新潟で大地震が起こったらしいんだワン。おいらテレビを見てビックリしたよ。新幹線が脱線するし、道路はちぎれちゃうし、家は押しつぶされてる。ほんと、おいら新潟の人が可愛そうで仕方なかったワン。 でもさ、それにつけてもおいらが腹が立ったことがあるんでござる。それはマスコミの傍若無人なふるまいなんだワン。 被災地で、取材をするために困っている人を集団で取り囲む。夜中に静かに寝ている人にまぶしいライトをあてて撮影する。友達が亡くなって悲しんでいる子どもに無理矢理マイクを突きつける…。そのほかにも色々腹が立つシーンが多かったよ。 いやー、ヤツらのふるまいは来るところまで来たっていう感じだワン。テレビを見て、おいらめちゃくちゃハラが立っちゃったよ。テレビに向かってワンワン吠えたワン! そこでおいら、ご主人が帰ってきたら文句を言ったさ。 「ちょっとさー、マスコミのヤツらひどいんじゃワン?」 するとご主人「あー、ポチもそう思う?」だって。 ご主人は語り始めた。 実際、今回の震災でもマスコミの行動はかなり問題になってるらしいんだ。テレビには映ってないけど、マスコミのヘリコプターがうるさくて話が聞こえなかったり、幼い子どもがおびえたり、マスコミが占拠してるせいで本当に必要な車が入れなかったり、他人の家に勝手に上がり込んだり…なんてこともあるらしいね。取材禁止の場所でボランティアのフリをして撮影していたクルーも見つかったっけ。とにかく被災地ではかなりヒンシュクを買っているらしいよ。邪魔にこそなれ、役には立ってないって。 「そんなことでいいの?」とおいら。 するとご主人。 「う〜ん、俺も悲しいけど、マスコミ界ではそんなことは日常茶飯事だからなぁ…」 「ええっ、『チャメシゴト』ってなに??」 「ポチのバカっ! それは『サハンジ』って読むんだっ!」 そんなこと言ったって、おいらは漢字は苦手なんでござるよ。 でも、そんなことはおかまいなしに、ご主人は語り始めた。 そう、「日常茶飯事」ってのは、いつもそんな感じだってことさ。俺が言うのもナンだけど、報道マスコミの取材マナーっていうのはほーんと悪いよ。態度はでかいし、非常識だし、それでいて世間知らずだし…。おまけに彼らが「自分たちは特別だ」って思ってるのは確かだよ。 みんなは知らないだろうけど、記者会見とかプレス発表の現場なんて、いつもまったくひどいもんだぜ。前が見えないと「おいそこ、じゃまだぞ。どけ!」なんて関係ない一般の人に文句を言ったり、入っちゃダメな場所に入るのなんてあたりまえ。「マスコミのみなさんはここで撮影して下さいね!」ってロープ張ってあっても、いつの間にかロープの外に進出して、いつのまにかそんなロープは無視されてる。おまけに撮影の最中には「おまえのカメラがじゃまだ!」「いや、おまえの頭が悪い」とかテレビと新聞でケンカしてたり、他のマスコミを無理矢理こづいたり殴ったり…。さらに会見が遅れたり現場が混乱すると「ふざけんじゃねーよ」「こっちは暇じゃないんだよ」なんて具合に、主催者のダンドリ・シキリが悪いと言って罵倒したり。ほんと、あきれちゃうよ。普通の人が見たら、こいつらヤクザかと思うんじゃないかね? 「そういえばこんなことを書いている人もいるよね。でもさ、なんでマスコミってそんな人ばっかりなの?」とおいらは聞いた。 「う〜ん、それは難しい問題なんだよなぁ。ひとつは、報道マスコミは軍隊と同じだから、ってのがあるかなぁ」とご主人。 「ええっ、軍隊と??」 そうさ。軍隊にいる兵隊さんは戦場で敵をやっつけるのが仕事だろ? 戦場で敵を見つけたのに「殺しちゃったら可愛そうだなぁ」とか「あの人にも家族がいるだろうなぁ」とか、そんな事を考えちゃいけないわけよ。そんな余計なことを考えていたら、戦場では自分がやられちゃう。だから「人間らしい心」は捨ててとにかく敵をやっつけなくちゃいけない。なにも考えずにロボットになる必要があるんだ。軍隊ではそういう風に教育されているし、自分でもそう思うように努力している。そうしていくウチに、感覚がマヒして人間を殺すことにも抵抗がなくなってしまうんだなぁ。 マスコミも軍隊とまったく一緒。現場にいる人はみんな「マスコミ兵」なのさ。マスコミ兵の任務は、「少しでも他社より早く報道すること」「いい絵を撮ってくること」「センセーショナルな話を取材してくること」、これだけしかない。マスコミ兵はいつも上官からそう教育されているんだ。現地の人と仲良くしたり、誰かのためになるようなことをしたり…、なーんてことは任務にはないんだよ。もちろん最初は誰だって人間らしい心を持っているのさ。でも、そんなことを考えていたら自分の仕事がなくなっちゃう。あいつはダメなヤツだって烙印を押されちゃう。だから、みんな人間らしい心を捨てて頑張るわけ。 「人間らしい感覚がマヒしてるってわけ?」とおいら。 「そうだなぁ、マヒしちゃってる人間が多いのは確かさ。でも、問題はそれだけじゃないんだなぁ」 そういうと、ご主人は再び語り始めた。 テレビや雑誌のスタッフって、じつは外部のスタッフがほとんどなんだよ。あとで「テレビマンの正体」という章でも言おうと思ってたんけど、たとえばテレビのクルーがいたとしても、じつは彼らのほとんどはテレビ局の人じゃなくて、テレビ局が外注している下請け会社のスタッフや、フリーの人たちだったりするんだ。 週刊誌だったら、実際に現場に行くのはフリーカメラマンとかフリーライターとかね。 「ふ〜ん、外部スタッフだとなにが違うんだワン?」 どこの業界でもそうなんだけどさ、下請けって大変なんだよ。発注元の言うことに逆らえないし、安いお金しかもらえないのが常だ。文句を言えば、「じゃ、他の人に頼みますからオタクには頼みませんよ」でオシマイだからね。そしたら生活できなくなっちゃうからな。みんな必死なんだ。 「えー? マスコミの人は、みんなお金をたくさんもらってるのかと思ってたワン!」 マスコミ君がみんな高い給料をもらってると思ってる人も多いみたいだけど、じつは高い給料をとっているのなんてピラミッドの頂点みたいなテレビ局や出版社の社員だけ。そんな人たちは現場に出もしないで、外注スタッフに指示を出したり文句をいったりするだけなのさ。 ピラミッドの頂点以外の下請け会社や派遣社員の環境は大変だ。給料は安いし、一晩中働いたって残業代さえつかないところが多い。そんな会社が生き残るためには、発注元の言うことを必死に聞いて実行するしかないんだよ。「いい絵を撮ってこい!」と言われれば多少悪いことをしたって撮影するし、「スクープをとってこい!」と言われれば無理矢理でっち上げてでも持ってくる。だって、みんな生活がかかってるんだからな。 それに下請け会社は人材不足も深刻だ。みんな規模が小さいし、どんどん人が辞めていってしまう。「能力のある素晴らしい人」なんて、そんなところで働きはしないからね。だから、いい人材なんて集まりはしなくて、教養がない人、常識がないような人ばっかりが残っていくんだ。テレビの下請けスタッフなんて、漢字さえロクに読めないような人がゴロゴロしてるよ。そういう人たちだから、取材現場でも色々問題を起こすわけ。常識はずれの行動をとったり、他人に迷惑を平気でかけたりね。 「でも、みんながそうなの?」とおいらは疑問。 「もちろん下請けスタッフにも常識のある人材もいるさ。でも常識や能力があってにも、こんどは別の問題があるんだ」とご主人。 「別の問題って?」 おいらは舌をベロンと出しながら聞いた。 誰だって、成功したい、認められたいんだよ。マスコミで働いている人間はとくにその傾向が強いからね。公務員になるようなタイプの人と正反対の人がマスコミで働きたがるんだからさ。みんな成功したい、認められたい、名誉が欲しいっていう欲望が強い人間が多いんだよ。他人よりまず自分…、だからさ。 そうなると、社会の常識よりまず自分の成功、ってことになりがちだ。それに、実際のところ…悲しいことだけど…、平気で人の家に上がり込んだり、ずーずーしくプライバシーまで聞いたり…、なんていう「人間として非常識なやつ」が、マスコミ界ではどんどん上にあがって、成功したり認められてるケースの方が多いんだよなぁ。 みんなが入っちゃいけないところから写真を撮るから「他にはないすごい写真」になるわけだろ? 普通の人が聞かないようなことを聞くから「他にはない話」が聞けるよな? つまり人と一緒のことをしていたんじゃダメ。決まりを守ってみんなと一緒のことをしている「いい子ちゃん」じゃ、いい仕事はできないってことなんだ。だから、結果として「そういうヤツ」ばかりが生き残ることになっちゃうわけ。 「報道カメラマンに限らず、マスコミ界で有名になっている人って、ちょっと変だったり、常識がなかったり、アクが強くて周囲から嫌われていたりなんていう人がほーんとに多いんだよ」とご主人はため息をつきながらつぶやいた。 それを聞いておいらは吠えた。 「でもさ、そういう人が認められてるっていうけど、それはマスコミ内で認められてるだけで、普通の人たちは誰も認めてないワン!」 「うっ…、そうかも。ポチも鋭いところを突いてきたな」 ご主人は弁解に苦しそうだ。 「それに、そういうのって、自分たちのことばっかりで、取材された人がどうかとか、視聴者がどうかなんてこと、全然考えてないじゃワン!」 おいらは怒り心頭だ。 「う〜ん、そうなんだよな。ポチの言うとおりだ」 ご主人は苦々しく言った。 「いずれにしても…」 そして、ご主人は悲しそうな顔をして続けた。 「マスコミ君たちが考えてるのは自分たちのことばかりで、みんなのことなんてこれポチも考えていないってことだけは絶対に確かさ」 |