この欄では以前にも魔女っ子と分類するには微妙な作品を取り上げたことがありましたが、今回はさらに思い切って完全な非魔女っ子アニメを 紹介してみようと思います。ご不満の方もいらっしゃるとは思いますが、ご了承くださいませ。



アイドル伝説えり子
(1989年4月3日〜1990年3月26日・全51話 / TV放送)


〜運命の荒波に弄ばれる少女の成長伝説〜
 1980年の後半、特に1986年〜1989年までの4年間は、地上波放送で新作の魔女っ子アニメは一つも存在しない(リメイク作品はあったものの)という、 まさに魔女っ子アニメにとって冬の時代とでもいうべき期間でした。ですが、このような時代にも少女向けアニメの系譜は細々と、しかしながら連綿と 続いていました。その中で特に注目すべき存在なのが、アイドルシリーズという作品群です。
 アイドルシリーズは、言うまでもなくアイドルとアニメのタイアップ作品です。この手の作品というのは手っ取り早いからなのかなんなのか意外と 数が多く、なんだかんだで現在に至るも存在しています。これは遡れば「ピンクレディー物語」などに行き着くのかもしれませんが、やはり 「魔法の天使 クリィミーマミ」 に始まる”ぴえろ魔女っ子シリーズ”と嚆矢とするのが一般的ではないで しょうか。
 この”ぴえろ魔女っ子”シリーズが終結して3年後の1989年、芸能プロのサンミュージックと葦プロがタッグを組み、アイドルシリーズの第1弾として 登場したのが「アイドル伝説えり子」(以下「えり子」)でした。

 このシリーズを語る際に挙げるべき点は、まず第一にアイドルありきという姿勢が貫かれていることでしょう。
 それまでの(そしてその後の)タイアップアニメでは、アイドルが主人公の声をあてる、主題歌を歌うなど前面に出てくる作られているものの、 あくまでアニメが主、アイドルは従という構図になっています。ところがアイドルシリーズではこの方式をさらに一歩押し進め、なんと実在する アイドルと同姓同名の人物がアニメの主人公となり、さらに番組の最後にアイドル自身が(例えば新作シングルなどの)販促活動を行うコーナーが 設けられるという、より徹底したアイドルプロモーション用番組となっていたです。
 そして本シリーズのもう一つ面白い点は、アイドルとアニメが 完全分業制 になっていることです。”ぴえろ魔女っ子”では 主題歌を歌うアイドルが主人公の声もあてていましたが、この番組でプッシュされていたアイドル・田村英理子は主題歌を歌うだけでアニメには ノータッチだったです。同様のプロモートは主人公のライバルに田村英理子と同じ東芝EMIに所属していた橋本舞子をあてがう形で行われていますが、 こちらも歌だけでアニメ本編は専門の声優が担当しています。









 以上のように書くと、「なんだよアイドルのプロモート番組かよ、駄作決定」、などと思う人も多いかもしれません。
 ところがところが。この「えり子」は濃密なドラマを描くことによってアニメ単品として独特のカラーを打ち出すことに成功し、その魅力に現在でもコアな ファンが存在しているのです(かくいう筆者も、その一人)。
 では、少しばかり長い前置きになってしまいましたが、以下から「えり子」本編に話を移してみたいと思います。


 今でもコアなファンの存在する「えり子」、その最大の見所とは何でしょうか。
 もちろん人によって違いはあるかもしれませんが、それでもやはり大時代的な、仰々しすぎるメロドラマ性にあるといってよいのではないかと思います。 様々な書籍で「大映ドラマ的な」と形容されているように、主人公をどん底に突き落として次々と試練を与え、陰険ないじめやライバルとの対立、 様々な運命の荒波に翻弄されながらも、最後には大団円のハッピーエンドに着陸するという内容。最近流行りの韓流ドラマに近いノリといえば、 イメージしやすいでしょうか。
 はっきり言えば前時代的。見ているこちらが気恥ずかしくなるような脚本であることは否定しません。
 ところが、そんな時代がかった脚本を制作陣は(少なくとも表面的には)何のてらいもなく大真面目に展開し、これでもかとばかりに畳み掛けてくるのです。 いくらなんでもやりすぎだろうと思ってしまうほどの無茶苦茶な演出と相まって、「えり子」の脚本はなんとも形容のしがたい迫力を生み出し、 見る側は次第に過剰すぎるメロドラマのメイルシュトロームへと飲み込まれていってしまいます。


 そして「えり子」のメロドラマ性を示すキーワードに 「運命」 があります。
 とにもかくにも全ては運命に支配されていることを、作中に挟まれるナレーションが強調します。

 えり子のペンダントの鎖が千切れると
 「運命の稲妻が、ペンダントを引き千切った!」(第1話)

 雨模様になって雷が鳴ると
 「運命の稲妻が、えり子の心をかき乱すかのように
  東京の冬空を走るのだった!」
(第39話)

 他にも運命の鼓動、運命のきらめき、運命のトンネル、 果ては 運命の回転軸 (第12話)という日本語として理解に苦しむ「運命」まで登場しています。
 なんでもかんでも運命の仕業にしていやしないか? と心の中で突っ込みを入れてしまったら、その時はもう、あなたは「えり子」の 術中にはまっているのです。


 そしてもう一つ、「えり子」を語る上で忘れてはならないのが、滝沢久美子氏によるナレーションでしょう。
 しっとりとした声の持ち主である滝沢氏は落ち着いた物腰の大人の女性を演じられることが多く、この「えり子」でも主人公の優しい母親である 美奈子役を演じられています。ところがナレーションでは一転してドスのきいた、魂を振り絞るかのようなおどろおどろしい声へと大変化。
 聞いているこちら側が呪い殺されるのではないか と思えるほどのド迫力で、これに対抗できるナレーションは、 自身がホラーである岸田今日子か、無駄に説得力だけはある江守徹かといった高みにまで上り詰めています。
 数ある名ナレーションの中でも特に素晴らしいのが第31話のラストのもの。

「長い彷徨いの果て、今、宿命のライバルが目と目を合わせ、激しい火花を散らした。
 運命の稲妻は起きつ、これから始まる二人の壮絶な戦いに歓喜の声を手向けた。
 濁流は喜びに舞い、清流は姿を消した。
 地は裂け、炎が笑い、安らぎは凍りついた。

 この嵐渦巻く宇宙で、えり子は何を失い、無くしていくのか。
 そして一体、どんな希望をつかむことができるのか。
 それは、誰にも分からない…」

 ここまでくると、意味不明だとツッコミを入れるのが無粋に感じられます。
 先にも書いたように時代がかった脚本と演出のおかげで、ただでさえ異様な雰囲気を表出しているのに、それに追い討ちをかけるかのように ナレーションで煽り立てるわけですから視聴者は堪りません。異様の二乗が生み出す世界は唯一無二、他のアニメでは絶対に体験できないものとなっています。



 あまりまとまりのない文章になってしまいましたが、「えり子」の凄まじさが少しでも伝われば幸いです。DVDやLDなどソフト化がされていますし、 時折ケーブルテレビなどで再放送されることもありますので、機会があれば是非ともご覧下さい。


追記:
 「えり子」の主人公・田村えり子を演じるのは、「クレヨンしんちゃん」の主人公・しんのすけ役で知られる矢島晶子氏。この作品が実質的な デビュー作品だったというだけあってか妙に初々しい演技で、それが作中のえり子とマッチしています。声質も現在と違っているので、そのあたり にも注目してご覧になると面白いと思います。



 次項からは「アイドル伝説えり子」のキャラ紹介などを行います。



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