ソロモンの落日 〜量産されなかった拠点防衛用MA〜 ジオン地球降下作戦が始まった頃、当時のソロモン指令ドズル・ザビから ジオニックへ極秘のMA開発依頼があった。 『拠点防衛用MA』の開発だった。 まさに日の昇る勢いのジオンで、今まで例のない、しかも拠点防衛という 日の当たらないMA開発にジオニック開発部は難色を示したが、ドズル・ ザビ指令の命令である。MS開発部は次なるMSの開発で、どこも手が回ら ない状態であった為、これに充てたのは補給艦や巡洋艦を製作する第12 ラボの面々だった。 ジオンは木星からの資源を押さえる事が出来たが、鉱物資源の配給には予想 以上の経費がかかり、依然本土を含む宇宙拠点では資源不足に悩まされていた。 そういった背景から戦艦以外は開発を凍結し、今あるモデルと生産ラインで繋ぐ シフトに、奇しくも変更辞令が降りたばかりであった。 こうして第12ラボは『拠点防衛用MA開発』という任務が与えられたのだが 周りの目は冷たかった。誰もが考えていたことだが、攻め続けなければ資源 に乏しいジオンは負ける。連邦軍が対MS兵器、もしくは対等に戦う事のでき るMSを開発するまでが勝負だと。 第12ラボの面々は困惑した。 当時の設計担当のAは当時の事をこう振り返る。 「あの頃、優秀な技術者は競ってMSの開発をすすめていました。攻める事に 最大の着目を置いていた訳です。我々は態よく窓際に追いやられたようなもの でした。」 ソロモン指令、ドズル・ザビは拠点防衛という膠着に陥った状態の事を、既に 頭の中に描いていた。領土、資源に乏しいジオンは、持久戦に持ち込まれた場 合、圧倒的不利に立たされる事になる。そうなると、輸送ラインの死守は絶対 条件になり、どうあっても拠点を押さえられる防衛用MAが必要だった。 ドズルの構想は、このMAの量産化、つまり各拠点に配置する事が最終的な目標 であった。将来は地球侵攻への磐石の体制とすべきものにする計画であった。 ドズルは、総括指揮をとるCを訊ね、打ち合わせをしながらこう言った。 「残念ながらジオンの今の国力では、連邦を一気に叩く事はできない。総帥は 必ず一時停戦を結ぶはずだ。問題はその後なのだ。連邦がMSを開発する事は 火を見るより明らかだ。だから、拠点を押さえる磐石の体制がどうしても必要に なって来る。頼む。この計画はジオンの存亡がかかっているのだ。」 Cは胸を打たれた。 設計担当Aは、頭を捻った。拠点を死守するということならば、直撃を受けて あっさり落ちてしまうようなものであってはいけない。技術担当のBは、草案段階 から対ビーム兵器コーティングなるものを考えていた。ビームの重金属粒子を特殊 な物質を含んだ塗装によって弾きかえす。これを実現するには、まずミノフスキー 物理学を学ぶ必要があった。Bはミノフスキー研究所を訊ねた。 その頃のミノフスキー応用学は、粒子のイオン反発作用を用いたミノフスキー・ク ラフトが実現段階に入っていた。Bはこれに目を付けた。 打ち出されるビームの粒子を、ミノフスキー粒子による干渉で弾き飛ばすIフィール ドという装置を、研究所の協力で開発する事になった。 その頃、設計を担当するAから、その驚くべき機体デザインの発表があった。 そのMAには足があった。ラボの面々は面を食らった。 MAというものの一般的な解釈として、足や手が存在するのは、あからさまにおかし な事であったからだ。 しかし、Aはドズルの提唱する『拠点防衛用汎用MA』の将来像を見据えるべく、 重力下での使用をも視野に入れていた。新たなデザインを考えていたのでは遅すぎる。 地球上では装備の変更のみで対応できるように設計を進めた。 Iフィールドの開発は順調にすすんでいた。ジェネレーターから粒子を拡散する装置 までは電光石火のスピードで開発が進んだが、その拡散した粒子を装甲面に薄く吸着 させる事ができなかった。ミノフスキー粒子そのものは安定した物質だが、イオン化 した粒子ははげしく飛び回る性質を持っており、これを規則正しく吸着させる事など 無理だと研究者は考えていた。Bは焦った。何故ならば、連邦軍がMS開発に着手した と噂されるV作戦の噂を耳にしたからだ。 「正直、Iフィールドの開発はあと3年はかかると思いました。表層に吸着させる方法 がなかったんです。ドズル閣下に会わせる顔がありませんでした。」(B談) Iフィールド構想が頓挫して、Bは軍の資料課に入り浸るようになった。過去の物質で 吸着配置が成功した例がないか、化学と物理学の資料を朝から晩まで睨め続けた。 ノートへメモをとっている時、何気にセルロースの下敷きをめくりあげると次のペー ジが静電気でくっついた。また、消しゴムのカスが下敷きにびっしりと吸着していた。 『これだ!』Bはすぐに研究所へ走った。 機体表面に電気を流し、特殊な物質を混ぜた塗装を装甲板表面に散布した。Iフィール ドジェネレーターを作動させると、表層にうっすらと層が出来ているのがわかった。 Bと研究所職員は抱き合って成功を喜んだ。 設計担当Aと電装系エンジニアDはこのアイデアに喜んではいたが、同時に難色を示 していた。 「ジェネレーターと核融合エンジンの配置が困難でした。当時のIフィールド・ジェネ レーターはかなり大型で、出力の割にエネルギー消費が激しかったんです。」(D談) 「初期の設定では大きさとして、ザクの2倍強以内の設計でしたが、装置の充実を計 ると、あと1まわりは大きくなってしまいました。」(A談) 同時に、Bも一つ問題を抱えていた。熱排出であった。エンジンやジェネレーターから 出る熱は半端ではなく、下手をすれば1時間足らずでオーバーヒート、メルトダウンで 自爆する可能性があった。なんとか熱を上手く排出する方法はないか・・・。 この問題に、第3ラボの技術者Eがジェネレーターから散布するミノフスキー粒子に 熱を排出する役割を兼ねるような配管システムを設計した。 「実現段階に来ている新技術を前に、それに協力しない技術者はいません。私はこの 機体に未来を感じました。」Eは思いの総てを、第12ラボの面々に語った後、ラボが 冷遇されていた頃の事を詫びた。 これによって、試作機が完成された。 〜その後の物語〜 (曲/ヘッドライト・テールライト) UC.0079.12月、連邦は地球での制空権をほぼ押さえ、オデッサも奪還に成功。 ソロモンに迫るティアンム艦隊は新兵器ソーラ・レイをソロモンに向けて照射した。 これにより、本来出動するはずのない試作型拠点防衛用MA『ビグ・ザム』は起動する 事になった。開発を依頼したドズル本人が操縦していた。 「いよいよ我らの集大成が起動したんです。自分の息子が戦ってる気分でした。」 Aはア・バオア・クーの通信室のレーザー回線で、戦いの一部始終を見ていた。 1機でも多く敵を落として欲しい・・・。しかし、その願いも空しく敵の戦闘機がジェ ネレーター配置部分である股間部へ特攻。戦局は逆転し、連邦の白い悪魔に斬られた。 同月、終戦をむかえ、ジオンは負けた。 毎年、戦没者墓地で、第12ラボの面々が「ビグ・ザム」とドズル・ザビの栄誉をしめ やかに称えに来ている。 「ビグ・ザムは我々の青春でした。苦楽を共にした皆と、唯一理解を示してくださった ドズル閣下と出会えた事が、私達の財産です。」 ラボの面々は今でも目を閉じるとビグ・ザムの勇姿が目に浮かぶと、熱く語った・・・。