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霧島連山
硫黄(いおう)の噴煙
えびの高原一帯は濃い霧につつまれ、仰ぎみる韓国岳はその姿がみえない。
小林方面に300メートルも走ったら、道の両側から白い噴煙がもうもうとふきでる異様な風景にでくわした。
噴煙が道路をおおい、前方の視界がきかない。
硫黄の臭いがする。
よくみると、あたりは硫黄の噴煙を見物する観光客で混雑していた。
この霧では、とても山には登れない。
霧の晴れるまで温泉にでも入るか。
そのまま小林方面へ進むと、「えびの市営露天風呂」と書かれた看板があった。
ところがこの温泉は、冬は温泉の温度が低くて入れないという。
噴煙のあがるところまで引き返し、食事をした。
食事を終わって気がついたときには、いままで立ちこめていた霧が晴れ、うそのような青空がひろがって、目の前の韓国岳の稜線がくっきり現れた。
これなら韓国岳に登れる。
急いで服装を着替え、空身で出発した。賽(さい)の河原
登山口から10分で、硫黄山のふもとの「賽の河原」と呼ばれるところについた。
ここらあたりは草も生えてなく、名前のとおり地獄を彷彿(ほうふつ)とさせるようなごつごつした岩だけの河原がひろがっていて、いたるところから硫黄の噴煙がふきでている。
硫黄の穴は、黄色の硫黄の結晶で縁どられている。
ここから見あげる韓国岳は、ラクダ色の草原を前景にして丸いふたつの山にみえる。
頂上付近は、霧氷におおわれいるのだろう、白くみえる。
振り返ると、えびの高原一帯がみわたせた。
噴煙の間をぬって道路がS字型に蛇行し、えびの高原の大駐車場にはおびただしい車がとまっていた。
ここは一大観光地である。爆裂火口
登山道はノリウツギ、ヤマハンノキなどの灌木帯のなかに入り、赤い熔岩がごろごろ転がった道となった。
両側の潅木の林のなかには、幹に青苔がついた灌木が多い。
それだけここは雨や霧が多いのだろう。
霧島という名前の由来も、霧が多いところからきているのかもしれない。
五合目の標識があった。
火山灰の黒土は、きのうからの雨でぬかるんですべりやすくなっている。
灌木帯がなくなってミヤマキリシマなどの小低木帯となり、枝先にはクリスタルガラスのような樹氷が、キラキラとひかる。
振り返ると不動池、白紫池、六観音池の火口湖がみえ、その向こうに台形の甑岳がみえる。
ミヤマキリシマと草つきの間をぬって登ると、八合目に着いた。
北側(左側)は韓国岳の爆裂火口となっている。
この爆裂火口の規模は、直径900メートル、深さ300メートルといわれている。
火口の縁から底をのぞくと、火口に吸い込まれそうで不気味である。大浪池
火口の縁にそって右回りに進むと、はるか右の方に白くひかる池がみえてきた。
大浪池である。
この池には、次のような伝説がある。
庄屋の老夫婦に奇しくもうまれた娘、お浪が美しい娘に成長した。
お浪は、年ごろになって毎日ただ泣くばかり。
とうとう娘は病になった。
娘の願いどおり山の池につれていくと、お浪は池の中にざんぶと身を躍らせた。
老夫婦の「お浪ー」と泣き叫ぶ声が、山々にむなしくこだました。
実は、お浪は大蛇の化身であった。
このお浪の池が「大浪池」と呼ばれるようになったという。
悲しくも哀れな話である。
ここからみおろす大浪池は、水面に張った氷がところどころ盛り上がってみえ、南国の太陽を反射してにぶく光っていた。韓国岳(からくにだけ)
まもなく韓国岳(1,700メートル)の頂上についた。
韓国岳の名前のいわれは、山頂からお隣の韓国が見えることから名づけられたという。
山頂は、火口から噴火した熔岩がそのまま固まって、ごつごつした黒い岩場となっている。
火口側の切り立った岩壁にエビの尻尾が氷結して、黒い熔岩と白いエビの尻尾のコントラストが霧島の冬のきびしさを象徴しているようだ。
ここから前方に、新燃岳(1,420メートル)の巨大な火口がみわたせた。
新燃岳は活火山で、現在も活発に活動中である。
右側の火口の縁から、白い噴煙がわずかに昇っていた。
新燃岳の向こう側に、ちょうど山という字の形をした独立峰がそびえている。
あの山が高千穂峰(1,574メートル)だ、とすぐわかった。
左右対称の整ったその山容は、まさに神の山にふさわしい威厳に満ちている。
皇孫ニニギノミコトが天降ったと伝えられる天孫降臨の伝説も、なるほどと思わせる説得力をもっている。
ここ韓国岳から新燃岳(しんもえだけ)、中岳(1,345メートル)、高千穂峰まで稜線づたいに縦走路が延々と蛇行して刻まれているのがみえた。
高千穂峰のお鉢(はち)、新燃岳火口、韓国岳火口を見ていると、映画「猿の惑星」のなかに迷い込んだような気分になってきた。
強風に追いたてられるように早々に山を降りた。朝風呂
顔を洗いに洗面場に行った。
水道の蛇口から、ちょろちょろと水が流れている。
「凍結防止のため水を流してください」と書かれている。
地面に落ちた水道の水滴が、凍って氷の板になっていた。
ゆうべは零下5度まで気温が下がった、と管理人からきいた。
朝は7時からキャンプ場内の温泉に入れるときいたので、さっそく温泉に入った。
冬の寒い朝は、温泉に入れるのがうれしい。
内風呂は熱くてとても入れない。
サッシ窓で仕切られた露天の風呂に入った。
ガラスの庇の上に、流れた結露がそのまま凍りついている。
脱衣場から子どもの声がして、親子連れが入ってきた。
内風呂に手をつけてその熱さにふたりとも驚いたふうだった。霧島スカイライン
これから霧島スカイラインを通って高千穂河原に行き、そこから高千穂峰に登る予定である。
スカイラインには、いたるところチエーン装着場のスペースが設けられていた。
両側は、赤松の自然林となっている。
どこまでも赤松の大きな幹がつづく。
これだけの赤松が生えていればマッタケが採れそうなものだと、つい食い意地のはったことを考えてしまう。
新燃温泉への分岐点にさしかかったところから、新燃岳の火口の南側の岩峰が望めはじめた。
青少年野営場の手前にきて、道路の正面に、御鉢の火口におんぶされたような格好の高千穂峰の霊峰が見えてきた。
まもなくして高千穂河原についた。
ここには、団体客を乗せた観光バスが何台もとまっている。お鉢(はち)
駐車場から高千穂峰をめざして登る。
切石を敷きつめた幅1間ほどの遊歩道をたどる。
両側のノリウツギ、ヤマウルシ、ヤマハンノキ、アオハダの灌木には、それぞれ名札が付けられていて、遊歩道となっている。
低い谷を渡って、熔岩のごろごろと転がったひろい登山道を登ると、灌木が切れて視界が開けた。
正面は、御鉢の火口の縁へ一直線の急な上りである。
ここから上は、一本の木も生えていない赤茶けた火山の山となっている。
軽石を砕いたような岩のガレ場は、歩くとギシギシと砂礫のきしむ音がする。
この急坂の途中で立ち止まり、乱れた息をととのえる。
振り返ると、錦江湾とその向こうに噴煙をあげる桜島が見えた。
御鉢の火口縁についた。
高千穂峰が、すぐ隣にそびえている。
ここもかすかに硫黄の臭いがする。
ぱっくりと開いた不気味な火口、その赤く焼けただれた壁の間から白い煙りが幾筋も立ちのぼっている。
ここも活火山か。高千穂の峰
これで今回の旅行の目的は達した。
お鉢の火口縁を右まわりに歩いて馬の背越を通って、背門尾とよばれる高千穂峰との鞍部についた。
ここから高千穂峰へは、また急な上りとなっている。
「落石に注意」と書かれた標識が立っていた。
ガレ場をギシギシときしませながら登ると、20分ほどで稜線についた。
頂上は、すぐそこにある。
山頂には、緑青をふいた槍の穂先、いわゆる「天の逆鉾」が立てられている。
ここから北の方向に市房山と石堂山、南の方向に錦江湾と桜島、西の方向に韓国岳、中岳、新燃岳の連山がそれぞれ見わたせた。
天気のよい日には長崎の雲仙まで見えるそうだが、あいにくと今日はかすんで見えない。
頂上に山小屋があり、バッジなどのみやげものを売っていた。
ソーラシステムで電気をおこしているそうだが、水はどうしているのだろう。
雨水をためているのだろう。
天気に恵まれたことを感謝しながら、満足した気分で下山の途についた。
御鉢の火口から降りる急な下り坂にさしかかると、下から登山者が数珠つなぎになって登ってきていた。
ちょうど昼どきに頂上でおべんとうを食べようと、時間をみはからって登っているのだろう。
正午まえに駐車場に降りた。(完)
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