〜宇宙を拓いた男達〜 コロニー建造とボールの誕生 宇宙世紀も一世紀を迎えようとしている。 サイド1からサイド7までのコロニー群は無数の数に達している。 このコロニーを建造した男達の汗と涙に迫る。 A.D2009年、地球上の国家は爆発的な人口の増加と地球の環境破壊を深刻な問題と 考え、国際的な条約機構を築き、新たに地球連邦政府を結成するに至った。 地球連邦政府は宇宙移民を提案し、第3者機関となる宇宙開発事業団を設立した。 その第一開発部が、現在のコロニー公社の前身である。 A.D2010年、政府は地方自治国家と宇宙開発事業団による諮問会議を開き、宇宙移 民の可能性と規模について論議。ここで事業団は、「やれるかどうかではない。もは ややらねばならないところまで来ているのだ。」と反対する国家をねじ伏せた。 宇宙開拓時代の幕開けであった。 事業団は、当初火星のテラフォーミングを構想していた。火星の地下には氷の層が あるという事が、以前から判っていた。しかし、環境が整うまでにあまりに時間が かかりすぎるという事もわかっていた為、火星テラフォーミング計画は次世代にわ たって開発していくこととなった。 次に計画していたプランが月面であった。地球に最も近い星(衛星)として、A.D 1950年代から基地計画等があった。が、重力が1/6になる為、住環境としては向か ないとされてきた。「ここを第二の地球として開発できないだろうか?」事業団の 面々は、様々な思案を重ねた。 しかし、当時の科学技術では重力の問題等を解決できず、結局、月を拠点として、 現在のコロニーを建造する事になる。 A.D.2022年、月面にマスドライバーを施設。これによって、地球と月面を低コスト で行き来できるようになった。月面には大規模な施設と一般観光用のリゾートが出 来ていた。だが、庶民には月面旅行など、まだまだ夢の話であった。 A.D.2030年、コロニーの規模が概算でまとめられた。直径5〜10km、幅100〜500 kmと、人類史上最も大きな単体の建造物となる事は間違いなかった。 草案から算出された資源は、地上の一国家並の物量であった。この資源量を採取する には、人口が日に日に増える地球だけでは厳しい。そこで、月面に拠点を築いた時に 行った地質調査をもとに再度高精度な地質調査を行い、月面から鉱物資源等を採掘す る事になる。 そしてA.D.2045年、第一号コロニー建造へむけて事業団が動き始めた。 コロニー建造は困難を極めた。百万単位の人員が地球、月、コロニー建造現場に割り ふられていたが、現場の人員が圧倒的に足りなかった。時には隔壁を接続面へ運ぶだ けで24時間を費やす時さえあった。『このままではダメだ。』当時、現場の指揮に あたっていたAは、月面の技術開発部へ現場の悲痛な叫びを打ち明けた。 現場の作業員のほとんどは、地球から職をもとめて上がって来た者たちで、特別な訓 練をするでもなく、2週間の実地練習で作業をしていた。宇宙に慣れていない者たち は無重力と慣性運動の前に、時には命を落とすような大事故を起こした。 Aは開発部の主任Bへ「シャトルのように中から作業できて、かつ、細かい作業もでき るような汎用作業機をつくれないか?」と話をもちかけた。Bの返事は「私もそれを 考えていた。人命に関わる事だ。やってみよう。」Aは希望の光を得た 技術開発部では、その日から有人汎用作業用ポッドの開発が始まった。 設計をしたOは、宇宙空間の全周囲に対応できるように球体のデザインをまとめた。 主電源はソーラーバッテリーを積み、推進剤の噴射で移動するという簡単な構造で あった。しかし、問題はマニュピレータだった。当初、一本足の汎用マニュピレータ を装備していたが、物を掴んだときの加重(慣性運動を静止物体に掴まり強制的に 止めた場合の負荷)で、関節部がねじれを起こし、永く使用することができなかった。 また軸受けから振動が発生し、最悪、足が根元から折れてしまうこともあった。 この問題を解決するために、マニュピレータは2本装備となった。双方の軸の反動を お互いが打ち消しあう事で、振動問題は解決した。また、ねじれに対しても関節の マージンをとる事と、油圧による吸収体をつける事で解決した。 いよいよ、試験運用のその日、事件は起った。 宇宙空間での本格的運用は今回が始めてだった。テスト作業員を乗せ、作業を始めた その時、思わぬアクシデントが起った。球体の機体が災いし、姿勢制御装置が上手く 作動しなかった。作業ポッドは制止もままならず、かなりのスピードで回転しはじめ た。30分後、工作用クレーンと運搬用シャトルを使って止める事ができたが、作業員 は遠心力による圧力で死亡した。大変な不祥事だった。 この事故により、連邦政府の諮問委員会が再審議を訴え、コロニー建造そのものの是 非を再び問われることとなった。ここでAは喚問をうけることになる。 「ここでコロニー建造を中止させては、犠牲となった者たちに申し訳が立たない。」 Aは宇宙開発庁長官と地球環境庁長官を非公式で訪ねた。 「今、もし宇宙開発事業ならびにコロニー建造が中止されるような事があったら、 この先、どのように問題を打開していくおつもりですか?」もうAには後がなかった。 この質問に、口を開いたのは地球環境長官だった。「では、聞こう。2045年はあと 9ヶ月ある。この短時間にコロニーを建造することができるか?これでできなければ 君は辞任だけでは済まなくなる。どうだね?」厳しい口調ではあったが、もう地球に も時間がないという切実な想いが見え隠れしていた。 「やるしかありません。」Aは9ヶ月間の猶予を与えられた。 〜宇宙を拓いた男達〜 コロニー建造とボールの誕生〜 =前半のあらずじ= <参照リンク> >>704-709 西暦2045年、人類は宇宙への移民を開始する。その遠大な計画と裏で支える技術の 葛藤が、様々なドラマを生み出した。 遅々として進まない作業に、技術者達は宇宙用作業ポッドを開発に移す。 度重なる失敗と、事故による犠牲。コロニー計画は窮地に追い込まれ、残り9ヶ月で 建造しなければならない所まで来ていた。 作業は再開され、ポッドの開発も同時に夜を徹して行われた。 技術主任Bは宇宙用工作機械メーカーを訪ね、宇宙空間での姿勢制御システムのアイデ ィアを求めた。工作機械メーカーの設計担当のKという入社間もないが数々の面白いア イディアを思い付くという若い技術者に会い、なんとか良いアイディアはないものかと 話し合った。すると、数日後、Kは思わぬアイディアを持って来た。彼は突然、机上で 宇宙ゴマを回して、「これで全てが解決するでしょう。」とニヤリと微笑んだ。 『ジャイロ現象』だった。軸となる前後、左右、上下の6箇所を基本に、モーター構造 の回生バッテリーを付けた。モーターを回す事によって軸ができ、地球ゴマの原理で 機体の安定を促す。このシステムは、後のMSに採用されたAMBACの原案であった。 これによって作業用ポッドにおける姿勢制御の問題が解決し、残りの期間をコロニー 建造に費やした。このポッドのおかげで、建造は爆発的なスピードで進み、納期に目処 が立った。 2045年12月、人類初の宇宙コロニーが完成した。 必要な重力を得る為に自転運動を開始。地球上と同じ重力値になるまで、加速・減速を くり返した。今まで宙に浮いていたモノが外壁に向かって張り付いた。 大気は地球上と遜色ない微妙な混合比に設定され、土、水、植物等が次々と運び込まれ た。そして、動物による環境テストが行われた後、記念すべきコロニーへの第一歩をA が力強く踏みしめた。「何も問題ない環境なのに緊張で倒れてしまうんじゃないかとヒ ヤヒヤした。」とAは笑いながら戯けてみせた。Aは感動で胸が一杯だった。 Aの首は皮一枚で繋がったばかりか、その後の第3者機関「コロニー公社」の最高責任者 に抜擢された。 その後、宇宙用ポッドは、その丸い形から『ボール』と呼ばれ、宇宙空間での作業に欠 かせない重要な役割をになう。2015年頃開発された核融合炉の小型高性能化が進められ 太陽電池から常時発電型にマイナーチェンジしたものの、その原形は約1世紀近く変わる 事がなかった。続々と建造されるコロニーに対応する為、年間実に100機以上が生産され 宇宙空間で作業する上でのスタンダードとして定着した。 その後、U.C.0078年、サイド3のジオン共和国のクーデターを発端に起こった1年戦争 の末期、作業用ポッドから兵器への流用が試みられた。無反動砲を装備し中距離支援用の MAとして戦闘宙域へと配備されたが、作業用ポッドの域を抜け切れないボールは対MS戦 で多くの犠牲者を出し『丸い棺桶』と酷評された。 しかし、この戦争でMSが開発される礎となるノウハウが、このボールには数々あった事 は間違いない。AMBACを始めとした技術の革新が、その後の宇宙世紀を切り拓いた。 アナハイム・エレクトロニクス会長となったKは、現在は勇退し余生をサイド1で楽しんで いる。 「当時を知る者は私しかいなくなってしまいましたが、ここに一枚のディスクがあります。 これは、最初の一番地コロニーで一周年記念に式典を開いた時のものです。」 ディスクの中ではAを始めとするコロニー建造とボール開発に関わった人々、そして試作 ボールで命を落とした作業員の遺影を持ったBが写っていた。 一番地コロニーの中央公園の小高く盛り上がった丘のにはスミレが植えられている。 一周年記念として植えられたものである。花言葉は『希望』。 未来への人類の希望の象徴として、いつもこの丘から全宇宙を見下ろしている。