プロジェクトX 不死鳥よ、翔べ! ―ノイエ・ジール開発秘話― ♪〜 敗戦 亡国 崩壊寸前 託された思い 戦争はもう終わったんです あの男が 頭を下げた 絶望的 資源不足 技術者不足 失敗の連続 底をつく資金 意外な協力者 発想の逆転 パイロットがいない できるわけないでしょう! 開発中止命令 廃棄処分 閣下もお喜びになる 死神 そして、再び エーックス ダブルオー・エイティー。 戦争は終わった。 その直前、開発部の技術者たちは、軍命令で行き先も告げられずに強制疎開させられた。 その一人、技術仕官S、腕はいいが偏屈者で通っていた。 はじめてIフィールドを使ったビグ・ザムの、複雑で微妙な全体設計を、ほとんど一人でやりとげた。 部下には、頭ごなしに命令するだけ。「貴様の腕など、信用できるか!」が口癖だった。 上官の口利きで結婚し、娘が生まれたばかりだった。 妻子を呼び寄せるどころか、二人のいる病院への連絡すらできなかった。 暗黒のアクシズで、Sは酒びたりになった。娘の顔を忘れそうになる自分を、許せなかった。 特別技術主任、その肩書きは、疎開してきた生産ラインの据え付けのためにだけあった。 何のために? 何もかも、やるせなかった。 Sは、アクシズへ来てはじめての客をむかえた。 「やっと・・・やっと・・・」それ以外の言葉は、まったく聞き取れなかった。必死さだけが、伝わってきた。 酸素欠乏症。ビグ・ザム搭乗員の生き残りだった。Sにビデオレターを手渡すと、急に客の言葉がはっきりしてきた。 執念を、感じた。 「ドズル閣下は、大変喜んでおられました。この機体を作ってくれた者たちに礼を言いたいと、出撃直前にその手紙をお書きになり、我々に脱出を命じた後、必ず渡してくれと。  最後のご命令でした。閣下は、ソロモンを脱出する者たちのために、一秒でも長く時間を稼ぐ、それが俺のプライドだ、そうおっしゃって、あの白い悪魔に、単身ノーマルスーツで」 それ以上、言葉にならなかった。 ビデオレターは、完璧な保存状態だった。 「このすばらしい機体を作ってくれた諸君、ありがとう。私はこのビグ・ザムで敵と刺し違えられることを、神に感謝している。  そして一つだけお願いがある。ビグ・ザムを越える救国の機体を作ってくれ。諸君になら、できるものと信じている。そうすれば、もう思い残すことはない」 ドズル中将の目に、光るものがあった。Sには、痛いほどわかっていた。 久しぶりに、娘の顔をはっきり思い出した。 こんな俺でも、できることがあるはずだ。Sは、酒を断った。 当時の開発部長は、員数合わせの技術音痴だった。士気の低下がはなはだしく、誰も新兵器の開発など考えていなかった。 Sは、ビグ・ザムの開発に関わった昔の部下や仲間を一人一人訪ねた。 「戦争はもう終わったんです」誰もが、同じ言葉で答えた。 Sを正気に戻そうと、6人がSの部屋に集まった。技術者の不足から、全員が管理職か教育職になり、現場からは退いている。 Sは彼らに、ビデオレターを見せた。静まり返った部屋で、Sは言った。 「我々は国を失なった。だが、失なってはならぬものがある。一度だけのお願いだ、力を貸してほしい」 皆、目を疑った。 傲慢不遜なあの男が、本心から頭を下げている。 特別開発チーム。部長は、中身を読みもせずに、決済の判を押した。 (クボジュン) こうしてプロジェクトは始まりました。しかし、初めから大きな壁にぶつかります。 (クニイ) ゲストをお招きしております。ノイエ・ジールのビーム兵器開発を担当なされたYさん。 Yさんは、官舎もSさんとご一緒だったとか? (Y) 当時は人口過剰で住宅不足でしたからねえ。主任とは、寝食を共にさせていただきました。 (クボジュン) では、続きをご覧下さい。 (ナレーション) 何も、無かった。 覚悟はしていたが、Sは、環境のあまりの違いに戸惑った。実験器具も実際に作ることができなかった。資源割り当ては、軍においてすら、極端に制限されていた。 コンピュータシミュレーションだけで全てを進めるしか、なかった。 基本的なコンセプトは決まっていた。Iフィールドを最大限に活用した長距離戦用の高機動の機体。ジオングで有効性が証明された多砲塔を採用し、接近戦用のビームサーベルも持たせる。 フラナガン機関を失なった今、サイコミュを使うわけにはいかなかった。 高速MA並みの機動力を持ったIフィールド装備のMS、それがSの回答だった。 最強の機体を作る。その思いに対して、現実はあまりにも厳しかった。 ジェネレーター出力の飛躍的向上、Iフィールド発生装置の小型化、低消費型ビーム砲の開発等々、どれも、気が遠くなるほどの回数の実験を必要としていた。 シミュレーションだけで解決するには、技術者が不足しすぎていた。 「シミュレーションだけでは、これ以上先へ進めません」 その言葉を聞かされるたび、Sは同じ言葉を返した。 「何とかする。少し待て」 実験のたびに、欠陥が明らかになった。試作ジェネレーターは爆発し、Iフィールド発生装置は時々働かなくなり、ビーム砲は威力が弱すぎた。 改善を繰り返す中で、Sは開発部の一年の予算を3ヵ月で使い切った。 そのことを知って、部長は慌てふためいた。とても予算の増額を政府に交渉できる男ではない。Sは、辞表を書いた。 (クニイ) Yさん、大変でしたねえ。 (Y) まあ、はじめからシミュレーションだけでできるとは思ってなかったんですが、進んでいけばいくほど、まったく新しいことに挑戦しなければならなくなりまして。 例えば、私の担当したビーム砲なんか、高出力にしたいのに低消費型にするという、まるで矛盾した要求なんですよ。 今思えば、シミュレーションだけでも少しは進めると期待していたのが甘かったですね。 (クボジュン) 危機に立たされたプロジェクトですが、意外な救いの手がさし伸べられます。 (ナレーション) ミネバ・ザビの摂政、マハラジャ・カーン。 軍の士気の低下に、危機感を抱いていた。このままでは軍が暴徒化しかねない。焦っていた。 ビグ・ザムやジオングを越える救国機の噂を耳にしたとき、一気に目の前が開けたように思えた。 職を解かれたのは、部長の方だった。 プロジェクトチームは開発部から独立した予算と最大限の権限を与えられ、救国機の開発は、事実上の国家プロジェクトになっていた。 それでも、開発は壁にぶつかっていた。長距離戦を前提にする以上、全力稼働時間が短くては、まったく役に立たない。エネルギー補給の容易な要塞付近での運用を条件に実戦投入されたジオング試作型とは、話が違っていた。 どうしてもジェネレーターの大型化が必要だった。機動性の面からも、同じ結論が出された。 Sは、結論を下した。 「武装した大型ジェネレーター」 Iフィールドを装備していれば、装甲は限界まで減らしてもかまわない。もっとも大切なのは、機動性と、全力稼働時間だ。 設計が全面的に変更された。それはもはや、MSとも、MAとも呼びにくい何かだった。 それでも、敵艦隊を壊滅させ、無傷で戻って来られる目処はついた。 Sは、試作機の製作を命令した。 プロジェクトの開始から、2年が過ぎていた。 機体名「ノイエ・ジール」 失なってはならないものを、意味していた。 試作機の製作は順調に進んでいた。 シミュレーターが完成し、テストパイロットが乗り込んだ。出てくるなり、パイロットは言った。 「だめだ! 俺なんかの腕じゃ、とても無理だ」 複雑すぎる射撃管制装置、盲点だった。 ブラウブロもビグ・ザムも、複数の搭乗員が分担して操縦・射撃を行なう。一人で多砲塔を同時に操作するには、ビグロの管制装置以上の単純さが求められた。 機体の仕様が確定すると、Sは知り合いの参謀に相談した。ドロス級のような空母を建造する力は、アクシズにはなかった。ノイエ・ジールを載せられる艦は、グワンザン級戦艦しか、なかった。 「できるわけないでしょう!」 にべもなかった。 これほどの大型機を載せると、自艦から直掩機を出すことができない。そうなれば、すきのない直掩ローテーションは組めなくなる。 旗艦のガードを弱めることは、艦の乗員ばかりか、艦隊全員の命を危険にさらすことになる。そうまでして使う価値のある兵器なのか? Sは、それ以上の説得をあきらめた。 これらの話を聞きつけたマハラジャの側近が、こう報告した。 「救国機などと、大層な名前を付けていますが、実際はずうたいばかり大きく、まともに動かせるパイロットも、載せられる艦もない欠陥機だそうですな」 マハラジャは、激怒した。 問答無用だった。 射撃管制装置の簡素化と、補給艦をベースにした専用母艦の設計に取り組んでいたSに、摂政からの特別命令が届いた。 目を、疑った。 開発中止命令。 新技術確立のため、試作機の製作は現状のまま認めるが、性能試験の後、 ・・・廃棄処分・・・ 目の前が、暗くなった。 それから、Sは部屋から外に出なくなった。ドアの前におかれる食事にも、ほとんど手をつけなかった。 心配したYは、食事にワインを付けてみた。食事には手をつけてあったが、ワインは手つかずだった。Yは、少し安心した。 試作機の製作は、一層順調に進んでいた。皆、これがおのれの作る最後の機体だと、覚悟を決めていた。最高の仕事をする。それが、せめてもの意地だった。 試作機完成の日、やつれ切ったSの顔が、試作機を見て明るくなった。 廃棄されるために誕生した最強の機体。美しかった。神々しさすら、おぼえた。 「ありがとう・・・すまない・・・」Sは、泣き崩れた。皆、うつむいていた。それでも、誇らしかった。 (クニイ) 突然の中止命令、驚かれたでしょうね。 (Y) 悔しかったです。それしか言葉がないですね。 (クニイ) Yさんはビーム兵器開発のスペシャリストとして、その後ガザCなどを担当なされたわけですが。 (Y) このままで終われるか、という気持ちでした。ガザCに付けたような、高出力・低消費・低コストのビーム兵器を私がきちんと開発していれば、主任があんな思いをすることはなかったんです。 (クボジュン) 性能試験で、当初の予想を上回る成績をあげたノイエ・ジールですが、嘆願もむなしく、ついに廃棄の日を迎えます。 (ナレーション) 廃棄監督責任者、ユーリ・ハスラー提督。星の屑作戦派遣艦隊の司令官になることが決まっていた。強引な自薦により、監督責任者になっていた。 「見事な機体だ、性能も素晴らしい」感嘆した。 「ありがとうございます」Sは、さみしそうに答えた。 「書類上、廃棄はすでに完了している。そこで頼みなのだが、この機体を譲ってくれないか」 「できません。生半可に扱える機体ではないのです。閣下の艦も危険になります」Sは、腹を立てていた。 「それはかまわない。デラーズ殿からのたっての願いで、最高の機体を探していたのだ。それに、あの男に載ってもらえば、きっと、ドズル閣下もお喜びになる」 「なぜご存知なのですか」Sは、混乱した。 「彼が君を探し当てるのに、及ばずながら手伝わせてもらったし、この機体の開発にも、できるだけ尽力したつもりだ。  この要塞は、キシリア閣下の側近のものになってしまったが、ミネバ様のまわりにだけは、わずかながらドズル閣下を忘れない者たちがいる」Sは、はっとなった。 「閣下、ありがとうございます」 「例を言うのは私の方だ。よくこれだけのものを作ってくれた。ありがとう。大丈夫、あの男なら、うまくやるよ」 あの男、アナベル・ガトー大佐。 「ソロモンの悪夢」の異名を持つ、スーパーエース。 最高の乗り手を得て、不死鳥はよみがえった。 (クニイ) もうおひと方、ゲストをお招きしております。デラーズ・フリートのパイロットとして、星の屑作戦に参加なさったAさんです。 Aさん、デラーズ・フリート出身の兵は、ネオ・ジオン軍の中で、異常に死亡率が高かったという説があるんですが。 (A) 生き残った者たちに会うたび、あの戦いの話になります。皆、大佐にいただいた命だから、大佐のように、味方を救う盾となって死にたいと。 私も同じ気持ちだったんですが、生き残ってしまいました。 (クボジュン) スタジオには、星の屑作戦に参加した連邦軍の新型機の模型を用意しました。 この機体を写した映像は、軍の機密指定が最近解除になったばかりで、初公開の機体なんですが、開発番号、名称、性能など、あらゆる公式記録が抹消されているという、まさに幻の機体です。 (A) 模型を見てすら、恐ろしいですね。生まれて初めて、恐怖で足がすくみました。新兵の時でさえ、そんなことはなかったのに。まわりに爆発をまき散らしながら、高速で向かってくるんです。大量破壊兵器のかたまりという感じで。 この模型にはないコンテナを持ってたと記憶してますが、棺おけのような形も不気味でした。ああ、死ぬんだ、とはっきりわかりました。 (クニイ) この機体、どうお呼びになってたんですか。 (A) 私も含めて、今まで会った、生き残った者全員が、同じ名前で呼んでました。 死神、と。 (ナレーション) ノイエ・ジールは、死神に立ち向かった。死の光列が、止まった。 死神を戦闘不能に追い込んだノイエ・ジールは、Iフィールドを失ない、限界に達していたジェネレーターからは、もうビームを撃つ力が与えられなかった。 それでもなお、ノイエ・ジールは連邦の艦を沈め、闘い続けた。 一人でも多く、味方を脱出させるために。 (クボジュン) それでは、エンディングです。 ♪〜 再び、Sの作った機体は、味方を救う盾となった。 マハラジャからの、開発部長就任命令が届いた晩、Sはスタッフと祝勝会を開いた。 久しぶりの酒、久しぶりの笑顔。 Sは穏やかに酒を酌み交わしていた。 翌朝、Sは姿を消していた。 主任は、奥さんや娘さんと、仲良く平和に暮らしている。 開発部長に就任したYは、そう信じていた。 そして、再び酒を酌み交わす時、俺はこれだけのことをしました、そう言えるようにしたかった。 今も、その時が来ることを信じている。 ♪〜 不死鳥よ、翔べ! ―ノイエ・ジール開発秘話―   終           r、-,'´ ̄ ̄ ̄`ヽ,          , ‐-、          ())>、r-‐―==='" `ー-、       ,O),‐-`、        /|ノ  \ ◎   (O  ヽ     /,ハ ゚  ト,        /O)    `、 `'、      `ー┬‐┴'-、i、_c‐' | /     /   <())  〉、 `'ー----、_(Oi-、'-、ーr'_ `、/       /       ∧_`'ー―---<  _,,_,〉ー`r' 〉'//      /        /\ ̄ ̄|i´ ̄,ゝ、_____/、゚_く`、/-'/ /   /      ""/\ `'ー-y'´ ̄'y'´,〈/'ェェ'´了j:::::/     /       /   \/   /ヾ// /`i  〈Z:::/     /      "/     /〃   /ヾ//、/i>`i-、ノヽ,    /     ' /    /    / /: /  / |`i  |     l      /    /    /o.// ./  /| |::|| |  . |    /    /    /,// /  / | |::::| l    |    /    /ー--‐ '´// / /  /   ||>'´レ′   :: |   /    /゚。゚。 ,,イ" / ト、/ /  |  ::  |  /     〈'て))'´ /  /  〉/ i     |    |_/       ̄´` /  /  レ' ◯。  | /  :::     :::    /  /   ノ  /"    |   :::     :::    /\/   l  ,'    |  :::    ::       |  /    | |    |      :::      レ′   |= |  、、  |           :::    ::  |  `、   |                :::   ト、_  |   |               :::    ト、____|_  /             :::     |    / /   /         /   `'ー-‐'´ ♪〜 不死鳥よ、翔べ! ―ノイエ・ジール開発秘話―   終