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梶尾真治・作 鶴田謙二・絵 「 かりそめエマノン」 | |
| SF | 徳間デュアル文庫 2001年10月31日発行 | |
| 幼い頃、孤児になった拓麻の唯一の過去との絆…それは妹の手の、ぬくもりの記憶。不思議な力に導かれ巡り会った妹は、生命誕生以来の記憶を受け継ぐ少女エマノンだった。 | ||
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生命誕生以来の膨大な記憶を受け継ぐ少女エマノンを巡るシリーズ。 いつもは主人公に関わる謎の少女として登場するエマノン。ただ今回は彼女の双子の兄・拓麻が主人公とあって、彼女の奇妙で残酷な宿命に深く関わる物語になっています。 拓麻には、今まで見たものを全て記憶する力や、体内磁石のように何者かの位置を感知できるなど不思議な力を持っています。それによる違和感が彼の人生を支配しています。 物語は彼の一生を追い、戦後から高度経済成長期、バブル期、バブル崩壊へと展開。不思議な力のおかげか、次々に成功を収めながらも、虚しさは拭えません。 それが、ある事件をきっかけに自分の使命を見出し、幸福に包まれて死を迎えることができた。悲しい運命ではあるのですが、その最期には「よかったね」と言いたくなります。 さすがセンチメンタルSFの名手というべき良作です。(2005/12/05) | ||
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梶尾真治・作 鶴田謙二・絵 「 まろうどエマノン」 | |
| SF | 徳間デュアル文庫 2002年11月30日発行 | |
| 1969年、夏。小学4年生の直樹は曾祖母の住む海辺の町へ。 不思議な美女“エマノン”や謎の生物“ましら”、違う時空につながる光の輪…一生忘れられない夏休みが始まる。 | ||
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初めて過ごす田舎の夏休み、夏祭り、謎めいた年上の美女、時のひずみを通した過去との出会い…道具立てはすごーくベタです。ベタなんだけど、それを真正面から書かれると…泣けました。舞台がアポロ月着陸の年・1969年だというノスタルジックさもズルイや。 タイムスリップなどのSF的設定に、センチメンタルな情感を織り込むのが梶尾作品の作風のひとつですが、その典型例だろうと思います。 地球に生命が誕生してからの記憶をすべて受け継ぐ少女・エマノン。彼女が出会う生物を巡る短編シリーズの、今作は長編です(ティーンズ文庫サイズの長さではありますが)。 40億年分の記憶を持つ少女という設定と、人を超越した存在でありながら、その時代を生きる生命に寄り添う佇まいがこのシリーズの肝でしょう。作中の人物にとって、そして読者にとっても“永遠の少女”として思い出に刻まれる存在です。 このシリーズでは、40億年分の記憶を持つ彼女の独特の感じ方や考え方、孤独が物語のスケール感をもたらしていました。今作では、それがあまり感じられず、その面では物足りなかったです。“少年のひと夏の冒険と淡い恋”というパッケージにまとまってしまった感じ。 熊本在住作家である梶尾真治さんのことは、作品を読む以前に、“クマニチ(=熊本日日新聞)”連載のエッセーで刷り込まれました。そう言えばクマニチは一時期、彼を選者にSFショートショートの投稿も受け付けていたような。今思えば濃いことをしていたものです。 熊本を思わせる作中の地名や方言も楽しみです。今作の御所船(ごしょふね)は化石で知られる御船(みふね)町と天草・御所浦(ごしょのうら)の遠浅の海が二重写しになった印象。他には「OKAGE」に出てきた銀行の「味噌天神支店」がツボでした。よりにもよって「味噌天神」! 一度聞けば忘れない地名だと思います。梶尾さんの娘さん夫婦が働くゲームメーカー「アルファ・システム」の最寄りバス停でもありますね。(2003/11/12) | ||
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梶尾真治・作 水樹和佳子・表紙イラスト 「美亜へ贈る真珠―梶尾真治短篇傑作選 ロマンチック篇 」 | |
| SF 短編集 | ハヤカワ文庫JA 2003年7月31日発行 | |
| 時間の流れを遅らせ、人を“生きたタイムカプセル”として未来に送る航時機。それを見つめる女の苦しげな表情の理由とは? 表題作の他、女性の名を題に織り込んだ7篇を収録。 | ||
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じんわり、せつない後味の短編集。SF的なアイデアの切れ味よりも、時空を超えるというSF的道具立てを介して、恋や別れをより悲劇的にドラマチックに盛り上げます。 …などと書こうと思っていたら、巻末の山田正紀の解説で言い尽くされてしまいました。 梶尾作品の一貫したテーマは“愛”と“時間”。「愛の不滅」という、どんなSF的アイディアより非現実的なテーマを、SF的道具立ての中に埋め込むことで、物語の王道であるメロドラマを感動的な物語として復活させた…といった内容。そういうことかと腑に落ちました。 表題作「未亜へ贈る真珠」で思い出したのが、時間の流れを遅らせる微生物(?)の中に包まれた恋人を見つめる女の子のマンガ。佐藤史生の作品だったように思うのですが。 それもあって、この短編集のテーマや後味は少女マンガ的だと思いました。愛がメインテーマだからでしょうか? 少女マンガの表現技法は、せつなく繊細な心情のドラマを追究したものですから、それに近い感触を感じさせるってスゴイことだと思います。(2003/12/29) | ||
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粕谷知世 「 クロニカ―太陽と死者の記録」 | |
| 歴史 ファンタジー | 新潮社 2001年12月20日発行 | |
| 17世紀のクスコ南東。スペイン人巡察使の来訪に、村人は先祖の木乃伊に対策を相談する。この地の死者は生前同様に生者と語るのだ。大祖の木乃伊は彼の生涯とインカの最期を語り出す…。第13回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。 | ||
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冒頭で、いきなりやられました。 「文字をもたなかったのである。 最盛期には一千万におよぶ人口を抱え、百以上の民族集団から成り立つ一大文明圏でありながら、彼らは文字を用いなかった」 この地では、人々は死んでも、乾燥した自然環境により自然と木乃伊(ミイラ)となって肉体を保ち、生者と語らいます。死者が生前同様に意思が伝えられるからこそ、文字として記録を残す必要がなかったというのです。 このしょっぱな数ページの解説で、この世界に引きこまれました。 人々の精神のあり方がまるで違うし、それにインカの国の制度や生活風習にも感心。自然環境にとって、いちいち理に適っていて、すごく地に足が着いた感じなのです。 過去の歴史は時として今の世界と地続きであることが信じられないほどの異世界です。そして確かに存在していた世界だからこそ、なまじの異世界ファンタジーには太刀打ちできないほど確かな存在感が感じられます。こういう感覚は外国が舞台の作品に限らず、杉浦日向子の江戸時代が題材のマンガやエッセイを読んでいても感じることですが。 さらにこの本では、文字の有無を鍵に、インカとそれを征服したスペイン人の文明や人々の精神のあり方を読み解きます。ごく大雑把に説明すれば、スペイン人の他国の文明を滅ぼすほどの残酷な確信は、文字によって固定された思考が作り上げた…とかなんとか(中途半端な理解ですみません)。このへんは大胆な文明論としても興味深かったです。 登場人物たちの行く末が気になるというより、そこに描かれる見知らぬ世界をもっと知りたくて読み進めた感じです。見知らぬ世界というのは、過去のインカであり、文明論という私の頭では及ばない思考であったり。 佐藤亜紀「鏡の影」の項で書きましたが、日本ファンタジーノベル大賞受賞作には、博覧強記に裏打ちされた濃密な物語という印象があります。この本もさすが受賞作、充実した物語体験ができる本だと思いました。(2003/06/01) | ||
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桂明日香・作画 アニプレックス/プロダクションI.G・原作 「 BLOOD+(1)」 | |
| マンガ アクション |
角川書店 角川コミックスエース 2005年12月26日発行 | |
| 沖縄の高校生・小夜は1年前以前の記憶がない。彼女が生き血を喰らう怪物「翼手」に襲われた時、謎の男ハジが刀と彼の血を与えると、彼女は翼手を殺す“兵器”として目覚める! | ||
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TVアニメのマンガ版。アニメは、これまで全話観ているハズです(惰性ぽいけど)。 で、マンガの感想ですが、私はアニメよりも楽しめました。 長所はキャラクター像がくっきりしている点。主人公・小夜の、血のつながらない家族への愛情、見知らぬ過去への怯え、戦いに臨む迷いと決意…揺れる感情を表情豊かに描いています。人間離れした大食らいネタも笑えました(巻末のオマケ4コマも好き)。 小夜の兄・カイも妹思いで男前。小夜の変貌も、ひるまず受け容れます。血まみれの小夜に「俺はお前を愛せる!!」と言い切る迷いのなさが心強い。 アニメだと誰も彼も煮え切らなくていけません。特に小夜とカイは何考えているんだか…。そのへんがスッキリしている分、読みやすかったです。 それからマンガオリジナルの敵キャラ・シャール。美少年なのに言動はエゲツナイ…この手のキャラに無条件に弱い人、多そうだわ。 その部下であるヴァンは、アニメでのエキセントリックぶりはシャールに譲った感じ。鳴りを潜めている様子なのが、また気になります。 アニメは現在、折り返し地点を過ぎましたが、マンガの連載終了時期が気になるところ。連載でどこまで話が進んでいるか知りませんが、アニメが終了後も続くといいのに。 TVアニメは、ヒット連発の土曜6時枠に、ハイクオリティで知られるプロダクションI.Gが参入…と鳴り物入りで始まったわりに盛り上がり不足。足りないのは、こういう、わかりやすさ、あざとさなのでしょうね。その点、前枠の「ガンダムSEED」はドギツイほどでしたもの。 わかりやすさ優先てのは、あまり好ましい傾向ではないと思いつつも、単純に楽しいほうがいいですよね、やっぱり。(2006/04/26) | ||
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上遠野浩平・作 中澤一登・絵 「 ぼくらは虚空に夜を視る」 | |
| SF 青春 | 徳間デュアル文庫 2000年8月31日発行 | |
| 当たり前の学生生活を送る兵吾は、ふとした瞬間、宇宙で超光速戦闘機を駆って、謎の敵「虚空牙」から人類を守るために戦っていた。重なりあう現実と超未来の、真実の姿とは? | ||
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僕がいて、守りたい彼女がいて。そして日常の隣に突然口を開ける、人類の命運を賭けた戦い…こういうのをセカイ系って言うんですか? 謎多き世界設定は興味深いし、二重写しになった「現実」を行き来するストーリー展開も面白い。でも完全には、話にのめり込めなかったです。 登場人物の口調が微妙に古臭く感じたのが、原因のひとつ(5年前の作品ですしね)。 二つめ。主人公がまれに見る戦闘の天才ってのが気恥ずかしい。ムズがゆい。 三つめ。主人公の思考が卑近な日常に収束していくことが物足りない。 宇宙であてどない旅を続ける移民船を守って、「虚空牙」と戦う、骨格模型をつなぎ合わせたような異形の超光速戦闘機…と、道具立てはバッチリだし、敵の「虚空牙」の正体とか大きい話へとつながる要素もあったのに、主人公の思考の基盤はあくまで学生生活を中心とした当たり前の日常なのです。私の好みでは、SFに大風呂敷を期待しちゃうので。 ただラストシーンは好きです。単純に綺麗だし、宇宙が目の前に開けた感じがしたので。 四つめ。これが多分、最大の原因。 自分を周囲とは異質な存在、特別な存在と感じ、どこかに居るべき場所を求める…そういう思春期の自意識がベースの物語なので、そりゃ最早ピンとこないわけです。 その手の夢想(当人の切実さは解るけれど)に浸れる段階はとうに過ぎ、けっこう抜き差しならない現状では、「どこか」なんて霞のようなものにかかずらってはいられないのです。 ある物語を読むべき時期ってのは厳然と存在するのかもしれません。(2005/05/10) | ||
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上遠野浩平・作 金子一馬・絵 「殺竜事件 a case of dragonslayer 」 | |
| ファンタジー ミステリー | 講談社NOVELS 2000年6月5日発行 | |
| 人知を超えた存在・竜の刺殺事件に、“弁舌と謀略で歴史の流れを押さえ込む”仮面の戦地調停士が挑む。過去1年に竜と会った6人を訪ねる旅の結末は? 魔法世界のミステリー。 | ||
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アトラスの“悪魔絵師”金子一馬さんがイラストを手がけているので気になっていた本です。シャープかつエロチックな絵柄に、独特のデザインセンス。今作の鍵である竜にしても、竜と認識はできる範疇ではありつつも、初めて見る生物に仕上がっています。 それに“殺竜事件”という事件自体も魅惑的。天候さえも自由に操る、圧倒的な力を持つ竜。それが刺殺という原始的かつ単純な方法で殺される−−ワクワクする謎です。 戦地調停士のEDたちが、竜と対面した6人を訪ねて世界を巡りながら、話は進んでいきます。訪れる国は、権力争いで命を狙われる姫君がいる和風な国あり、ギャンブルでにぎわう海賊の島ありと、人物も土地柄もさまざま。連作短編のような雰囲気があります。それをミステリーの緊張感で束ね、牽引していく感じです。 舞台が異世界ということで、自力での謎解きは最初から放棄。竜に会いに行った人々のそれぞれの思惑やEDの飄々とした雰囲気を中心に楽しみました。でも犯人やトリックは、分かる人には分かるのかも。種明かしをされてみれば、伏線はきれいに張ってあります。動機については、異界の論理を覗き込んだような不思議な感触がしました。 読みながら、その世界独自の歴史や社会制度、論理・思想を垣間見せてくれる点で、ファンタジーとしても魅力のある作品だと思います。 それに上遠野浩平作品の常として、世界の構造自体にも大仕掛けがありそう。今作ならEDたちの世界に、現代社会から自動車やピストルなどが次元を超えた“漂流物”として流れ着いているあたり、いかにも怪しい。この辺りは続編に期待します。(2003/09/23) | ||
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上遠野浩平・作 金子一馬・絵 「紫骸城事件 inside the apocalypse castle 」 | |
| ファンタジー ミステリー | 講談社NOVELS 2001年6月5日発行 | |
| かつて魔女が世界の呪詛を集めるために造った紫骸城で、魔導師の競技会が開催。前回優勝者をはじめ参加者が次々変死するのは魔女の呪いか? 異世界ミステリー第2弾。 | ||
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ミステリーとしては“館もの”の一種と言えるのでしょうか。紫骸城は大会期間中、外に出られず、威力の大きな魔法も城自体が魔力を吸収してしまい使えません。いわくありまくりな建物で、外界と接触が絶たれた状況での連続殺人…と言えば、館ものと呼ぶのかなと。 続編の「海賊島事件」もあわせて読みましたが、シリーズ3巻中では、この巻のトリックが一番驚かされました。松尾由美のバルーン・タウンシリーズもそうでしたが、特殊な世界観ならではのトリックに弱いようです。 世界観に依存したトリックというのは、もしかすると、いわゆるミステリーとしてフェアじゃないやり方なのかもしれません。でも端から謎解きを放棄している私には、現実的なトリックで世界観の特殊性が壊されることのほうが、むしろつまらなく思えます。森博嗣「有限と微小のパン」を読んでそんなことを考えたところだったので、特にそう思います。 文体も好みが分かれるかも。高みから見下ろすような格言めいた言い回しが会話に散りばめられているのは森博嗣作品に似た感触。ただ森作品ほどワケわからなくはないです。 それと過去の事件や人名などの固有名詞が、さも常識のように会話に登場するのが、世界の広がりを感じさせます。今語られている事件の外でも、その世界が動いていて、語られていない物語が眠っているのだと思えるので。「はてしない物語」(もしくはドラマ「王様のレストラン」)での「それはまた別のお話」ってセリフに似た効果と言うか。あざといっちゃあざといし、予告編が一番面白いとは、よく言われることでもありますが。(2003/10/27) | ||
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上遠野浩平・作 金子一馬・絵 「海賊島事件 the man in pirate’s island 」 | |
| ファンタジー ミステリー | 講談社NOVELS 2002年12月15日発行 | |
| 密室の塔に、水晶に封じられた姫の美しき死体が。容疑者は海賊島へ逃亡、引渡しを求める魔導艦隊が島を攻撃する。事態の決着は1人の女性に託された。異世界ミステリー第3弾。 | ||
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ミステリーとしてより、海賊の頭首一族の三代記として面白く読みました。 海賊を組織した初代と、彼を嫌悪した娘。彼女と結婚し、二代目の座に就いた初代の忠実なる右腕。そして現在海賊を取り仕切る三代目。 彼らに人並みの愛情は見当たりません。その間に流れるのは、憎悪や緊張感、組織が与える強大な力と、それを背負う重圧など重く暗い感情です。そんな彼らが造り上げた海賊島。初代が発案して二代目が建造、三代目が隆盛させた海上の巨大娯楽施設です。この施設の真の建造目的が明かされる時、海賊の頭首一族に新たな陰影が加えられます。 ミステリーとしては、謎解きでちょっと拍子抜けするかも。ファンタジーとして世界観を楽しむ分には、すごく好きな雰囲気なのですが。 そう言えば1巻で期待した世界の構造の種明かしは、まだ特に語られていないような。この巻では、1巻のメインキャラ3人が勢揃いしたので「もしや」と思ったのですが。 じゃあきっと続きが出るのね。と言うか出てほしいです。それにどの登場人物もこれきりにするにはもったいないし。この巻では新たな戦地調停士も誕生したし、2巻で活躍した超然とした美貌の双子の戦地調停士ミラル・キラルのその後も気になります。世界観が好きな作品なので、ただのキャラ萌え小説になるとイヤですが、そこはひとつ。(2003/10/27) | ||
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上遠野浩平・作 金子一馬・絵 「禁涙境事件 some tragedies of no-tear land 」 | |
| ファンタジー ミステリー | 講談社NOVELS 2005年1月10日発行 | |
| 「禁涙境」は魔導戦争の前線近くながら、魔法効果を四分の一にする特殊な地ゆえに非武装地帯となっていた。5つの怪事件を通し、街の誕生から終焉までを綴るシリーズ第4弾。 | ||
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全部で5つの事件が語られる連作短編集のような構成です。 戦争の空白地帯である奇妙な歓楽街・禁涙境の数十年の歴史を、時代を前後しながら、街の人々それぞれの視点を通して描いていきます。多視点の物語ということで、作者の代表作である「ブギーポップ」シリーズ(私は1巻しか読んでないけれど)をちょっと連想。 読みながら、謎解きは意識の外でした。私がもともと謎解きなんて端から諦めているからでもありますが、このシリーズは特に、謎より世界観が興味の中心になっているもので。 魔法が動かしている異世界の中でも異色な街。特殊な状況下でこそ生まれる野心や願いが人を動かし、その人生が絡み合って、街の歴史が織り上げられていく…人生のドラマが垣間見えて味わい深いです。ミステリーを期待されると物足りないかもしれませんが。 また今作は、おなじみのキャラが続々登場するうえ(会話の中で語られる人物も含めればオールスターキャストと言えそう)、戦地調停士・EDと風の騎士・ヒースロゥの過去ものぞけたりと盛りだくさんで、それぞれのエピソードだけでもかなり楽しかったです。 それに新キャラの「残酷号」ことサトル・カルツが起こすカタストロフ&カタルシスが強烈。主役級の存在感を持つキャラが次々に登場して、この先(きっとあるだろう)、何がどうなるんだろう? もはや「大甲子園」状態。だからつまり…楽しみなのです。(2005/05/09) | ||
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上遠野 浩平・作 やまさきもへじ・絵 「 残酷号事件 the cruel tale of ZANKOKU-GO 」 | |
| ファンタジー ミステリー |
講談社NOVELS 2009年3月5日発行 | |
| たった1人で国境警備部隊を壊滅させ、難民を虐殺から救った異形の男“怪人・残酷号”。怪人誕生の裏には、ある恐るべき計画と、1人の少年の痛ましい人生が隠されていた…。 | ||
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まず思ったのが「イラストレーターが変わっちゃったのね」ってことと、「やまさきもへじって、こんな絵も描くのか」と。だって、虹北恭助シリーズのほんわかイラストしか知らなかったから。金子一馬のダークな雰囲気を受け継ぎつつ、キャラクターデザインは変えたみたいです。 前巻までのジャンル表記を踏襲して、「ミステリー」と書いてはみたものの、ミステリーぽくはないです。最後に“犯人”が指摘されて、「ああ、そういえばミステリーだったっけ」と思ったくらい。指摘されたことも、別に気になってもいなかったし。 じゃあ、どんなジャンルの話かと言えば…ヒーローもの、でしょうか。 題名になっている残酷号をはじめ、仮面の戦地調停士・ED(エド)、切れ者の“何でも屋”ロザン・フリューダ、千兆帝ロードマン率いる無敵の軍隊“完全なる覇軍”、“風の騎士”ヒースロゥ・クリストフなど、スゴイ能力を持つ面々がそろい踏み。 でもスカッとする勧善懲悪ってことでもなく。彼らそれぞれが正義をなそうとしているんだけれど、世界はやっぱり澱んだままって感じがしてしまいます。難民問題とか、“政治が悪いのよ”と愚痴りたくなるエピソードだし、そういう面では正義の味方なんて無力です。でも、それでも困った人を救おうと懸命になる姿が、切ないけれど、尊い。(2009/12/06) | ||
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河出智紀・作 鷹城冴貴・絵 「 まずは一報ポプラパレスより」 | |
| ファンタジー |
集英社 JUMP j BOOKS 1996年10月9日発行 | |
| 超小国ウルムスターを治める17歳のグリーナは、護衛なしで馬や飛行機を乗り回す型破りな王女。イウォーン帝国のスパイ・トランスは新任秘書官として王宮に潜入するが…? | ||
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「第六大陸」の作者の初単行本。作者名の違いはペンネーム変更のせいです。 なんだか、まったり。大国の侵攻の危機にさらされる小国、そこに潜入したスパイが主人公…とくれば、もうちょっとハラハラさせてくれてもよさそうなものなのに。 プロローグから既に、スパイが王女に心酔していることは分かりきっているので、祖国と王女との板挟みになって苦しむ…という面が物足りなかったです。 まあ、王宮自体が小ぢんまりと家族的な雰囲気だし、ハラハラさせるサスペンスを期待するのが筋違いなのかも。それに、その“ほのぼの感”が味でもありますし。 政治的ピンチをニヤリとさせるアイデアで切り抜けたり、小国が生き残るための意外にしたたかな策略など、各エピソードは楽しかったです。 王女の理想主義的ではあるけれど、“彼女なら、やってくれそう”と思わせる言動も魅力。 バイタリティのある女性が治める小国の物語というと、自ずと、こんな雰囲気になるのかも。アン・ローレンス「アンブラと4人の王子」とか田中芳樹「アップフェルラント物語」とか。 これらの作品に共通するのは、パワーゲームに汲々とする男社会の周辺国と対比して、王女/女王の国は平和主義国家として描かれていること。だから読後感があったかです。 本書あとがきでグリーナ王女のモデルの1人として挙げられていた遠藤淑子“エヴァンジェリン姫”シリーズも同じような楽しさがありそうで、読みたくなりました。 ジャンプ小説・NF大賞第6回受賞作。乙一「夏と花火と私の死体」と同時受賞のようです。 この賞の受賞者には、村山由佳(第1回・佳作入賞)もいるし、意外と実績のある賞のような(もっとも村山由佳は、童話の賞なども含め手広く賞に応募していたとも聞きますが)。 「週刊少年ジャンプ」が母体のせいか、若い作家の誕生も面白いです。乙一は受賞当時17歳で、この河出智紀もデビュー作「リトルスター」(作者サイトで閲覧可能)の「jump novel」(という雑誌があったのよ)掲載時は17歳だったらしいし。 でも最近、誰が出たかと聞かれると…? 今も募集中の賞なのですが。(2004/10/12) | ||
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河出智紀・作 鷹城冴貴・絵 「 まずは一報ポプラパレスよりII」 | |
| ファンタジー |
集英社 JUMP j BOOKS 1998年4月30日発行 | |
| グリーナ王女とトランスは、飛行機の酔っ払い運転で、古代からの森が残る自治領に不時着。森に眠る地下資源を狙う武装集団に遭遇する(「あなたに木陰の思い出を」)。他、避暑旅行先での騒動を描く「Crossing Letter」を収録。 | ||
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さくさく読めちゃったので、感想もサクッと書くことにします。シリーズものの感想文を2日続けて書くなんて、私にしては異例も異例(まぁ、暇だったってのも大きいんですが)。 タルく思えた前作に比べ、今作はさくさく読めました。2本収録で話が短めだし、全体を通して1つの事件を追っているから読みやすいし。前作は全体の柱となるべき“スパイ”って設定が最初から腰砕けだったのと、散発的な事件の連続になっていたのがマズかったのかも。 収録作2本のうち、私の好みでは「Crossing Letter」のドタバタ騒ぎが楽しかったです。 トランスに届いた女性からの手紙のせいで、ご機嫌斜めのグリーナ。さらに避暑先ではグリーナは王子様に言い寄られ、トランスはといえば昔のスパイ仲間にして元恋人のチルデに危険な嫌がらせを受け…。ベタなラブコメではありますが、素直じゃなかったり鈍かったりの2人のムズがゆい関係は、いっそ心地いいです。チルデの性悪ぶりも楽しいし。 個性くっきりの登場人物の小気味いい会話、意外な展開、アクションも快調…と出来はいいし、楽しい本です。ただ「ぜひ読んで!」と勧めるには、素直すぎて物足りない印象。 なおシリーズは、この2巻までですが、“多分最終話”の第4話が作者サイトで読めます。 なぜかグリーナの声のイメージは最初から桑島法子です。アニメ「絢爛舞踏祭 マーズ・デイ・ブレイク」の影響? じゃあトランスは自動的に関智一。…悪くないかも。(2004/10/12) | ||
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神林長平 「 永久帰還装置」 | |
| SF |
朝日ソノラマ 2001年11月30日発行 ※文庫版も発売中 | |
| 謎の宇宙機で火星に現れた男は戦略情報局の取調べに、時空を超える犯罪者“ボルター”を追う“永久追跡刑事”と名乗る。だが彼が語るボルターの名は、火星の大統領と同じ。疑惑の中、彼は情報局のケイ・ミンと逃亡、ボルターに挑む。 | ||
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「戦闘妖精雪風」の神林長平さんの作品。私としては初読みの作家の方です。 「雪風」のアニメ化関連で名前をお見かけする機会が増えたのと、元の世界に帰るための帰還装置がクリームパンの袋だという意表をつく道具立てが気になって、手にとりました。 “永久追跡刑事”小鴨蓮角は、世界群の破壊と再創造を繰り返すボルターを消滅させるため、人間の存在する次元よりも高次の次元から送り込まれた存在です。 蓮角には、送り込まれた世界の生物にあわせて自分を構築する能力があり、また世界の存在形式をも再構築する能力も備えています。その力で、取調べの責任者ケイ・ミンの過去を書き換え、味方に取り込もうとします。 もうひとつ厄介なのが、人格を備えた戦略情報局の中枢コンピュータ・マグザットの存在。火星の支配を目論み、邪魔になる蓮角たちにニセ情報を流してきます。 訪れた世界にあわせて翻案されているという蓮角の存在、二重写しに思い浮かぶ自分の過去に困惑するケイ・ミン、マグザットによる情報の混乱…錯綜する複数の“現実”に、読んでいてグラグラ揺さぶられるような不思議な感覚がしました。 こうも入り組んだ話なのに、追いつ追われつのサスペンスフルなストーリー展開に、どんどん読み進めたくなります。ややこしい世界設定も、状況を理解しようとするケイ・ミンと蓮角との問答の中で繰り返し説明されるので、どうにかついていけました。 終盤では、あやふやな現実が交錯する中、ケイをはじめとする情報局の面々は、ボルターや蓮角の思惑さえも超え、自らの意思で行動を選び取っていきます。その力強い姿と、巨大な敵に立ち向かう高揚感にワクワクしました。 最後に、タイトルにもなっている帰還装置について。 クリームパンの袋は、高次次元へと帰ることを忘れさせないためのよすがでした。でも、蓮角は、ケイと触れ合う中で、「帰る」ことの意味を捉え直し、帰還装置もその姿を変えます。 帰還装置を巡る蓮角とケイのやりとりでは、「帰る」場所への愛おしさと、残される側の切なさが印象に残りました。 斬新な世界設定を介して普遍的な感動に導くという、SFの醍醐味を味合わせてくれる作家の方だと思います。それに、内容紹介に四苦八苦するような複雑な話を(今回の感想文書きは他の本の倍以上、時間がかかりました…)、読んでいる最中は、ただただ面白く読ませるのだから、すごい力量です。他の作品も読みたくなりました。(2003/03/25) | ||
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神林長平・作 BONES・出渕裕・原作 出渕裕・末弥純・山田章博・絵 「ラーゼフォン 時間調律師」 | |
| SF ノベライズ | 徳間デュアル文庫 2002年9月30日発行 | |
| 異時空の侵略者MUの攻撃で死んだ明は、MUの東京襲撃直前の日々を何度も繰り返す。明は異空間の自分とチャットし、時間ループを抜ける術は〈ラーゼフォン〉を探すことだと知る。 | ||
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「アニメ『ラーゼフォン』の世界を再構築した書き下ろしシェアワールド・ノベル」(裏表紙より)だそうで、アニメとは登場人物も世界観もかなり違うようです。 私自身は、アニメはさわりだけ知っているというところ。ただ坂本真綾が歌う主題歌はかなり好きです。TV版の「ヘミソフィア」の心をざわつかせる疾走感も、せつない愛おしさに満ちた映画版の「tune the rainbow」も、どちらも好き。 神林長平作品を読むのは上で感想を書いた「永久帰還装置」に続き2冊目ですが、この2冊から見えてくる“神林色”があるように思いました。 それは時空に対する独特のビジョンです。小難しい理屈は正直、理解の外ですが、それでも不思議なイメージには圧倒されます。 まずラーゼフォンの“楽器”としての姿と、そのエネルギー源となる時間が物質化した“時間棒”のモチーフが美しい。それがループを描く時間を解きほぐし、調律していきます。“音楽で戦う巨大ロボット”というアニメのモチーフが、こう料理されたのかという感じです。 また、MUの出現で世界が改変され、通信技術が退行する描写や、時間ループによって生まれる奇妙な既視感の描写は「永久帰還装置」に通じる印象を受けました。 ただ、生半可にアニメを知っていることが、読むのに邪魔で。 アニメで見知ったモチーフが出てくると、そこで「あれ?」とひっかかってしまうのです。 幼なじみの女の子の報われない恋心とか、「いっしょに大人になりたかった」のセリフとか。既視感をアニメとの共通点と差異に成分分解しようとして、立ち止まってしまいます。 ついでにモチーフになっているエジプト神話の固有名詞にも大混乱。同じ人物でも呼び名もいろいろあり、ハルがホルスで、イシェトがイシスで…ああもう…。 アニメをちゃんと見たうえで、どう料理したかを楽しむか、まったく知らずに神林長平のオリジナル作品として読むかするのが、楽しむためにはよさそうです。 これを読んで、アニメがちゃんと見たくなりました。その点、ノベライズとして成功なのかも(でも近作アニメの再放送は、地上波では、ほぼ期待できないか)。(2003/12/15) | ||
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菊地秀行・作 寺田克也・絵 「明治ドラキュラ伝 (1)妖魔、帝都に現る」 | |
| 伝奇 ホラー |
講談社
YA!ENTERTAINMENT 2004年12月10日発行 | |
| 188X年、帝都・東京に、400年の時を超えドラキュラ伯爵が現れた。立ち向かうは天才剣士・水無月大吾、柔道の創始者・嘉納治五郎、弟子の西郷四郎。壮絶な戦いの行方は? | ||
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ドラキュラ伯爵と歴史上の人物が対決する虚実ないまぜの物語といえば、キム・ニューマン「ドラキュラ紀元」(感想文はコチラ)を連想しますが、比べるのは荷が重いかも。あっちは登場人物数・文章量ともに物量が違いますもの。ヤングアダルトレーベルでの発行のせいか、作者得意のエログロ描写もかなり抑えているようですし。 やや物足りない気もしますが、それでも戦闘シーンの緊迫感はさすが。吸血鬼の怪力に柔道で立ち向かうのが新鮮です。西郷四郎が必殺の“山嵐”を繰り出すのですよ。 登場人物の葛藤も注目点。武士が滅んだ明治の世にありながら、強さを究めようとする男たちのジレンマ。そして強さを求めるが故に、ドラキュラの人間を超越した強さと永遠の命に心惹かれる迷いもあります。 それも含め、かなり気になるところで終わっています。いかにも“ここまでは物語の序章に過ぎなかった”って感じ。書名に巻数表記付きでもあるし、続きがあるんですよね? ダークヒーロー誕生の予感…というか誕生希望。(2005/10/05) | ||
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北村薫 「 覆面作家の愛の歌」 | |
| ミステリー 短編集 | 角川書店 1995年9月30日発行 | |
| 美貌の令嬢・新妻千秋は覆面作家にして名探偵。小劇団の舞台に感動して数日後、その主演女優が殺された。アリバイ崩しに挑む表題作の他、短編3作を収めたシリーズ第2作。 | ||
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ほのぼのムードが好きなシリーズなのですが、今回はちょっと期待と違ったかも。 事件も殺人だ誘拐だと物騒だし、その犯人も常人とは違う思考法で動いているし。 そういう事件なら他にも読めそうなので、“ほのぼのミステリー”という貴重なポジションで楽しませてほしいと思います。 トリックや推理の過程は、わりに強引な印象ですが、その分、驚きました。 登場人物たちの軽快なやりとりは、いつもながら楽しかったです。 読んでから感想を書くまで間が空いたせいか、筆が進まない…。シリーズの楽しさは、次の第3作のところでずいぶん書いたし。よければ、それもご参照ください。(2004/10/17) | ||
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北村薫 「 覆面作家の夢の家」 | |
| ミステリー 短編集 |
角川書店 1997年1月30日発行 ※文庫版も発売 | |
| 美貌の令嬢・新妻千秋は、正体を明かさないミステリー作家にして名探偵! ドールハウスの人形の“ダイイングメッセージ”を解く表題作の他、短編3作を収めたシリーズ完結編。 | ||
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記憶にない登場人物が、知ったらしい調子で出てくると思っていたら、シリーズ2作目を飛ばして読んでいました。1作目の内容を忘れたのかと思っていたのですが。 連作短編なので、それでも楽しめはしましたが、千秋と、担当編集者の岡部良介との恋も重要な要素なだけに、残念な読み方をしてしまった気がします。 さて、感想。 まず探偵役の千秋の内弁慶ならぬ“外弁慶”というキャラクターがユニークです。 屋敷では対人恐怖症ぎみなのが、外に出ればキビキビ。「外ではまるでサーベルタイガー、しかし、一歩お屋敷の中に入ってしまうと羞ずかしがり屋の子猫」という変貌ぶりです。 話し方も、家でのおっとりしたお嬢様喋りが、外では姐さん口調でズバズバ。「あたし」という一人称や、「思い出してごらんよ」といった言い回しのあだっぽさにグッときます(「おじゃる丸」の小鬼のアカネのようだとも思いましたが)。 頭の切れも抜群。謎解きのヒントも意表をつくし、会話で突拍子のない比喩を出したり。 そんなふうに、どうにも読めない千秋の言動が楽しいです。 それと、会話のテンポが小気味いい。 作者の北村薫さんは落語好きだと聞きます。そのせいか、落語にも通じるリズミカルな掛け合いだと思いました。ただ散りばめられた駄洒落の数々はムズがゆいですが。 事件は小道具が面白い。「覆面作家、目白を呼ぶ」で鍵になるマルハナバチというハチや「覆面作家の夢の家」の殺人事件を模したドールハウスの“ダイイングメッセージ”とか。 いかにも何か起こりそうなおどろおどろしい雰囲気ではなく、むしろ、ほのぼのと暖かな作品。そして、そんな日常の中に不思議が滑り込んでくる感じが面白いです。 ほのぼの感の理由は、人が殺されるのは3作中1作だけだということや、ユニークな登場人物たちとその会話のせいもあるでしょう。 それと謎解きの場面でも、トリックの解明だけでなく、謎めいた出来事をひき起こした人の心への思いやり、優しさが感じられるのもポイントだと思います。 ラストの千秋と良介の会話が素敵です。じんわりと幸せな気持ちになりました。 シリーズとして納得のいくラストなんじゃないかと思われます。2作目を飛ばしているので断言はできませんが。順番どおりに読みたかったと、つくづく思います。(2003/03/08) 追記 :ラストの会話で思い出したのがエイミー・トムスン「ヴァーチャル・ガール」(ハヤカワ文庫SF)です。「家」がキーワードなのと、じんわり心温まる感じが近い印象。ラストの決めゼリフなので詳しくは書きませんが、ご興味があれば読み比べてくださいませ。なお「ヴァーチャル・ガール」は、AI禁制時代、科学オタクの青年が美少女アンドロイド・マギーを作り出し、2人で逃避行を図るが…という話。どこまでも健気なマギーが泣かせます。(2003/03/22) | ||
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北村薫・編 「 謎のギャラリー 特別室」 | |
| サスペンス ミステリー 短編集 |
マガジンハウス 1998年7月23日発行 ※文庫版も発売中 | |
| 防犯訓練の強盗役の巡査が生真面目ゆえに暴走し…(「遊びの時間は終わらない」)。暴風雨のため、真っ暗な家に友人の妻と降り込められた男の心理(「俄あれ」)。傑作短編12編。 | ||
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作家・北村薫が古今東西の名短編を紹介する「謎のギャラリー」という本があり、そこで紹介された作品を集めたのが、全4冊の「謎のギャラリー 特別室」です。現在では入手困難な作品も多数収録されています。なお、このシリーズは文庫版も発売中です。 この本の収録作一覧。 都井邦彦 「遊びの時間は終らない」 里見弓享 「俄あれ」 梅崎春生 「猫の話」 別役実 「なにもないねこ」 南伸坊 「チャイナ・ファンタジー」〈巨きな蛤・家の怪・寒い日〉 ヘンリィ・カットナー 「ねずみ狩り」 クレイグ・ライス 「煙の環」 ジョン・コリア 「ナツメグの味」 樹下太郎 「やさしいお願い」 阪田寛夫 「歌の作りかた」 フランソワ・コッペ 「獅子の爪」 マージャリー・アラン 「エリナーの肖像」 ジャンルはサスペンス、ミステリーや、ホラー調のものなど幅広いです。奇妙な味わいのある作品と言うのが、共通する印象。中でも印象的だったものをいくつか。 都井邦彦 「遊びの時間は終らない」 警察組織やマスコミを巻き込み、騒動がどんどん波及していく展開にワクワクします。しかも騒ぎの中心である当の巡査は、いたって大マジメ。理知的に“犯行”を続ける巡査と、彼に振り回され、保身に汲々となる警察署長や警視総監との落差がニヤリとさせます。 今さらですが、これ、「踊る大捜査線 THE MOVIE 2」冒頭のテロ対策訓練シーンの元ネタですね。モデルガンで撃たれて死んだという設定の人が「死体」と書いた紙を貼られるあたり、そのまんま。直接参照されたのは小説でなく、本木雅弘主演の映画版でしょうが。 小説のほうは騒動を膨らませるだけ膨らませて、「それでオチかよ!?」ってネタでストンと落とすラストなので、設定を膨らませているであろう映画を見てみたい気がします。 里見弓享 (トン) 「俄あれ」 ※「トン」は弓へんに享です 筋らしい筋はなく、“友人の妻と暗闇で2人きり”というシチュエーションに尽きる内容。 でも緊張感はスゴイです。突如湧き起こる暴風雨、雨戸を閉めた部屋に満ちる闇、友人の妻のなまめかしい肌、誘惑に揺れる男の心理…それらが、みっちり濃密に描写されます。 ストーリー展開でなく、描写力でこれだけ人を引き込めるってことに感動します。 作家の、そして日本語の凄みを感じました。 マージャリー・アラン 「エリナーの肖像」 若くして死んだエリナーという娘の肖像画。そこに秘められたメッセージとは? 暗号ものには弱いのです。意味不明の連なりから、意味が立ち現れてくる、その視界が開けていく感じが好きです。特に、この作品では、絵の中のガラクタにも思える品々にメッセージが込められているので、意味が発見された時の意外性もひとしお。 展開は強引な気もしますが、その“あれよあれよ”感も楽しかったです。 絶品アンソロジーの「特別室」ですが、「謎のギャラリー」で選出理由と合わせて読むのと、さらに楽しいです。それに「謎のギャラリー」自体、テンポのいい会話形式で、語り口のうまさに引き込まれる読み物。絶対に、紹介作品が読みたくなると思います。 どちらを先に読むかは、お好みでどうぞ。紹介文で期待したら、実際は肩透かし…という心配は、このシリーズには不要だと思います。(2004/04/19) | ||
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きたやまようこ・作・絵 「 りっぱな犬になる方法」 | |
| 絵本 |
理論社 おはなしパレード 1992年11月発行 ※文庫版も発売 | |
| 犬になってみたい人や、いきなり犬になってしまった人のために“ちゃんとした犬になる方法”を教えます。あいさつ、いぬごや、うんこ、えさ、おて…44+1項目を50音順に紹介する絵本。 | ||
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「犬になりたい」と言ったのは大島真寿美「チョコリエッタ」の主人公・知世子ですが、この絵本はそんな厭世的な気分の本ではもちろんなく、ほのぼのかわいい絵本です。 犬の習性や飼い方の解説書なわけですが、あくまで犬の視点から書かれているのがポイント。彼らの行動の意味が、飼い主という見下ろした視点でなく、犬と同じ目線で感じられます。「犬も、いろいろ考えているのかも」なんて発見がいろいろありました。 時折交じるシュールさや皮肉にもニヤリ。冒頭「ある日 いきなり 犬になる、なんてことは よくあることです」と言い切るし、「きくばり」の項は一言「よばれたら かおを むけよう」。 うっかりすると、人間にも当てはまる内容も…なんて説教くさい読み方をしそうになりますが、それは楽しくないので、素直に“犬気分”を味わうのがよろしいかと。(2004/01/23) | ||
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京極夏彦 「 陰摩羅鬼の瑕」 | |
| ミステリー | 講談社NOVELS 2003年8月8日発行 | |
| 白樺湖畔の洋館「鳥の城」で、旧華族・由良昂允の5度目の婚礼が行われる。過去4度、初夜に花嫁が謎の死を遂げた呪われた婚礼。探偵・榎木津と小説家・関口は悲劇を防げるか? | ||
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読み始めたのが昨年末。それからボチボチ読んでいて、「“鳥の城”だし、酉年の最初に読み終わればいいか」と考えたのを思い出します。 そして読み終わったのが2月の半ば…とんでもなくモタついてしまいました。 モタついた要因の1つが、(こういう人は多そうですが)犯人自体は最初から分かっちゃうから。「とっととアイツを追及しようよ」と、もどかしく感じたくらいです。時間を巻き戻しつつ、同じ場面を別の視点から描いていくループ状の構成も、もどかしさ5割増し。 謎解きのメインとなる“思い違い”も、おおよそ察しがつくし、証言の食い違いは森博嗣の小説で近いネタがあった気が。後者は読み終わってから思い出したのですが。 あとは事件に至る筋道で、私では埋められない部分の穴埋めと、事件を語るさまざまな視線がどのように収束されるのかを待ち構えていた、といったところ。 推理小説の肝とも言うべき、騙される快感という点では物足りなかったです。 そんなわけで、事件の謎解きより、衒学的要素で、私自身の常識がどう揺さぶられるかを主眼に読みました。 毎回、宗教や、神秘的なものについて講釈や謎解きが繰り広げられる、このシリーズ。 今回俎上にのせられたのは、日本における儒教と仏教、死生観の関わり…etc。小難しくて、まるで興味のなかった話題でも面白く思えちゃうから不思議です。死者を悼む意味なんて、普段なら頭をかすめもしないことも、つい考えてしまいますし。 小説世界に留まらず、現実世界の見え方に変化を与える意味では、最強の推理小説かも…と、今さら思いました。あ、松尾由美作品も、そういう側面が強いか。(2005/02/18) | ||
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京極夏彦 「 巷説百物語」 | |
| 時代 ミステリー 短編集 |
角川書店 1999年8月31日発行 ※文庫版も発売 | |
| 雨宿りで居合わせた僧と白装束の御行たち。そこで始まった百物語が、僧が隠していた罪を暴き出す…(「小豆洗い」)。小股潜りの又市の一味が巧妙な罠で悪党を退治する7編。 | ||
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“京極版 必殺仕事人”とも称されているらしい本作。標的に直接手を下すのではなく、又市一味が寄ってたかって騙しの罠にハメるあたり、コンゲーム的面白さも感じます。 「小豆洗い」「白蔵主」「舞首」というサブタイトルのとおり、話のモチーフは妖怪。又市たちの仕掛けが、あたかも妖怪の仕業であるかのように悪党を退治するという趣向です。 でも基本姿勢は、京極堂のシリーズと同じく「この世に不思議なものなどない」らしく、何が何やらという事件にも、最後には合理的謎解きが。オカルトでなく、きっちりミステリーです。 ただ、謎は解けても、そこで明らかになる人の心の闇は、なんとも苦く、どんより深く澱んでいて、後味すっきりとはいかないのですが。 短編ですし、きびきびした語り口の助けもあって、京極堂のシリーズよりグッととっつきやすいのではないかと思います。 収録作の一編「帷子辻」は作者本人の朗読で聴いたことがありますが、素人離れしていて惚れ惚れしました。小難しい文章も流暢に語り、台詞回しの緩急も見事。しかも耳当たりのいい低音の美声です。そういえばアニメ版「巷説百物語」や「ゲゲゲの鬼太郎」(第4期)では声優もやっていましたね。朗読会の他の演目ではモノマネも披露していました。 この上手さは、幼少時の一人遊びで鍛えられたものに思えるのですが、実際どうなんでしょうね? 学芸会の人気者とは違う芸風のような気がするので。 作者ほどの芸はなくとも、朗読してみたくなる文章ではあります。特に江戸っ子口調で語られる部分は小気味良く、時に徒っぽくて、声に出す快感があるのです。(2006/03/18) | ||
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CLAMP 「 xxxHOLiC」1〜6 | |
| マンガ オカルト ミステリー | 講談社 KCDX 2003年7月25日〜発行 | |
| 霊感体質の四月一日君尋は、女主人・侑子の強引な誘いで、謎の店のアルバイトに。そこは対価さえ払えば、どんな願いも叶える店だという。この世ならぬ存在が妖しい事件を起こす。 | ||
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ドラマ「世にも奇妙な物語」やマンガ「アウターゾーン」みたいなオカルト風味の連作集。 そこに四月一日(ワタヌキ)が背負っているらしい重い運命の謎や、同じCLAMPの連載マンガ「ツバサ」とのストーリーのリンクが、話の縦軸となって展開していきます。 面白いです。でも、それが何故か悔しい。 まず、アザトイ気がしちゃうのです。うまさが鼻につくというか。何せ売れてる作家だし。 既視感のあるネタでも、展開のうまさで読まされてしまいます。でも何か引っ掛かる。四月一日の両親が、彼を守るために事故で亡くなったと聞けば「ハリー・ポッター?」と思い(2巻)、四月一日が母親のように接してくれる謎の女性と会ううち、命が危うくなる話は「異人たちとの夏」を連想(6巻)。オカルト系短編では超ベタな「猿の手」も登場します(3巻)。 それにワガママ女主人・侑子の台詞回しのオタクっぽさも気恥ずかしい。斬鉄剣や「キャシャーン」「CAT'S EYE」などのマンガ・アニメのネタもなぁ…。同族嫌悪ってヤツかも。 四月一日と、クールな同級生の百目鬼(ドウメキ)の微妙な関係は気になるところ。オタク女が、まんまと乗せられてるなぁ…と自覚してはいるのですが。 四月一日は、ひまわりというコにベタ惚れで、彼女の言動に一喜一憂。でも彼女は百目鬼のことが気になるよう。それもあって四月一日は百目鬼が気に食わないのに、百目鬼は四月一日の危機には、自らの危険も顧みず助けてくれます。 この三角関係がマンガ「永遠の野原」の二太郎、太、マリコにダブるのが余計にツボ。 二太郎は一目惚れしたマリコの言動に一喜一憂。なのに彼女の想い人は、二太郎の親友の太。太は寡黙な不言実行タイプ。モテるけれど、恋より二太郎との友情第一です。 これでいくと侑子は二太郎の姉の一姫かな。共通点はストレートロングの黒髪。それに侑子ほどワガママでないにしろ、一姫も弟・二太郎相手には強気だし。そして四月一日に懐いている管狐(クダキツネ)は、二太郎の愛犬「みかん」というところ。 ただ、ひまわりとマリコは印象が違います。マリコが二太郎を振り回すのは、恋に必死なせいですが、ひまわりは、わざと四月一日を翻弄しているような邪まな気配がしますから。 どうでもいいですが、「四月一日」って文中に出てきても、人名に見えないですね。「ワタヌキ」では一発変換してくれないし。「ドウメキ」は変換できるのに。(2005/07/30) | ||
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CLAMP 「 xxxHOLiC」7・8 | |
| マンガ オカルト ミステリー |
講談社 KCDX 2005年10月17日・2006年2月16日発行 | |
| 四月一日がひっかけた蜘蛛の巣を百目鬼が取り払った。それが蜘蛛の恨みをかい、百目鬼の右目は開かなくなる。責任を感じた四月一日は侑子に頼み、恨みを自分に移すが…? | ||
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7・8巻では、蜘蛛に奪われた四月一日の右目の争奪戦を中心に展開します。 最初にお断りですが、今回の感想文は前の巻に増してオタク女くさいです。申し訳ない。 四月一日を助けようと懸命な百目鬼…トキめかずにはいられようか!って感じです。 だって“半分ずつ”ですよ。一心同体、別ち難い絆、指輪の交換ですよ(妄想加速ぎみ)。ネタバレになりそうなので詳細は書きませんが。 百目鬼が不言実行なのも高ポイント。内心は必死だろうに、それを表に出さないのです。 一方、四月一日はと言えば、自分自身を大事にしない、心の欠落みたいなものが見えてきました。ここも萌え(うわぁ。この言葉、使いたくないのに、使わずにいられない)。 侑子は、さまざまな事件を経験して、四月一日が変わっていくことを待ち望んでいる様子で、このへんが今後のストーリーの鍵になるのでしょう。 こんなにオタク女を喜ばせてどうするの!?って内容だと思うのですが、他の読者層の人は普通に楽しんでいることでしょう。えぇ、私の目が汚れているのですよ…。(2006/04/27) 追記:こんな感想を書く人間だという前提での話なのですが。 7、8巻を読んで突発的に話を書きたくなり、勢いで書いてみたのです。それを、もし読んでもいいという方がいらっしゃいましたら、コチラで。 内容はナルコレプシー(居眠り病)ぽい四月一日と、それにヤキモキする百目鬼。エロくはないです。ほのかにソレっぽいくらい。御用とお急ぎでない方へ。(2006/04/27) | ||
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桑原水菜・作 浜田翔子・絵 「炎の蜃気楼38 阿修羅の前髪」 | |
| 歴史 伝奇 | 集英社コバルト文庫 2003年7月10日発行 | |
| 戦国武将が現代に甦って無念を晴らす「闇戦国」は全国に拡大。生死の境の変革を図る織田信長と、それを阻む仰木高耶=かつての上杉景虎の二陣営に分かれて激突する。 | ||
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10年以上続くロングシリーズですが、私が読み始めたのは貸してくれる知り合いができてからの、ここ1年ほど。いきなり38巻の感想になるので、あらすじの書きように困りました。 シリーズ完結間近、いよいよ佳境らしいです。いやもう「思えば遠くへ来たもんだ」って感じです。10年分をまとめて読んだせいもありますが、よもや話がこうまで膨れ上がるとは。 開始当初は戦国武将を絡めた高校生の怨霊退治もののようでした。それが今では、「日本史オールスターキャスト」(あとがきより)が入り乱れる壮絶な戦い。さらに主人公たちの400年ごしの執着と究極の愛だの、生と死の意味だのディープな命題がてんこ盛りです。 しかも文章のテンションがとんでもなく高い。中でも主人公の高耶と直江(男どうし)の執着心の描写、特に直江サイドの描写は重くて重くて。そのテンションにただただ圧倒されます。まあ、かっ飛びすぎな比喩表現や自己陶酔的心理描写に笑っちゃう時もあるのですが。 この巻は大ボス・織田信長が一旦引き下がり、戦いが終わったわけではないものの、ほんのちょっと一息つくお話かと。状況を整理して、次のステージに向けて準備中という感じ。 絶対的カリスマを備えた大将・高耶が直江の前だけで見せる迷いや弱さに、ファンの方はグッとさせられるんだろうなと思いつつ、私としては、ちょっと引いて見ている感じです。 ともあれ貸していただける限りは読み続けたいです。10年たっても下がらないテンションはスゴイと思いますし、38巻も読んだ小説は初めてですし。(2003/08/02) | ||
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桑原水菜・作 浜田翔子・絵 「炎の蜃気楼39 神鳴りの戦場」 | |
| 歴史 伝奇 | 集英社コバルト文庫 2003年11月10日発行 | |
| 礼に換生した信長によって禁忌大法が成就し、内宮は陥落。信長は巨大な力を手に入れる。混乱する伊勢に歴代斎王が降臨し、怨将の排除を開始。高耶たちは追いつめられて…!? | ||
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シリーズ中、1冊読み飛ばしていたのを、今さら読みました。 久々に読むと、昂ったテンションの文章はツライものが。洗練された文章でもないですし。慣れればそこが逆に味になって、こちらもテンションが上がりはするのですが。 それと、結局、誰が生き残ったとか、その後の展開がイマイチはっきり思い出せないのも悔しい。次の最終巻を読んだのが8ヶ月前とはいえ、せっかく読んだのになぁ…。 早く最終巻を読み返さないと落ち着かない気分。でも、いざ読み始めたら、前の巻の内容を忘れていそうな気もします。地理感覚の欠如した私には、日本各地に広がった戦況なんて把握しきれませんよ。どこで誰が何をしているのやら。ダメダメです…。(2005/03/30) | ||
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桑原水菜・作 浜田翔子・絵 「炎の蜃気楼40 千億の夜をこえて」 | |
| 歴史 伝奇 | 集英社コバルト文庫 2004年4月27日発行 | |
| 高耶と直江は“天御柱”へ踏み入れ、思念の歴史を刻む“心御柱”を見る。思念の激流の中、高耶は懐かしい人々の思念に導かれ、魔王・信長を追う。14年に及ぶドラマ、ついに完結! | ||
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あれ? 感想を書こうとして気がつきましたが、39巻を読んでいませんよ。 でも40巻、何の支障もなく読んでしまいました。そもそも「甦った織田信長とエライ戦いになっているのよね」くらいの状況把握しかしていないので。 そんなわけで最終巻です。 これまでがすごくテンションが高かったので、それでラストまで突っ切るのかと思っていたのですが、読んでみるとクレバーな印象。全国各地の戦いを並行して描いて緊迫感を保ちつつ、戦いや残された謎を決着へと導いていきます。で、風呂敷をキッチリ畳んだなぁと。 これまでの戦いの壮絶さからすれば驚くほど、穏やかな読後感でした(主人公たちに思い入れのある人にしてみれば、やるせない展開ではあったようですが)。 いやでも、本当によくまとめきったなぁと思います。 だって本当にいろんな要素を取り入れた物語なのです。記紀神話の時代からの歴史に、密教、呪法、神社の縁起由来…etcを練り混ぜ、編み上げた物語。 伝奇ものとしても、かなりスゴイ作品じゃないかと。 ただ男性にはちょっと勧めにくい…。高耶と直江の濃密すぎる関係がねぇ…。BLとは違うし、恋愛って言葉では言い尽くせない関係とは思いますが、やはり抵抗があるかなと。 でも、それで捨て置かれるには、もったいない作品だとも思います。(2004/07/26) | ||
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アレグザンダー・ケイ・作 内田庶・訳 「 残された人びと」 | |
| 児童書 SF 冒険 |
岩崎書店 ジュニア ベスト ノベルズ 1974年11月30日発行 | |
| 世界は磁力兵器で崩壊。“新社会”は、壊れた太陽エネルギー発生装置の秘密を知る科学者ローを探していた。小島で一人生きる少年コナンも新社会に捕まり、ローと脱出を図る。 | ||
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上記のあらすじで察しがつくかもしれませんが、アニメ「未来少年コナン」の原作です。図書館で見かけたのは初めてだったので、思わず借りてきました。アニメのDVD-BOX発売にあわせて書庫から発掘してきたのでしょうか? であればグッジョブ!図書館員さん。 どうしたってデキの良すぎるアニメと比べてしまうので、かなり分が悪いです。単体で見れば、十分デキのいい冒険ものでありジュブナイルSFだと思うのですが。 世界観や登場人物は、ほぼ同じ。でも雰囲気はずいぶん違います。 まずアニメよりも、かなり深刻。コナンがアニメと違って迷うし悩むし、人間離れしたアクションもナシ。可憐で神秘的なイメージだったラナも、けっこうキツイ印象です。言動はさほど違いがないから、声優の演技とビジュアルの影響力が大きいのだと思うしだい。ロー(アニメでは「ラオ」)がアニメ以上に出張っているのも、暗い雰囲気に一役買っているように思います。アニメのコナンやジムシィたちの、すっぽ抜けた明るさ、前向きさが恋しくなります。 話の内容も「ここで終わり!?」って感じ。太陽塔は発動しないし、ギガントも飛びません。 ギガントや、コナンとラナの純粋な絆(恋と呼ぶには、まっすぐすぎて)など原作にない、もしくは描写が薄い部分は、アニメでの宮崎駿監督の創作なのでしょう。コナンとラナの初対面や“水中キス”の場面も原作では見当たりませんでした。 「コナン」は宮崎駿初監督作。処女作には後の作品のすべてがあると言いますが、確かに巨大飛行機や少年少女の一途さは後の宮崎アニメ、特に「天空の城ラピュタ」の原型かと。 これからこの小説を読もうって人は、アニメとは別ものだと頭に叩き込んでから読むか、宮崎監督が原作をいかに料理したかの資料として扱うのがよろしいかと思います。 何かにつけて「バカ」と突っぱねるドクター・マンスキーのセリフは、アニメのモンスリー役・吉田理保子の声で聞こえました。モンスリーの「バカねぇ!」って口ぐせはツボだったので。このへん、原作キャラをうまく拾っているなと思いました。(2003/11/06) | ||
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寿たらこ 「 SEX PISTOLS 1 」 | |
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マンガ ボーイズラブ ファンタジー 学園 |
ビブロス スーパービーボーイコミックス 2004年1月10日発行 | |
| 突然、周囲の人間が動物に見えだしたノリ夫。しかもイキナリ国政という男に迫られ、とんでもない目に遭わされる。国政から、彼やノリ夫は動物の魂を持つ“斑類”だと教えられて…!? | ||
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まず、お断りを。ボーイズラブです。エロい場面もあります。取り扱い注意。 斑類、先祖返り、魂現などなどヤヤコシイ設定が諸々ありますが、そのへんピンとこなくても楽しめると思います。要は横暴ワイルド系男とラブリー子猫ちゃんのラブラブ話。 斑類の中でも貴重な“先祖返り”であるノリ夫に、種付け(!)目的で近づいた国政。ノリ夫は国政にだんだん心ひかれながらも、体目当てであることにイラ立ちます。 特殊な状況で出会った2人が、ちゃんと恋に気づくまでがテンポよく描かれています。恋する気持ちを切り取ったセリフは切れ味がいいし、掛け合いも小気味いいです。 BLはエッチしてナンボ。それだけで中身はないも同然の作品もあったりします。 この作品の斑類の設定もそのための方便からの発想かとも思うし、実際エッチぃ場面も見ものなのですが、それだけじゃなく。 恋のトキメキや厄介さがが伝わるラブストーリーとして面白く読みました。乱暴者な国政が恋に照れる感じや、ノリ夫のおバカだけどまっすぐで必死なところがカワイかったです。 国政の兄・米国と学級委員長との恋愛話も収録。実はこちらの話のほうがツボでした。かなり気になるところで2巻に続いているので、次の感想で語ります。(2005/02/23) | ||
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寿たらこ 「 SEX PISTOLS 2 」 | |
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マンガ ボーイズラブ ファンタジー 学園 |
ビブロス スーパービーボーイコミックス 2004年6月10日発行 | |
| 一目惚れした米国と同じ高校に進んだ委員長。病的な男嫌いの米国に友達のフリを頼まれ、恋心を隠して傍にいた。だが米国にキスマークを見られてから、関係がギクシャクしだして…。 | ||
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1巻から続く米国と委員長の恋愛話の、胸がシクシクする切なさがツボにハマり、何度も読み返しては、胸苦しさにジタバタしています。 米国の何気ない言動に、委員長の心がうずく場面がホント切なくて。 極度の男嫌いの米国相手に恋が叶うはずもないと解ってはいても、想いは消せず。傍にいられるだけで幸せだから、恋心を悟られないように押し殺している。 恋が露呈する場面は泣かせます。そこには斑類ならではの事情が絡んでいるのですが。 米国は、自覚のなかった恋心をいきなり突きつけられることになり、その混乱で委員長にヒドイ言葉をぶつけてしまいます。委員長が恋したことを謝っちゃうのが痛々しい。謝るなよ。 米国がグルグル混乱し、でも委員長のことが頭を離れず…という姿も見応えアリ。そして、そこからどう突き抜けるかも。最後まで胸がキューッとしっぱなしでした。 それにしても妙な名前が多いです。ノリ夫、米国、紹介してないけど王将とか。 委員長ってのはアダ名です(当たり前)。学級委員長なのですよ。本名は藤原しろ。「しろ」ってのもどうかと思いますが、この名前、実はワケアリなのです。 ノリ夫の先輩・熊樫の話も収録。斑類でも熊の血筋である熊樫は、家系存続のため、祖母たちが契約した見知らぬ男、アメリカングリズリーのヨシュアとHするハメになって…!? 熊だけあってガタイのいい2人の恋(エッチあり)だというのに、初々しくて、かわいらしく思えちゃうのがBLマジック。2人の恋心がヒシヒシ伝わってくるおかげだと思います。ヒドイ男かに見えたヨシュアが内心を語る場面で、ガシッと心をつかまれてしまいました。エピソードづくりやセリフ回しがうまいです(エロさも含めて)。 あと、熊樫先輩の外見を裏切る乙女ぶりはマンガ「純情クレイジーフルーツ」の沢渡くんのようでした。頬染めた表情が恋する乙女そのものです。背景には点描が飛んでいるし。 もっとハイテンションでハジけた感想が書きたいです。精進します…って、訓練でどうにかなるようなものでもない気もしつつ。(2005/02/23) | ||
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寿たらこ 「 SEX PISTOLS 3 」 | |
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マンガ ボーイズラブ ファンタジー 学園 |
ビブロス スーパービーボーイコミックス 2005年1月10日発行 | |
| ノリ夫は一人前の斑類になるため、恋人・国政の実家へ。国政の母や弟にいじめられ、修行も失敗続き。国政ともすれ違いばかりで…。天敵のハブとマングースの恋を描く短編も収録。 | ||
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“ノリ夫は斑類のフェロモンでエッチな気分に流されているだけで、米政との恋は思い込み”という愛美(米政の弟。超ブラコン)の指摘は、私も1巻で感じないではなかったです。 なので今回、そのへんを悩み始めたノリ夫が、むしょうに可愛く思えてきました。 個人的に「恋って何?」とグルグル悩んでいる話が好みなので、ノリ夫と米政のように、わりにとっとと両思いになっちゃうと愛着が持てないのです。それとノリ夫が修行や米政との関係でキツイことになっても、明るく頑張っている健気さにもホロッときました。 今回、浮上してきたのが、国政の“実は人でなし?”疑惑。ノリ夫に迫ったのは貴重種だからってだけで、恋愛感情ではなかったと言うのです。態度はどう見てもベタ惚れなくせに。 で、国政が恋愛に非常識なのは、実は過去がワケありで…という展開。 ただ、今までの話では、そういう非常識さは感じなかったんですよね。同時収録の短編でも、ハブ男の酷い言動に憤っていたし。他人のことはよく分かっても、自分のことは分からない人なのかも…と作者に好意的に解釈することにします。 1巻もそうでしたが、気になるところで終わっていてムズムズします。 国政にはどんな過去が? そして恋心をどんなふうに自覚するのか? 気になります。 私はかなり委員長贔屓みたいです。今回はサブキャラですが、米国との幸せそうな場面を何度も眺めています。このまま安定した関係になると、ストーリー上、クローズアップされる機会はないかも…と少し寂しくもなりますが、幸せならもういいや。(2005/03/04) | ||
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寿たらこ「SEX PISTOLS 4 」 | |
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マンガ ボーイズラブ ファンタジー 学園 |
ビブロス スーパービーボーイコミックス 2005年7月10日発行 | |
| 国政の屈折した性格は、複雑な生い立ちに原因が? 明かされる斑目家の秘密。そして実母の暗躍で窮地の国政をノリ夫は救えるか!? 「国政の父×米国の父」のなれそめ編も収録。 | ||
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メインカップルのノリ夫と国政のエピソードは、ノリ夫の言動が唐突な気がして、なんだかノレません。気が強いんだか弱いんだか。そんな風に自分の気持ちに忠実で、感情表現豊かなところがカワイイ…のか? 前の巻が手元になく、経緯がうろ覚えのうらみもありますが。 それでも2人の思いがちゃんと通じ合うクライマックスシーンにはホロッときました。 それより何より同時収録の、国政の父・デイビッドと米国の父・マクシミリアンの若き日のエピソードに断然トキめきました。 同じ大学で建築を学ぶマクシミリアンと、造形で若き天才と称されるデイビッド。 ひょんななりゆきで同居することになった2人だが、完全主義のマクシミリアンは、奔放なデイビッドにペースを乱されっぱなし。だが内心では惹かれてもいて…。 まず、感情を表に出さないマクシミリアンのクールな美貌にウットリ。デイビッドいわく「おそろしく綺麗な男」ですよ。それにデイビッドの人懐っこい笑顔も好きです。あ、ノリ夫と国政のカップルにハマれないのは、2人とも見た目が好みじゃないのも原因かも。 名場面のひとつが、デイビッドがマクシミリアンの体に触れて、その美しさを確かめるところ。服を脱いでさえいないのに、エロティックな雰囲気にクラクラです。 デイビッドが恋を自覚するシーンにもゾクゾクしました。彼がマクシミリアンを愛でる視線や跳ね上がる心拍数に同化しちゃうのです。カット割りがうまいのかな。 国政の実母・巻尾も登場、いろいろ活躍してます。この巻の前半ではコワれっぷりを見せつけた彼女。息子の国政へのヒドイふるまいは、親としてどうよ?と反感を覚えるのですが、若い頃だとその奔放さが魅力に思えるから不思議です。 コミックスは毎巻、気になるところで終わるのですが、この巻はキリが良くてよかった。 ご贔屓キャラの委員長は、案の定、出番が少なかったです。(2005/10/26) | ||
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寿たらこ 「 SEX PISTOLS 5」 | |
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マンガ ボーイズラブ ファンタジー |
リブレ出版 スーパービーボーイコミックス 2006年12月10日発行 | |
| 斑類の若葉は女性化して息子を生み育てていた。息子の父であるセスが2人を迎えに現れても、それを拒む若葉。互いに特殊な種族の2人の恋は、さまざまな事情が絡み合っていて…。 | ||
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また新カップル登場で、斑目家の人々は冒頭のみ登場。委員長と親しげな王将に、米国がヤキモチを焼くワンシーンがうれしくて、そこばかり、しつこく繰り返し読んでいます。 斑類にはさまざまな種族があり、恋の形もいろいろってことで、カップルが増えるのは仕方ないのかもしれません。でもむしろ既存カップルの物語がもっと読みたいです。今回の2人のドラマには、あまり新味を感じなかったので余計にそう思います。 繁殖のために男子を女性化するという設定は杉本亜未「ANIMAL X」を思い出すし、むしろ、そちらのほうに思い入れがあるもので。 諦めようとしても、あふれだす恋心の胸がシクシクするような切ない描写には引き込まれるし、流行りのアラブネタもオイシイとは思うものの、これまでの巻のようにジタバタ身悶えしちゃうようなディープな恋心やエロさが薄まっている気がするのです。(2007/03/02) | ||
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寿たらこ 「 SEX PISTOLS 6」 | |
| マンガ ボーイズラブ ファンタジー |
リブレ出版 スーパービーボーイコミックス 2010年10月10日発行 | |
| 国政は斑類・重種の成人式から帰ると、ノリ夫に突然プロポーズ。一方、成人式に付き添った兄・志信は、式に来ていた“人魚”の青年との暗い過去を思い出し…? 番外編3本も収録。 | ||
| 久々の新刊。遅ればせながら買ってきました。で、絵柄の変化にびっくり。 本作のキャラは全員やたらガタイがいい(メガネキャラの委員長さえ!)のに、この巻ではみんなほっそり。描線自体もサラッと描いた感じだし、作者の方、お疲れなのでしょうか。 ストーリーは、国政からノリ夫へのプロポーズと、国政の兄・志信の過去話が絡んで展開するのですが、この巻だけだとネタ振りだけで放り出された状態です。「MAGAZINE BE×BOY」連載中だし、次巻はそんなに待たずに出るのかな? だといいな。 話自体は、好きです。志信はさほど気になるキャラではなかったのですが、俄然、好きになりました。今後、彼が鉄面皮の下に隠した澱みが明かされるのが楽しみです。そういえば、志信の「姉」のことって既出でしたっけ? 今回びっくりしました。(2010/11/15) | ||
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小林めぐみ・作 新間大悟&佐伯経多・絵 「宇宙生命図鑑 book of cosmos 」 | |
| SF | 徳間デュアル文庫 2002年9月30日発行 | |
| 学芸員のトキ乃は、雌だけの種族が棲む惑星の博物館に赴任。彼女が会った神父と猫に似たガラリア人のコンビは「宇宙生命図鑑」の欠落部の改訂作業中というが、真の目的は…? | ||
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ル・グィン「闇の左手」(私の感想はコチラ)を読み、特殊な性を持つ種族の物語がもっと読みたいと思っていたもので、手に取った本。 初読みの作家さんですが、久々に追いかけたい作家が見つかった気がします。 私がハマる作家に、新井素子、大原まり子、ル・グウィンといった女性SF作家がいるのですが、その流れに当てはまる作家になかなか出会えなくて。“女性ならではの感性”と言われてもピンとこないのですが、でもやっぱり女性作家の作品のほうが肌に合います。女性であることを自覚していて、それが作品に反映されていることが決め手なのかも。 惑星ジバスの原住民で、女だけの種族・ヒーラー。その一人であるディリが、彼女を慕うウルマに抱く複雑な想い。ヒーラーの男が消えた謎を調査するトキ乃や、アレクたちを追う男の出現、さらにはヒーラーの土地を狙う悪徳不動産業者も暗躍…etc.と内容てんこ盛り。 それらをライトノベル文庫1冊でよくまとめていますが、それぞれの描写が食い足りない印象も。特に謎が一気に明らかになる終盤は慌しく、読みながら混乱しました。 トキ乃でなくディリをメインにして要素を絞り、その分、ヒーラーの風俗や考え方を掘り下げてくれたら、より私好みだったのに。ま、そうなると話の主題が変わっちゃいますけどね。 謎を残したラストで、いかにも続きがありそうなのに、これ1冊みたいです。アレクとセイジロには、とんでもない正体が隠されているようなのに…もったいない。(2005/10/10) | ||
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駒崎優・作 ほたか乱・絵 「 闇の降りる庭」 | |
| 歴史 ファンタジー |
講談社 X文庫ホワイトハート 1998年5月5日発行 | |
| 15世紀フィレンツェ。“魔術師”を名乗る美貌の青年・ルドルフォの妖しい術に魅了された商人一家を、庭師の青年は救うことができるのか? 第5回ホワイトハート大賞佳作受賞作。 | ||
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下の「足のない獅子」シリーズの作者のデビュー作。シリアスな歴史ファンタジーだし、耽美な魔術師が登場するしで、“獅子”シリーズとはずいぶん印象が違います。 水が媒介になる魔術のビジュアルや、異端審問で“魔術師”ルドルフォが抜けぬけと教会を愚弄する様など魔術関連の描写が楽しかったです。弱点のなさそうな魔術師との対決も気を持たせますし。賞の選評では厳しいことも言われてますが、けっこう面白く読みました。 ただ会話が面白みに欠ける分、登場人物の印象が薄い気はしました。 それを思うと、この本のわずか5ヶ月後に発売された“獅子”シリーズの第1作では、ずいぶんこなれた書き手になったものです。もともと書きたかった作品だったのか、編集者にめちゃくちゃ鍛えられたのかは知りませんが。 「世界の果ての庭」「カスティリオーネの庭」に続いて、今度はコレ。最近、読書が「庭」づいてるような。次なる庭との出会いもあるのでしょうか?(2005/03/12) | ||
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駒崎優・作 岩崎美奈子・絵 「 足のない獅子」 | |
| 歴史 冒険活劇 |
講談社 X文庫ホワイトハート 1998年10月5日発行 | |
| 13世紀イギリス。貴族のリチャードとギルフォードは厄介ごとを解決し密かに稼いでいた。ある依頼が領主も関わる騒動に発展し、窮地の2人。リチャード出生の秘密も垣間見え…? | ||
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長期シリーズの第1作です。佐藤亜紀、高野史緒作品を読んで、貴族が活躍する時代のヨーロッパの話が読みたくなったのと、同人界でけっこう人気作らしいので読んでみました。 同人誌で人気ってのは、わかります。男2人のコンビが主役だから。しかも華奢な頭脳派のリチャードに、剣の腕が立つ直情型のギルフォード。めっちゃ分かりやすい配置。 というか、全体的にすごく分かりやすい、定番な人物設定だと思いました。2人のために一途に頑張る従者の少年、悪辣な領主、酸いも甘いもかみ分けた娼館の美貌の女主人に、規律に厳しい僧侶etc.…。敵味方、イイもん、ワルイもんがクッキリ。 ストーリーは、主人公2人が悪辣な領主の悪巧みを知り、街の協力者の力も得て、知恵と勇気でひと泡ふかせるという、ベタっちゃベタな話ですが、ベタに楽しいです。このピンチを、どう切り抜けるんだろう?って感じで、先が読みたくなります。 それにティーンズ小説らしく、テンポのいい会話で話が進みます。リチャードとギルフォードの口の減らないやり取りがいい感じです。読むのが遅い私でも2時間足らずで読めました。 「ヨーロッパが舞台の話が読みたい!」って気分も、わりかし満足しました。細かい描写がそれっぽくて「おっ」と思わされます。子どもに協力を頼むのに釣るためのお菓子が干しいちじくだったりとか、食事の時、主人の近くで召使に刃物は使わせられないからと、息子と甥である主人公2人が肉を切り分けるシーンだとか。 私には時代考証的な正しさはわかりませんが、生活感が感じられればOKなのです。実際、あとがきで作者の方も「時代考証は適当」と言い切っていて、それよりも、読者が楽しければヨシという姿勢のようだし。 ただ「わりかし満足」ってのは、話がベタな分のマイナス。話自体は江戸時代に置き換えてもいい気がして。 今後の展開は知らないのですが、リチャードの出生に絡んで、話がスケールアップしそうで楽しみです。今回は1つの街の中だけでの話だったので。 サクサク読めそうなので、今後ぼちぼちと続きを読んで行こうと思います。(2003/02/17) | ||
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駒崎優・作 岩崎美奈子・絵 「裏切りの聖女 足のない獅子」 | |
| 歴史 冒険活劇 |
講談社 X文庫ホワイトハート 1999年2月5日発行 | |
| 依頼で、城から手紙を取り返したリチャードたち。手紙の恐るべき内容を巡って陰謀が動き出す。リチャードの出自に興味を示す新任司教も絡んで、思わぬ展開に!? シリーズ第2弾。 | ||
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今回も1つの街の中だけでの話ではありますが、イングランドを揺るがしかねない陰謀も絡み、スケールアップした感じです。 手紙の中身や依頼主の正体を巡り、事件の様相が二転三転する展開は、読ませます。 この巻一番の注目は、やはり新キャラのジョナサン司教でしょう。 若くして司教に出世し、権力者であるヨーク大司教の右腕となった切れ者。 権力志向だし、娼館に通い酒も飲む、潔いほどの生臭坊主です。リチャードの出自にも興味津々で、自分もその恩恵に浴そうという目論みを隠そうともしません。 表面的にはリチャードに友好的で協力もしますが、その実、何を考えているのか知れたものではない感じ。 この食えない司教が、今後の展開を騒がせそうです。 リチャードとしては出自は隠しておきたいのですが、この司教の暗躍で、今後面倒な立場になることは確実、でしょう、多分(今後の展開を知らないので弱気)。 今は勧善懲悪、明るいノリなのですが、そのうち陰謀渦巻く黒っぽいストーリーになるんでしょうか。というか、そういう展開を希望。 それにしてもリチャードとギルフォード、ラブラブですね…。 いっしょのベッドで眠るわ抱きしめるわと、サービス過剰なくらい。エッチぃ意味合いではないんだけど、あざとく思えて、なんだか興醒めしてしまいます。 こういうの、嫌いではないんですが、行間を読むくらいが丁度いい気がするのは、多分古いタイプの人間なんでしょうね。あるいは逆にスレちゃっているのかも。(2003/03/04) | ||
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駒崎優・作 岩崎美奈子・絵 「一角獣は聖夜に眠る 足のない獅子」 | |
| 歴史 冒険活劇 |
講談社 X文庫ホワイトハート 1999年6月5日発行 | |
| 恒例のクリスマス・ワインを運ぶ商人が殺され、リチャードたちも捜査に乗り出す。一方、彼らが暮らす領主館は、クリスマスの客のせいで騒がしくなってきて…。シリーズ第3弾。 | ||
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ジャンルに「冒険活劇」って書いたものの、ちょっと違うかも。殺人事件の犯人探しをするリチャードの頭脳労働がメインで、肉体労働担当のギルフォードには今いち活躍の場がないので。シリーズの統一上、そのままにしますが。 物語は、犯人探しと、領主館の客人である執行長官の娘・ホープとの交流という2つのストーリーが並行して進みます。その分、物語としての密度が高い感じがしました。 で、みっちり詰め込んだ分、リチャードとギルフォードのいちゃいちゃをはじめとする遊びの部分は割愛された感も。そのへんを期待する向きには物足りないかもしれませんが、話自体は読み応えがありました。 犯人探しでは、犯人や被害者の人物像が二転三転する展開に引き込まれました。予想外な形で結末に絡んでくるプロローグや、実行犯視点の場面が挿入されたりと、凝った構成も読ませます。事件に絡んでくるジョナサン司祭の生臭坊主&食わせ者ぶりも素敵。 もう一つのストーリーが、執行長官の娘・ホープとの交流です。 ホープは修道院育ちの潔癖さで、私生児であるリチャードへに嫌悪感を露わにします。そんな彼女が、リチャードの人となりや周囲の人々がリチャードを語る言葉に、心を開いていきます。定番のエピソードではありますが、素直にいい話だと思いました。ホープはハキハキ聡明な、いいお嬢さんだし。 そして今作では、ヒントは大量に出されているけれど、名前は明かされていないリチャードの父親の姿が垣間見れます。これからいよいよ、本格的にリチャードの出自話になるのでしょうか? そう思うと、今回ホープを介し、リチャードがいかに周囲に愛されているかを再認識させたのは、どんな状況でも味方になってくれる人たちの存在を示すためかもとも思ったり。 毎度書いているように、ドロドロした話を期待しているので、次こそいよいよ…と思うのですが、どうでしょう?(2003/03/30) | ||
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駒崎優・作 岩崎美奈子・絵 「火蜥蜴(サラマンダー)の生まれる日 足のない獅子」 | |
| 歴史 冒険活劇 |
講談社 X文庫ホワイトハート 1999年10月5日発行 | |
| 美貌の錬金術師に入れあげた青年貴族の目を覚ましてほしいとの依頼が。リチャードはジョナサン司祭やナタリーの娼館の娘たちも巻き込んで、ある作戦を実行する。シリーズ第4弾。 | ||
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この2ヶ月で4冊目の「足のない獅子」シリーズ。私としては、かなりのハイペースです。 1冊目の感想で書いたとおりサクサク読める話だし、けっこう冊数があるシリーズだから、どんどん読まないと。この4冊目までは、きっちり4ヶ月に1冊ペースで刊行されていて、しかもクオリティが安定しています。スゴイや。 感想を書く度、「ドロドロした話希望」と書いていますが、もう諦めました。 「桃太郎侍」や「長七郎江戸日記」みたいな、ご落胤の事件簿なのでしょう。そんな感じで、サクサク楽しく読みました。 今作の事件はシンプルなので、みっちり詰まった印象の前作と比べると、口の減らない会話など遊びの部分が楽しめました。中でも、リチャード・ギルフォードが恐れる厳しい祖母・アンジェラが病に倒れるという“異変”に対する、ギルフォードのリアクションは笑えました。アンジェラ、ほとんど怪物扱い。 それとジョナサン司祭も一味に加わり、共犯っぽい雰囲気が漂っているのがイイ感じです。司祭も期待通りの口八丁ぶりを発揮してくれるし。 読者も書き手もキャラをつかんでいる上で作られる、楽しい雰囲気なんじゃないかと思います。シリーズものならではの魅力です。(2003/04/03) | ||
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駒崎優・作 岩崎美奈子・絵 「 豊穣の角 足のない獅子」 | |
| 歴史 冒険活劇 |
講談社 X文庫ホワイトハート 2000年2月5日発行 | |
| 親戚の娘、森で拾った赤ん坊、領主の隠し子(!?)と、領主館は3人の赤ん坊で大騒動。しかも1人は貴族の跡継ぎらしく、刺客も来襲! 赤ん坊を守りきれるか? シリーズ第5弾。 | ||
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前作のあとがきにあったとおり、ギルフォード大活躍の巻です。 これまでの巻の感想でも書いたとおり、事件の犯人探しとなると、どうしても頭脳担当のリチャードがメインでギルフォードはワトソン役。不用意な発言で厳格な祖母アンジェラに杖でぶたれることも多いし、ややおマヌケな印象でした。 それが今回は赤ん坊を狙う連中を相手に大立ち回りをしたり、赤ん坊をかわいがる人の良さを見せたり。「いいヤツだよ、コイツ」と、かなり好感度がアップしました。次期領主でもあるギルフォードだけに、坊ちゃん育ちらしい、のびのびした人の良さって感じです。その点でも、出生の事情で屈折ぎみのリチャードとはいいコンビだと思います。 話の内容は、これまでどおり安定して楽しめました。きれいにまとまりすぎて、ちょっと物足りないくらい…というのは、贅沢を言いすぎでしょうか。 偶然にも赤ん坊が3人も集まったりと、話の展開ができすぎと言うか、悪く言えばご都合主義だから、そう感じるのかも。と同時に、娯楽小説ってそういうものかも…とも思うのですが。 ガンガン読み進めている、このシリーズ。今さらながら、全何巻か調べると、全10巻+続編の「黄金の拍車」シリーズがあるよう。よかった、まだまだ先があるのね。(2003/04/12) | ||
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駒崎優・作 岩崎美奈子・絵 「麦の穂を胸に抱き 足のない獅子」 | |
| 歴史 冒険活劇 |
講談社 X文庫ホワイトハート 2000年6月5日発行 | |
| 英国のウェールズ侵攻に参加したリチャードたちは、英国有利の状況で、退屈な日々を過ごす。だが2人が見つけた切り落とされた手首をを発端に、怪事件が続発。シリーズ第6弾。 | ||
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話の内容は、これでもかってくらい盛りだくさんです。 史実であるイングランドのウェールズ侵攻、森の中で見つかった切り落とされた手首、野営地での泥棒騒ぎに、手首のない新たな死体、酒場の美女を巡る恋…etc。 これらがすっきり解決されるんだから、いや手堅いわ。 事件の謎解きなど、十分面白く読めました。トリック云々ではなく、見えていなかった事件の背後関係や動機が見えてくる面白さです。 ただ前の巻の感想にも書きましたが、まとまりすぎの気もします。過剰さがないと言うか。 思わず筆が滑って必要以上に書き込んでしまったり、あるいは読みながら「好きなネタなんだろうねぇ」とつい微笑ましくなる、ある種の熱っぽさも小説の魅力ではないかと。 その点で、このシリーズはバランスよく抑制が利いている分、物足りないのです。 例えばウェールズ地方の歴史は、私にはなじみがない分、興味深かったので、その辺を書き込んであったら良かったかなぁとも思いました。イングランドとウェールズは言葉が通じないほど文化が違うことも初めて知ったくらいですし。まぁ、分量に限りのあるティーンズ文庫で、そこまで期待するのは筋違いのような気もしますが。 うまい作家さんだと思うだけに、まだ余力を隠し持っていそうで、もどかしいのかもしれません。いつか、みっちりした長編を読んでみたいです。(2003/05/30) | ||
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駒崎優・作 岩崎美奈子・絵 「 狼と銀の羊 足のない獅子」 | |
| 歴史 冒険活劇 |
講談社 X文庫ホワイトハート 2000日10月5日発行 | |
| 父を探す少年がリチャードに助けを求めてきた。同じ頃、大聖堂の金が奪われ、警備担当がジョナサン司祭の兄だったため、司祭の立場も危うくなる。2つの事件を結ぶ線とは? 第7弾。 | ||
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イカン…惰性で読んでいるっぽくなってきた…。 へたばり放題の新幹線の中で読んだのが間違いのような気もしますが。 今回はジョナサン司祭メインのお話です。兄に対しても情のかけらもない司祭の薄情ぶりは楽しかったです。自分の才覚だけを頼みに、厳しい人生を歩む人なのね…と痛ましく思ったりもしたのですが、ヨーク大司教との意外にいい関係も覗けたので、そのへんは緩和。 例によって話はキレイにまとまります。ストーリーは相変わらずよくできているなぁと。 でも何だかテンションが上がらない。リチャードとギルフォードがイチャイチャしていた初期が懐かしいです。当時は「あざといな」と興醒めだったのですが、それくらいわかりやすい餌があるほうが楽しく読める気がしてきました。我ながら勝手ですね。(2003/10/02) | ||
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駒崎優・作 岩崎美奈子・絵 「開かれぬ鍵 抜かれぬ剣 足のない獅子 」上・下 歴史 冒険活劇 講談社 X文庫ホワイトハート 2001年3月5日・4月5日発行 | ||
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悪名高きストックスブリッジ領主・ベインズが、シェフィールドの執行長官を罠にかけ、侵略をしかけてきた。同じ頃、コーンウォール伯の来訪が知らされる。彼はリチャードの秘めたる出自では異母兄にあたる人物。リチャードの人生に激震が走る! こういうネタをシリーズ開始当初からずっと待っていたのです! リチャードの出生の秘密がらみで、王家の人も登場するスケールアップした物語。お腹いっぱい楽しみました。ま、リチャードたちが住むブラッドフィールドの街の周辺だけで話が進むのは、いつもどおりですけどね。 いやもう「そんなに詰め込まんでも」と思うくらい内容ギッシリ。上のあらすじでは書ききれませんでしたが、2人の弟分である小姓・トビーを引き取りたいという叔父が現れたり、領主館に宿泊した旅の騎士の一団が怪しい動きを見せたり。神父は相変わらず胡散臭いし。 それらが終盤で意外な展開を見せつつ、キッチリ収束していきます。いつもながら手堅い。 ラストでタイトルの「開かれぬ鍵 抜かれぬ剣」の意味が分かると、シリーズ構成の美しさに感嘆。「足のない獅子」に始まる紋章由来のタイトルは、ここに至るものだったのかと。 コーンウォール伯と彼を守る親友の騎士は、リチャードとギルフォードをそれぞれ1枚上手にした感じで面白かったです。いつもなら犯人以上の人の悪さで人を翻弄するリチャードが、コーンウォール伯には逆に掌で転がされています。食えない兄弟だわ。 (2005/11/28) | ||
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駒崎優・作 岩崎美奈子・絵 「晴れやかな午後の光 足のない獅子」 | |
| 歴史 冒険活劇 |
講談社 X文庫ホワイトハート 2001年10月5日発行 | |
| ギルフォードの両親のなれそめや、リチャードとギルフォードの14歳の冒険、食えない司祭・ジョナサンの少年時代、ガイが憧れた、ある“職業”…登場人物の過去を描いた短編集。 | ||
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メインキャラがまんべんなく登場する、行き届いた番外編。リチャードやギルが幼い頃の、やんちゃな感じが微笑ましいです。ま、ジョナサン司祭は幼い頃から食えない奴ですが。 いろんな謎が最後にキレイに収束するのが魅力の、このシリーズ。今回は短編集ということで、ネタはシンプルめではありますが、手堅いまとめ方に唸らされます。 お気に入りは、ギルフォードの父・ハロルドの結婚話。実は印象が薄かったギルの母親がグッと好感度が上がりました。控えめだけど、しっかり者。というか、意外にしたたか? さすが、あの厳格な姑と折り合いをつけているだけはあるな、と。 展開や会話が軽やかで、読後感はあたたか。気持ちよく楽しめました。(2006/08/03) | ||
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駒崎優・作 岩崎美奈子・絵 「 黄金の拍車」 | |
| 歴史 冒険活劇 |
講談社 X文庫ホワイトハート 2002年7月5日発行 | |
| 騎士に叙任されたリチャードはストックスブリッジの新城主に。着任早々、城の地下牢で白骨が見つかり、行方不明の夫を探した女が子連れで訪れ…厄介な事件が一気に山積み! | ||
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前シリーズに合わせて、ジャンルをとりあえず“冒険活劇”としたのですが、活劇はほとんどなかったような。むしろミステリーぽい要素のほうが強かったように思います。 ミステリーといっても、トリックや犯人像にすごく意外性があるわけではないのですが、入り組んでいた諸々の事件が、きれいに収束していくのが気持ちいいです。 例によって行き届いた仕事ぶり。新シリーズの第1話らしく、前シリーズからおなじみの主要キャラたちが総登場して、それぞれの持ち味を発揮しています…って、毎回同じような感想を書いているような。でも、おなじみの連中の、相変わらず口の減らないやり取りってのが楽しみで、シリーズを読み続けているの…かな?(2006/09/11) | ||
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駒崎優・作 ひたき・絵 「運命は剣を差し出す1―バンダル・アード=ケナード」 | |
| 冒険 ファンタジー |
中央公論新社 C★NOVELS 2004年1月25日発行 | |
| あらぬ殺人の疑いをかけられた医師ヴァルベイドと、白い狼をつれた若き傭兵隊長シャリース。それぞれ追われる身の2人が偶然出会って旅をするが、行く先々で刺客に襲われる。 | ||
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第1シリーズ完結の第3巻の発売はもうじきなんだから、完結を待って読み始めればよかった…と読み終わってから思いました。この巻がまたヒドイところで終わっているんですよ。「ここで終わり!?」と呆然とするような。発行すぐに買った方は、さぞやきもきしたことでしょう。 まだ助走という印象です。国状や戦況、人物説明が終わりました…というところ。 「逃げる」という消極的目的の旅なうえ、ハラハラドキドキの逃亡劇と言うには、主役2人が慌てず騒がずという感じで、戦闘シーンでも、いまいちテンションが上がらない。 それに味方キャラが少ないので、「足のない獅子」シリーズのような口の減らない会話が楽しめないのもさびしいです。次巻以降で傭兵隊と合流するのを心待ちにしています。 あと、医師には、まだ何か隠していることがありそう。と言うか、あってほしい。剣の腕も立つし、殺されそうな状況でもジタバタしないのは冷静なのか何なのか。タダの医者にしては、いろいろ危ない橋を渡っていそうな気配がするのですが。 イラスト担当の、ひたきさんはけっこう好きな絵描きさんです。 某有名ファンタジーの同人誌を描いていたし、犬好きのようだし。狼が出てくる中世風冒険ファンタジーのイラストを手がけるなんてナイスな人選だと思います。挿絵の端正なカッコよさもさりながら、巻末の犬っころ4コママンガが、ほのぼのカワイイです。(2005/06/06) | ||
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駒崎優・作 ひたき・絵 「運命は剣を差し出す2―バンダル・アード=ケナード」 | |
| 冒険 ファンタジー |
中央公論新社 C★NOVELS 2004年7月25日発行 | |
| 30年あまり戦乱が続く時代。シャリース率いる傭兵部隊バンダル・アード=ケナードに、異国の青年が入隊を求めてきた。圧倒的な戦闘力と人嫌いの裏に秘めた、彼の過去とは?</STRONG></strong></strong></strong>< /strong> | ||
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「1冊読み飛ばした!?」と慌てました。いきなり過去話だから。 「足のない獅子」とは違うノリのシリーズなんだな…と今さら気がつきました。軽口も控えめだし、戦いも派手な立ち回りというより、無駄を省いて確実に殺すって感じ。 そういう意味では、わりかし地味な、このシリーズ。なので、顔に刺青を入れた異国の青年・マドゥ=アリ(表紙で一番デカく描かれている人)の登場で俄然トキめきました。 無表情な中で、わずかに見せる人間に怯えたような態度。重い過去ゆえに途轍もない絶望を抱える彼が、どう変わっていくのか? これでトキめかないわけには! それに隊の仲間の登場でにぎやかになったし、前の巻では敵への威嚇・攻撃に大活躍だったコワモテ狼も、この巻では、まだ子ども。カワイさを振りまいてます。母親と思いこんでいるマドゥ=アリを見ると、まっしぐら!ってあたりがカワイイなぁ。 全体としては、やっぱり地味で堅実。でも前巻ほどではないですが、また「ここで終わり!?」というところで終わりなので、きっと次巻も読むでしょう。ええ、まんまと。(2005/06/06) | ||
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ウィリアム・ゴールディング・作 平井正穂・訳 「 蝿の王」 | |
| 冒険 サスペンス | 新潮文庫 1975年3月30日発行 | |
| 南の孤島に飛行機で不時着した少年たち。共同生活を始めるものの、彼らの秩序は脆くも崩れ去る。主導権争い、不気味な“獣”の気配、狩りの熱狂…その果てに待ち受けるものは? | ||
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題名は何かと見かける本で、ジュール・ヴェルヌ「十五少年漂流記」の暗黒版というイメージがありました(あれ? “十五少年”はヴェルヌだったのですね。有名な作品だから読んだ気になっていたけれど、そういえば未読だったかも)。いや、とことんダークだわ。 少年たちの漂流記と言えば、水や食料の確保、越冬の準備、脱出方法など山積する困難を乗り越える中で、強い絆で結ばれていく…という内容を想像しますが、そんな知恵と勇気、感動なんて、まるでナシ。血なまぐさく、やりきれないエピソードが続きます。 南の島で、なまじ食うのに困らないから、欲望のまま暴走しちゃったのでしょうね。 とりわけ不気味だった描写は、隊長に選ばれたラーフが必死で理知的に考えようとしているのに、頭の中が黒い幕に遮られたるように、考えを深めることができない…というあたり。何の束縛もない島で生活するうちに、理性と判断力が蝕まれていくのです。 人物描写がくっきり目に浮かぶようです。しかも冷徹というか突き放しているというか。 ラーフはカリスマ性で隊長に選ばれるのですが、その後、秩序が崩壊していく中で、たかだか12歳の知恵も力も足りない子どもなのだと、これでもかと見せ付けられます。 ピギー(=豚ちゃん。もちろん、あだ名)という少年は一番、理に適った意見を言っているのに、まともに話を聞いてもらえません。それは意見のまっとうさのせいか、周囲に優越感を抱かせる風貌のせいか、あるいはうっとうしい語り口のせいか。このへん容赦ないです。 夏の暑い盛りに読むべき本でしたね。目眩がしそうな陽射しに灼かれているのに、冷静な手つきで暴き出される人間の心の闇にゾクリと背筋が寒くなるような、そんな体験ができたんじゃないかと。今は肌寒い10月です。(2005/10/21) | ||
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