つんですが、装具が市役所から支給されるんで3−4日毎に交換しています。剥離材も皮膚保護材も使っていません。入浴時にタオルに石鹸をつけてよく洗い落とせばフランジの接着剤は取れます。」
「便を排出後、パウチに便がついているのが気持ち悪いんですけど」
「私は、便の排出後排出口から水を入れてパウチを洗ってます。そのためにトイレに水を出す装置をつけました。」
等等非常に参考になる話を聞かせてもらった。
早速ペットボトルに水を入れておき、パウチを取り外さないで便排出後パウチに水を入れて揺すって便器に排出、これを2−3回繰り返すとパウチがきれいになった。
ただ防臭フィルターの部分は水をかけると悪いと聞いていたので、パウチの上部にあまり水が入らないように気を付けた。
その分防臭フィルターの部分についた便は取れないままだ。
何か良い方法は無いものだろうか。
午後智子と病院近くを1Kmほど散歩する。
夕食前に智子、妹、次男、三男と外食に出る。妹が
「お兄ちゃん、病院にいる間にいろいろと実験しておいたら良い」と言うので、餃子 おでん おにぎり そしてビールをコップ2杯ただし量は病院の食事と同じくらいにしておく。
医者には聞かせられない話だ。
夜9時猛烈に眠くなってベッドに入るが12時頃目がさめる。
なんと下痢だ。胸焼けもする。ただしお腹は痛くない。
何が悪かったのか、油っこい餃子か ビールか。
さいわい朝には直っていた。

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