セルゲイ・ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov)によるピアノ協奏曲第3番。ラフマニノフといえば、ピアノ曲、とくにピアノ協奏曲が有名である。
ラフマニノフが残したピアノ協奏曲は4作あり(パガニ狂も入れれば5作)、中でもリリカルな2番が人気・知名度ともに高いが、個人的には、この3番がラフマニノフ作品の最高傑作であると思う。

この曲は、映画「シャイン」で知った。この映画で、主人公のデヴィッド・ヘルフゴット(実在する)が“世界一難しい曲”として演奏するラフマニノフの第3協奏曲がほしくなり、購入した次第。何の予備知識もなく最初に買ったアルゲリッチ盤が大いに気に入り、一時期抜け出せないほどハマった。
とにかく美し〜いロシアの叙情。緊張感が高く、鬼のように難しいパッセージ。そして壮大でロマンチックな旋律。こういう曲想はいつの時代も本当の意味で万人受けするんじゃないだろうか。遅れてきたロマン派などと揶揄されることもあるようだけど、聴きやすい(親しみやすい)作曲家として人気があるのもまた事実で、熱心なファンも多い(というかそれはぼくだ)。
もちろん、全楽章好きなんだけど(第2楽章は少々感傷的すぎるきらいはあるが)、やはり第3楽章が最高に良い。特にフィナーレの“大浪”の美しさと昂揚感は名状
シャイン
しがたい。Yesの「Close to the Edge」とはまた違った昂揚感なんだけど、いつ聴いても全身鳥肌モノ。ラフマニノフの魅力が凝縮された1曲であり、超絶ピアノと雄大な旋律、昂揚感を伴う感動を味わいたい方は必聴
とはいえ、ぶっちゃけた話、一聴してすぐ気に入るという類の音楽でもないと思う。でも僕の場合は、何度も聴いて、曲が大体頭に入った頃には、すでに虜でした。映画も曲理解の一助にはなっていたと思う。

ともあれ、アルゲリッチのあと、現在20種類くらい聴いたが、その中でも特に印象に残っているものをいくつか紹介します。ルネッサンスの「シェヘラザード」あたりが好きな方、あるいはEnid や Iona が好きな人はたぶんいけるんじゃないかと思います。安価で超名演といえるディスクもあるので、ぜひ。(映画もすばらしいのでゼヒ)

追記 : ネットで試聴できるサイトをページ最下部にていくつか紹介しました。
06/10/07 Jeffrey Biegel を追加




アルゲリッチ盤 マルタ・アルゲリッチ(Martha Argerich) ★★★★★
指揮:シャイー(Riccardo Chailly) / ベルリン放送交響楽団
録音:1982年(Live) PHILIPS

1-3.チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番
4-6.ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番

初めて買ったラフ3番がこれだった。とにかく映画のままだ、いやそれ以上にカッコイイ!というのが第一印象。最初は第3楽章ばかり聴いていた覚えがあるが、ほかの楽章も素晴らしいことに気づき、しばらく抜け出せないほどハマった。
さすがは鬼のアルゲリッチだけあって、こういう難曲やらすとうまい。とにかく前に向かう推進力があって、ダイナミック。男以上にエネルギッシュで聴きごたえ抜群。ラテンの血がそうさせるのか、情緒に連綿とすることなく、かといって冷徹なわけでもなく、指揮のシャイーとともに、ほぼ理想的なバランスを保っている。まーたしかに、ちょっとサバサバしたところもあるけど、そんなに気になるほどでもない。ていうか、これ以上を望むのは、ないものねだりというものでしょう。ぼくは、このラフマニノフの3番について、50枚以上の聴き比べをしている人を3名知っているが、その方々が口を揃えて最高の演奏のひとつとして推薦しているのが本盤である。ぼくもその意見には激しく賛成。もしこの演奏が気に入らないという人がいたとすれば、そもそもこの曲に求めるものが僕とは決定的に違っているんだろうな。
ちなみに併録のチャイコも最高によい。これで1000円はお買い得すぎ!! シンフォニック・ロックが好きな人は、絶対に聴いておきましょう。



ワイルド盤 アール・ワイルド(Earl Wild) ★★★★★
指揮:ホーレンシュタイン(Jascha Horenstein)
ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団
録音:1965年 CHANDOS *2枚組み

ラフマニノフ;
ピアノ協奏曲第1-4番
パガニーニの主題による狂詩曲

ピアノ協奏曲全集です。3番は、全体にわたって、ちょっと、というか、だいぶテンポが速い。落ち着いたリリカルな部分や、大浪になると適正なテンポに戻るがしかし、、、。もうちょっとテンポ落としてほしいところ。カデンツァも速すぎる。しかし、音質はかなり良く、非常に華やかで煌びやかで、ちょっとした歌い回しが抜群に素晴らしい。3番の持つ旋律美を過不足なく最も理想的に表現してるのが本盤だと思う。また、音質も特筆すべきもので、とても65年の代物とは思えないほどの超上質の素晴らしい録音である。
このクオリティなのに、第3楽章にカットがあるのはかなり痛いが、ポイントはきちんと押さえた名演なので、数ある3番の録音群の中でも最上位に推す向きも多い。
それにしてもワイルドのピアノは速い。とにかく速い。この曲は、ピアノ協奏曲としては最高峰の難度を誇る曲なんだけど、なんでこんなに速く、しかも破綻なく弾けるのか。ほんとにどないなっとんねん。
ほか、PC1、2、4、およびパガニ狂も、全部速い。



ボレット盤 ホルヘ・ボレット(Jorge Bolet) ★★★★
指揮:不明/インディアナ大学交響楽団
録音:1969年(LIVE) Palexa

1-3.ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番|4.シューベルト(リスト編)/「ます」
5.ショパン(リスト編)/「乙女の願い」|6.シューマン(リスト編)/「献呈」
7.ドニゼッティ(リスト)/「ランメルムールのルチア」による追想
8.ワーグナー(リスト編)/「さまよえるオランダ人」より糸つむぎの歌
9.ヴェルディ(リスト編)/「リゴレット」演奏会用パラフレーズ

ボレットはキューバ出身のピアニストで、若いころから難技巧を求められる編曲ものをばんばん弾いていたそうだ。また、華麗なピアニズムと歌心を持ち合わせ、品の良いジェントルマンという感じで、この辺が、ピアニストとして上記のワイルドと似ていると言えるかもしれない。
さてさて、当盤は55歳のときの録音だが、この歳にして微塵も衰えていない技巧とパワーには恐れ入る。ただ、残念なことにカットが非常に多く、なんと全楽章に入っている。1楽章など、カデンツァの一部もカットされているくらいだ。それに、テンポが非常に速く、ややせかせかした感じがして、もうちょっとじっくりと弾いて欲しいところだ。でもまあ、そうした点があるにせよ、実に歌に満ちているし、オケとともになかなかの熱演を繰り広げている。



アンスネス盤 レイフ・オヴェ・アンスネス(Leif Ove Andsnes) ★★★☆
指揮:ベルグルンド(Paavo Berglund) / オスロ・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1995年(LIVE) EMI

ラフマニノフ作品集
1-3.ピアノ協奏曲第3番
4.練習曲「音の絵」よりOp.39-6
5-8.練習曲「音の絵」よりOp.33-1,2,3,6

アンスネスはノルウェーのピアニストで、非常に高い技巧と、研ぎ澄まされた感性を持ち、曲と一歩距離を置いた、冷静で客観的な演奏をする人である。以前聴いたグリーグの抒情小曲集では、凍てついた空気の粒子が結晶化したような、ピンと張り詰めた透明感のある素晴らしい演奏を聴かせてくれた。
というわけで、基本的にあんまり熱い演奏をする人ではないので、本曲でも緩徐部分でその適性を発揮するんだが、ここぞという燃焼度の高い部分では、いまいち突き抜けたものがない。解釈的にも、音の響きが意識された1楽章のカデンツァあたりに、なかなかに趣き深い魅力を感じるものの、ほかはとくに目立つところもなく、非常にオーソドックスなものだと思う。ただ、ライヴであるにもかかわらず、殆どノーミスで弾ききっているあたり、やはりこの人の尋常ではない技巧水準の高さを認識させられるが。。。
ともあれまー、全体としては、極めてレベルの高い普通の演奏というところだろうか(^^;



ホロヴィッツ盤 ウラディミール・ホロヴィッツ(Vladimir Horowitz) ★★★
指揮:ライナー(Fritz Reiner) / RCAビクター交響楽団
録音:1951年(mono) RCA

ラフマニノフ作品集
1-3.ピアノソナタ第2番 / 4.「楽興の時」第2番 / 5.前奏曲Op.32-5
6.V.R.のポルカ / 7-9.ピアノ協奏曲第3番

ホロヴィッツはこの曲の録音を6枚のディスクに残しているが、その中でも誉れ高いライナーとの共演盤。
録音年度にしては非常に優秀な音。しかし、所詮はモノラル録音である。いざという時の音の薄っぺらさは如何ともしがたい。
第2楽章と第3楽章にカットが入っている。特に第2楽章は、いつの間にかワープしているという、なんだかよくわからないカットのされかたで、加えて、ちょっとスローになりすぎるところがあって、そのへんのところはどうなのかなと思う。また一番感動できるはずのフィナーレの大浪も、テンポが速くて雄大さに欠ける。もちろんすごいと思える部分もあるんだけど、オケの音のチープさで夢が覚めてしまう(音質のことは仕方ないんだけどね)。うーん。でも音質よくても4つかなあ。



ラフマニノフ盤 セルゲイ・ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov) ★★★☆
指揮:オーマンディ(Eugene Ormandy) / フィラデルフィア管弦楽団
録音:1939・1940年(mono) RCA

ラフマニノフ作品集
1-3.ピアノ協奏曲第2番
4-6.ピアノ協奏曲第3番

60年以上も前にレコーディングされた、作曲者本人の自作自演。さすが本人が大ピアニストだっただけあって、演奏技術は相当なもので、技術的なことに関してはほとんど文句ない。ただ、全体のテンポがかなり速めなのと、“大浪”をさらっと演奏しすぎなのが残念。カットもちらほらあるし。あと、やはり音質が悪い。当然、録音年代が古いんだから、それはしょうがないんだけど、こういうレベルの高い演奏は高音質で聴きたいなあ。ま、この音質でもラフマニノフのすごさは十分伝わってくるけど。
ところで、ラフマニノフ本人は、この曲がロマンティックに弾かれることを嫌ったらしい。曰く、「そんな曲じゃない」と。だから、この自演ではさらっと演奏してるのである(たぶん)。まあ作曲家本人の解釈がサバサバ系なので、やはりこれがラフマニノフの意図するところなんだろうけど。でも、こんなにロマン主義バリバリの曲書いといて、「ロマンチックに弾くな」といわれてもなあ、という気がすごくする。そういえば、ラヴェルも自身の音楽を「あんまロマンチックに演んなよ」と言ってたらしい。まあ当時はロマン主義から現代への過渡期でしたからねー。そう考えるとわからんでもない。
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追記 : 1000円を切るNaxosのリマスター盤が出て音質もかなり改善されているようです。



ヘルフゴット盤 デヴィッド・ヘルフゴット(Devid Helfgott) ★★
指揮:ホルヴァート(Milan Horvat)
コペンハーゲン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1995年(Live) RCA

ラフマニノフ作品集
1-3.ピアノ協奏曲第3番
4-7.前奏曲Op.32-5、Op.3-2、Op.32-12、Op.23-5
8-10.ピアノソナタ第2番

映画『シャイン』の主人公、デヴィッドによるラフ3番。めちゃくちゃ期待して聴いてみたが、非常にヘンテコな演奏だった。
とくに第2楽章の解釈が変。だいぶスローテンポなので、ここまで遅いと感傷的なのを通り越して、なんだかわからないことになっている。第3楽章も変なことになってるしなあ。全体の印象としては、まともなところと、そうでないところとの落差が大きすぎてちょっと統一性に欠ける。どこか綱渡り的で、グラグラして安定しない。意識があっちこっち飛んで一貫性に欠ける。というわけで、かなりクセの強い演奏なので好き嫌い分かれるだろうなあ。まー、個人的にはそんなに嫌いでもないけど。





ピアノ/指揮 第1楽章 第2楽章 第3楽章 Total 備考
Argerich/Chailly(L82) 15:30 10:59 13:21 39:50 5
Wild/Horenstein(65) 14:59 8:42 11:40 35:24 カットあり 5
Bolet/???(L69) 15:17 9:33 12:29 37:19 カットあり 4
Andsnes/Berglund(L95) 16:27 10:22 14:25 41:14 3
Horowitz/Reiner(51) 15:20 9:46 12:07 37:13 カットあり 3
Rachmaninov/Ormandy(39・40) 13:56 8:41 11:26 34:07 カットあり 3
Helfgott/Horvat(L95) 17:20 10:30 13:55 41:37 ossia 2
Ashkenazy/Haitink(85) 17:31 11:31 14:26 43:28 ossia 3
Ashkenazy/Ormandy(75) 18:33 12:03 15:31 46:07 ossia 2
Cherkassky/Temirkanov(94) 17:12 11:28 16:17 44:57 2
Hamelin/Kamu(04) radio 3
Larrocha/Previn(74) 17:15 12:15 15:05 44:35 4
Petukhov/Simonov(L01) 17:27 11:37 14:25 43:29 ossia 4
Prats/Batiz(89) 16:05 12:05 13:50 42:00 ossia 4
Volodos/Levine(99) 16:26 10:49 13:34 40:49 ossia 3
Weissenberg/Pretre(67) 16:29 11:42 14:52 43:03 4




ラフマニノフの3番は、ピアノ協奏曲としてはかなりの難曲として知られる。音符も読めない僕としては、どのくらい難しい曲なのかわからないけど、とにかく激烈に難しいらしい。一度、ラン・ランという中国人ピアニストがN響と共演した映像をテレビで見たことがあったけど(激名演!!)、素人目にもやはりこの曲が尋常ではない難曲であることがわかった。特に第3楽章はとんでもないことになってました。人間の手ってそんなに速く動かせるものなのかと思えるほど、理不尽なまでに速い。残像が見えてたほど。

だから、完璧に弾きこなすのは非常に難しく、良い演奏と、そうでない演奏の差もかなりある。で、いろいろ聴いてきた実感として、本当に優れた演奏は極一握りだと思う。一般的に、3番より2番のほうが人気があるのはそのためなんだろうな。2番のほうが曲自体がよりわかりやすいために、誰が弾いても一応それなりの演奏になるけど、3番はそうじゃない。本当に良い演奏がほんの少ししかないのだから、どうしても2番のほうが良く見えてしまう。
よく、「美しさでは2番、ダイナミズムでは3番」みたいなことがいわれるが、3番も十分美しく、ロマンチシズムばりばりで、曲の振幅も2番より大きいから、やっぱり個人的には3番のほうが断然好きだなあ。3番のトップレベルの演奏は、2番のトップレベルをはるかに凌駕する音楽なのだ。

推奨盤はやっぱりアルゲリッチかなー。手に入りやすいし、安価だし、カップリングもよいし。言うことなし。ワイルド盤は、全集なので高く、店頭にもない場合が多いけど、あの煌びやかなピアニズムはやはり特筆もの。3番好きは必聴といえる。
3番というと、アシュケナージを推す人もけっこういるみたいだけど(アシュケの録音は4つある)、個人的にはあまり好きじゃない。彼の演奏は、全編にわたってスローなので、結果としてだいぶ演出過剰になっている。とくに“大浪”はやたらスローテンポでかなり感動を強調した感じで弾くので、興ざめしてしまう。言葉は悪いが、すぐに感動路線に持っていこうとする安っぽいテレビ番組を見ているようだ。せめて3楽章だけでも歯切れよく快活に弾いてほしい。

いまのところ、かなり高い水準で満足できるのは、アルゲリッチとワイルドだなあ。でも両者とも、ほぼ完璧ではあるが、完全には満足できない。もっと素晴らしい演奏はあるのでしょうか?




■ ネットで聴ける!ラフマニノフの3番。

ネットで公開されている3番の音源をいろいろと探してみました。けっこうあるもんですねー。
ちなみに、CD化されていない音源ばかりなので、すべてライヴ録音です。だから熱演が多い!
奏者名をクリックすると、試聴ページに飛びます。聴いてみましょう。

■ 全楽章試聴可
Gwhyneth Chen
台湾出身の女性ピアニスト。女性ピアニストにありがちだが、そこらの男性よりもパワフルで豪快なライヴ録音です。けっこういい部類の演奏だと思います。

Idil Biret
ナクソスに録音の多いビレットの演奏。この方も女性です。終始耳障りなノイズがありますが、演奏自体はミスがあるもののなかなかの佳演です。

Jeffrey Biegel
第1、第2楽章がなかなか良い。緩徐部分ではじっくり丁寧に歌っていて実に好感が持てます。zip形式ファイルなので、一度自分のPCに取り込まなきゃならないのがちとめんどいけど、音もきれいにとれてるので、おすすめ。




■ 第3楽章のみ試聴可
Stephen Hough
ハフ盤 イギリスのスティーヴン・ハフの演奏。彼は物凄いテクニックの持ち主で、ライヴであるにもかかわらず、鬼のように速いテンポで、ノーミスで颯爽と突っ走ります。オーケストラもなかなかうまいのでポイント高い。クライマックスはピアノもオケも怒涛の迫力で、聴衆の喝采もすごいです。かなりおすすめ。

ぶち&IPPOLITO
アマチュア・ピアニストのお二人による、2台ピアノ編曲モノです。オーケストラのパートもピアノで演ってるわけですが、とてもアマチュアとは思えないレベルで表現できていると思います。ちょっと感動。



CORNOR TOP

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