ジムライトアーマー エースに贈られたエンジニアの微妙な悪意 前編 ジムの制式仕様が決定し、生産ラインが稼動を始めた頃のことである。 E氏は選考に漏れた各社のパーツの特性を入念にチェックしていた。カスタム機を 作るに当たり、パーツ同士の組み合わせの相性を見るためである。 「これは惜しかったな…」 E氏は3つのファイルを手に呟いた。F社のエンジンユニットとG社のバックパック ユニット、それにビームスプレーガンに遅れて完成したハンドビームガンのファイル である。F社とG社のパーツは共にコンペティションの最終段階まで残った、コスト パフォーマンスに優れるものだった。だが両者とも同じ理由で不採用となった。 それは扱いにくい特性である。 F社のエンジンユニットは、数値的に見れば制式仕様のジムのエンジンユニットを 上回るパワーを弾き出していた。瞬発力と回復力に優れたエンジンユニットだったが 反面、ピーキーで扱いにくい特性を持っていた。 「おそらく一般のパイロットには扱いきれない」 そう評価されて、採用は見送られたのである。G社のバックパックもほぼ同様な評価を 受けて不採用となった。そしてハンドビームガンは、スプレーガンを上回る威力を 持つものの射程距離は短く、またエンジンへの負担も大きかった。 この3つの相性が抜群に優れていたのだ。 「惜しいな…」 E氏はもう一度呟いた。彼は、これらのパーツを使い切る腕を持ったエースが搭乗した 場合のシュミレーションを行ってみた。瞬発力を生かす接近戦に持ち込めば、ハンド ビームガンの威力も生きてくる。だが結果は、機体重量によって機動性が損なわれ、 E氏が期待するほどの瞬発力は得られないというものだった。出来上がるのはおそらく、 強力だが射程距離の短い武器を持った、通常型ジムよりも多少機動性に優れるものの 遥かに扱いにくい機体である。その扱いにくさに対し、得られる性能は割に合わない。 装甲重量を減らす、という発想をE氏は否定した。シールド装備を前提としたジムの 装甲強度は既にギリギリのものだった。むしろE氏には不満だったほどだ。 「残念だが、この組み合わせはないな」 E氏の下した結論である。だがしばらく後、ジムの実戦配備が始まってすぐに届いた一通の 要望書がこの結論を覆した。ヤザン・ゲーブルという若いパイロットからの要望書である。 そんな事よりジム作った奴よ、ちょいと聞いてくれよ。 このあいだ、ジム届いたんです。ジム。 そしたらなんか、俺パイロットに選ばれてるんです。 で、乗ってみたら機動性低くて話にならないんです。 もうね、アホかと。馬鹿かと。 お前らな、俺様の野性の反射神経について来れない機体作ってんじゃねーよ、ボケが。 ノロマなんだよ、ノロマ。 なんかもうザクに負けてる奴とかもいるし。それは見て見ぬふりか。おめでてーな。 ザクを上回る高性能、とか言ってるの。もう見てらんない。 お前らな、装甲削っていいから機動性上げろと。 俺様はな、このあいだまでトリアーエズに乗ってたんだよ。 ドップのバルカン一発で撃ち落とされてもおかしくない、 生きるか死ぬか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。チキン野郎はすっこんでろ。 で、装甲削れって言ったら、整備士の奴が、貴方の安全を考慮して、とか言ってるんです。 そこでまたぶち切れですよ。 あのな、安全も糞も勝てなきゃ意味ねーんだよ。ボケが。 得意げな顔して何が、高い生還率を確保、だ。 お前は本当にジオンに勝ちたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。 お前、MS作ってみたかっただけちゃうんかと。 E氏はここで読むのをやめた。コメカミに青筋を立てながら笑顔で呟いた。 「この野郎…」 ジムライトアーマー エースに贈られたエンジニアの微妙な悪意 後編 「望み通りにしてやろうじゃないか」 機動性を高めてほしいと言う要望は他にも届いていたが、装甲を削れというのは 初めてだった。しかもこの男は既に現地の整備兵に実行を要求したらしい。 装甲を削る、これを認めるならばF社、G社のパーツにハンドビームガンの組み合わせは 有りだ。機動性とコストパフォーマンスに優れた機体が出来上がるだろう。だがそれは パイロットにとって危険なMSである。実戦でどの程度使い物になるか予測がつかなかった。 「このヤザンとか言う若いので試させて貰おう」 E氏はコメカミに青筋を立てたままニヤリと笑った。 だが薄い装甲材を新規に作るのも一手間である。 「そうだ、アレがあった」 格納庫の中に、発注したわけでもないのに山積みになっている不採用パーツがあった。 K社が設計した装甲材である。ルナチタン並みの軽量化と低コストだけを目指し、 その強度のことを全く考慮していない欠陥品だった。 「軽いのです!」 コンペティションの席で、K氏は自信たっぷりに製品の長所を主張した。 「そして安いのです!」 「ボツだ」 K氏の最高の笑顔に向かって一言のみ発した。途端にK氏は怒り狂った。 「なぜです!我が社の製品は最高です!謝罪と賠償を求めます!」 理由を説明する気にもなれず、E氏は無視した。 「とにかくもう作った分は置いていきます!後で請求書を送ります!」 こんな理由でK社の装甲材のストックが格納庫に山積みになっていたのだ。 「アレを使うか…」 その夜、E氏は夢を見た。二人のサムライの決闘。優勢だったサムライの刀が折れて 敗北するという夢だった。 「どういう意味なんだろうか」 一晩寝るとE氏の怒りは冷めていた。ヤザン・ゲーブルの言うことにも理が無くはない。 「腕に覚えのあるサムライが、ナマクラ刀しか持てなかったために負けたとしたら、  さぞ無念だろう」 だが夢の中で折れた刀は自分が作ろうとしている軽量型ジムのことかもしれない。 「それでも俺には本人が求める刀を持たせてやることしか出来ないじゃないか」 E氏はヤザンのために軽量型ジムを組み上げることを決めていた。 「その代わり文句は一切聞かない。どうなっても知らん」 こうして完成したRGM−79L・ジムライトアーマーは、名指しでヤザン・ゲーブルの もとへ送られた。本来ならばモルモット隊でテストが行われるはずだったが、ヤザンを テストパイロット扱いとすることで特別に許可が下りた。 「ヤザン・ゲーブル、お前の言う通りのジムを作ってやったけど乗りこなせますか?」 E氏は一筆添えた。 ヤザン・ゲーブルはジムライトアーマーを駆り、短期間に大きな戦果を上げた。 短期間だったのは、負傷して前線を退いたためである。機動性を損なわないために シールドを装備していなかったことが負傷に繋がった。全治3ヶ月の重症だった。 ヤザンが高い戦果を上げたことで、ジムライトアーマーはエース機としての生産が 決定した。低コストなエース機として、カスタムタイプとしては生産数が多かった こと、そして装甲の薄さからエリート軍人に回されることはなく確実にエースに届け られたこと。この二つの理由でジムライトアーマーは優れた戦果を残した。エースの 技量がその扱いにくい機体を完全に御した時、ライトアーマーは無類の強さを発揮した。 そしてライトアーマーを愛機とする多くの撃墜王を生んだのである。 終戦から2ヶ月が過ぎた頃、一年戦争の撃墜王リストが公開された。その中に ヤザン・ゲーブルは含まれていなかった。E氏はリストを眺めながら考えていた。 あの男が負傷することなく参戦していればこのリストに名を残したことだろう。 彼が短期間に上げた戦果からみて充分に有り得たことだ。多少責任を感じるところも あり、E氏は退院するヤザン・ゲーブルを訪ねることにした。 E氏は覚悟を決めていた。 「あんなものを送りつけやがって」 そう言われたら喧嘩に応じるつもりだった。自分は要望通りのものを作ってやった のだから。病院の玄関でE氏はヤザンを待ち受けた。 「せっかく名指しで贈ってくれたMSを壊して済まなかったな。あれはいい機体だった」 ライトアーマーを作り、送ったのは自分であると告げたE氏にヤザン・ゲーブルは こう答えた。E氏の心は清清しかった。 「退院祝いに一杯おごらせてくれ」 ヤザンはE氏の申し出を遠慮なく受けた。 折しもその頃、別の場所で祝杯を上げている人物がいた。K氏である。 「彼等、多くの撃墜王はジムライトアーマーに用いられた我が社のテクノロジーの  賜物です!我が民族の優秀性の証明に他なりません!祖国万歳!」 K社はライトアーマーの装甲材納入で高い利益を上げていた。だがそれが後の評価に 繋がることは一切無かった。 ヤザン吉野家完全版 そんな事よりジム作った奴よ、ちょいと聞いてくれよ。 このあいだ、ジム届いたんです。ジム。 そしたらなんか、俺パイロットに選ばれてるんです。 で、乗ってみたら機動性低くて話にならないんです。 もうね、アホかと。馬鹿かと。 お前らな、俺様の野性の反射神経について来れない機体作ってんじゃねーよ、ボケが。 ノロマなんだよ、ノロマ。 なんかもうザクに負けてる奴とかもいるし。それは見て見ぬふりか。おめでてーな。 ザクを上回る高性能、とか言ってるの。もう見てらんない。 お前らな、装甲削っていいから機動性上げろと。 俺様はな、このあいだまでトリアーエズに乗ってたんだよ。 ドップのバルカン一発で撃ち落とされてもおかしくない、 生きるか死ぬか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか。チキン野郎はすっこんでろ。 で、装甲削れって言ったら、整備士の奴が、貴方の安全を考慮して、とか言ってるんです。 そこでまたぶち切れですよ。 あのな、安全も糞も勝てなきゃ意味ねーんだよ。ボケが。 得意げな顔して何が、高い生還率を確保、だ。 お前は本当にジオンに勝ちたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。 お前、MS作ってみたかっただけちゃうんかと。 エースの俺様から言わせてもらえば今、エースの間での最新流行はやっぱり、 軽量化、これだね。 安全性には目もくれず。これが漢の選択。 軽量化ってのはシールドを装備しない。それどころかマシンガンも持たない。これ。 で、ビームサーベル一本に全てを賭ける。これぞサムライ。 しかしこれだと接近する前に一方的に撃墜されるという危険も伴う、諸刃の剣。 素人にはお薦め出来ない、っていうか、これで生還した奴は俺様だけよ。 まあお前、ジム作った奴は、機動性上げるために頑張ってくれってこった。